Share

第790話

Author: レイシ大好き
「実はもう一つお伝えしなければならないことがあります」

ベッドの上で紗雪を抱きしめていた京弥は、その声を聞き、気分が少し良かったせいか、まぶたをゆっくりと上げた。

そして気だるげに一言だけ吐き出す。

「なんだ」

「例の薬剤の鑑定結果が出ました」

その言葉に、紗雪も思わず視線を向けた。

彼女は知りたかった。

あの薬には一体何が入っていたのか。

なぜ辰琉は、あれほどまでして自分の体に注射しようとしたのか。

まさか、あれが自分を昏睡させる薬だったのでは......?

そう考えると、背筋が冷たくなる。

何もしていない自分が、なぜこんな目に遭わなければならないのか。

辰琉の目的は何なのか。

全く分からない。

彼らは自分にそこまで深い恨みを抱いているのか。

一体どこからそんな感情が湧いてくるのだろう。

ジェイソンは二人の顔を見て、頭の中で言葉を整理し、それから口を開いた。

「検査の結果、この薬剤は禁制薬でした」

京弥の視線が鋭く向けられる。

「何に使うもの?」

その声には抑えきれない怒りがにじんでいた。

あと少しで、その禁制薬が紗雪の体に打ち込まれるところだったのだ。

考えるだけで、胸が締め付けられる。

最初に奴を蹴った時、もっと強くしておくべきだった。

ここまで図に乗らせてしまったのは、自分が甘すぎたせいだ。

普段から余計な情けを見せすぎていた。

大切な存在を守りきれず、こんな連中に手を出させた......

すべては自分の責任だ。

ジェイソンは京弥の胸中を察し、静かに思った。

まあ、これは禁制薬だし、先にやりすぎたのはあの男の方だ。

京弥が怒りを露わにしても当然だ。

むしろ、彼はまだ優しすぎるくらいだ。

そう考え、ジェイソンは包み隠さず事実を告げた。

「この薬剤は無色無味で、投与しても機械では検出できません。体験するのは投与された本人だけです。だから、最初の検査で見つけられなかったのです」

「それで......?」

紗雪は思わず問いかける。

まさか自分の身に、こんなことが仕組まれていたとは。

辰琉は本気で自分を眠らせ続けようとしたのだ。

自分は普段から、あの人たちに甘すぎたのだろうか。

だからこそ、彼らはここまで大胆に自分に手を出したのか。

思えば思うほど、可笑しくすらなってくる。

ジェイソンは
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第794話

    紗雪を見つめたその瞬間――京弥は、これまで浮草のように漂っていた心が、ようやく寄り添える場所を見つけたのだと感じた。一方で、電話の向こうの署長はまだ愚痴をこぼしていた。大物から直接の保証を取り付けない限り、あの手の有力者の御曹司たちには手を出すのが怖い。うっかり逆らえば、いつ誰を怒らせるかわからない。いまの世の中、豪門はあまりに多い。署長はますます身動きが取れず、ただ悩むばかりだった。自分は所詮、ひとつの警察署をまとめる程度の小者。日々の業務を滞りなく回すことしか考えていなかった。だがその立場に座った以上、安穏と過ごせるはずもない。避けられぬことなのだ。「もういい。くだらないことは言うな」京弥は眉間を押さえ、苛立ちを隠さずに言葉を遮った。「予定通りやれ。必ず吐かせろ。何があっても、俺が責任を取る」そう言い捨てて、京弥は電話を切った。しかし署長は少しも怒らず、むしろ目を細めて笑みを浮かべた。ありがたい。京弥の後ろ盾があるのなら、この先の動きは格段に楽になる。あとの細かいことは、そのときに考えればいい。署長は部下に指示を飛ばした。「遠慮はいらん。どんな手を使ってもいい。正直に白状させろ。それから、必ずやつらの口から薬の成分を吐かせろ」上司の言葉を聞いた警官たちは、腹を括った。どうやら最初の医者の証言は本当らしい。この二人のバックがどれほど強かろうと関係ない。さらにその上に、もっと大きな存在が控えている。今回は、本当に鉄板を蹴飛ばしてしまったのだ。警官の心も一気に軽くなった。「わかりました。必ずやり遂げて見せます」「うむ」署長はそう言って電話を切った。指示はすでに下した。あとは現場に任せればいい。せっかくここまで昇りつめたのだ。少しくらいは、この立場を楽しんで当然だろう。年老いてまで他人の顔色を窺い、好き勝手されるだけでは、これまでの苦労は何だったのか。そんなのは、あまりにも報われない。自分の運命が不遇だなんて、笑わせる。署長は思わず独り笑いを漏らした。その頃、電話を切った警官は再び取調室に戻った。手錠をかけられた辰琉と緒莉を前に、心の奥底から嫌悪がこみ上げる。「まだ素直に吐く気はないのか?」「その薬は一体何だ

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第793話

    やっぱり、京弥は頼りになる人だ。京弥は軽く頷いた。「ああ。俺はもう食べてきた。これは全部紗雪のために用意したんだ。味はあっさりしてるけど栄養はパッチリ」紗雪は思わず眉を上げた。「へえ......意外と気が利くのね」「当然だろ。紗雪のためならこのくらい、大したことないさ」京弥は得意げに胸を張った。とくに紗雪の前だと、その笑顔は格別に明るかった。だが、彼がスマホを手に取った瞬間、その表情は冷え込んだ。彼は紗雪の柔らかな髪を撫で、小声で囁いた。「先に食べて。電話してくる」紗雪は不思議に思いながらも、何も言わなかった。以前の京弥なら、こんなふうに電話を避けたりはしなかったのに......「うん、行ってらっしゃい」彼女の声は穏やかだった。誰にだって秘密はある。それを一つ見ただけで、相手を全否定するようなことはしたくなかった。紗雪は彼がベランダに出て行くのを見送り、自分は軽く洗面を済ませてから食事を始めた。最初は何も感じなかった。けれど、お粥を口に含んだ瞬間、「ああ、生きてるって、こういうことなんだ」と心から実感した。ほとんど一ヶ月も寝たきりで、命を繋いでいたのは味気ない栄養剤だけ。あれはまるで鳥籠の中の生活みたいだった。毎日、無味乾燥なものばかりで、本当に限界だった。退院したら、絶対に自分にご褒美でお鍋を食べに行こう。そう固く決意した。一方、京弥の電話の相手は警察署長だった。「椎名様、どうしましょうか。この男があまりにも横柄で、転げ回って駄々をこねるばかりで、本当のことを話そうとしません」それを聞いた京弥の瞳は冷たく光った。「ほかの手は全部試したのか?お前は警察署長だろう?そんなことまで、いちいち俺に聞くのか」その声音には、鉄を打っても変わらない苛立ちが滲んでいた。せっかく相手を警察に突き出したというのに、まだこんなことで弱音を吐いているとは。ただ口を割らせるだけ――それが、そんなに難しいのか。署長は困ったように答えた。「ですが、本人は『自分は何もしていない』と繰り返すばかりで......しかも、人脈も広いようで、私どももつい......」たかが『顔が広い』程度で尻込みか。「まったく、無能揃いだな」京弥は眉をひそめ、吐き捨てるよう

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第792話

    「もういいの。京弥さんのせいじゃないわ。悪人なんてどこにでもいるし、誰がこんなことを予想できないよ」京弥だけじゃない。当事者である紗雪でさえ、彼らの手口がここまで卑劣だとは思ってもみなかった。本来なら、「家族」みたいな関係のはずなのに。だって、どう言おうと辰琉は緒莉と婚約までしていた人だ。それなのに今は、こんなふうに自分を害そうとするなんて。可笑しくて仕方がなかった。家族なのに、どうしてここまで互いを追い詰めようとするのか。辰琉という人間は、本当に恩を仇で返す、どうしようもない存在だ。しかも、こんなに時間が経っても、なお自分を狙ってくるなんて。紗雪の言葉は確かに慰めだった。だが、それでも京弥の胸の中には、苦い思いが残っていた。自分が彼女を守れなかったせいで、こんなに辛い思いをさせてしまった。二度と同じことは起こさせない。京弥は深く息を吸い、真剣な眼差しで誓った。「これからは紗雪のそばを一歩も離れない。絶対にだ。そして、今回が最後だ。二度と同じことは起こさせない」彼の真剣で厳かな表情に、紗雪の胸は温かさで満たされた。最初の頃、彼女はこうした言葉を、ただの形式的なものだと考えていた。言うか言わないかなんて、大差はないと思っていたのだ。けれど、今は違う。こういう言葉こそが、相手の態度を示すものだと気づいた。その態度は、どれだけ自分を大切に思っているか、愛しているかを表す。自分が相手の心の中でどれほどの位置を占めているのか。それは、決して軽く見るべきものではない。「うん」紗雪は彼の背中を軽く叩き、柔らかく微笑んだ。「だから京弥さんもそんなに落ち込まないで。こうして元気にしてるでしょ?これからも、ずっと京弥さんのそばにいるから。離れたりしない」京弥は頷いた。「今の言葉、忘れるなよ。嘘は許さないからな」「約束するわ。嘘なんてつかない。そんなことをしても何の得にもならないじゃない」その一言で、ようやく京弥の胸のつかえは下りた。確かに、彼女を騙したところで、意味なんてない。そして、彼自身ももう昔の京弥ではなかった。これからは本当に、片時も離れずに彼女を守っていくつもりだ。その先のことなど、考える必要はない。「すぐ食事を運ばせるよ」

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第791話

    「この死に方は......痛みがないという意味では、最も楽な部類でしょうね」そう言いながらも、ジェイソンは軽蔑するように吐き捨てた。「ただし、こんな薬のやり口はあまりにも稚拙です。だからこそ、すでに各病院で禁制薬に指定されていたのですが......まさか今になって、まだ出回っているとは」紗雪と京弥は互いに視線を交わし、思わず大きくため息をついた。危なかった。もし自分が目を覚まさなければ、あとのことなど想像するのも恐ろしい。彼女にとっても、京弥を失うことはあり得なかった。長い時間をかけて、遠回りをして、ようやく辿り着いた関係だ。やっと一緒になれたのに、どうして手放せるだろう。時々、紗雪はあの「事故」にさえ感謝することがある。あれがあったからこそ、最初に自分を救ってくれた『お兄さん』が誰だったのか知ることができたのだから。そう考えると、馬鹿だったのは自分自身だ。三年間という時間を、何の意味もない人に費やしてしまった。その三年は、笑い話のようだった。加津也の目には、自分はどう映っていたのだろう?きっと、心の中で笑っていたに違いない。どうしてこんな馬鹿な女が現れて、自分に従順に尽くし、世話まで焼こうとするのか、と。もし初芽がなければ、紗雪は未だに彼の本当の姿を見抜けなかっただろう。あのとき、本気で心を踏みにじられたからこそ、彼女は目を覚ましたのだ。あの時の恩を理由に、離れずに彼のそばに居続けた可能性もあった。だが、幸いにも運命は彼女をそこから解放してくれた。そして母との賭けをきっかけに、彼女は京弥と出会う。二人の間には子供の頃の縁があった。それだけで十分だった。縁というものは、説明できない不思議な力を持っている。母に背中を押され、偶然が重なって出会った二人は、結婚相手を必要としていた。そうして、そのまま入籍してしまったのだ。思えば、不思議で予想もしなかった展開だった。紗雪が感慨に耽っている一方で、京弥は耐えきれなかった。辰琉。あの男はどうしてここまでのことを?自分の女を、こんなふうに傷つけようとするとは。このまま何もしないなら、男と呼べるのか。そう思うと、京弥の拳は自然と固く握られていた。彼はジェイソンを見やり、軽く手を振った。「も

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第790話

    「実はもう一つお伝えしなければならないことがあります」ベッドの上で紗雪を抱きしめていた京弥は、その声を聞き、気分が少し良かったせいか、まぶたをゆっくりと上げた。そして気だるげに一言だけ吐き出す。「なんだ」「例の薬剤の鑑定結果が出ました」その言葉に、紗雪も思わず視線を向けた。彼女は知りたかった。あの薬には一体何が入っていたのか。なぜ辰琉は、あれほどまでして自分の体に注射しようとしたのか。まさか、あれが自分を昏睡させる薬だったのでは......?そう考えると、背筋が冷たくなる。何もしていない自分が、なぜこんな目に遭わなければならないのか。辰琉の目的は何なのか。全く分からない。彼らは自分にそこまで深い恨みを抱いているのか。一体どこからそんな感情が湧いてくるのだろう。ジェイソンは二人の顔を見て、頭の中で言葉を整理し、それから口を開いた。「検査の結果、この薬剤は禁制薬でした」京弥の視線が鋭く向けられる。「何に使うもの?」その声には抑えきれない怒りがにじんでいた。あと少しで、その禁制薬が紗雪の体に打ち込まれるところだったのだ。考えるだけで、胸が締め付けられる。最初に奴を蹴った時、もっと強くしておくべきだった。ここまで図に乗らせてしまったのは、自分が甘すぎたせいだ。普段から余計な情けを見せすぎていた。大切な存在を守りきれず、こんな連中に手を出させた......すべては自分の責任だ。ジェイソンは京弥の胸中を察し、静かに思った。まあ、これは禁制薬だし、先にやりすぎたのはあの男の方だ。京弥が怒りを露わにしても当然だ。むしろ、彼はまだ優しすぎるくらいだ。そう考え、ジェイソンは包み隠さず事実を告げた。「この薬剤は無色無味で、投与しても機械では検出できません。体験するのは投与された本人だけです。だから、最初の検査で見つけられなかったのです」「それで......?」紗雪は思わず問いかける。まさか自分の身に、こんなことが仕組まれていたとは。辰琉は本気で自分を眠らせ続けようとしたのだ。自分は普段から、あの人たちに甘すぎたのだろうか。だからこそ、彼らはここまで大胆に自分に手を出したのか。思えば思うほど、可笑しくすらなってくる。ジェイソンは

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第789話

    仕方がない。ここは相手の縄張りなのだから。病院へ向かう前に、緒莉はスマホからある人物にメッセージを送った。そうしてようやく、ほんの少しだけ胸のつかえが下りる。あの人が見れば、きっと子供の頃と同じように、すぐ助けを寄こしてくれるはず。その頃、ジェイソンは紗雪の病室へと足を運んでいた。京弥が彼を見るなり声をかける。「ちょうど良かった。紗雪の体を診てくれ」本来なら、ジェイソンはあの薬剤のことを真っ先に報告するつもりだった。だが京弥の言葉を聞いた瞬間、元々の目的を思い出し、思わず額を叩いた。「そうでした......椎名さんのおっしゃる通りです。私の落ち度でした」紗雪が目を覚ましてからというもの、あまりにも色々なことが立て続けに起こったせいで、本来すぐに行うべき診察を、すっかり後回しにしてしまっていた。そのうえ辰琉という男が暴れていたこともあり、ここまで遅れてしまったのだ。ジェイソンは手にしていた書類を机に置き、すぐさま診察に取りかかった。ペンライトで瞼を開いて瞳孔の反応を確認し、聴診器で胸の音を聞き、さらに脈を取る。どれも問題なく、脈も非常に安定している。紗雪は少し驚いた。まさか外国人の医師が、中国医学と西洋医学の両方を扱えるなんて。人を唸らせるほどの腕前らしい。彼女は隣にいる京弥を見上げ、少し緊張している様子に心が温かくなった。柔らかく微笑み、そっと首を横に振る。「大丈夫よ」と伝えるように。彼を安心させたくて、心配を和らげたくて。その笑顔に、京弥はどうにか深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。ともかく、紗雪が目を覚ましてくれた。それだけでも奇跡のようなことだ。再びあの絶望に逆戻りなど、耐えられるはずがない。人は、大切な人を何度も失うことなどできないのだから。ジェイソンは丁寧に診察を続け、十分以上の時間をかけてようやく身を起こした。その間、京弥の額には小さな汗がびっしりと浮かんでいた。自分があまりに緊張しすぎているのは分かっている。だが紗雪のこととなれば、平静ではいられない。口では強がっても、心は嘘をつけないのだ。だからこそ、彼は瞬きすら惜しみ、紗雪の表情を注視し続けていた。異変がないか、それだけを気にして。「どうだった?」京弥が問いか

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status