Share

第376話

Author: レイシ大好き
彼女はこんなところに長くいたくなかった。

脳みそが足りない二人と一緒にいると、紗雪は感染しそうで怖かった。

こんな連中と一言でも多く話すのは、時間の無駄だとしか思えない。

このままだと、自分のIQまで下がりそうだった。

紗雪が立ち去った後、加津也と初芽は顔を見合わせた。

加津也はそのまま車を出そうとしたが、初芽がそっと彼のハンドルを握る手に触れた。

初芽は低く静かに言った。

「加津也、見た?あの女、あれだけ時間が経ったのに、まだあんなに威張ってるのよ」

「最初に加津也と付き合ってた時も、きっとお金目当てだったのよ。今の加津也がこんなにボロボロなのって、全部あの女のせいじゃない」

最初は何とも思っていなかった加津也だったが、初芽の言葉を聞いた瞬間、ここ最近の記憶が一気に蘇ってきた。

「......確かに」

自宅に監禁されていた日々、さらには刑務所に入っていた時のこと。

加津也は一瞬たりとも忘れたことはなかった。

今、紗雪があんなに落ちぶれている姿を見て、これは一気にたたみかけるべきタイミングだと思った。

「加津也、私ね、別に悪者になりたいわけじゃないの。ただ、あなたのことが心配なだけ」

「こんなに時間が経ってるのに、あの女はあなたに一切の罪悪感もないのよ?そんな女のことを、あなたがまだ気にしてるなんて、信じられないわ」

初芽は悔しそうに続けた。

「あんな恩知らずな女のこと、気にする必要ある?」

初芽の言葉を聞いて、加津也の心は大きく揺れた。

確かに、紗雪と付き合っていた時も、どこかで初芽のことを考えていた。

そして今、初芽と一緒にいるというのに、紗雪が二川家の次女になったからといって、自分がそれで心揺れるなんて。

こんなことで初芽を手放すなんて、自分はクズだ。

どうしてこんな酷いことができるのか。

加津也は隣に座る初芽を見つめ、申し訳なさそうな目で、喉を詰まらせながら言った。

「......ごめん、初芽。俺、ずっとバカだった。君の優しさをちゃんと見てなかった」

初芽は首を振り、感動したような顔で言った。

「いいの。加津也が元気でいてくれるなら、それでいいの。私は、加津也のそばにいてくれれば、他に何もいらないから」

その言葉を聞いて、加津也はますます罪悪感に襲われた。

初芽がずっと自分にしてくれていたことを無視して
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第382話

    お願いだから怒りに任せて自分のスマホを投げたりなんかしないでくれよ!このスマホ、彼がつい最近買ったばかりのもので、本人もすごく大事にしてるんだから!「あまり怒らないでください。もしよければ、私が外に出て紗雪さんときちんと話を......」「いいえ、紗雪のことは私が話すわ」緒莉は冷たく言い放ち、ハイヒールの音を響かせながら病室を出ていった。彼女は、病室に長く居れば母の休息を妨げてしまうのではと心配していた。正直言って、紗雪にはあまり良い感情を持っていないが、母親に対しては真剣だった。孝行心は確かにあった。秘書はスマホのことを心配していたが、何と言っても緒莉は彼の上司である。上司がスマホを使いたいと言っているのに、文句など言えるわけがない。そう思いながら、秘書は心の中で泣きそうになっていた。ただ祈るしかなかった。二人の姉妹の会話が穏やかに終わってくれること、そして彼のスマホが無事であることを。緒莉は廊下に出ると、そのまま通話ボタンを押して電話を取った。紗雪は電話がつながったのを確認すると、すぐに尋ねた。「会長は今どうなってるの?大丈夫そう?」しかし、いくら待っても秘書の声が聞こえてこない。「......どうしたの?そんなに深刻なの?なんで黙るの?」「紗雪、本当に笑えるね」冷たい声が返ってきた。「......緒莉?」紗雪はすぐに気づいた。「山口(やまくち)さんのスマホがどうしてあなたに?」「当たり前じゃない。今、お母さんのそばにいるのは私なんだから!」緒莉の声には勝ち誇った色がにじんでいた。「母さんを心配してるって口では言ってるけど、いざという時にあんたの姿なんてどこにもなかった。これで孝行だなんて、笑わせないで」紗雪はその言葉を聞きながら、拳をぎゅっと握りしめた。確かに、自分にも非はあったかもしれない。だが、それを緒莉に言われる筋合いはない。「あなたに関係ないわ」彼女も負けずに言い返す。「山口さんにスマホを返して。あなたとは話したくない」「話したくない?」緒莉は鼻で笑った。「今、お母さんのそばにいるのは私。来たければ来れば?」「場所を教えて」紗雪は一切のためらいなく答えた。母のそばに行けるなら、それは願ってもないことだった。

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第381話

    京弥はその言葉を聞いて、少し驚いた。このタイミングで、紗雪が美月のそばにいない?別の場所に行ってる?そうであるなら、結果はひとつしかない。紗雪が美月の件を知らないか。それとも、この件は彼女が原因で起こったことか。京弥は暗く沈んだ瞳でスマホを見つめた。どちらの可能性であったとしても、彼は今すぐに紗雪のもとへ向かいたかった。今の紗雪には、自分が必要だ。彼女一人に、こんなことを背負わせるわけにはいかない。そう思うと、京弥はすぐに紗雪に電話をかけた。だがしばらく待っても、相手は出なかった。自動で切断された音を聞いた瞬間、京弥の心臓が一瞬、重く沈んだ。これが何を意味するのか、彼はわかっていた。京弥は立ち上がった。「車を出せ、二川グループに行く」「かしこまりました」匠は突然立ち上がった京弥を一瞬だけ驚いたように見たが、すぐに状況を理解した。彼を止められない。いっそ従った方がいい。その方が互いにとって得策だ。余計な時間を無駄にせずに済む。「社長、私も同行したほうがよろしいでしょうか?」京弥はその場で一瞬立ち止まり、すぐに返事をした。「いや。彼女は君のことを知ってる」その言葉を聞いた匠は、同行するつもりを諦めるしかなかった。「わかりました。社長もどうか、お気をつけて」「ああ」京弥は短く応え、そして大股でドアの方へと歩き出した。今の彼は、紗雪が外に一人でいるということが、どうしても気がかりでならなかった。彼女がどこにいるかわからない以上、まずは二川グループに行くのが最善だ。万が一紗雪が既に事実を知っているなら、真っ先に戻ってくる場所はそこしかないはず。なぜか、京弥は、この推測に対して妙な自信があった。一方その頃、紗雪が京弥の電話を取らなかったのには理由があった。日向との電話を終えたばかりの彼女は、頭の中が真っ白で、どう反応していいかわからなかったのだ。もしも......本当にもしも、美月が自分のせいでショックを受けて入院したのだとしたら......そう思っただけで、彼女は自分自身を許せなかった。何がどうであれ、美月は自分の実の母親だ。こんなことになるなんて、自分は人間以下だ。そんな考えが頭をよぎり、紗雪はすぐに美月の秘書に

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第380話

    日向は自信満々に軽くうなずいた。出かける際、日向は妹への声かけも忘れなかった。彼は手を伸ばして妹の頭を撫で、真面目な表情で言った。「じゃあな、千桜。お兄ちゃんのこと、あんまり恋しがるなよ」しかし千桜は自分の世界に没頭したまま、手の中のおもちゃで遊びながら、何も言わなかった。その様子を見て、日向の瞳の光が一瞬陰りを見せたが、すぐにまた明るさを取り戻した。「よし、母さん、じゃあ行ってくるよ。千桜のこと、よろしく頼むな」「このバカ、何言ってんの。千桜は私の娘でしょ?当り前よ」神垣母は日向のふざけた様子に、思わず笑いがこぼれた。だがその笑顔の奥には、どこか深い陰りがあった。さっき日向が一瞬見せた気の抜けたような表情。それを彼女は見逃していなかったのだ。それゆえに、彼女はますますこの息子を愛おしく思った。千桜のあの出来事以来、日向は一体どれほどの間、心から笑えていなかったのだろう?日向が出かけてから、かなりの時間が経って、ようやく千桜は顔を上げた。その目は焦点の定まらないまま、どこか遠くをじっと見つめていた。その姿を見て、神垣母は胸が締めつけられる思いだった。反応は遅くても、それ以上に彼女は安堵していた。「千桜、もしかしてお兄ちゃんと一緒に行きたかった?」神垣母は微笑みながら言った。「日向お兄ちゃんはね、綺麗なお姉さんをアプローチしに行ったんだよ。でも大丈夫。彼は千桜のことを忘れたりはしないよ」その後、神垣母が何を言おうと、千桜はもう一切反応を返さなかった。だが神垣母は落胆しなかった。彼女は信じていた。いつか必ず、千桜はきっと良くなる。そしてその日が来たら、千桜を世界中に連れて行って、様々な景色を見せてやるのだと。神垣母は心の中で、静かにそう誓った。......椎名グループ「社長、二川会長が入院されたそうです。私たちもお見舞いに行かれますか?」「入院?」京弥は手元の書類を置き、眉をひそめた。「いつのことだ?」「今日の午前中のことです」匠が恭しく返答した。京弥は深く息を吸い、スマホに目をやったが、そこには何の通知もなかった。つまり、紗雪はこのことを彼に一言も知らせていないということだ。彼女は今、一人でこの事態に向き合っているのだろう

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第379話

    「でも、聞いた話だと......美月会長が何かあったって......」日向は探るように訊ねた。「それで、電話してみたんだ。急にどうしたのかと思って。美月会長がどうして病院に行ったのか気になって......」紗雪は一瞬で我に返り、声を一気に強めた。「何言ってるの?」「どこの会長が入院したって?」まさか、そんなはずはないと思いながらも、紗雪の心には不安が広がっていた。「二川グループの会長......つまり君のお母さんだよ......」日向の声は最後には小さくなっていった。紗雪の反応を聞いて、日向はようやく確信した。彼女は母親が入院したことをまったく知らないのだ、と。どういうことだ?世間の噂では、彼女たち親子はとても仲が良いって話じゃなかったか?それなのに今、この母娘は、母親が入院しても娘が知らないなんて。日向は仕方なく言い方を変えた。「いや、僕も人から聞いただけだから、本当かどうかはわからないんだけどね......」「きっとデマだよ。君が知らないなら、信じなくていいから」だが紗雪の胸の内は穏やかではなかった。すぐに思い出したのは、会社で母親に向かって自分が吐いた言葉。あの時、彼女は胸を押さえていた。あれは明らかに持病の症状だった。薬は買ったのに、どうして入院なんて......疑念と後悔が交錯し、紗雪の心をずたずたに引き裂いていった。「さっき言った話、本当かもしれない......」紗雪の声は震え、かすかに嗚咽を含んでいた。「後でまた電話する。ちゃんと確かめてみるから」「わかった。じゃあまた」そう言って、日向はすぐに電話を切った。紗雪の思考を妨げまいとする気遣いだった。彼は鈍感ではなかった。紗雪のわずかな言葉から、だいたいの事情を察することができた。どうやら、ただごとではなさそうだ。日向は考えれば考えるほど、何かがおかしいと感じた。こんな状況で、じっとしていられるわけがない。彼は無意識に千桜を連れて出かけようとした。妹を理由に紗雪に会いに行こうと考えていたのだ。だが、突然神垣母の声が響いた。「日向、どこへ行くの?」「え?出かけるつもりだけど......」妹を抱えながら、当然のように言う日向。これがそんなに不思議なこと

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第378話

    「こんにちは。ここは駐車禁止の場所です。かなり長時間停めていたので、これは違反切符です」加津也は少しバツの悪い顔をしたが、仕方なく手を伸ばして違反切符を受け取った。警官は初芽の赤く腫れた唇を一瞥すると、つい口を挟んできた。「次からは、こういうことは家でやってください。外だと見た目が良くありませんよ」そう言い残して、そのまま立ち去っていった。車内には、取り残された加津也と初芽の気まずい沈黙が漂った。加津也は初芽の赤く腫れた唇と目が合い、途端に気まずそうな表情を浮かべた。警官に指摘されるまで、そんなことに全然気づいていなかったのだ。初芽の顔はさらに真っ赤になった。「もう、早く帰りましょう......」こんな恥ずかしい状況、もうこれ以上いたくなかった。これ以上ここにいれば、羞恥で死にそうだ。今の初芽の頭の中は「地面に穴があったら今すぐ入りたい」その一心だった。加津也は初芽の恥ずかしそうな顔を見て、目元に笑みを浮かべた。「ああ、帰ろう」初芽は「うん」と小さく返事をし、大人しく座り直した。加津也の口元の笑みはそのままだった。確かに初芽の容姿は紗雪には及ばないかもしれない。だが、彼女は本当に素直で従順だった。それだけで、彼は十分に満足していた。二人は家に戻ると、車の中で未完だった行為の続きを再開した。すべてが、まるで水が流れるように自然に進んでいった。一方その頃、紗雪は海辺のベンチに座っていた。傍らには一本のビール缶が置かれ、彼女の手にはもう一本。そのまま口元に運び、ごくりと喉へ流し込んだ。紗雪は今、ひとつのことを考えていた。この会社、自分は本当に帰るべきなんだろうか?あるいは、どんな立場で行けばいいんだろう?美月にはあんなことまで言われたのだ。もう、会社に顔を出す自信がない。なにより、美月や会社の上層部にどう顔を合わせればいいのかもわからない。紗雪は大きく息を吐き、再びビールを口に運んだ。喉を刺激するアルコールの辛さが、ようやく「自分はまだ生きているんだ」と感じさせてくれる。しかし、どれだけ時間が経っても、スマホはまったく鳴らなかった。傷つかないわけがない。彼女は、美月から何かしらの連絡があると信じていた。ただの冗談だと、きっと戻って

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第377話

    男の低い声が沈んだ調子で囁いた。「初芽は本当に優しい。安心して。俺がちゃんと君を大事にするから......」その言葉が落ちると同時に、男の柔らかな唇が重なってきた。最初のうちは初芽も戸惑って、表情がどこかぎこちなかった。けれど、加津也があまりにも「誠実」そうな顔をしているのを見て、それ以上文句も言えなくなった。まあいいか。何にせよ、自分で選んだことなのだから。それに、加津也はもともと顔が悪いわけじゃない。外見の補正もあるし、まったく受け入れられないというわけでもない。そう思うと、初芽の中で何かが少し和らいだ。彼女も加津也に応えるように情熱的に唇を重ね返す。加津也は当初、軽く触れるだけのつもりだった。初芽の気持ちに応え、彼女に誠意と愛を示す程度に済ませるつもりだったのだ。だが、初芽の熱意に触れた瞬間、彼はもう自制が効かなくなった。二人は車内で熱く唇を重ね続ける。しかし。加津也がそんな情熱に飲まれる一方で、初芽の心の奥ではすでにうんざりしていた。思わず心の中で白目を剥きそうになる。もしお金がなければ、こんな男と今まで一緒にいられたはずがない。これほどの時間が経ったというのに、付き添ってきたのはいつだって自分だった。それなのに、あの男は今になってもまだ紗雪のことを思っている。怒らずにいられない。とはいえ、いま最も大事なのは、加津也と決裂しないことだ。今ここでこじれてしまえば、何ひとつ得られない。初芽は大きく深呼吸した。キスが終わると、彼女は色気のある視線を向けながら、指先で加津也の胸元にくるくると円を描いた。「加津也は......いつも私に優しくしてくれる......」加津也は初芽の手をぱしっと握りしめ、その瞳には明らかな欲望が宿っていた。「君は俺の女だ。大事にするって決まってるだろ」初芽はふっと微笑んで、柔らかく答える。「そう言ってくれるの、嬉しい......」「でもね、紗雪のことだけは、やっぱりどうしても許せない。あんなにひどいことをされたのに......」その言葉に、加津也の表情が少し曇った。父親にも以前釘を刺されたばかりだ。「お前は外で、関わっちゃいけない人間にちょっかいを出した。だから会社がこうなったんだ」と。けれど、加

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status