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第330話

Author: レイシ大好き
あの資金は、すべて会社のものだ。

それをすべてこのプロジェクトにつぎ込むわけにはいかない。

もし最後にすべてが無駄に終わったら......

そうなれば、このプロジェクトに使われた現金は全て凍結され、損失はさらに拡大する。

紗雪は赤い唇をぎゅっと結んだ。

こんな状況は、あとから取り返しのつくような話ではない。

それに気づいたからこそ、彼女はジョンとのこの一歩を「間違いだった」と思ったのだ。

理由はわからない。

けれど、彼女の胸には焦りが広がっていった。

次に何をすればいいのか、まったく見えなくなっていた。

こんな紗雪を見るのは、秘書にとっても初めてだった。

彼女にどうやって手を差し伸べればいいのか、彼にも分からなかった。

「でも、会長......その資金を使わないのなら、海外のプロジェクトはどうすれば......」

秘書も焦りをにじませる。

いつまでも保留にしておくわけにはいかない。

こんなふうに時間ばかりが過ぎていくのは、両方にとって損だ。

この案件自体が両刃の剣だというのに、時間が経てば経つほど、両者にとって時間も労力も無駄になっていく。

最終的に、利益どころか、このプロジェクトをちゃんと完了できるかどうかも怪しくなる。

そう考えるからこそ、紗雪は不安になる。

もしこのプロジェクトが最後まで完遂できなかったら......

ジョンの方は、一体どうしちゃったのか。

以前とはまるで別人のように、冷酷になってしまった。

紗雪は秘書をちらりと見て、なんとか笑顔を作った。

「......まずは戻りましょう。あとのことは私が何とかするから」

そう言って、紗雪はひとりで車を出してその場を去った。

秘書はその背中を見送るしかなかった。

悔しい気持ちはあったが、今いちばん大切なことは、紗雪の負担にならないこと。

余計なことをすれば、みんなにとって何の得にもならない。

紗雪にとっても、今の状況はいいものとは言えない。

でも、彼女自身にも、今はこれといった打開策がなかった。

彼女は自宅に戻ると、この件はいったん脇に置くことに決めた。

まずはジョンの裏側を探る必要がある。

彼がなぜ、突然こんなことを言い出したのか。

これまでジョンは、彼女に対してずっと好意的だった。

価格を変更するような素振りもなかった。

それが今回は、
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