「到着です !
……お身体、大丈夫ですか ? 」もう感覚がない。
腰、これお尻まで感覚ないわ。「な、何とか……」
徹夜で疲れてるのもあるけど、思った以上に兵士の二人は容赦無く馬に休憩を与えなかった。わたしの腰にも。
「ふぅ。何とか降りれた……」
セロをみると、やっぱりぐったりしてる。
「ではシエル様達は既に到着されていると思いますのでご案内致します」
「いえ、わたしたちはまっすぐ酒場へ」
「えっ !? いまからですか ? 」
仕方ないのよ。
「俺たち無一文で。せめて飯代くらい稼いで合流しないと、御二人の迷惑になりますので」
「そうでしたか……しかし、大丈夫ですか ? 」
「大丈夫です。俺たちなら」
「ええ。勿論 ! 」
ダメでも、やるしかないんですよ……。
「では、我々は隊員と合流して居場所を確認してきます」
「はい。ここまでありがとうございました」
ヘザー隊長とハルはまた馬に乗ると、コハクの町中に入っていった。
「しかし……ここがコハクか」
「うん……アリアがただの集落に感じるね。ここは凄い人 ! 都会だよ」
コハクの入口は常に馬車が出入りしてる。
冒険者も村人も、道にも店にも溢れかえってる。 酒場なんて絶対、大きいステージだよね……。「そうだな。俺たちにとっては肝心な場所になる。
行くぞ」「う、うん」
□□□□
「シエル様、カイ様」
「あ ! 隊長じゃん」
馬を馬車屋の納屋へ預け、隊長ヘザーとハルは先行部隊と合流した。ギルドから隣接した食堂だ。シエルとカイは夕食をとっていた。
「これは綺麗なお嬢さんだ」 酒場の店主がわたしを爪先まで見定める。恥ずかしい !「彼女ですか ? ですが実は訳ありでして……」 セロが仕掛ける。 わたしに異論は無はない。 けれどリラはどうなんだろう。「ああ、吟遊詩人 ! そりゃあそうだ。そんな格好で旅してきたとは思えないもんなぁ」 旅、してきました……。「へぇ !! 人格が二人で、二人とも歌の天才 !? おい、みんな聞いたか ? 」「なんだって ? 人格ってなんのこっちゃ。そんな事あるのかいな ? 」 わたしもびっくりです。「ええ。吟遊詩人として、そろそろ冒険者ランクも上げたいのですが、推薦者が欲しいんです」 そうみたい。 討伐依頼をこなしてレベルを上げていく他のジョブと違って、吟遊詩人のF〜S級の判断はその場に居合わせたステージ監督者の推薦状が欲しい。 アリアでギルドのジョブプレートを作ったけど、わたしたちは未だF級のまま。せめてアリアの聖堂で歌った時に上げられれば良かったけど、それどころじゃなかったしね。「まぁ、俺でよければいいよ。 ステージも使いな。酔っ払いがたまに上がるだけで、最近目新しい事してないからなぁ」「ありがとうございます ! 」 よし ! ステージゲット ! 昼間で半分の席が埋まってるし、夜はもっと期待できそう !「そりゃあ、おもしれぇ ! 今日はその、二人の女のうちのどっちが歌うんだ ? 」「どちらも歌います。 リラとリコ、聴き比べて下さい」 わたしの二人の人格。最後にこれを見世物にして昇華する計画。 話はトントン拍子に進んでいく。 でもわたしはいいけど、リラは歌わないんじゃないのかな ?「聴き比べ ! いいねぇ !! 大々的にイベントにしようじゃないか !! 今から
「到着です ! ……お身体、大丈夫ですか ? 」 もう感覚がない。 腰、これお尻まで感覚ないわ。「な、何とか……」 徹夜で疲れてるのもあるけど、思った以上に兵士の二人は容赦無く馬に休憩を与えなかった。わたしの腰にも。「ふぅ。何とか降りれた……」 セロをみると、やっぱりぐったりしてる。「ではシエル様達は既に到着されていると思いますのでご案内致します」「いえ、わたしたちはまっすぐ酒場へ」「えっ !? いまからですか ? 」 仕方ないのよ。「俺たち無一文で。せめて飯代くらい稼いで合流しないと、御二人の迷惑になりますので」「そうでしたか……しかし、大丈夫ですか ? 」「大丈夫です。俺たちなら」「ええ。勿論 ! 」 ダメでも、やるしかないんですよ……。「では、我々は隊員と合流して居場所を確認してきます」「はい。ここまでありがとうございました」 ヘザー隊長とハルはまた馬に乗ると、コハクの町中に入っていった。「しかし……ここがコハクか」「うん……アリアがただの集落に感じるね。ここは凄い人 ! 都会だよ」 コハクの入口は常に馬車が出入りしてる。 冒険者も村人も、道にも店にも溢れかえってる。 酒場なんて絶対、大きいステージだよね……。「そうだな。俺たちにとっては肝心な場所になる。 行くぞ」「う、うん」 □□□□「シエル様、カイ様」「あ ! 隊長じゃん」 馬を馬車屋の納屋へ預け、隊長ヘザーとハルは先行部隊と合流した。ギルドから隣接した食堂だ。シエルとカイは夕食をとっていた。
「そういう事だったのね……。じゃあわたしもリラになれた方がいいよね ? 練習する ? 」「いえ、今日はもう寝ましょう。我々のテントで良ければ、どうぞご一緒に」「いいんですか ? 」「魔物が来たら馬が騒ぎますので。 さぁ、どうぞ」 どうぞって……この兵隊さん、一緒に……え ? 四人でテントに入るの !?「ちょ……ちょっと狭いですね」「おい、そっち詰めろ。セロ様、どうぞここに」 わたしは壁際だからいいけど、背中に男三人て……これ二人用のテントじゃないの ?「あででで……」 一番遠い兵士さんが苦悶の呻き声を上げてる。「た、隊長……潰れます……」「仕方ない、鎧を脱げ」「うぅ」 モワ…………。「「……」」 臭い…… ! あ、セロも流石にこっい向いた。「「……」」 何この気まずさ……。 ……そういえば。「プラムで旅の準備しなかったの ? 」「夕方、熊に襲われてな……驚かないで聞くんだ」「 ? 」「あいつ……リラはまた森を焼いた」 熊で…… ?「ごめん、目眩が……」「ああ、俺もだ。明日は朝日に照らされた禿山が見渡せるだろうが……俺はまともに直視出来ん」
無いよね。シンプルに。 プラムへ来る前に戻った。 唯一、水袋と荷袋は燃えて無かった。セロは狐弦器は手放さないし。 そう、テントだけよ。被害最小 !!「……」「……」『……』 無言で焼いたウサギを食する。 気まずい。 ガサ……「 ? 」 今の音は ?「熊 !? 」「いや、明かりが。近付いてくる」 二人で目を凝らして草陰を見つめる。「リラ様、セロ様でしょうか ? 」 現れたのはグリージオのカラーリングの馬具を付けた兵士。 この人どっかで見たような…… ?「わたしがリラです」「ああ、お会いできて良かった ! 私どもはレイル様の専属兵です。隊長のテザー。彼は部下のハルです」「……もしかして……グリージオに連れ戻しに来ました ? 」「それは、順を追ってご説明を……」 馬から降りたテザーはここへ来た経緯を話し始めた。 □□□「それは……レイはリラを逃がすつもりという事か ? 」「はい。シエル様とカイ様も同意です。コハクで会えるのを楽しみにしていますよ」 そっか……レイは別に……。そうなのね……。エルからわたしを離したいんだわ。別にいいのに。 今日はもう夜更けだし、明日から馬に乗せて貰おう。予定より早く着けるわね。「あの……お二人共。我々が見張りはしますので、どうぞ就寝されて下さい……というか、テントは何故たてないのです…… ? 」「テントは……何故か縁が無くて」「縁が無い ? 」「熊に襲われちゃって……木っ端微塵になりましたね」「おぉう……そ、そうですか……」「隊長……お渡しできる予備はありません……」「……じゃあ……まぁ、寝ましょうか」 隊長、無理にでも寝かせるつもりね。多分ここまで全力で来
今日はこの辺りで野宿ね。 ペースとしては悪くないけど、問題は……食料か。「セロ。狩りはわたしも行くわ。テントから100メートル内の動くものは撃たない。わたしは南に、セロは北に」「いや、駄目だ。お前を一人に出来ん」「なんでよ。リコじゃあるまいし、わたしは慣れてるわよ」「違う」『ポプ ! 』鳩がぐるぐる回り始める。「また森を焼かれちゃたまらん」「ちゃんと調節するわよ」「駄目だ。シエルに会えば魔力量を調節してもらえるんだろ ? それまでは駄目だ」「蜂の時はパニックになっただけ。今度は大丈夫。鳩、わたしと来なさいよ」『プ……』鳩……不満そう。「獲れたらすぐ戻るんだ。獲れなくとも日が暮れる前に戻ってこいよ」「はいはい」セロが不安そうに見守る中、鳩と出発。 鳥や野うさぎを狩るだけよ。□□□今までは五人分の食料を調達しながら旅してたんだし、そう難しいことじゃないのよ。「……」またいた。 銃口をツノウサギに向け、狙いを定める。既に腰には一匹捕獲済。パンッ !乾いた音が響き、同時にウサギが倒れる。「よし」調整もミスなし。 魔力の出力を限界まで抑えて水魔法で攻撃する。放たれた水撃は鋭く、獣の身体を射抜くけど弾が残らないのが利点。「二匹ゲット ! コハクまでそう距離はないし、保存食の分までは要らないかな ? 鳩、もう戻ろっか ? 」見上げると、上空を飛んでいた鳩がぼんやりと北を見ていた。「鳩 ? 鳩ちゃん ? おーい」北はセロが向かったのよね ? 何かあったのかしら ?「戻ろうっか」『ぽ ! ゥポポポ ! 』「何よ、うるさいわね」テントの焚き火にはある程度薪を入れて来たから、まだまだ煙は一
「我らを守りたまえ、水の守護よ ! 」 薄い水のヴェールが馬たちを包む。 シエルはそのまま前方へ杖をもう一度傾け詠唱に入る。 馬車街道の固い土がベキベキと、砂煙を上げながらニョロリと割れていく。 ビュッ !!「っらァ !! 」 シエルに飛びかかった何かを横からカイが切り落とす。 地面に落ちグネグネと動くのは、土竜種の仲間で目や体毛がない魔物である。「加勢します」 馬から降りたレイの兵隊が、シエルに剣を持つことを制止される。「いえ、多分行かない方がいいです。 カイって周り見えて無いから……」 地面から突き出てきた5mはある灰色の触手に、カイの双剣は魔力を纏う。「行くぜ ! 雷神 !! 」 刃が放電してパリパリと音を立てる。 カイの使える属性攻撃魔法はただ一つ。雷撃である。 魔石では無く。武器に使用した魔物の素材だ。魔法を使う魔物から、そのコアを手に入れ武器を作る。カイの双剣は電撃を放つ魔物由来の属性付与があるのだ。 この技法はカイの出身地 アカネ島の伝統技法である。精霊魔法とは違い信仰や魔石が無くても使える。「最後ぉっ !! 」 剣を十字にハサミのように構え、突っ走る。 最後の一匹が飛び込んできたが、横に大きく振りかぶった刃にミミズの胴体は裂かれ、雷撃の熱で異臭を放つ。「……うえぇぇ !! 腐った蒲焼き ! 」 ペーパーで剣の汚れを拭きながら顔を顰めて戻ってくる。その姿に隊員が呆気にとられていた。「つ、強い……。ものの数秒で……」「あれ、どこにでもいますからねぇ〜。戦い慣れてるのもあります」 シエルが隊員に答える。「カイ様の武器はコアを使ってるんですね。シエル様の魔法は精霊魔法ですか ? 」「精霊も使うけど、今の水魔法は龍神の力。魔法は契約した