彼女は永遠に彼女であり、いつだって自分らしく生き、自分に忠実であり続ける。警察は、川島先生の熱意と必死さを見て、思わず心を動かされた。こんなにも真剣に思われる生徒とは、一体どんな子なのだろう。ここまでさせるのなら、きっと相当優秀に違いない。親にとっての一生の願いも、結局はそういう子を育てることだろう。だが今は、それよりまず救出が先だ。それ以外のことは、すべて後回しだ。紗雪は上の状況を、まるで手に取るように見ていた。特に大きな異変は起きていない。記憶によれば、あの年も救助隊は長い時間をかけてやっと彼女を見つけ出してくれた。ただ、不思議なのは......最後までそばにいて励ましてくれたあの「お兄さん」が、その後ぱったり姿を消してしまったことだ。紗雪は建物の残骸に沿って、ゆっくりと下へ降りていった。瓦礫も壁も、すべてすり抜けることができる。彼女にとっては、まるで遊びのように障害にならなかった。やがて地下に戻った紗雪の目に飛び込んできたのは、両腕を抱えて何度も擦り合わせながら縮こまっている若い紗雪の姿だった。地下は真っ暗で、表情などはまったく見えない。これまでなら、どこにいてもはっきりと見通せたはずなのに。この身体になってからは、不自由など感じたことがなかった。ところが今は、闇のせいか、目が効かない。若い自分がどこにいるのかも、はっきりとわからない。仕方なく、感覚だけを頼りに動くしかなかった。若い紗雪は周囲を観察していた。あたり一面つるりとした泥ばかりで、道具らしいものは何一つない。自力でどうこうできる環境ではなかった。ただ、目の前には「壁」のようなものが立ちはだかっていた。おかしい。さっきまで確かにびっしり塞がれていたはずの壁が、今見ると少し隙間ができているように見えた。いや、それどころか、その隙間から何かが見えそうな気がする。若い紗雪は思わず壁を叩いた。「誰かいますか?聞こえるなら返事してください。そうすれば、向こうで何をしているのか私にもわかります」しかし返事はなかった。若い紗雪の表情には落胆が浮かぶ。やっぱり、思い違いだったのかな?彼女に今いちばん必要なのは、ただ「誰かがそばにいる」ということだった。どれだけ独立心が強くても
そう考えた校長は、思わず声を上げて専門家に問いかけた。「先生、一体これはどういう原因なんですか?」地質の専門家は首を振り、答えを見いだせずにいた。「これは......すぐに結論を出せるようなことではありませんね」彼自身も挫折をにじませる。「長いことこの仕事をしてきましたが、こんな現象を見るのは初めてです」その言葉に、周囲はますます口を閉ざしてしまった。この地質専門家はK国でも名の知れた人物だ。その彼ですら説明できない出来事が、小さな鳴り城で起きている――科学ではとても説明できないほど奇怪な現象だった。だが今は理由を詮索している場合ではない。とにかく全力を尽くして、中にいる子どもたちを救い出すしかない。救援隊が動き出そうとしたそのとき、慌ただしい声が響いた。「すみません、通してください!」校長や専門家たちが振り返ると、息を切らせた男がこちらへ駆けてくる。校長は眉をひそめ、不機嫌そうに声を荒げた。「川島先生、こんなときに何をしに来た。これから救助を始めるところなんだ、邪魔をしないでくれ」川島先生は胸を押さえて呼吸を整え、やっと言葉を絞り出した。「校長......一つお聞きします。今日の午後、ホールにいた五人の生徒の名前は?」「そんなことを聞いてどうする」救援の最中に横から口を挟まれ、校長は苛立ちを隠さなかった。「用がないなら下がっていなさい」だが川島先生はさらに声を張り上げた。「校長!もし中に二川紗雪という子がいるなら、必ず無事に救い出してください!」その一言に校長の目が鋭く光る。「どうして君が二川の名前を?」「な、何ですって!?」川島先生の声は震えていた。彼は校長の腕をつかみ、わなわなと問いただす。「校長、本当に......本当に冗談じゃないんですね?」校長の表情が険しくなる。彼は川島先生の手を振り払った。「こんなに人が見ている前で、私が冗談を言うとでも思うか?」その態度で、川島先生も事の重大さを悟った。これは本当なのだ。次の瞬間、川島先生は泣き崩れ、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりながら校長の足にすがりついた。「この子がどれほど優秀か、校長先生はご存じないんですか!学校にどれだけの栄誉をもたらしたか......あんな頭脳
その言葉を聞いた瞬間、清那の視界が真っ暗になり、今にも倒れそうになった。中に五人の生徒がいる?それなら、紗雪も絶対その中にいるはずじゃないか。そう思った途端、清那の膝は崩れそうになり、立っているのもやっとだった。彼女は必死に近くの警官の袖をつかんで叫ぶ。「お願いです、おじさん。どうか......どうか友達を助け出してください。私にはあの子しかいないんです。失いたくないんです......!」憔悴しきって必死に訴える清那の姿に、空から見守る紗雪の心は溶けてしまいそうだった。自分なんかが、どうしてこんなにも大切に思ってくれる親友を得られたんだろう。前世で世界を救ったのかもしれない。警官は涙ぐむ清那を見て、本当のことを伝えるべきか迷った。この状況で現実を突きつければ、彼女をさらに追い込むだけだ。だが、嘘をつくこともしたくない。結局、彼は曖昧に答えるしかなかった。「大丈夫だよ。必ず全力を尽くして、君の友達を救い出すから」その言葉を聞いた瞬間、清那はすべてを悟った。もう力が抜け、意識を失い、その場に崩れ落ちて警官の腕に倒れ込んだ。現場は一気に混乱する。ただでさえ収拾がつかない状況に、今度は清那まで倒れてしまったのだ。救護員たちも慌ただしく駆け寄り、さらに混乱は広がっていく。紗雪はその光景を見て、胸が締め付けられた。地上の自分を救うこともできず、倒れた清那にも手を差し伸べることはできない。それどころか、自分がなぜ「ここにいる」のか、その意味を考えざるを得なかった。もし自分が何かに干渉したら、未来は変わってしまうんじゃないか?危うい考えを振り払うように唇をかみしめる。過去の出来事には誰も手を出してはいけない。干渉すれば、因果が狂ってしまう。それだけは決して触れてはならないこと。やがて清那が救急車で運ばれていくのを見届け、紗雪もひとまず安堵した。だが、彼女の胸には強い疑念が残っていた。なぜ、この鳴り城の災害ではホールだけが崩れたのか。他の建物には何の異変もなかったのに。学生頃にも一度は考えたことがある。けれど自分は気象の専門家ではないし、当時は被害者の一人として、それどころではなかった。だが今、傍観者として改めて見直すと、この大雨と崩落はどうにも
「崩れた......?」清那は思わず二歩ほど後ずさりした。精巧で可愛らしい顔に信じられないという色が広がり、口の中で繰り返す。「崩れたって......どういうこと?」警官はそんな彼女を見て胸が痛み、慰めようと口を開きかけた。だが、その隙を清那に突かれてしまう。彼女は身を低くして、警官の腕の下をすり抜けると、教室棟の方向へ駆け出した。十数年来で一番速く走っているに違いなかった。胸の奥ではまだ「きっと全部嘘だ」と願っていた。だって、あんなに聡明で優秀な紗雪が、こんな災害に呑まれるなんて、信じられるはずがない。あまりの速さに、警官も反応が追いつかなかった。「おい、君!立ち入り禁止だって言っただろ!」慌てて追いかけるが、訓練を受けたはずの自分より清那の脚は速かった。ついに追うのを諦め、立ち止まる。悔しいが、到底追いつけそうにない。そのとき、警官は思い出した。さっき彼女が「友達がホールにいる」と言っていたことを。友達を探しに行ったのか。根が優しい彼は、これ以上は止めずに見逃すことにした。混乱の中、誰も気づきはしないだろう。左に曲がった先、ホールの建物はまだ見えない。だが人がどんどん集まってきていた。心臓は早鐘を打ち、胸の奥を締め付ける。ようやくわかった。さっきからの高鳴りは錯覚なんかじゃなかったのだ。そのとき、紗雪はすでに危険に巻き込まれていたのか。清那には、もう他のことを考える余裕などなかった。頭の中は「元気な紗雪に会いたい」という思いでいっぱいだ。誰に対しても後悔なんてしたくない。何より一番辛いのは、紗雪をホールに行かせたのが、自分の頼みだったという事実。全部、自分のせい。そう思った瞬間、涙がにじみ、視界はどんどんぼやけていく。それでも走る足は止まらなかった。ここまで来たのだ。絶対に諦めるわけにはいかない。そしてホールの前に辿り着いたとき、そこに広がっていたのは――瓦礫の山だった。かつての立派な建物は、跡形もなく崩れ落ちている。あまりの光景に、清那は思考が追いつかなかった。遠隔監視で倒壊の瞬間を見ていた校長や幹部たちですら、現場の衝撃には言葉を失ったのだから。想像を絶する光景だった。清那は瓦礫に駆け寄ろうとした
同じ頃、警察署、新聞社、そして安全局の人たちも続々と駆けつけてきた。今回の天災は鳴り城で起きたとはいえ、中心地はこの学校だったからだ。多くの専門家ですら、この現象を説明できなかった。普段、この学校はそれほど目立つ存在ではない。だが、今日の出来事で、鳴り城全体、さらには上層部にまで注目されることとなった。この学校は、一夜にして全国に名を知られることになったのだ。寮では、空が晴れた瞬間、清那が真っ先に駆け出した。目指すのはホール。その時、もう誰も彼女を止めなかった。本来ならもっと早く行っていただろう。同級生たちが引き止めていなければ、清那はすでにホールに向かっていたはずだ。暖かな日差しを浴びたとき、皆はようやく夢から覚めたような気持ちになった。さっきまでの出来事が、まるで幻だったかのように。あまりにも一瞬で起こり、そして突然に終わった。黒雲が空を覆ったとき、多くの者が「世界の終わりか」とすら思った。だが再び太陽を目にしたとき、信じられない気持ちで胸がいっぱいになった。互いに抱き合い、涙を流す。よかった、すべて失われたわけではない。少なくとも、明日の太陽をまた拝むことができる――そう実感できただけで十分だった。清那がホールに近づくと、そこには校長や教師たちのほか、警察、救急隊員、そして記者の姿があった。太陽を見たとき「大丈夫だ」と思った安心感は、一瞬で吹き飛んだ。彼女は信じていた。外に出れば、そこに紗雪が立っているはずだと。だが今、ホールの前に広がるのは人だかり。そして、見慣れたあの高いホールの建物は、跡形もなく消えていた。「どうして......?」喉が渇き、無意識に唾を飲み込む。重い足を引きずりながら、一歩一歩前へ。まるで機械仕掛けの人形のように、ただ歩みを進めるしかなかった。希望で満ちていた心は、冷水を浴びせられたかのように、あっという間に凍りついた。ホール前にたどり着いた清那は、当然のごとく警察に止められた。警官は、目の焦点が定まらない少女を見て胸を痛めながら声をかける。「君、どうしたんだい?」「友達を......探さなきゃ......」清那は警官の手を振り払おうとし、ホールへと向かおうとした。しかし、最前線の警官がそんな行
今ここに立っているのも、ただの傍観者の視点にすぎなかった。この世界に属していない、遊覧者のように。だが今は、遊び歩く余裕などあるはずもない。紗雪は、無力な若い自分を見つめながら、胸を締め付けられる思いだった。最終的に誰かに救い出されることを知っていても――この時間は、彼女にとって耐えがたい。崩落の瞬間、彼女と四人の同級生は同じ場所に落ちたわけではなく、すぐに二手に分けられてしまった。その結果、若い紗雪は完全に孤立無援。ホールはもともとヨーロッパ風の建物で、白い壁と丸いドームが特徴的だった。普段から学生たちの目を引く存在であり、学校の象徴的な建築物のひとつでもあった。多くの生徒がそこで記念写真を撮り、SNSに載せたりする場所。ここは高校とはいえ、通う生徒は富裕層か、もしくはずば抜けて頭の良い子ばかり。だから校長もスマホの持ち込みを特に制限していなかった。だが、その「象徴」が崩れ落ちた今、校長は直感した。自分のキャリアは終わったのだと。数ある建物の中で、崩れたのはよりによってホールだけ。一体なぜだ。若い紗雪は、それほど深くは落ちなかった。だが地中の基礎部分に叩きつけられ、制服は一瞬にして泥にまみれた。それでも彼女は腕に力を込め、必死に体を起こす。まだ十数年の人生。こんなところで終わるわけにはいかない。外の世界はまだ見ぬものばかり、未来だってこれからだ。ここで諦めるなんて、自分らしくない。歯を食いしばり、立ち上がる。だがその頭上からは、なおも瓦礫が降り注ぐ。ほんの瞬きの間に状況は変わり、彼女は次の一歩を踏み出そうとする――やがて、折れた天井や木材が頭上に積み重なり、落下口を完全にふさいだ。地基に落ちた彼女と地上との距離は、十メートル近く。わずかな光も木材に遮られ、閉ざされてしまう。息苦しさが胸を圧迫し、周囲は湿った土の壁。若い紗雪は深呼吸をして、冷静に考えようとする。四人の同級生を最後に見た位置。確か、北の方向。ただ、当時も距離があり、今は同じ穴に落ちたのか、それともバラバラに散ってしまったのかは分からない。今は、他人のことを気にしている場合じゃない。小さな吐息をもらし、心に言い聞かせる。生き延びられるかどうかすら定かでない状