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第159話

Author: レイシ大好き
紗雪が目を覚ましてリビングに来たとき、ちょうど伊澄がダイニングテーブルに座り、目をキラキラさせながら京弥を見つめていた。

「わあ、京弥兄!まさか今日もまた京弥兄の料理が食べられるなんて!本当に恋しかったんだから!」

伊澄はわざとらしく言った。

「もう、海外の食べ物って本当に人間が食べるもんじゃないのよ、どれもこれも飲み込みづらくて......」

「やっぱり国内が一番。何より京弥兄の手料理が最高!」

京弥の表情は淡々としていた。

「手をつけるな。彼女が起きてからだ」

伊澄は唇を尖らせたが、京弥の視線に気づき、しぶしぶと卵焼きを置いた。

その視線の端に、紗雪の姿が映った。

女は何も言わず、ただ静かにそこに立っていた。

まるで他人事のように、その光景を見つめていた。

そんな彼女の前に、伊澄がわざと親しげな素振りで歩み寄り、腕を取った。

「お義姉さん、見てください。京弥兄がこんなにたくさん美味しいもの作ってくれたんだし、もう怒らないでくださいよ〜」

「ていうかさ、お義姉さんってホントにラッキーですね。京弥兄、顔も家柄も完璧だし、おまけに料理までできるなんて、まさに女心を鷲掴みってやつじゃないですか?」

その一連のセリフに、紗雪は自然と眉をひそめた。

彼女は何の遠慮もなく、伊澄の腕を引き抜き、鼻で笑って言った。

「そこまで褒めるってことは、妹さんも彼に惚れた?」

その言葉に、伊澄は一瞬驚いた顔を見せた。

京弥もまた、不満げに紗雪を見つめて言った。

「紗雪、俺と伊澄はただの兄妹だ。それ以上それ以下でもない」

その言葉に、伊澄のこめかみがピクリと動いた。

拳を無意識に握りしめる。

大丈夫。焦らず少しずつ距離を詰めていけばいい。

彼女はすぐに表情を整え、にこやかに笑って言った。

「昨日のこと、まだ気にしています?京弥兄は自分から仲直りしようとしていたじゃないですか」

「で?妹さんも彼に惚れた?」

紗雪は背筋を伸ばし、まっすぐに二人の前に立った。

冷静なまま、さっきの言葉をもう一度繰り返す。

その瞳は澄んでいて、何の感情も読み取れない。

まるで、ただ「答え」がほしいだけのようだった。

伊澄は乾いた笑いを浮かべた。

「お義姉さん、京弥兄みたいに優秀な人なら、そりゃあ女の子たちからモテるに決まってますよ」

「じゃあ、君はどう
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Comments (2)
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長野美智代
澤田さんの意見に同感。 先ずは飛行場に伊登を迎えに行く事から説明が必要でしたね。友人の妹であると。 自宅に細雪さんの許可なく勝手に女を自宅に入れるなんて・・・・・最低。嫌われても仕方が無い。
goodnovel comment avatar
澤田真喜子
夫婦の家なら、事前に「客人を迎える」旨を伝え了承を得るべき 妹?ただの「女」だよ
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