共有

第306話

作者: レイシ大好き
有紀も、憎しみを浮かべた顔の緒莉に気がついた。

たしかにうまくいかないこともあるが、緒莉の後ろについていれば、それなりの見返りがある。

貰ったのはどれも最新型のアイテムで、緒莉は「あげる」と言ったら本当にくれるのだ。

だからこそ、有紀は緒莉の頼みごとを引き受ける気になっていた。

利用されていると分かっていても、たいして問題にならないことであれば、有紀は気にしない。

「有紀、計画があるの。聞いて......」

緒莉の言葉を聞いて、有紀の目がぱっと輝いた。

「さすが緒莉だよ。私の考えとはまるで違うんだもん!」

有紀は感嘆の眼差しで緒莉を見つめた。

最初はただの見かけ倒しかと思っていたが、まさかこんなに頭が切れるとは。

とくに紗雪を相手にした時の頭の回転は、まさにグングンと冴え渡っている感じだった。

そう思うと、有紀の緒莉を見る目には、少しばかりの敬意すらにじんでいた。

「ボーっと突っ立ってないで、頼んだこと、さっさとやってきなさい」

緒莉は小さく咳払いして、有紀に早く動けと合図した。

これ以上長引けば、何が起こるか分からない。

緒莉の心の中には、ずっと拭えない不安が残っていた。

ぐずぐずしていれば、思いもよらぬことが起きるかもしれない。

紗雪が人に囲まれてもてはやされている姿を見るたびに、緒莉の胸の奥からはどうしようもない悔しさがこみ上げてくる。

どうして紗雪は、どこに行ってもあんなに注目されるの?

どうして自分は、冷遇されるの?

緒莉は拳をぎゅっと握りしめ、どうすればいいか分からなくなっていた。

でも、絶対にこのまま紗雪に好き勝手させるわけにはいかない。

「紗雪......いつまでそんな顔していられるか見ものね」

間もなく、有紀が戻ってきた。

自信満々な顔をして、緒莉に報告する。

「全部上手くいったよ」

緒莉はうなずいた。

「じゃあ、あとはタイミングを待つだけね」

パーティーの場の反応をまずは観察しながら、事の成り行きを見守る。

今回ばかりは、絶対に負けないつもりだった。

緒莉は拳を握りしめた。

さっき仕上げたばかりのネイルが爪の内側に深く食い込んで、顔には険しい表情が浮かぶ。

そんな緒莉を見るのは、有紀にとって初めてのことだった。

普段はあんなに穏やかで、優しげで、誰にでも笑顔を向けて、

いい物があ
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第314話

    そこまで言うなら、しっかり教えてあげないと!美月の平手が振り下ろされようとした瞬間、節ばった手がそれをぴたりと止めた。怒りかけた美月だったが、振り返って見えたのは京弥の整った顔立ち。なぜか分からないが、美月は一瞬ひるんでしまった。「......あなた、どうしてここに?」そう口にした瞬間、美月の心には後悔が浮かんだ。自分は年長者のはずなのに、どうして若者を前にして気後れしているのかと。そう思い直し、美月は背筋をぴんと伸ばして威厳を保とうとした。だが、京弥はそんなことには一切目もくれず、ただ紗雪に目を向けた。「ケガはしてないか?」彼のその言葉に、美月は無視されたような気分になり、内心苛立ちを覚えた。だが、京弥はスーツ姿で、広い肩幅に引き締まった腰という完璧なシルエット。圧倒的な存在感を放っていた。なぜだか分からないが、そんな彼を目の前にすると、美月は本能的に怖れを抱いてしまうのだった。本当は言いたいことがあったのに、すべて喉元で詰まってしまい、結局何も言えなかった。まあ、今は人目もあるし、子どもたちの体面に免じて、今回は見逃しておこう。美月は自分にそう言い聞かせた。けれど、実際のところ、彼女の思惑を気にしている者など一人もいなかった。たとえ聞こえていたとしても、紗雪ならただ鼻で笑って終わるだろう。ただ、京弥の言葉にどう返せばいいのか分からず、紗雪は一瞬戸惑った。最終的に、彼女は首を横に振った。「大丈夫。母さんが私を傷つけたりなんて、しないから」その言葉を聞いた美月は、視線を逸らし、どう答えればいいのか分からず、咳払い一つでごまかした。この一言は、紗雪がわざと美月に聞こえるように言ったものだった。こんなにも人目があるというのに、母親は本気で自分を叩こうとしたのだ。京弥は紗雪の意図に気づかないふりをし、その言葉に頷いた。「そうか。ならよかった」「俺がここにいなかったから、誰かにいじめられてるんじゃないかと心配だったよ」そう言うと同時に、京弥の冷たい視線が周囲に向けられた。その視線を受けた者は、誰もが思わず身をすくめ、彼に対して恐怖を感じた。中には、ひそひそと話し始める者たちもいた。「ねえ、あれって紗雪の旦那さんじゃない?」「たぶんそうじゃない?あれ

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第313話

    「この件に関しては、辰琉に聞けばいいでしょう?どうして私は問い詰められなきゃいけないの?」紗雪は怒りに任せて、美月の言葉に反発するように声を荒げた。そこには明らかな憎しみすらにじんでいた。美月は元々、外野の目をごまかすために適当に済ませようと思っていただけだった。しかし、紗雪のあまりにも反抗的な態度に、胸の奥に怒りが燃え上がるのを感じた。「あなた、母親に向かってその口の利き方は何なの?」美月は道徳的な圧力をかけはじめた。「今のあなたが持っているすべては、誰のおかげだと思っているの?」その言葉を聞いた瞬間、紗雪は言葉を失った。何年経っても、この人は何も変わっていない。そう思うと、胸が冷たくなるのを感じた。彼女は思わず声を上げて詰め寄った。「母さんにとって、私はただの金儲けの道具?」この言葉に、緒莉は顔の表情を保つのに苦労するほどだった。いいよいいよ、どんどん喧嘩してくれればいい。そうなれば、自分はその争いの果実をまんまと手に入れることができるのだから。美月も、紗雪の様子に一瞬ためらいを見せたが、緒莉が横でさらに火に油を注ぐ。「紗雪、それはさすがに言いすぎよ。私たちは家族でしょ?利用するとか、そんなふうに言われたら悲しいよ」美月は最初、何も感じなかったが、緒莉の言葉を聞いた瞬間、それがもっともだと思い始めた。こんな言い方をされたら、自分の威厳は一体どこへ?その場にいたのは皆、二川家の関係者や業界の人物ばかり。二川家会長の威信が問われるという思いに至った美月は、やはり紗雪を甘やかすわけにはいかないと悟った。緒莉は、美月の表情の変化を見逃さなかった。これで大丈夫、あとは母に任せればいい。そうすれば、自分が紗雪と直接対立する必要もない。「ふん。やはり姉の方が気が利くわ」美月は冷たく言い放ち、背を向けた。「もうここまでにしよう」「今一番大事なことは、皆が言っているその女が本当に紗雪なのかどうか、そこだけよ」「してないってば!」紗雪の声は一気に高くなった。「あと何回言えば信じてくれるの?関係ないって言ってるじゃない!」彼女の喉には怒りが詰まり、目元は鋭く険しかった。「母さんには本当にがっかりしたよ」その言葉に、美月もまた怒りが収まらなかった。

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第312話

    しかし緒莉は納得しなかった。突然口を開いて言った。「お母さん、ここで解決しちゃえばいいじゃない。こんなに人が見てるのよ。もう隠そうとしたって無理なんだから」その言葉を聞いて、周囲の人たちもようやく我に返った。「そうだよ。他人の旦那を誘惑したくせに、まだ開き直るつもり?」「こんなにたくさんの人が見てるのよ。ちゃんと説明してもらわないと」特に赤いドレスの女が怒り心頭で叫んだ。「私ね、こういう女が一番嫌いなのよ!若くて綺麗で、他にできることいくらでもあるのに、なんでわざわざ不倫女になるわけ?」そう言いながら、今にも自分のハイヒールを脱いで、紗雪の顔に叩きつけようとした。清那はその狂気じみた女の行動を見て、内心穏やかでいられなかった。「何言ってるのよ!?頭おかしいよ!」女は口元を吊り上げて笑った。「頭おかしい?そう思うならそれでいいわ」たとえ自分の存在がこのまま消されても、別にどうでもいい。美月は最初、事を荒立てたくなかったが、周囲の人たちの話がどんどんエスカレートしていくのを感じて、ついに諦めた。目の前にいる取引先の人たちとも目が合ってしまった以上、今日、この場で事態を収めなければならないと悟った。そう思った瞬間、美月は緒莉をきつく睨んだ。あの子さえ黙っていれば、紗雪はとっくにこの場を離れていただろうに。でも、もうどうしようもない。緒莉は母の視線をしっかりと感じていたが、まったく気にしていなかった。紗雪を引きずり下ろせるなら、どんな代償でも払うつもりだった。美月は深く息を吸い込み、重々しい面持ちで紗雪に向かって言った。「紗雪、本当のことを教えてちょうだい。本当にそんなことをしたの?」義兄を?あれは緒莉の夫じゃない。「母さん......まさか、あなたまで私を疑うの?」美月はため息をついた。「疑ってるわけじゃない。この場で私が適当に判断を下したら、それこそ他の人に対して失礼でしょ」「私はやってない」「じゃあなんでみんな、そんなことを言うの?」美月は眉をひそめ、不満げに言った。「自分に非があるんじゃないかと考えることね。何でもかんでも他人のせいにしないで」「それにほら、緒莉の方は全然非難されていないじゃない。きっと紗雪が何かしでかしたから、みんなそう言

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第311話

    清那の怒鳴り声に、その場にいた人々は一瞬ぽかんとし、すぐには反応できなかった。だが、我に返った途端、今度は皆が一斉に自分の意見をぶつけ始める。「この人って紗雪の親友だよね?」「別にそこまで親友の悪口言ってないのに、なんであんなにムキになるの?」「どうせ後ろめたいことがあるんでしょ。こういうタイプ、私はよく知ってるのよ」皆がこぞって頷く中、赤いドレスの女もどこか得意げな表情を浮かべていた。見たか、こういう不倫女は結局こうなるのよ。大勢の目は誤魔化せない。紗雪のこと、みんな怪しいと思ってるじゃない。緒莉の心の中にも、ひそかな満足が広がっていた。有紀、なかなかやるじゃない。あの赤いドレスの女が話す言葉、時には自分でも押し返せないほど鋭かった。その表情ひとつ取っても、本当にリアルで、芝居臭さなんて全然なかった。さすが。こんなに使える駒、拾えてよかった。心の中でそう褒めつつ、緒莉は思う。今後は有紀にもっと良くしてやらないと。そうすれば彼女ももっと尽くしてくれるだろうし、自分の目的達成のためにも働いてくれる。そのとき、緒莉の笑い声を耳にして、有紀は思わずビクッとし、小さく足を動かして横にずれ、気配を消そうとした。今の彼女には、緒莉の機嫌を損ねる勇気なんてない。彼女の性格がどれだけ厄介か、身をもって理解したからこそ、下手に敵に回したら、自分の身がどうなるかも分からない。死体すら残らないかもしれない。緒莉は笑いながら言った。「もう、そんなにビビらなくてもいいでしょ?ただホットコーヒー一杯頼んだだけよ。命までは取らないわ。嫌なら、今度から他の人に頼むし」「いえ、次も私に任せてください......!こういうの慣れてるから!次はもっと完璧に仕上げるから!」有紀は慌てて忠誠をアピールした。少しでも緒莉に好かれようとして、必死だった。こういう上の人たちのゲーム、今の有紀にはもう痛いほど見えている。彼女はもう簡単には抜けられない。引くこともできない。だから、前に進むしかなかった。そんな騒ぎの中、とうとう美月の注意が向いた。もともとビジネス界の年配者たちと適当に挨拶を交わしていたが、こちらの騒ぎがあまりに大きく、主催者の声すらかき消していた。場所を確認すると、美月は

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第310話

    「じゃあ、私は一体何をしたか、教えてくれる?」紗雪はその女をまっすぐに見据えながら、一歩一歩近づいていく。女の顔を見た瞬間、紗雪は確信した。彼女のことなんて、全く知らない。自分は決して顔を覚えるのが苦手なタイプではない。会ったことのある人なら、たいてい脳裏に印象が残っているはず。だが、目の前のこの女については、何の記憶もない。紗雪は冷たく問いかける。「あなたは何者?一体何を言いたい?」女はふっと鼻で笑った。「別に?」女は赤いドレスをまとい、丁寧に化粧をしていた。だが、どれだけ化粧が綺麗でも、その目の奥にある冷淡さと欲深さまでは隠しきれていなかった。「ただ言いたいだけよ。自分でやったことなら、ちゃんと責任を取れば?ここで聖人ぶるんじゃなくてさ。ビッチならビッチらしくしなさいよ」その義兄を誘惑したという言葉が脳裏をかすめたとき、紗雪はすぐに察した。やはり、辰琉が何か吹き込んだに違いない。そうでもなければ、こんな話が外に漏れるはずがない。やはりあの男を信じるべきではなかったと、紗雪は心の奥で悔やんだ。これが信じた結果だ。紗雪の表情に大きな変化はなかった。終始淡々としたまま、静かに赤いドレスの女へと歩み寄っていく。最初は強気だったその女も、紗雪の冷静な態度を前にして、次第に不安を感じ始めた。もしかして、本当に何もなかった?じゃなきゃ、こんなに堂々としていられるはずがない。こんなに落ち着いて、隙のない目でこちらを見られるわけがない。いや、違う。あの女、きっと虚勢を張ってるだけだ。自分は昔、家庭を壊されて、夫を略奪されたことがある。だからこそ、他人の家庭を壊す女、特に義兄を誘惑するような女は、絶対に許せなかった。女は拳を握りしめ、紗雪を見る目がさらに鋭さを増していく。「ここまで来て、まだとぼけるつもり?」彼女はあごを上げて、誇らしげに紗雪を見下ろす。こういう女には、厳罰こそがふさわしい。彼女の中にはそんな思いが渦巻いていた。そして、暗がりでは緒莉が一部始終を眺めながら、目を輝かせていた。「まさにこれ。こうなるべきだったのよ」彼女は心の中でひっそりと囁く。この騒動が大きくなればなるほど、美月だって隠しきれなくなる。どれだけ守り

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第309話

    清那は思わず口に出そうとしていた言葉を、紗雪の姿を見た瞬間、すぐに飲み込んだ。最初は誰か他の人が聞いてきたのかと思っていたが、まさか来たのが紗雪本人だとは思わなかった。他の相手にはどれだけ強気に出ても構わない清那だったが、紗雪が来るとさすがに不意を突かれて少し動揺した。彼女の気分をそんなくだらない噂で乱されたくなかったし、清那自身もそれを許せなかった。紗雪は、黙り込んだままの清那を見て、何かがおかしいと感じた。「清那?どうしたの?いきなり黙って......」相手が何かを隠しているような気がしてならなかった。だが清那は首を横に振るばかりで、さっきのことを伝えるつもりは全くなかった。傷つけたくない。今日はこんなに多くの人に見られている彼女の良い日なのだから。「なんでもないよ、紗雪。気にしないで。おばさんと客の方たちに対応してあげて」紗雪が何を求めて帰ってきたのか、清那にはわかっていた。だからこそ、全力でそれを叶える手助けをしたい。彼女の邪魔になるなんて絶対にしたくなかった。紗雪は、清那の様子を見て、もうこれ以上追及しても何も言わないのだろうと察した。ならば、それ以上は無理に聞くまいと判断した。どうせ追及しても結果は同じだ。「わかった」紗雪は念を押した。「でも。何かあったらちゃんと私に話して。何も言わないのはナシよ」清那は微笑んだ。「大丈夫、任せて」紗雪が背を向けて立ち去ろうとしたとき。人混みの中から、冷笑混じりの声が突然響いた。「何を気取ってるのか知らないけど、所詮は義兄を誘惑するような女じゃないか」「外面だけは清楚ぶってるけど、裏ではどうなのか分かったもんじゃないよね?」清那の目に一瞬で涙が滲み、怒りと悲しみが入り混じったまなざしでその人物を睨んだ。「何言ってるのよ、あんた......っ!」それだけ叫ぶと、彼女はすぐに紗雪のほうを見た。彼女はさっきの言葉をどれくらい聞いた?この大事な場で、紗雪の気持ちが少しでも乱れたら、今後の信頼関係に影響してしまうかもしれない。それは絶対に避けたかった。紗雪は一瞬きょとんとし、何が起きたのかすぐには理解できなかった。「それって......私のことを言ってるの?」その女は、紗雪を見てさらにあざけりを浮

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第308話

    こんなに美人で有能な人を嫁にできるなんて。その事実に、周囲の人間たちは少なからず動揺していた。まさか、もうすでに相手がいるなんて。だが当の紗雪は、自分の噂がどう広まっていようと、まったく知らなかった。いや、仮に知っていたとしても、気にも留めなかっただろう。そんな声は、彼女にとってはただの雑音に過ぎない。小手先の噂で自分が左右されると思ってるのか?それがまた、滑稽だった。だが、その本心を彼女は決して表には出さなかった。ただ静かに微笑み、堂々としていた。一方、緒莉はその周囲のざわめきをしっかりと聞いていた。あれだけ時間が経っても、紗雪の人気がまったく衰えないどころか、ますます注目を集めている。緒莉は拳を強く握りしめた。有紀はどこ?あの子に頼んだ件、もう済んだって話だったのに、どうしてまだ動けない?このままだと、すべての注目が紗雪に持っていかれる。そうなったら、自分――二川緒莉の存在はどうなるの?同じ二川家の娘なのに、なんでこんなにも扱いが違うのよ!緒莉は悔しさに歯を食いしばった。だからこそ、彼女は早くあの噂が広まることを願っていた。そしてあの噂を母親が耳にしたときの反応を、楽しみにしていた。想像すればするほどワクワクする。母がどんな顔をするのか、思わず期待に胸が高鳴ってしまう。「美人なのは結構だけど、結局、義兄を誘惑した女なんだろう?」そんな場違いな声が、熱を帯びた話題の最中に、突然響き渡った。皆が紗雪を称賛していた空気の中に、突如として冷たい水を差すような発言。あまりにも唐突すぎて、その場にいた誰もが一瞬、言葉を失った。緒莉も最初は驚いたが、すぐに察した。来たのね。これで、波乱の幕開けよ。今度こそ、母親はあんたを庇えるのかしら?その発言の衝撃が大きすぎて、場の空気は一気に静まり返った。誰もが小声でひそひそと囁き始め、視線が交錯する。その中に、群衆に紛れていた清那の姿もあった。しかし彼女の表情は、怒りに満ちていた。そんなデマを言いふらすのはどこの誰よ!紗雪は彼女の大切な親友。そんなデタラメな噂、彼女が信じるわけがない。「そんなこと言って、証拠でもあるんですか?」清那は鼻で笑いながら睨みつけた。「証拠もないのにそん

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第307話

    有紀は足早に外へと駆け出していった。もはや緒莉のことなど気にかける暇もなかった。だが緒莉は、そんな有紀を見ながら内心で満足していた。こんなに使い勝手のいい取り巻き、そうそういない、と。自ら積極的に仕事を引き受けてくれるなんて、まさに自分に尽くしている。これは今後もっと報酬を分けてやった方がいいかもしれない。そうすれば、彼女はこれまで以上に忠実に働いてくれるに違いない。そんなことを思いながら、緒莉の心にはうっすらとした満足感が広がっていた。......一方、紗雪はふたりがこそこそ話していたことなどまるで知らず、完全に目の前の人たちに集中していた。目の前にいるのは、名だたる実業家や財界の重鎮たち。彼らと今もっともホットな話題について語り合い、さらに二川グループの将来計画についても自信満々に語っていた。群衆の中で堂々と話す紗雪の姿は、チューブトップのドレスに身を包み、美しいスタイルが際立っていた。その存在感はまるで光を放っているかのようで、まわりの視線を一身に集めていた。それを目にした周囲の人々は、ついつい彼女に目を奪われてしまう。「......こんなに美しい女性がいるなんて」「しかも彼女、めちゃくちゃ有能なんだって。あの二つのプロジェクトも彼女が手に入れたらしいよ」「それだけじゃないよ。どうやら男よりも優秀みたいで、二川グループではすでに会長のポジションにいるらしい」人々は口々に噂を交わし、特に彼女の経済力やビジネスセンスを知ったあとは、その評価は一気に跳ね上がった。美しいだけでなく、稼ぐ力まであるなんて。まさに完璧すぎる。それを聞いて、世家の若者たちは一様に興味を示しはじめた。「えっ、うそ!二川紗雪って、こんなに美人で、しかも稼げる人だったなんて!」「いやマジで、今それ聞いて一気に惚れたわ」「だよな......って、二川家の次女ってまだ独身なんだろうか?」「やめとけって。お前らがどうこうできる相手じゃねぇよ。あの二川家の人間なんだぞ」そんな声が聞こえると、自然とその場にいた人々の視線が、発言した男に向けられた。「それって、どういう意味だ?」「いやさ、二川家にはある決まりがあるんだよ」そう言われても、皆の顔には疑問しか浮かばない。二川家の決まりとは?

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第306話

    有紀も、憎しみを浮かべた顔の緒莉に気がついた。たしかにうまくいかないこともあるが、緒莉の後ろについていれば、それなりの見返りがある。貰ったのはどれも最新型のアイテムで、緒莉は「あげる」と言ったら本当にくれるのだ。だからこそ、有紀は緒莉の頼みごとを引き受ける気になっていた。利用されていると分かっていても、たいして問題にならないことであれば、有紀は気にしない。「有紀、計画があるの。聞いて......」緒莉の言葉を聞いて、有紀の目がぱっと輝いた。「さすが緒莉だよ。私の考えとはまるで違うんだもん!」有紀は感嘆の眼差しで緒莉を見つめた。最初はただの見かけ倒しかと思っていたが、まさかこんなに頭が切れるとは。とくに紗雪を相手にした時の頭の回転は、まさにグングンと冴え渡っている感じだった。そう思うと、有紀の緒莉を見る目には、少しばかりの敬意すらにじんでいた。「ボーっと突っ立ってないで、頼んだこと、さっさとやってきなさい」緒莉は小さく咳払いして、有紀に早く動けと合図した。これ以上長引けば、何が起こるか分からない。緒莉の心の中には、ずっと拭えない不安が残っていた。ぐずぐずしていれば、思いもよらぬことが起きるかもしれない。紗雪が人に囲まれてもてはやされている姿を見るたびに、緒莉の胸の奥からはどうしようもない悔しさがこみ上げてくる。どうして紗雪は、どこに行ってもあんなに注目されるの?どうして自分は、冷遇されるの?緒莉は拳をぎゅっと握りしめ、どうすればいいか分からなくなっていた。でも、絶対にこのまま紗雪に好き勝手させるわけにはいかない。「紗雪......いつまでそんな顔していられるか見ものね」間もなく、有紀が戻ってきた。自信満々な顔をして、緒莉に報告する。「全部上手くいったよ」緒莉はうなずいた。「じゃあ、あとはタイミングを待つだけね」パーティーの場の反応をまずは観察しながら、事の成り行きを見守る。今回ばかりは、絶対に負けないつもりだった。緒莉は拳を握りしめた。さっき仕上げたばかりのネイルが爪の内側に深く食い込んで、顔には険しい表情が浮かぶ。そんな緒莉を見るのは、有紀にとって初めてのことだった。普段はあんなに穏やかで、優しげで、誰にでも笑顔を向けて、いい物があ

無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status