本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

last updateLast Updated : 2025-12-31
By:  結城 芙由奈Updated just now
Language: Japanese
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<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになってもらいたい……そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれることは、ない。だから私は彼と姉が結ばれることを願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。それは私が大切な2人を同時に失う日でもあった。 甘く切ない恋、抑えきれない溺愛。そしてドロドロの愛憎劇が幕を開ける――

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Chapter 1

プロローグ 結婚するって本当ですか?

 7月 大安吉日の日曜日――

私は海辺にひっそりと建つ小さなチャペルに誰よりも一足早くやって来ていた。新郎新婦はまだ来ていない。空を見上げれば雲一つない青空が広がっている。海から拭く潮風をもっと身体に感じたくて、目を閉じ、両手を広げて思い切り吸い込んだ。

「何て清々しい陽気なんだろう……」

そして目を開けると改めて眼前に立つ教会を見上げた。海を背景に、草原の中にひっそりと建つ美しい教会。真っ白な壁で出来た建物は左右に大きな赤いとんがり屋根が付いている。入口は大きなアーチ型でお洒落な木の扉になっている。まるで1枚の大きなアートのような風景だ。この教会で結婚式を挙げようと決めたのは新郎新婦と私の3人。本当は私なんかが2人の結婚式に口を挟める権利は無いのに、何故か2人は私にも選んで欲しいと強く訴えて来たのだ。だから申し訳ないけれども教会選びに参加させて貰い、3人でここに決めたのだった。

中央には時計台もあり、てっぺんには当然の如く大きなベルが取り付けられている。時刻は午前8時をちょっと過ぎた所だ。式は10時からだから、私は2時間も早くここへ来てしまった事になる。

「お姉ちゃん……今頃心配してるかな……。それに……亮平……」

ポツリと呟き、思わず目頭が熱くなってくる。

「駄目だな……私ってば……こうなることをずっと願っていたはずなのに……いざとなると……こんなに辛いなんて……」

私は涙が出てこないように必死で楽しい事を考えた。お姉ちゃんと2人で旅行へ行った事。亮平と一緒に学校帰りにファミレスに行った事。3人で居酒屋に行ったり、カラオケをした事……。駄目だ……。結局私の楽しかった思い出は全て姉と亮平に関わる事ばかりだ。

私はますます悲しみが込み上げてきて……ついに堪えきれなくなり、涙が溢れだしてきた。一度流れ出した涙は止まる事を知らない。そう、私が式の2時間も前に教会へやって来た目的は……今から涙が枯れ果てるまで泣く為にやって来たのだ。だってそうでもしなければ、私は悲しみに耐えきれず、2人のおめでたい結婚式の最中に泣きだしてしまうかもしれないから。

ごめんなさい、お姉ちゃん……亮平……。

本当は2人の事をお祝いしてあげたいのに……今はとてもそんな気持ちになれないよ……自分で決めた事なのに。全ては覚悟の上だったのに。

神様、どうかお願いします。

2人が式を挙げている間…私が泣きだしませんように……。

2人の幸せを心から願えますように……。

私はいつまでもいつまでも両手で顔を覆って泣き続けた—―

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プロローグ 結婚するって本当ですか?
 7月 大安吉日の日曜日――私は海辺にひっそりと建つ小さなチャペルに誰よりも一足早くやって来ていた。新郎新婦はまだ来ていない。空を見上げれば雲一つない青空が広がっている。海から拭く潮風をもっと身体に感じたくて、目を閉じ、両手を広げて思い切り吸い込んだ。「何て清々しい陽気なんだろう……」そして目を開けると改めて眼前に立つ教会を見上げた。海を背景に、草原の中にひっそりと建つ美しい教会。真っ白な壁で出来た建物は左右に大きな赤いとんがり屋根が付いている。入口は大きなアーチ型でお洒落な木の扉になっている。まるで1枚の大きなアートのような風景だ。この教会で結婚式を挙げようと決めたのは新郎新婦と私の3人。本当は私なんかが2人の結婚式に口を挟める権利は無いのに、何故か2人は私にも選んで欲しいと強く訴えて来たのだ。だから申し訳ないけれども教会選びに参加させて貰い、3人でここに決めたのだった。中央には時計台もあり、てっぺんには当然の如く大きなベルが取り付けられている。時刻は午前8時をちょっと過ぎた所だ。式は10時からだから、私は2時間も早くここへ来てしまった事になる。「お姉ちゃん……今頃心配してるかな……。それに……亮平……」ポツリと呟き、思わず目頭が熱くなってくる。「駄目だな……私ってば……こうなることをずっと願っていたはずなのに……いざとなると……こんなに辛いなんて……」私は涙が出てこないように必死で楽しい事を考えた。お姉ちゃんと2人で旅行へ行った事。亮平と一緒に学校帰りにファミレスに行った事。3人で居酒屋に行ったり、カラオケをした事……。駄目だ……。結局私の楽しかった思い出は全て姉と亮平に関わる事ばかりだ。私はますます悲しみが込み上げてきて……ついに堪えきれなくなり、涙が溢れだしてきた。一度流れ出した涙は止まる事を知らない。そう、私が式の2時間も前に教会へやって来た目的は……今から涙が枯れ果てるまで泣く為にやって来たのだ。だってそうでもしなければ、私は悲しみに耐えきれず、2人のおめでたい結婚式の最中に泣きだしてしまうかもしれないから。ごめんなさい、お姉ちゃん……亮平……。本当は2人の事をお祝いしてあげたいのに……今はとてもそんな気持ちになれないよ……自分で決めた事なのに。全ては覚悟の上だったのに。神様、どうかお願いします。2人が式を挙げている間…私が泣
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 1 私と姉の事
 チーン ゴールデンウィーク明けの初夏―― 部屋に中にはお線香の匂いと、お仏壇の鐘の音が部屋に漂っている。仏壇には父と母の遺影が飾られている。「……」目を閉じてお仏壇の前に座り、手を合わせていると私の5歳年上の姉が部屋に入って来た。「あら、鈴音ちゃん。まだお仏壇に手を合わせていたの?」「うん、今朝は朝礼が無いからゆっくりで大丈夫なの。それに連休が終わったばかりだから、7月までは少しだけ仕事が楽なのよ。私はまだ新人だから大した仕事まだやっていないしね」 私はお姉ちゃんを見上げながら言った。お姉ちゃんの名前は忍。妹の目から見てもお姉ちゃんは美人だ。色白でおしとやかで……家事などはお手の物。一流商社に勤め、しかも同じ年のイケメンサラリーマンと婚約迄している。8月にはハワイで挙式を行う予定になっているのだ。「ほら、それじゃ鈴音ちゃん。一緒にご飯にしましょう? お姉ちゃんもお仏壇に手を合わせていくから、ご飯とお味噌汁、よそっておいてくれる?」お姉ちゃんはお仏壇の前に座りながら私を見た。「うん、任せておいて。それ位どうってことないから」立ち上がると、私は仏壇の部屋を出て台所へと向かった。築20年、リフォーム済みの我が家は閑静な住宅街にある二階建ての一戸建て住宅だ。ここに私とお姉ちゃん……2人で寄り添うように生活している。私は今年大学を卒業したばかりの新人OL。両親は……私が大学に入学した年に飛行機の墜落事故で無くなってしまった。当時、父は外資系の商社マンで母と2人でアメリカで暮していた。そして、事故に遭った日は私の誕生日で、久々にまとまった休みが取れた父は母を連れて私の誕生を祝う為、日本へ向かう飛行機に乗り……そこで悲劇が起こった。 それはとても悲惨な事故だった。乗っている乗客乗員は全員死亡が伝えらえ、私とお姉ちゃんの元に届いたのは死亡の知らせと焼け焦げた遺品のみだった。何度も何度も航空会社の責任者が謝罪に訪れ……莫大な慰謝料と引き換えに私達の両親は永遠にこの世から消えてしまった。 幾ら億単位の賠償金を貰っても、そのお金には限度がある。私は大学を辞めて働こうとしたが、お姉ちゃんが必死でそれを止めた。大学位、私が働いで出してあげると頑なに言って私の意見に耳を貸さなかった。だから私はお姉ちゃんの言葉に甘え、両親がいないにも関わらず、4年生大学を無事卒
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 2 姉と私と亮平と
「それじゃ、鈴音ちゃん。行って来るわね」お姉ちゃんが仕事に行くのを見送るのは私の毎日の日課となっている。お姉ちゃんは都内の総合商社の本社で勤務しているので通勤に時間がかかる。けれど私は地元の駅から5駅先にある旅行会社の代理店で働いているからお姉ちゃんよりも通勤時間がぐっと短い。「うん。行ってらっしゃい、お姉ちゃん」玄関で手を振ると、お姉ちゃんも笑顔で手を振ってくれる。お姉ちゃんが外へ出ると、外で大きな声が聞こえてきた。「忍さんっ! お早うございますっ!」あ、あの声は……。私は玄関から顔を覗かせると、そこには隣に住む幼馴染の亮平がまだ着慣れないスーツ姿で立っていた。「あ、お早う。亮平君」姉は笑顔で返事をする。「忍さん、駅まで一緒に行きましょう!」亮平は爽やかな笑顔で姉に笑いかけている。「そうね……それじゃ一緒に行きましょうか?」「はいっ!」そして、その時になって初めて亮平は私が玄関から顔を覗かせている姿に気が付いた。「何だ鈴音か……。お前そこにいたのか? それにまだそんな格好しているのか?」亮平は急に態度を変えて私を見ると、声をかけてきた。「ええ、勿論いたけど? 亮平がお姉ちゃんに朝の挨拶をした時からずーっとね。それにそんな恰好って言ってるけど、これは寝間着じゃないわよ。部屋着って言うんだからね」すると姉が言った。「あ、そうだ。鈴音ちゃん。お姉ちゃんねえ、今日は残業になりそうなの。遅くなるから晩御飯は1人で食べてくれる?」「ええ!? 忍さん、今夜は残業なんですか? それじゃ帰りが遅くなるから心配ですね……。そうだっ!仕事終わったら連絡下さいよっ! 俺、駅まで迎えにいきますからっ!」亮平はずいっと身を乗り出す。「大丈夫よ、亮平君。ちゃーんと彼が会社まで車で迎えに来てくれるから。今夜は仕事が終わったら2人で食事をして帰ることになってるの」姉は嬉しそうに笑う。「あ……あははは……そ、そうだったんですね。な~んだ。ハハハ……」良平はがっくりと肩を落とした。「あ、そうか……考えてみたら今日は金曜日だったもんね~」私は自分の勤務先が旅行代理店というサービス業なので土日でもシフトに入っていれば仕事がある。だから金曜日がOLやサラリーマンにとってはある意味、特別な曜日だという事を失念していた。今では死語になってはいるが、昔日本にバ
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 3 私のお仕事
「おはようございます」朝10時―出勤してきた私は挨拶をして店の中へ入った。「おはよう、加藤さん」資料に目を通していた係長が顔を上げると挨拶を返してくれた。他の社員の人達は皆接客中だった。「今朝はお客さん多いですね。連休も開けたばかりなのに」私は小声で尋ねた。「ああ、そうなんだよ。実は昨日、駅前で旅行の新しいプランのビラを配ったんだよ。それが効果があったのかも知れないね。と言う訳で…」係長の顔に笑みが浮かんだ。う…この表情は…何だか嫌な予感がしてきた。すると案のじょう、係長はデスクの脇に置かれた段ボール箱を指さすと言った。「この箱の中にビラが入っているから、袋にティッシとビラをセットして、とりあえず200部持って駅前で配って来てくれるね?」え?!200部も…?!「は、はい…分かりました…」ヤレヤレ…出社早々ビラを配りに行かされるとは…。 取りあえず、係長から段ボール箱を預かった私は自分のデスクに運ぶと早速ビニール袋にティッシュとビラをセットにして準備を進めた。勿論その間にも電話はかかって来る。電話応対をしながら、ビラ配りの準備を終えた頃には時刻はすでに11時を過ぎていた。「係長。それでは行ってきますね」ビラが入った紙袋を両肩に下げた私は係長の前に行き、挨拶をした。「ええ?加藤さん…ひょっとして今から行くのか?もうそろそろお昼なのに…」係長は壁に掛けてある時計を見ながら言った。「いいえ、大丈夫です。問題ありませんよ。それにお昼の時間帯の方が駅前に人が集まるのでは無いですか?」「う〜ん…確かにそうかもしれない…そうだ、駅前では井上君がビラを配っているから、彼と交代してくれるかい?」井上君は私と同じ同期入社の新人だ。そうか・・どうりで姿が見えないと思ったら…ビラ配りに行ってるのか。「はい、分かりました。では行ってきます」ピシッと頭を下げて、私は社員通用口から外へ出ると駅前に向った。私が働いている代理店は急行も止まるし、他に私鉄とJRも乗りれいている駅なので、大手の企業も立ち並んでいる。そして昼時ともなると駅周辺は多くのOLやサラリーマンが行き交っている。 駅前に着くと、私は早速井上君の姿を探した。「さて、と…我が代理店の若きホープの井上君は何処かな…?」キョロキョロ辺りを探していると、ワイシャツの上から会社指定のジャンパー
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 4 私のランチ
 駅前を通り過ぎる人達に声をかけながらビラを配っていると井上君が戻ってきた。「お待たせ、加藤さん」「あれ……? 早かったね、井上君。もしかしてもう2時間経過してるの?」「そうだけど……? 何? 時間も忘れてしまう程集中して配っていたってこと?」井上君に言われて腕時計を確認すると、確かに1時間経過していた。「うわお! 本当だ……もう13時半になろうとしてる……」「それで、どの位配れた?」井上君が足元に置いてある段ボール箱をチラリとみると、もう箱の中のビラは3分の1程度までに減っていた。「へえ〜なかなかやるじゃん。後は俺に任せて食事に行ってきなよ。加藤さんが戻る頃にはビラが無くなってる様に頑張るからさ」井上君の言葉に私は嫌な予感がした。「ねえ……ひょっとしてまさか、このビラが無くなるまでお店に戻っちゃいけないってことは、ないよね?」すると何を思ったか、井上君が人差し指を立てて左右に振った。「チッチッチ……甘いね、加藤さん」「え……? 甘いって……?」「うん、甘すぎる。これを配り終えたら、また会社に戻って次のビラを配るんだよ。1日のビラ配りの目標は600部らしいからね」「ええ~!? そ、そんなあ……」「まあ、まあ。それ位俺と加藤さんの2人にかかればちょろいって、そんなことより食事に行っておいでよ」井上君はダンボールからビラを取りだした。う〜ん……お昼かあ……何食べて来ようかな? そうだ、井上君に聞いてみよう。「ねえ、井上君はお昼ご飯何食べてきたの?」「うん? 俺? 俺はね、丼定食屋さんで牛丼食って来たよ」「定食屋さんかあ……ねえ。女性客のお1人様っていた?」「うん、いたいた。4〜5人位はいたかな? 俺が行った店は牛丼以外にもうどんや蕎麦、他に親子丼もあったしね。大体ワンコインで食べられるから給料日前で苦しい今の俺にはぴったりの店だよ」そして井上君は溜息をつく。「はあ~……それにしても次の給料日まで、あと1週間もあるのかあ……きっついな……。もう少し安い家賃のアパートへ引っ越すかな……」段々話がお昼ご飯からずれてきたので、私もそろそろ退散しよう。「それじゃ、お昼食べに行って来るね」井上君に手を振った。「ああ、行ってらっしゃい!」彼も笑顔で手を振り返してくれた。さてと、それではお昼ご飯を食べに行こうかな……。私は繁華
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 5 私のお願いは?
 結局、この日は17時までかかって井上君と2人でビラ配りを頑張って、ノルマ分の600部を無事配り終える事が出来た。「はあ~……つっかれたなあ……」井上君が空になった段ボール箱を畳みながら、肩をトントンと叩いた。「ほんとだね……でもいいじゃない、井上君はさあ……。今日は早番なんだから18時になったら帰れるでしょう? 私なんか今日は20時まで仕事だもんね……」私は溜息をついた。「そうなんだ、それは大変だなあ」井上君は心の籠っていない「大変だなあ」を言う。「まあ別にいいけどね……。さて、それじゃお店に戻ろうか?」「ああ、そうだな」そして私と井上君は2人で代理店へと戻った。****「お帰り、ご苦労だったね」私と井上君が代理店へ戻ると係長が労いの言葉をかけてきた。「いえ、それ程でも」井上君は嬉しそうに返事をする。「係長、ビラを持ったお客さん、お店にいらっしゃいましたか?」私が尋ねると係長は目を細めた。「ああ、君たちの頑張りのお陰で、今日10組予約が入ったよ」「え!? そうなんですか!? それで、その人達の売上って……俺達のノルマに入るんですか!?」すると、背後から3年生先輩の太田先輩が声をかけてきた。「そんなはずないだろう? 接客をして予約を受けた俺達の成績になるに決まってるだろうが」「そうなんですね……」私はがっかり肩を落とした。「まあまあ、明日は君たちはビラ配りに行かなくていいから。明日はデスク業務に入ってくれればいいよ。君達2人の代わりに太田にビラを配らせに行くから」「え!? か、係長……本当ですか……? その話……」太田先輩が露骨に嫌そうな顔をした。「ああ、太田。君は新人じゃないから一人でビラを配りに行くんだぞ?」係長は太田先輩を正面から見据え。「はい……了解しました……」そしてすごすごと太田先輩は自分の持ち場へと戻って行った。その後私は電話応対や、新しい旅行プランのパンフレットの入れ替え業務等を行い、井上君は18時になると退社した。 18時を過ぎると代理店に残る人数は半分に減ってしまう。それに今日は金曜日だから仕事帰りのサラリーマンやOLさん達がお店にやって来るので、閉店時間までは大忙しだった。やがて20時になり、最後のお客さんも帰ったので私はシャッターを閉めに裏口から外に出た。ガラガラガラッ!シ
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 6 現れたのは
「うう……どうしてこの辺りは人通りが少ないんだろう……。街灯も少ないし……何より……」チラリと私は住宅街を歩きながら右側を見た。右側は小高い丘のようになっており、その上をJR線が走っている。しんと静まり返った住宅街に、時折激しい音を立てて通り過ぎてゆく電車の音。そして住宅街が一時的に途切れ、草がぼうぼうに生えた空き家が1軒、この先にある。実はこの空き家で痴漢騒ぎが1カ月ほど前に起きていた。被害に会ったのは女子高生。部活動の帰りにこの道を通った少女が、突然空き家の敷地から現れたサングラスを目深に被った男によって空き家に連れ込まれそうになった。大声で叫んだ少女は、たまたま運良く、通りすがりの犬の散歩をしていた男性に発見された。そして犬が大声で吠えた為に慌てて不審人物は逃げ去り、少女は無事だったらしい。その後……今から3日前までは警察のパトロールが行われていたのだが、事件から1カ月が経過し、再び同じ事件が起こらなかった為にパトロールは終了したのだけど……。「犯人が捕まるまではパトロールしてくれればいいのに……」ビクビクしながら私は住宅街を歩いていく。そして、もうすぐ女子高生が襲われかけた場所の前を通過する。もう、あの前は走って通過するしかない……。私は息を吸い込むと、走り出した。空き地を通り過ぎても私は走った。そして50m程走り抜けてようやく息を吸い込んだ時に突然背後から何者かに口を塞がれた。「!」その瞬間、あまりの恐怖と驚きで私の心臓は一瞬止まるのではないかと思った。「‥…」背後から私の口を塞ぐ手は恐ろしい程力が強い。そしてグイグイと私を例の空地へ引きずって行く。「う~っ!!」口を塞がれているので声を上げることも出来ない。いやだ! 怖い怖い怖いっ!!いくらもがいても振りほどけない。男は私の口を塞いだまま、ずるずると私を空地へ引きずり込む。しかし、次の瞬間男がバランスを崩して地面に倒れた。当然私も地面に倒れこむ。するとサングラスの男が倒れた私の上に右手で口を塞ぎ、覆いかぶさると言った。「へへへ……ここでも構わないか……」ま、まさか……この男はここで私を……!?恐怖で目に涙が浮かび、何とか逃れようと両手をバタバタ振った時、偶然地面に伸ばした私の右手に棒が触れた。「!」私はその棒を掴むと、思い切り男の右肩を殴りつけた。バキッ!!
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 7 姉との比重
「それにしても亮平のお陰で助かったわ。本当にありがとう、やっぱり迎えに来てくれたんだね」警察からの事情徴収の帰り道……亮平と2人で並んで歩きながら、私は笑いかけた。「あ、ああ……まあ、そう……だな」しかし、何故か亮平の歯切れが悪い。一体どうしたんだろう? 気付けば私達は自分の家の前にやって来ていた。「あれ……? 家の明かりがついてる……」私が呟くと、突然玄関のドアが開けられてお姉ちゃんが飛び出して来た。「鈴音ちゃん!」「え? お、お姉ちゃん!? どうして……今夜はデートだったんじゃ……?」「それがねえ、今夜突然残業が入ったらしくてデートは無しになっちゃったの。そしたら家に帰ってみればまだ鈴音ちゃんは帰っていないし……。それで亮平君にお願いしてお迎えに行ってもらったのよ」え? それじゃ……もしかして亮平が私を迎えに来てくれたのはお姉ちゃんに頼まれたからだった?チラリと私は亮平を見たが、もう彼の目はお姉ちゃんに釘付けだった。「でも、良かった。何とも無かったようで……え?」そこまで言いかけてお姉ちゃんはようやく私の服や体があちこち汚れていることに気が付いた。「え? す、鈴音ちゃん! どうしたの? あちこち汚れているじゃないの!」「う、うん……ちょっと……ね……」お姉ちゃんに心配かけたくなくて私はごまかそうとしたが……恐怖で身体中が小刻みに震えている。「鈴音ちゃん……」お姉ちゃんは私をギュッと抱きしめると亮平を睨みつけた。「亮平君、一体……どういうことなの? これは?」すると……。「すみません! 忍さん! 俺が出るのが遅かったばかりに……! 鈴音……襲われかけていて、俺が行った時には、棒を持って男と向かいあっていたんです!」私はお姉ちゃんの腕の中で思った。ああ……やはりこんな時でも亮平が謝る相手は私ではなく、お姉ちゃんなんだと……。そう思うとどうしようもなくやるせない気持ちになってしまった。「亮平君。謝るのは私では無いでしょう? 鈴音ちゃんに謝って」するとお姉ちゃんが私が考えていたことと、同じ言葉を口にした。「!」亮平は一度息を飲み…そして私の方を見た。「ごめん。鈴音。迎えに行くのが遅れて……」「いいよ、もう」でも、お姉ちゃんに言われなくても電話を入れた段階で迎えに来て欲しかった。そしたらあんな怖い思いをしなくても済
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 8 映画
「お疲れさまでしたー」今日は早番。だから18時に退社した。代理店を出て駅に向かって歩きながら、私は映画館のポスターが貼られている掲示板の前を通り過ぎ……足を止めた。「映画かあ……」私は溜息をついた。昨夜亮平はお姉ちゃんを映画に誘っていた。一体亮平はどんな映画に姉を誘おうとしていたのだろう……。その時、背後から声をかけられた。「あれ、加藤さんじゃない」振り向くとそこには井上君が立っていた。「あれ? そっか、井上君も早番だったんだね。気付かなかったよ」「ああ。俺はビラ配り後、直帰していいって言われてたからね。それより、何? 加藤さん。映画観るの?」井上君は映画のポスターが貼られている掲示板を見つめた。「う、ううん。ただ、どんな映画をやってるのかなーって思って」すると井上君が1枚の映画のポスターに釘付けになった。「あっ! これ! この映画……俺が観たいと思っていた映画だ! え……と上映時間は……」井上君は自分の腕時計を見つめる。「よし! 今から行けば間に合う! 行こう、加藤さん!」そして何を思ったか井上君は私の左手を繋ぐと走り出した。「え!? ちょ、ちょっと待ってよ! 私、映画観るなんて一言も……!」井上君は走りながら私の方を振り向いた。「いいから観に行こうぜ! 俺さあ……誰かと映画観に行って、その後お互いに感想を語り合うのが好きなんだ!」その顔はすごく笑顔だった。まあいいか……どうせ暇だったしね……。「うん、いいよ。そういうことなら付き合ってあげる」そして私たちは映画館に向かって駆けて行った――**** それから約3時間後――「うう……な、なんであんな怖い映画を……」私はガタガタ震えながら恨めしそうに井上君を見た。「ごめんごめん。ちゃんと説明してなかったよな……。俺、和製ホラー大好きなんだよ」井上君は頭をポリポリ掻きながら照れくさそうにしている。ここはファストフード店で私と井上君はハンバーガーセットを口にしながら先ほど観た映画の感想について語り合っていたのだけど……。今日2人で観に行ったのは私が最も苦手とする和製ホラー映画だったのだ。もう画面の半分は怖くて観ていられず、目だけしっかり閉じていたのだが、かえってそれがより一層恐怖を倍増させていた。「だけどさ……そんなに怖かったなら途中退席すればよかったのに」セット
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第1章 9 険悪な雰囲気
「ああ? 何だ? お前は……」亮平は不機嫌そうな顔で井上君を見た後、背後にいた私に声をかけてきた。「鈴音、この男……お前の彼氏か?」「違うよ、会社の同僚だけど?」「へえ〜会社の同僚がわざわざ鈴音の家に来るかねえ……? だけど、今この家には誰もいないんだ。もう鈴音を連れて来たんだから用事は済んだだろう? さっさと帰れよ」亮平は腕組みしながら井上君を見た。「何でお前にそんなこと言われなくちゃならないんだ?」井上君は険しい顔で亮平を睨みつけている。何だか険悪な雰囲気だ。「大体なあ……こんな遅い時間まで仕事してたんじゃないんだろう? どうせ下心丸出しで鈴音に近付いたのかもしれないが……悪いことは言わない。鈴音はやめておけ。ガサツで乱暴なところがある女だからな」「アハハ……それは言い過ぎなんじゃない?」そんな風に私は亮平に見られていたなんて……。私は内心のショックを隠しながら笑って胡麻化した。すると、井上君が先程よりも険しい顔つきになった。「おい! お前……加藤さんの幼馴染と言っていたが幾らなんでも失礼じゃないか!? 加藤さんは明るくて、職場を盛り上げてくれる素敵な女性だ! 彼女を貶めるような言い方はやめろ!」「い、井上君……」私は井上君の今まで見せことも無い姿に驚いてしまった。「さっきから何なんだよ。お前は。もう俺は家の中へ入らせてもらうからな。え……とお前、井上……だっけ? 鈴音の家に上がらずにさっさと帰れよ。お前が家にいたら帰宅した忍さんが驚くだろう? じゃあな」亮平はそれだけ言うと家の中へ入ってしまった。「「……」」取り残された私と井上君。2人の間に沈黙が流れる。井上君は亮平が消えたドアの方を未だに睨みつけているし……。き、気まずい……。「加藤さん」突然井上君が振り向くと話しかけてきた。「な、何かな? 井上君」「あいつだろう? 加藤さんが話していた幼馴染って……」「う、うん……そう……だよ……?」何だろう? 井上君……すごく怒っているように見えるけど?「ねえ……もしかして怒ってる……? 私、何か井上君を怒らせるようなことしちゃったかな?」身に覚えがないけど一応聞いておこう。「確かに怒ってはいるけど……」「ああっ! やっぱり! ごめんなさいっ! ひょっとして映画のことで怒ってるのかな? 私が怖がって画面あまり観て
last updateLast Updated : 2025-12-26
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