LOGIN<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになってもらいたい……そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれることは、ない。だから私は彼と姉が結ばれることを願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。それは私が大切な2人を同時に失う日でもあった。 甘く切ない恋、抑えきれない溺愛。そしてドロドロの愛憎劇が幕を開ける――
View More7月 大安吉日の日曜日――
私は海辺にひっそりと建つ小さなチャペルに誰よりも一足早くやって来ていた。新郎新婦はまだ来ていない。空を見上げれば雲一つない青空が広がっている。海から拭く潮風をもっと身体に感じたくて、目を閉じ、両手を広げて思い切り吸い込んだ。
「何て清々しい陽気なんだろう……」
そして目を開けると改めて眼前に立つ教会を見上げた。海を背景に、草原の中にひっそりと建つ美しい教会。真っ白な壁で出来た建物は左右に大きな赤いとんがり屋根が付いている。入口は大きなアーチ型でお洒落な木の扉になっている。まるで1枚の大きなアートのような風景だ。この教会で結婚式を挙げようと決めたのは新郎新婦と私の3人。本当は私なんかが2人の結婚式に口を挟める権利は無いのに、何故か2人は私にも選んで欲しいと強く訴えて来たのだ。だから申し訳ないけれども教会選びに参加させて貰い、3人でここに決めたのだった。
中央には時計台もあり、てっぺんには当然の如く大きなベルが取り付けられている。時刻は午前8時をちょっと過ぎた所だ。式は10時からだから、私は2時間も早くここへ来てしまった事になる。
「お姉ちゃん……今頃心配してるかな……。それに……亮平……」
ポツリと呟き、思わず目頭が熱くなってくる。
「駄目だな……私ってば……こうなることをずっと願っていたはずなのに……いざとなると……こんなに辛いなんて……」
私は涙が出てこないように必死で楽しい事を考えた。お姉ちゃんと2人で旅行へ行った事。亮平と一緒に学校帰りにファミレスに行った事。3人で居酒屋に行ったり、カラオケをした事……。駄目だ……。結局私の楽しかった思い出は全て姉と亮平に関わる事ばかりだ。
私はますます悲しみが込み上げてきて……ついに堪えきれなくなり、涙が溢れだしてきた。一度流れ出した涙は止まる事を知らない。そう、私が式の2時間も前に教会へやって来た目的は……今から涙が枯れ果てるまで泣く為にやって来たのだ。だってそうでもしなければ、私は悲しみに耐えきれず、2人のおめでたい結婚式の最中に泣きだしてしまうかもしれないから。 ごめんなさい、お姉ちゃん……亮平……。 本当は2人の事をお祝いしてあげたいのに……今はとてもそんな気持ちになれないよ……自分で決めた事なのに。全ては覚悟の上だったのに。神様、どうかお願いします。
2人が式を挙げている間…私が泣きだしませんように……。
2人の幸せを心から願えますように……。
私はいつまでもいつまでも両手で顔を覆って泣き続けた—―
やがて私たちは人事部の社員の男性に席に座って待つように促され、着席して待っていた。すると研修室に人事部の課長と係長が現れ、その後ろから30代位のスーツに身を包んだ女性が入って来た。へえ……綺麗な女性……誰かな?思わず注視してみるほどに、洗練された美しい女性に私は思わず見惚れてしまった。「新入社員の皆さん。本日は突然の新人研修に集まってくれてありがとう」すると、本日の研修目的の説明を課長がマイクを片手に説明を始めた。要は本日新入社員達が集められたのは接客マナーについての研修だったのだ。そして講師として招かれたのが現役キャビンアテンダントのチーフパーサーを務める女性だったのである。そっか……CAの女性だったから美人だったんだ。それなら納得もいく。その後、私たちは3時間にも渡って挨拶の方法、接客マナーを徹底的に叩き込まれる事になるのだった……。12時――研修を終えた私達は会議室で差し入れのお弁当を食べながら真理ちゃん、井上君、佐々木君の4人で一つのテーブルに座り、話をしていた。「あ~あ……それにしても今日の研修は厳しかったわね~」真理ちゃんが幕の内弁当の玉子焼きを箸でつまみながらため息をついた。「ああ、俺なんかあの人に3回も挨拶で駄目だしをくらっちゃったよ」佐々木君がげんなりした表情で鮭を口に運んでいる。一方の井上君は……。「うんめえ! 何、この幕の内弁当、ちょーうまいんですけど!」興奮気味で鶏のから揚げを頬張っている。「全く、相変わらずだな。井上は」ペットボトルのお茶を飲みながら佐々木君が呆れている。「当り前だろう!? 一人暮らしの新入社員は生活していくのに命がけなんだよ!」井上君は箸を休める事無く食べ続けている。「ねえ、そんなに一人暮らしって大変なの? 一体家賃いくらの処住んでるのよ?」真理ちゃんが頬杖を突きながら井上君に尋ねた。「10万」「「「はあ!?」」」井上君の言葉に思わず私たちの声がハモる。「え? え? 待って、井上君。本当に一月10万円もする家賃の部屋に住んでるの?」私は尋ねた。「ああ、そうだよ」井上君はあっさり答える。え……ちょっと待って。私達新人の初任給は手取りで23万円。そこから税金とか厚生年金とかいろいろ引かれると、実質20万弱になる。それなのに一月10万なんて……。「だ、だって光熱費とか
新入社員研修は本社ビルの5Fにある研修室で行われる。今年採用された新入社員は全国で300人。そして今回集められたのは東京都で採用された新人達……合計20名。研修室へ入ると、懐かしい同期入社の面々が揃い、笑顔で会話をしている。「うわあ……皆盛り上がってるねえ……」「あ、ああ。そうだな……」私と井上君が入り口の所で立っていると、誰かが私の名前を呼んだ。「鈴音!」するとこちらへ向かって黒髪のストレートヘアの女性が走って来る。彼女は……。「あ! 真理ちゃんっ!」渋谷支店に配属された仲良しの真理ちゃんが駆け寄って来ると、いきなり抱き付いてきた。「あ~ん! 鈴音~! 会いたかった~!」真理ちゃんは私の首に腕を回し、擦り寄ってくる。彼女の髪からはふんわりと柑橘系の良い香りが漂っている。「真理ちゃん、私も会いたかった~」ギュッと真理ちゃんを抱きしめていると、何やら視線を感じた。その視線の先には井上君が一歩引いた目で私達を見ている。「お、おい……もしかして2人は……できてるのか……?」「ばっかね~っ!! そんなはず無いでしょう!? あいっ変わらずデリカシーの無い男ね!?」美人だけど気の強い真理ちゃんがキッと井上君を睨み付ける。「お、おい……! な、何だよ! そのば……ばかって!」井上君は顔を真っ赤にさせ、震えていると背後から誰かが声を変えてきた。「よぅ!井上」「あ……佐々木か」現れたのは佐々木君。彼は目黒支店に配属されている。「何だよ、その気の無い返事は。久しぶりだな、加藤さん、片岡さん」片岡とは真理ちゃんの苗字だ。「佐々木君は相変わらず大きいねえ……お客さんに怖がられない?」真理ちゃんは遠慮なしに物を言う。佐々木君は元ラガーマンで身長だって190㎝もあるのだ。でも確かに……。「う、うん…佐々木君みたいに大きな人がビラを配る姿は……ちょっと怖いかも……」私が笑いをかみ殺しながら言うと佐々木君は眉をしかめた。「え~……まさか加藤さんにまで言われてしまうとは……」「あら、ショックだったみたいね~。だって佐々木君……本当は加藤さんと同じ代理店に配属されたかったのよね……?」「ええっ!? そ、そうなのか!?」何故か私よりも井上君が反応した。「お、おいっ! 語弊を招く言い方をするなよ! 俺は加藤さんと同じ墨田支店に配属されたかった
「おはよう、加藤さん」職場へ着くと、既に出社していた井上君が挨拶してきた。「あ、おはよう。井上君」すると井上君はばつが悪そうに謝ってきた。「ごめん、加藤さん……。昨夜はあんなことを言って。彼……加藤さんの大事な人なんだろう?」「え!?」大事な人……思わず言い当てられて私は自分の顔が赤面するのが分かった。「……」すると、そんな私の顔を見て何故か少し悲し気に井上君が言った。「はは、図星だ。よし、それじゃ今日もビラ配り頑張るか!」それだけ言うと井上君は自分の席へと戻って行った。う~ん……今のは一体何だったのだろう? 代理店は朝9時半から開店する。そして私達社員は毎朝9時にミューティングを行い、ここで営業成績のトップの人の名前が発表されたり、本日の予定を報告しあうのだ。この代理店で働く新人は私と井上君の2人のみ。すると係長が声をかけてきた。「おい、井上君、加藤さん。突然の話なのだか、本日新入社員を一斉に本社に集めて研修をが行われる事になった。今からすぐに本社へ向かってくれ」「え? そうなんですか!?」何処か嬉しそうに井上君は言う。でもその気持ち、私も良く分かる。だって同期入社した皆はそれぞれ違う代理店に配属されてしまったし、私達のような旅行会社は普通の会社と違って休みが不定期だから、金曜日に皆で集まって飲み会のような真似が出来ないのだ。やがてミューティングが終了し、私と井上君が本社に行く準備をしていると太田先輩がやって来て、井上君に話しかけてきた。「何だ、井上。随分と嬉しそうだな……?」太田先輩は何故かニヤニヤしながら井上君を見ている。「はい、それは嬉しいに決まってますよ! だって、ただで美味い弁当が食べられるんですから!」井上君の元気な声が店舗に響き渡る。「な~んだ、てっきり俺は同期入社で惚れた女の子に会える喜びで嬉しそうにしているかと思ったよ」太田先輩は小声で言っているのだろうけど、地声が大きいので井上君に囁いている声が私の席まで丸聞こえになっている。え……? 井上君好きな同期の女の子がいたんだ? ふ~ん……誰なんだろう? もしかして真理ちゃんかな? あの子美人だしね……。後で電車に乗ったら聞いて見ようかな? 等と考えつつ、バックに社員証を入れたところで背後から井上君に声をかけられた。「加藤さん。準備は出来た?」「うん。
結局、この日姉は家に帰って来ることは無かった。私がお風呂から上がってくるとス、マホに姉からのメッセージが届いており、今夜は彼氏とお泊りデートになるとの内容が書かれていたのだ。……やれやれ、全くラブラブなカップルだ。でも今年、2人はハワイで結婚式をあげるのだから今は最高に幸せな時期なのだろう。しかもお姉ちゃんの婚約者はお姉ちゃんが結婚して出て行くのを私が寂しがるだろうと思い、結婚後はこの家で住むことにしてくれたのだ。私に気を使ってくれるなんて……。「本当に優しい彼氏さんだよね……」と言う訳で、今朝は私一人の朝食だから手抜きをしようトーストにウィンナー、野菜ジュースにヨーグルトを頂く事にした。「いただきまーす」蓋を開けてヨーグルトを口に入れる。モグモグ。うん、美味しい。確かネットで朝食前にヨーグルトを食べると食事の脂質や糖質を分解してくれるって書いてあったんだよね〜。別に私は太っている訳ではないけれど、それでも体型は気になるものね。なにせまだ22歳なんだし!ヨーグルトを食べ終えた頃にお湯が沸いたので、マグカップにインスタントコーヒーを淹れて、熱湯を注ぎスプーンで混ぜる。私が好きなコーヒーの飲み方は何も入れずにブラックで飲む事。「う〜ん……いい香り。……但し、インスタントだけどね」トーストを食べながら、手元にあったテレビの電源をポチッと入れて、毎朝見ている朝の情報番組を眺めた。丁度テレビでは今朝の占いをやっている。「どれどれ……かに座の運勢はどうかなあ……?」ウィンナーを口に頬張りながら画面を食い入るように眺め……がっくりと肩を落とした。何と今日の運勢は12星座中、かに座が一番悪かったのだ。「はあ……見なければ良かった……」その後、情報番組は天気予報へと変わる。今日の天気は1日快晴。ということは、今朝もビラ配りに行かなければならないのかなあ……。私的にはデスクワークをして一刻も早く仕事を覚えたいのに。手元に残った最後の食パンの欠片を食べ終えると、私は席を立った。手早く食べ終えた食器を洗い、出勤の準備をする。「洗濯……する暇なかったなあ……まあ、いいか。お姉ちゃんは今日も仕事が休みだし……お願いしちゃおう!」****「鈴音」玄関を出て鍵をかけていると、声をかけられた。振り向くと亮平が玄関のドアを開けてこちらを見ている。「あ、おは