「結局、ルキ常人計画は失敗よねぇ。あいつはミハイルのように、美しく残酷で、狂人に育ってしまったんだから」
蛍は思う。
真理もなかなかの狂人だ。自分を出し抜こうとする者が現れると、子供でも消してしまおうと考えるのは異常なはずだ。 ルキがもし毒殺されて、真理がMに責められても、寂しさを理由に泣き落としで逆ギレしたのでは無いのだろうか。 口数が多く、他者に取り入る事に躊躇いがない。 直感で理解する。 蛍から見た時、真理と椿希はとてもタイプが似ている。相手に寄生し、邪魔する者は許さない。ただし、自分のモノになったら守り抜く。愛ではなく独占欲やエゴのようなものだ。蛍は一言「そうですか」と返した。
テーブルの上の写真立てと散らばった写真。
幼いルキが人形のような愛らしさで写っている。最初はそんな奇妙な間柄だったのだろうが、この頃は真理もルキも、嘘偽りのない笑顔だった。ルキは支配型だ。サイコパスと一言で言っても、集団の中でこれほど強い分類は無い。
大人になり、徐々に真理の居場所も掌握しようとしたのだろう。過激になって行ったという、元社交パーティーがゲームショーに変貌する時。 真理はあの手この手で抵抗したが、ルキに奪われたのではないだろうか。目に浮かぶようだった。「ルキを恨んでませんか ? 」
「……ムキになった事もあるわねぇ〜。でもさ、結局あの子をそう育てたのはミハイルよね」
「真理さんと信頼関係は続いてるんですね」
「どうかしら。わたしは母親としての教育は出来なかったのよ。良くて、仲のいい姉ね」
「……そう思ってたら、俺をあなたに紹介しない」
「そうね。わたしもそう思う。
だから、気晴らしにパシってるの ! そのくらいいいでしょ」「そうですか」
二人、和やかな時間が過ぎて行く……かと思われた。
しかし、トイレに行こうとソファから立ち上がった時、蛍の視界が揺れる。「え&hel
「これで引越しも無事終了だね。 まさか海玄寺のお孫様が頭首になられるなんて、願ってもない……先に寺で眠る兄達も安心だな」 山王寺グループの枝にいる中年男性と椿希が、広々とした和室で茶を啜っていた。 この中年男性の苗字は山王寺だ。 随分と長い間、梅乃の家系とは離れて暮らしていたものの、名目上『山王寺家』の人間が欲しくなり椿希の養父を快諾した男だ。親戚には当たるだろうが血の繋がりのない男で、カタギではないものの悪どく、梅乃の組織とは付き合いが無く暮らしていた。 だが梅乃の遺した「坂下 椿希をボスに」という意向を聞きつけ、若くして命を落とした梅乃の意思を尊重し受け入れることにしたのだ。 血縁でもない椿希がボスになる。 普通なら若すぎる上に、なんの血縁でもない男子高校生など、兄弟分が納得いくわけが無い。しかし椿希は周囲から好かれていた上に、山王寺グループの詐欺しのぎにおいて若い者の発案はとんでもなく現代的で必要戦力なのである。「あ〜つっかれた。山王寺さん、今日からパパって呼んでいい ? 」「いやいや、怖いよ〜。好きに呼べとは言ったけど、パパは無いでしょ」「うぃ。じゃあ、お義父さん、かなぁ〜。今日はあんがと」 椿希はこの日、ようやく自宅の海玄寺から山王寺家──つまり、梅乃の自宅に住居を移した。「業者は使えないからなぁ。部屋の片付けは済んだか ? もしまずいものが出てきたら……幹部候補や女性構成員とか、上手く使ってくれ。まぁ俺の組織じゃないけども、こういう代替わりんときゃトラブルや謀反なんて付き物だからな」「あー梅乃様の部屋は、困るものは無かったなぁ。忙しい方だったし ? ミニマリストだったとか ? 流石に片腕では疲れた〜」 広い屋敷だ。 表だけの事務所は別に存在するが、ここは選び抜かれた護衛隊による鉄壁の要塞だ。 梅乃が産まれた日、女児を育てる事に警戒した梅乃の先代は神経質な程セキュリティやプライバシーを重視した。
真理は窓辺にあった大きな花瓶からありったけの生花を抱えて来る。「花…… ? 」「さぁ、全部脱ごうね♡」「はあっ !? 嫌ですよ ! 痛ぅ……頭痛ぁ……」「あら、お酒弱いのね ? 薬もよく効いてる」 真理は蛍をあられもない姿にすると、蛍の雄を軽くしごく。「ちょっ ! 何もしないって、言ったじゃん ! ってか、あいつ帰ってくるし ! 」「大丈夫大丈夫。ちょっと離れたスーパーにしか売ってないのよ、あのチョコ。 さ、いい感じ。流石男子高校生 ! 感度抜群ね」 すると真理はテーブルの上の生花を真剣な表情で吟味する。「うーん……メインはこれがいいわね」 チューベローズの束を手に取り、横たわった蛍の胸元に抱えさせる。次に選んだのはホワイトグリーンのトルコキキョウ。薔薇のように大ぶりで美しく、緑味がかった純白は蛍が飲んだサイダーのような清涼感を思わせる。 なんと言っても、蛍の白い肌と黒革のソファによく映える。「大丈夫、これでちゃんとアソコも隠れてるから」 蛍の起立させられた部分は、勢いで花を挟むだけの為に利用されていた。「何これ ! はぁ〜 ????! へ、変態…… ! 」 グワングワンする額に手を当て、目をぎゅっと閉じる。 「ケイくん、ストーーーーーップ !! 」「はぁっ !? 今度は何っ !!? 」「ほら、今のまま ! 目を閉じて手を額に当てて ! そのまま !! 」 真理の手には花ではなく、カメラがあった。「え……嫌ですよ !! 早く取ってください ! 」「早く撮ってください ? やだ〜♡積極的〜」「花を取れって言ったんだっ ! そんな写真どうすんだよ !! 」「今、写真家として顧客を抱えてるわたし、『Mary』の作品にする♡」「はぁっ !? 」 カシャ !!「眩し !! やめてくださいよ ! 」
「結局、ルキ常人計画は失敗よねぇ。あいつはミハイルのように、美しく残酷で、狂人に育ってしまったんだから」 蛍は思う。 真理もなかなかの狂人だ。自分を出し抜こうとする者が現れると、子供でも消してしまおうと考えるのは異常なはずだ。 ルキがもし毒殺されて、真理がMに責められても、寂しさを理由に泣き落としで逆ギレしたのでは無いのだろうか。 口数が多く、他者に取り入る事に躊躇いがない。 直感で理解する。 蛍から見た時、真理と椿希はとてもタイプが似ている。相手に寄生し、邪魔する者は許さない。ただし、自分のモノになったら守り抜く。愛ではなく独占欲やエゴのようなものだ。 蛍は一言「そうですか」と返した。 テーブルの上の写真立てと散らばった写真。 幼いルキが人形のような愛らしさで写っている。最初はそんな奇妙な間柄だったのだろうが、この頃は真理もルキも、嘘偽りのない笑顔だった。 ルキは支配型だ。サイコパスと一言で言っても、集団の中でこれほど強い分類は無い。 大人になり、徐々に真理の居場所も掌握しようとしたのだろう。過激になって行ったという、元社交パーティーがゲームショーに変貌する時。 真理はあの手この手で抵抗したが、ルキに奪われたのではないだろうか。目に浮かぶようだった。「ルキを恨んでませんか ? 」「……ムキになった事もあるわねぇ〜。でもさ、結局あの子をそう育てたのはミハイルよね」「真理さんと信頼関係は続いてるんですね」「どうかしら。わたしは母親としての教育は出来なかったのよ。良くて、仲のいい姉ね」「……そう思ってたら、俺をあなたに紹介しない」「そうね。わたしもそう思う。 だから、気晴らしにパシってるの ! そのくらいいいでしょ」「そうですか」 二人、和やかな時間が過ぎて行く……かと思われた。 しかし、トイレに行こうとソファから立ち上がった時、蛍の視界が揺れる。「え&hel
「は、はい。ブラックね」「ありがとう真理さん」 ルキは真理をMの妻として礼儀をわきまえていた。 それを大人の自分から裏切る。 毒殺という方法で。 だがカップに唇が触れる寸前。 ルキは微笑み、真理をまっすぐ見詰めた。「僕が、Mといると不安なの ? 」「え ? ……な、なんで ? 」「だって、死んで欲しいって事は、そういう事じゃん」「……」 匂いだけでバレてしまった。 何故 ? 鼻がいいのか。だとしても訓練は必要なはずだ。訓練…………。誰がルキに教えてるのか…… ? だとしたら、それはM意外にありえない。「あの人は……あなたと二人で出掛けて、何をしてるの ? 」「こういう時にうっかり飲まないように、とか ? 必要な毒の味は覚えた。耐性も付いてきたよ。痛みには元々強いしね。 他にも色々……。あとは土地、株、銃器の扱い……」「子供にさせることじゃないわ ! わたしが言ってあげる ! 」「…… ??? 真理さん。言ってることとやってることが合ってないよ」「あ……。 そうよね……ごめん。そのコーヒー、捨てて。ごめん……」 真理は今、殺すはずの獲物に同情したのだ。 相反した心理。自分でも知らずのうちに、ルキに情が湧いていたのだ。「……あの人が、分からないの……」 Mはルキを跡継ぎにしようとしている。「本当に……ごめんなさい」「別にいいよ。僕の母さんはもっと危険な人だった。真理さんみたいな人が母親だ
十六年前。 ホテルの窓から大通りを見下ろすと、現地のアジア人とは違う、どう見ても日本人であろう観光客がちらほら見えた。広いホテルだが、そう階数の高い建物ではなく、いつにも増して真理は街の様子を眺めていた。 Mと確かな愛を育みながらも、真理の生活はすっかり制限されたものになっていた。 消えたアイドル。 それが街中で見つけられたら……。マスコミが怖い。何もかもをそのままに日本を出た真理を心配する者も多かった。しかし今から顔を出す気も無い。 このままで幸せなはずと自分に言い聞かせ、いつも目深に帽子を被り、夜間だけの外出。 ショッピングがしたい。部下に頼むお使いの品ではなく、気ままに街を歩き、屋台で食べ物にかぶり付き、日差しを浴びてビーチで肌を焼き自然を感じたい。 Mの仕事が立て込むと、それがどんどん遠のく。 顔を変えるのにMは必要ないと真理を説得し、少ないスキンシップも姫のように丁重に扱われた。 危険な場所に飛び込んだ真理にとって拍子抜けするほど、Mの周囲は統制が取れており、身内に入った真理が危険な目にあう事は一度もなかった。 そんな時、Mの腰巾着であったクロウの一人が、ホテルから出ていくのが見えた。ビア樽の様な腹のペンギン姿。不愉快な事に、小児性愛の男だった。 忌々しい気分で見下ろす真理の視界の中、ペンギンに近付いて来た白いドレスの少女が走り出したのが見えた。「あら ? スリかしら ? 」 ペンギンの体に張り付いたかと思ったら、次の瞬間ペンギンが倒れ込む。周囲の少年達も一瞬だった。 少女の頭からウィッグが落ちる。「何あれ……っ !? 奇襲 ? 」 真理は慌てて部屋を出ると黒服を呼ぶ。「敵が ! ホテル入口よ ! 子供の姿をしている ! 油断しないで ! Mは !? 護衛はいるんでしょうね !?」「真理様、落ち着いて下さい。Mはそのお子様を……」「何っ !? はっきり言いなさい !! 」
ケイはシリアルキラーなのか シリアルキラーっていうのはいわゆる連続殺人犯。 定義は、複数の被害者がいること。 犯行後に一定期間が空き、また犯行を始める。 被害者が三人以上いる事。 これらが判断基準です。ゾディアックやアンドレイ・チカチーロがこのタイプかと思われます。マスマーダーってのもあって、大量殺人犯の事です。 一日に四人以上殺す者を言うんです。通り魔なんかが町中で大量殺人を犯すのがこのタイプ。 チャールズホイットマンがまさにそうでした。鐘楼からライフルで撃ちまくる……。 ふらっと出かけてさっくり殺るケイに、このタイプには当てはまりません。 三章で蛍は、一度に中野を含めた四人を殺めましたが、動機や何を主体に動いたかは連続殺人犯の衝動的な波によるものです。多く殺ろうとか、そういう意思は無関係です。 シリアルを食べるようにお手軽に犯行を犯してしまう、という事でシリアルキラーという事ですね。スプリーキラーってのもいて、それは短時間で場所を移動しながら殺し回る者である。津山三十人殺しがそうです。マスマーダーに近いかと思われますが、場所を移動しまくる、という点が違いますね。シリアルキラーの中でも分類があって、オーガナイズド型とディスオーガナイズド型があります。後者のシリアルキラーは衝動的で、その場にある物を使いったり、遺体を隠そうともしない。一匹オオカミタイプで友人も少なかったりする。しばしば精神障害があったり、犯行に決まった手口ないといった具合。で、しばしば過剰な暴力と、ときに屍姦などの性的暴行を伴う……と。 そうなると、蛍はシリアルキラーであり、ディスオーガナイズド型ということになるのかもしれませんね。ナイフは愛用してますが、無ければこだわらないし、性倒錯からの犯行でもあります。あくまでフィクションですから「混合型です」と言ってしまえば早いのですが、少しプロファイルや社会分類などの文献を参考にているので、折角なので書いてみました( *´꒫`)