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ゴミ箱の薔薇と、戦地での真実の愛
ゴミ箱の薔薇と、戦地での真実の愛
Author: モリサマー

第1話

Author: モリサマー
結婚5周年の記念日、涼川紬(すずかわ つむぎ)は島崎蒼介(しまざき そうすけ)の帰りを待っていたが、彼は現れなかった。

ふとSNSを開くと、「蒼介と結衣、ずっと一緒に」というアカウントが投稿したショート動画が目に留まった。

「この動画、おすすめ機能にのって、あの可哀想な奥さんに届けばいいのに。彼女の旦那さんが本当に愛してるのは私なんだから」

投稿者の女は動画の中で、勝ち誇ったように言った。

「私が『なんだか胸が苦しいみたい』って言っただけで、彼は奥さんを放り出して、夜中に車を飛ばして駆けつけてくれたの!

しかも今日は、彼と奥さんの結婚5周年の記念日なんだって……あのオバサンが、彼にとってどれだけどうでもいい存在かよく分かるよね!」

5周年。オバサン。その言葉が、鋭い刃のように紬の胸に突き刺さった。

紬はかすかに震える指で、素早くコメント欄を開いた。

アカウント名「不倫女は地獄へ落ちろ」のコメントがあった。

【ここまで図々しい女は見たことない。まさか彼が本気で愛してるとでも思ってるの?既婚男なんてちょっとした火遊びのつもりでしょ。不倫相手に本気になるわけないじゃん!】

「蒼介と結衣、ずっと一緒に」はすぐに反論した。

【そう?あなたに何が分かるの?

彼は外科医で、極度の潔癖症なのよ。でもこの前私が酔っ払って彼の服に吐いちゃった時、彼は嫌な顔ひとつせず、ずっと看病してくれたわ。これが愛じゃなくて何なの?

家に帰って自分の旦那に聞いてみなよ、同じことができるかって。ただのひがみでしょ!】

このやり取りを見て、紬は以前、仕事の付き合いで飲んで帰宅した夜のことを思い出した。

蒼介は泥酔した自分を、冷たいフローリングの床に転がしたまま、一晩中放置したのだ。

翌朝、目を覚ました紬が泣きながら理由を問いただすと、彼は平然とこう言い放った。

「俺の服に吐かれたらどう責任取るつもりだ。知ってるだろ、俺は潔癖症なんだ」

胸の奥で、何かが音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。

彼女は悔しさを堪えきれず、コメントを書き込んだ。

【他人の家庭を壊して、罪悪感はないの?】

投稿者からすかさず返信が来た。

【その奥さんを騙し続ける方が、よっぽど罪悪感あるわ。

今日、彼がバラの束をプレゼントしてくれたの。奥さんのために予約していた花らしいけど、私が欲しいって言ったら、あっさり私にくれたわ。

ねえ、男の心がもう離れてるのに、いつまでもしがみついてて惨めじゃない?】

その返信を見て、紬の視界はついに涙でぼやけてしまった。

偶然の一致が多すぎて、もう自分を誤魔化しきれなかった。この不倫相手の男は、間違いなく夫の蒼介だ。

先月、彼女は勇気を振り絞って、初めて「結婚記念日にバラが欲しい」とおねだりをした。

結婚して何年も経つが、彼から花を贈られたことなど一度もなかったからだ。

蒼介はその時、顔を上げることもなく、淡々と「ああ」と生返事をしただけだった。

てっきり聞き流されたのだと思っていた。だが、彼はちゃんと覚えていたのだ。

それなのに、彼が最終的に選んだ行動は、妻が待ち焦がれていたサプライズを、あっさりと別の女にくれてやることだった。

突然、胃の中が激しく波打ち、強い吐き気に襲われた。

スマートフォンが再び振動した。

あの投稿者から、直接ダイレクトメッセージで1枚の写真が送られてきた。

蒼介が女に膝枕をされて眠っている写真だった。目を閉じ、口角すら微かに上がっている。

添えられたメッセージは短い一文だけだった。

【涼川紬、あなたでしょ?何年も別室で寝ているくせに、自分の夫の寝顔を見たことある?彼は自分から私と一緒に寝たいって、せがんでくるのよ!】

ガタンと音を立てて、紬のスマートフォンが床に落ちた。

紬ははっきりと覚えていた。蒼介はかつて、彼女に明確にこう告げていたのだ。

「俺はひどい睡眠障害で、絶対に静かな環境じゃないと眠れないんだ。だから結婚後も、寝室は別にしてくれ」

その後、二人はずっと別室で寝ていた。

たとえ体を重ねた後でも、彼女は気だるい体を引きずり、自分の寝室へ戻らなければならなかった。

この5年間、彼女は「私を避けているわけじゃない」と必死に自分に言い聞かせてきた。

時間が経てば、彼も少しずつ自分に慣れてくれるはずだ、と。

しかし今、彼は別の女のそばで、無防備な子どものように眠っている。

彼女はふと、不倫相手がコメント欄に残した言葉を思い出した。

【疑わなきゃいけないようなものは、愛じゃないわ。本物の愛情は、隠そうとしても隠しきれないものよ】

そうだ、これこそが真実の愛なのだ。

だとしたら、自分はいったい何だったのだろうか。

鼻の奥がツンとし、紬は苦しげに目を閉じ、何年も前のことを思い返した。

高校時代から、彼女は蒼介のことが好きだった。

しかし彼は由緒ある医師の家系に生まれ、成績優秀で容姿端麗。全校の女子生徒が憧れる的だった。

後輩の瀬戸結衣(せと ゆい)が彼の恋人で、二人はいつも寄り添い、これ以上ないほどお似合いだった。

彼女は遠くから見つめることしかできず、この片思いは時の流れの中に埋もれていくものだと思っていた。

ところが大学卒業後、結衣は蒼介を振り、海外へ渡って別の男と結婚してしまったのだ。

紬は、上司にセッティングされたお見合いの席で、傷心の彼と再会した。

蒼介は彼女に気づくこともなく、淡々と口を開いた。

「涼川さん。あなたの経歴も家柄も申し分ない。結婚相手としての条件は完璧です。まずは、お付き合いから始めてみませんか」

半年後、彼はプロポーズしてきた。

指輪も、花束も、ロマンチックな言葉もなく、ただ「結婚しよう」と言われただけだった。

思い描いていたプロポーズとは程遠かったが、紬は頷いた。

それは17歳の頃から、彼女がずっと夢見ていたことだったからだ。

この5年の結婚生活で、彼女は蒼介が少しずつ変わってきていると感じていた。

仕事帰りに彼女の好きなケーキを買ってきてくれたり、義両親が嫌味を言った時はさりげなくかばってくれたりした。

いつも感情を表に出さない彼が、ベッドの中では彼女を激しく求めてきた。

彼女は、彼が少しずつ自分を愛し始めているのだと信じていた。

だが結局は、すべて独りよがりの勘違いに過ぎなかった。

素手で心臓をぐちゃぐちゃに掻き回されているような、息をするのすら辛いほどの痛みが押し寄せてきた。

随分と時間が経ってから、紬はようやくその窒息しそうな絶望感から息を吹き返した。

涙を乱暴に拭い、蒼介が家に忘れていったタブレットのロックを解除した。

すぐに、蒼介と彼の親友とのLINEのトーク履歴を見つけ出した。

親友からのメッセージ。

【結衣と会ったって聞いたぞ?お前もう結婚してるんだし、さすがにまずいだろ】

【分かってる。でも、結衣のことだけはどうしても忘れられないんだ】

普段はLINEでもスタンプ一つで済ますような蒼介が、長々としたボイスメッセージを返していた。その低く響く声には、隠しきれないほどの深い愛情と苦悩が滲んでいた。

【高校で初めて会った時から分かってた。俺は一生、あいつを手放せないって】

【じゃあ、なんで最初から紬ちゃんと結婚したんだよ?奥さんのこと、愛してないのか?】

親友が問い詰める。

蒼介の返事に、紬は全身の血が凍りつくような感覚に陥った。

【愛してるかどうかなんて関係ない。結婚に必要なのは条件のすり合わせだ。紬は手がかからないし、妻の座に置いておくには都合がいい。

それに、体の相性も悪くない。妻なんて、身の回りの世話と夜の相手をしてくれればそれで十分だろ】

彼女が必死に守り抜こうとしていた結婚生活は、彼にとっては単なる「都合の良い契約」でしかなかったのだ。

愛の証だと信じていたあの夜の営みも、ただの性欲の捌け口に過ぎなかった。

圧倒的な屈辱と絶望が、冷たい津波のように紬を飲み込んでいく。

彼女は声も出さずに震えながら泣きじゃくり、爪が掌に深く食い込んで血が滲んでも、痛みなど全く感じなかった。

心の奥底に残っていた最後の希望が、粉々に打ち砕かれた。

その夜は、紬の人生で最も暗く、気が狂いそうなほど長い夜となった。

夜が明け、空が白む頃には、彼女の涙もすっかり枯れ果てていた。

長い間呆然と宙を見つめた後、彼女はスマートフォンを手に取り、電話をかけた。

「もしもし、星野先生ですか?離婚協議書の作成をお願いしたいのですが」

2本目の電話は、テレビ局の報道局長にかけた。

「局長、以前おっしゃっていた紛争地域への特派員の枠、まだ空いていますか?私、行かせてください」

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