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第8話
最新チャプター
あの夢が醒めなかったら 第25話
清子は、淳一と晴れやかな日に婚姻届を提出した。道中、彼女は婚姻証明書を何度も見返しては、現実離れした気分に囚われた。まさか自分が結婚するなんて。結婚の光景は何度も想像したが、ただの、ごく普通の朝、好きな男と写真を撮り、役所に行く――そんな形になるとは夢にも思わなかった。清子が淳一の仕事が終わるのを事務所で待っていると、浩司と美加が相次いで事故に遭ったという知らせが入った。浩司は戻った後、美加との結婚を思いがけず承諾した。ようやく心を開いてくれた、やはり自分を愛しているのだと確信した美加は、二人で新居に移り住んだ。それが悲劇の始まりだった。浩司は狂ったように美加を虐待し、かつて美加が清子にしたことを、今度は彼女自身に浴びせたという。時には真夜中でも美加の悲鳴が聞こえたとも。結婚後、二人が一緒に公の場に姿を見せることは一度もなく、周囲はみな彼らの結婚生活が上手くいっていないことを知っていたが、誰も止めに入ろうとはしなかった。大森家の人々さえも、浩司を制御できなかったのだ。結婚して一ヶ月後、浩司は自らの手で美加のお腹の子を堕ろした。狂乱した美加が「なぜ？」と問い詰めると、その場に居合わせた人々が見たのは、浩司の死人のような顔だった。彼は平静な声で言った。「美加、これが報いだ。あなたの、そして俺のな」あの日以来、美加は完全に正気を失い、何度も自傷行為に走った。そしてついに、浩司が車で彼女を大森家に連れて帰る途中、彼女がハンドルを奪おうと飛びかかったのだ。車は道路を無茶苦茶に暴走し、最終的に多重事故を引き起こした。幸い二人とも命に別状はなかったが、一人は体を、もう一人は心を損ない、両家の親族が介入して和解した末、協議離婚に至ったという。救助を待つ間、浩司は口々に「因果応報だ」と言い続けていたそうだ。携帯の画面が暗くなった時、淳一が戻ってきた。清子は雑念を振り払い、彼の胸に飛び込んだ。ほんの少し離れていただけなのに、もう会いたくてたまらなかった。彼の手にあったピンクのバラの花束を、清子に差し出しながら言った。「明日、ウェディングドレスを選んで結婚写真を撮る予約を入れたよ。何か希望があれば言ってくれ。全部、あなたに任せるから」清子は首を振った。「急がないわ。まず、ある場所に連れて行ってほしいの」淳一は
あの夢が醒めなかったら 第24話
清子と淳一が交際を始めて二ヶ月後、彼は正式に清子にプロポーズした。清子は指先に光るダイヤの指輪を見つめ、目が熱く、胸が締めつけられるように痛んだ。この指輪を覚えていた。二年前、あるオークションで落札されたものだ。その時、浩司が清子をオークションに連れて行き、最後の目玉商品として出品されたこの指輪は、皆が我先にと競り合っていた。値段が天井を打ち、参加者たちがためらい始めた時、誰かが直接最高額を提示し、一気に落札したのだった。ただし、表に出たのは淳一本人ではなく、彼の秘書だった。清子はその時、浩司に冗談を言ったものだ。「この指輪の説明、読んだ？世界で一番貴重なブルーダイヤでできてるんだって。この指輪を贈られた女性は、プロポーズした人と一生添い遂げるんだそうよ。買った人は、きっと恋人をすごく愛してるんだろうね」浩司はそんな話を信じず、清子を笑った。「君、ドラマの見過ぎだろ、何でも信じるなよ」まさか、この指輪が自分自身の指に嵌まる日が来るなんて、清子は夢にも思わなかった。「二年前……あなたが買ったの？」淳一は手を伸ばし、清子の目尻の涙を拭った。「あの時、見た瞬間に気に入ってね。あなたもきっと好きだろうと思って、人に頼んで買わせたんだ」清子はますます泣きじゃくった。「でも、もし私がずっとあなたを見つけられなかったら？もしも……」もしも、ずっと間違った人を愛していることに気づかなかったら？「清子、運命の相手なら、きっと巡り会える。ただ、少し遠回りするかもしれないだけだ」「淳一……あなたは一体いつから、私のことが好きだったの？」清子は、お見合いの後、お互いに相手が適任だと思い、淳一もたまたま家から強く迫られていたから、自分と付き合うことにしたのだろうと考えていた。最初の頃、彼の好みのタイプではないかもしれないと心配し、いつも遠回しに彼にどんな女性が好きなのか尋ねていた。彼がどんなタイプを好もうと、自分はその姿になれると思っていたのだ。しかし、淳一は彼女の考えを一瞬で見抜き、真剣な口調で言った。「清子、あなたは誰かのために自分を殺す必要なんてない。ありのままのあなたでいいんだ」清子はこの言葉を聞いた時の衝撃を言葉にできなかった。浩司と一緒にいた時、彼はいつも言っていた。「清子、そんなの、俺は好きじゃないんだ」
あの夢が醒めなかったら 第23話
答えを待つこの一瞬が、一世紀よりも長く感じられた。清子はもう一度、間違えるわけにはいなかった。一度ならともかく、二度目の間違いは許されない。部屋の中はシーンと静まり返り、針一本落ちてもその音が聞こえるほどだった。お互いの、緊張で高鳴る鼓動さえ聞こえてきそうな気がした。清子の指先が白くなる。一瞬のうちに、ありとあらゆる可能性が脳裏を駆け巡る。もし、彼が自分の命の恩人じゃなかったら？もし、今回また見間違えたら？もし彼じゃないなら、一体誰なんだ？その人をどこに探せばいい？たとえ確信に近い思いがあっても、その百分の一の「違うかも」という可能性に、清子は負けるわけにはいかなかった。「僕だよ」清子は数秒、呆然として言葉の意味を理解できなかった。そして次の瞬間、涙があふれ出る。彼女は興奮のあまり、淳一の胸へと駆け寄って抱きついた。よかった……よかった、今度こそ間違えなかった。彼女と彼は、まるで三年もの間、すれ違っていたのだ。淳一の腕の中で、清子は息もつけないほどに泣きじゃくり、全身を震わせていた。淳一は彼女の背中を優しくトントンと叩きながら、心配そうに額にキスをした。「どうしていつも子供みたいに泣くんだ？」「だって、嬉しすぎるんだもん」清子はすすり泣きながら淳一にしがみついて離さない。仕方なく淳一は彼女を抱きかかえて二階へ上がり、眠りにつくまでそっとあやしてから、足音を忍ばせて部屋を出た。浩司は外に跪いたまま、微動だにしなかった。全身が凍えて顔色は青ざめているのに、狂ったように泣いたり笑ったりしながら、ずっと清子の名前を叫び続けていた。「二ノ宮、なぜ俺の女を奪うんだ？」淳一の姿を見るや、浩司の目つきはたちまち凶暴なものに変わった。淳一は見下ろすように浩司を見つめた。「いつから彼女がお前の女になった？彼女がはっきり言っただろう？間違えたんだって」「そんなのは、清子がまだ俺に怒ってるだけの言い訳だ……」「大森浩司、もういい加減に身勝手な思い込みはやめろよ」淳一は冷たく彼の言葉を遮った。「この三年間、お前が彼女に何をしたか、僕が一つ一つ数えて聞かせる必要があるのか？お前に彼女に会う資格があるとでも思ってるのか？」「だったらお前はどうなんだ？何の権利があって……お前は俺の兄さんの友じゃなかったのか
あの夢が醒めなかったら 第22話
「美加と俺は小さい頃から一緒に育ってきたんだ。それを恋愛だとずっと勘違いしてた。でも違うんだ。俺が感じていたのは、あの年頃の誰もが抱くような淡い憧れでしかない。本当に愛しているのは、君なんだ。俺たちの間には誤解がたくさんあるのはわかっている。全部、美加にそそのかされたんだ。彼女とはもう絶交した。これから会うことはない。清子、昔は君、俺のこと好きだったよね？やり直そう。今度は俺が君に尽くすから、いいよね？」浩司は知っていた。これまでの自分は彼女に多くを負っていると。二人の間では、いつも彼女が一方的に尽くしてくれていたのに、彼女は一度も文句を言わなかった。今回は自分が彼女のために尽くす、と彼は心に決めていた。彼女に恨まれようとも、もう一度彼女を取り戻すつもりだった。彼には彼女が必要だったのだ！清子はくるりと向き直り、淳一を家の中へ押しやった。「中で待ってて、すぐ戻るから」淳一は、彼女が浩司と二人きりになるのが心配だった。でも、清子は自分で解決すると言って譲らない。「私のこと、信じてくれないの？」「もちろん信じてるよ。僕の彼女はすごいんだから」淳一は背を向ける直前、警告の冷たい視線を浩司へ一瞥した。誰もない通りに残されたのは二人だけ。淳一の姿が見えなくなると同時に、清子の表情はたちまち冷たく引き締まった。「大森浩司、誤解してるわ。実は、あなたのこと好きだったことなんて一度もないの。私たちがこうなったのも、吉川美加のせいじゃない」浩司の足が震えた。その場に崩れ落ちそうになった。ふと、昔美加が言った言葉を思い出した。『あなたの兄さんとちょっと似てるよね……』と。「いいんだよ、清子。誰の代わりだってかまわない。ただ、俺のそばにいてくれさえすれば……」たとえ兄さんの代わりだとしても構わない。彼に必要なのは清子その人だった。清子が彼に近づき、肩のあたりを撫でた。かつて彼を別人と見間違えたきっかけとなった、あの傷痕があった場所だ。「三年前、あなたの兄さんと別れた後、確かに傷ついて、しばらく辛かったわ。酒を飲んで憂さを晴らしていたの。でもある日、飲んでいた場所で火事が起きて、閉じ込められちゃって。その時、誰かが現れて、私を助けてくれたの。その人はその時に怪我をして、ここに傷を残したのよ。私はあなたが、そ
あの夢が醒めなかったら 第21話
浩司は目を真っ赤にして、清子の腕をつかむと、ぐいっと後ろへ引っ張った。空気が一瞬で凍りつく。次の瞬間、浩司は淳一めがけて拳を振りかぶり、思い切り殴りかかった。淳一は眉をひそめ、顔をそらしてかわしたが、それでも頬に拳がかすり、よろめいた。「淳一！」清子は駆け寄って淳一を支え、彼の前に立ちはだかった。その目は氷のように冷たく、浩司を見据えている。浩司は固まった。彼女がそんな目で自分を見たことは一度もなかった。胸の奥がぎゅっと締めつけられた。「清子……、俺、当たってないだろ？見てわかるだろ、あいつ、演技なんだ」「大森浩司、いい加減にしてください。どうして彼を殴るの？何しに来たの？」浩司は言葉に詰まった。彼女に会えた喜びは、巨大な不安に飲み込まれていた。彼女が別の男とあんなに親しげにしているのを見た瞬間、理性が吹っ飛び、目の前からこの男を消し去りたくなったのだ。自分の清子が、他の男と一緒にいるなんてありえない。彼女は自分をそんなに愛していたのに。「清子、君を迎えに来たんだ。俺が悪かった。前に……状況をちゃんとわかってなかった。俺は別の女が好きだと思い込んでた。でも今、やっとわかったんだ。好きなのは、最初から最後まで君だけだった。許してくれ、頼む」清子は浩司の話などまったく耳に入らなかった。視線は淳一の口元の赤みに釘付けで、ただ彼が無事かどうかだけが気がかりだった。淳一の口元が少し赤くなっているのを見ると、胸が激しく波打ち、殴り返してやりたいほどだった。でも、そんなことをしたら、浩司と何が違うというのか。「大丈夫だよ、心配しないで」淳一は清子の頭を軽く叩き、安心させようとした。「中に入らないか？お母さんを待たせて心配させちゃだめだよ」清子が淳一を一人で残していけるはずがない。彼女はついに決心した。淳一の手を握りしめると、「淳一も一緒に帰ろう。今夜は私の部屋に泊まって」と言った。淳一は目をわずかに動かした。彼女が本気なのか尋ねようと思った。彼女が自分にすごく依存しているのは知っていたが、その理由はわからなかった。彼女と一緒にいるとき、彼女の見つめる目はまるで失ったものを取り戻したかのようだった。眠っているときには無意識に「出会いが三年早ければよかったのに……」とつぶやくこともあった。この頃の清子は、まる
あの夢が醒めなかったら 第20話
浩司は車の中で丸一晩を過ごした。耳には、ついさっき電話で友達から聞かされたあの事実がこだましていた。あの時、清子に絡んでいたあの不良ども、全部美加が送り込んだ手先だったんだ。それに、あの時美加が個室に引きずり込まれ、危うく陵辱されかけた事件さえも、彼女が自分で仕組んだ芝居だった。その後、彼のせいで、あの連中の報復が清子に向かい、清子は美加の身代わりとしてあんな酷い目に遭わされたんだ。浩司はとっくに気づくべきだった。その時も確かに違和感を覚えていたのに、彼の心はいつも美加に縛られていた。だから、そうした違和感を無視することを選んでしまったのだ……「浩司、あの時さ、清子が美加をぶっただろ？俺、美加から話を聞き出したんだ。あの女、あなたが家に監視カメラを仕掛けてるってことを清子に話したんだぜ。それも『清子が今後あなたにまとわりつかないようにするため』だとか言って……きっと、ひどいことばかり言ったんだろうよ。普段は大人しい清子でさえ、我慢できずに手を出しちまったんだからな」浩司は拳をぎゅっと握りしめた。彼も薄々感づいてはいたのだ。「それと……あなたの誕生日に美加にプロポーズしに飛んだあの日……清子も行ってたんだ。美加の話だと、車の中で二人がやってるのを、清子が見てたってさ……多分、サプライズであなたの誕生日を祝おうって思って飛んだんだろ？本来なら……」浩司は呆然とした。清子はあの日、自分に会いに来ていたのか？それに、車の中の自分と美加の姿まで見ていたというのか……その瞬間、彼はすべてを理解した。あの時を境に、清子の態度が急に冷たくなったのはなぜか。以前はいつもベタベタとまとわりついていたのに、あれ以来、彼女から一度も積極的に連絡してこなかったのは……彼女は、自分のプロポーズの場面を見てしまったんだ！浩司は電話を切り、無力に目を閉じた。なんてバカだったんだ。彼女がそんなに多くの理不尽を抱えていることに、まったく気づかなかったなんて。彼女が言おうとするたび、彼の心はいつも美加のことでいっぱいで、彼女に説明する機会さえろくに与えなかった。パンッ！浩司は自分の頬を思い切り叩いた。後悔の念が津波のように押し寄せ、彼を容赦なく飲み込んでいく。二人で過ごした幸せな時間が、今この瞬間、かえって鮮明によみがえる。人前では愛を囃したて
