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婚約者に7回も婚姻届をすっぽかれ、私は彼のもとを去った

婚約者に7回も婚姻届をすっぽかれ、私は彼のもとを去った

By:  ぽんたろうCompleted
Language: Japanese
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赤城和也(あかぎ かつや)との結婚登録を約束されながら、七度目もすっぽかされた日、私はついに全ての縁を断ち切った。 友人たちの集まりには、彼が来るなら私は欠席する。 母校の記念祭で彼が演奏すると聞けば、私は早々に席を立つ。 会社が彼と契約するとなれば、即座に辞表を提出した。 大晦日の夜、彼が我が家に挨拶に来ても、友人訪問を口実に外出した。 電話番号はブロック、SNSは削除——完全に清算したのだ。 私から連絡することはなく、彼と顔を合わせることもない。 三十年にわたる人生の大半を、私は彼に恋い焦がれ、彼の世話に明け暮れてきた。 七度目の婚姻届提出の約束を破られたその日、ようやく私は目が覚めた。 こんな人生、もう続けられない。 たとえ独りぼっちでも、虚しい約束で空っぽの部屋を見つめる日々よりはましだ!

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Chapter 1

第1話

婚姻届を提出するため、私は区役所で赤城和也(あかぎ かずや)を待っていた。

窓口の職員が退勤する時間になっても、彼は現れなかった。

最初の電話では「仕事が忙しいから待ってくれ」と言っていた。

二時間後、再度電話をかけると、もう繋がらなくなっていた。

握りしめた婚姻届は、すでにぐしゃぐしゃにしわくちゃになっていた。

「お客様、私どもは閉庁時間です。本日はお手続きされませんか?」

一日中待ち続ける私に、職員が声をかけてくれた。

私はぼんやりと首を振った。

「結構です。今日はやめます」

区役所を出ると、退勤する職員たちが私を見てささやき合っていた。

「あの方、何度か見かけるよね。いつも一人で婚姻届を出しに来てるけど……」

「そういえば、ずっと誰かを待っているみたいだけど、結局来ないんだよね」

表情は冷静でも、心はに乱れていた。

恥ずかしさで顔を上げられず、足早にその場を離れた。

これで七度目だ。和也との婚姻届提出に失敗したのは。

タクシーを待っていると、突然彼が現れた。

息を切らしながら走り寄ってきて、申し訳なさそうに笑った。

「ごめん、結衣(ゆい)。急な仕事が入っちゃって。まだ間に合う?」

私は無言で笑った。

前回の婚姻届提出日も「仕事」だった。

その前も「仕事」を理由にすっぽかされた。

今回はもう指摘する気力もなく、ただ淡々と言った。

「遅すぎたわ。職員はもう帰っちゃった」

和也は憤慨した様子で腕時計を見ると、区役所の職員を非難した。

「まったく、定時きっちりに帰るなんて。一分だって待てないのかよ」

そう言うと、私の手を取って自分の胸に当てた。

「渋滞だったから、ここまで走ってきたんだ。本当に疲れたよ」

私は彼をじっと見つめ、鼻の奥の痛みをこらえた。

バカじゃない。

彼が走ってきたかどうか、そのくらいはわかる。

唇を噛みしめ、初めて問い詰めた。

「走ってきたのなら、どうして一滴も汗をかいていないの?」

彼の額はカラッと乾いていた。

汗どころか、湿り気すらなかった。

私の言葉で、和也の表情が一変した。

眉をひそめ、怒気を含んだ声で言い放った。

「何が言いたいんだ?俺が嘘つきだと?わざと結婚を避けてるって言うのか?

必死で走ってきたのに、信じてくれないのか?結衣、お前がそんな冷たい女だとは思わなかった!」

逆ギレの見事さには呆れるばかりだった。

このヒステリックな叫びは、ただのやましさの表れにしか見えない。

眉間を押さえ、もうこれ以上やり合う気が失せた。

「和也、真実はあなたが一番よく知っているでしょう」

そう言って立ち去ろうとすると、冷たい声が追いかけてきた。

「ああ、わかってるよ。ならもう俺に頼るなよ!結婚だの婚姻届だの、しつこく迫ってくるな!

今回はどれだけ我慢できるか、見物させてもらうよ!」

私は負けずに振り向かなかった。

ただ、下唇を噛みすぎて、血の味がした。

数歩歩いたところで、携帯にメッセージが届いた。

【結衣、また婚姻届で失敗したの?残念ね。でも大丈夫、八度目はきっと成功すると思うわよ!】
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第1話
婚姻届を提出するため、私は区役所で赤城和也(あかぎ かずや)を待っていた。窓口の職員が退勤する時間になっても、彼は現れなかった。最初の電話では「仕事が忙しいから待ってくれ」と言っていた。二時間後、再度電話をかけると、もう繋がらなくなっていた。握りしめた婚姻届は、すでにぐしゃぐしゃにしわくちゃになっていた。「お客様、私どもは閉庁時間です。本日はお手続きされませんか?」一日中待ち続ける私に、職員が声をかけてくれた。私はぼんやりと首を振った。「結構です。今日はやめます」区役所を出ると、退勤する職員たちが私を見てささやき合っていた。「あの方、何度か見かけるよね。いつも一人で婚姻届を出しに来てるけど……」「そういえば、ずっと誰かを待っているみたいだけど、結局来ないんだよね」表情は冷静でも、心はに乱れていた。恥ずかしさで顔を上げられず、足早にその場を離れた。これで七度目だ。和也との婚姻届提出に失敗したのは。タクシーを待っていると、突然彼が現れた。息を切らしながら走り寄ってきて、申し訳なさそうに笑った。「ごめん、結衣(ゆい)。急な仕事が入っちゃって。まだ間に合う?」私は無言で笑った。前回の婚姻届提出日も「仕事」だった。その前も「仕事」を理由にすっぽかされた。今回はもう指摘する気力もなく、ただ淡々と言った。「遅すぎたわ。職員はもう帰っちゃった」和也は憤慨した様子で腕時計を見ると、区役所の職員を非難した。「まったく、定時きっちりに帰るなんて。一分だって待てないのかよ」そう言うと、私の手を取って自分の胸に当てた。「渋滞だったから、ここまで走ってきたんだ。本当に疲れたよ」私は彼をじっと見つめ、鼻の奥の痛みをこらえた。バカじゃない。彼が走ってきたかどうか、そのくらいはわかる。唇を噛みしめ、初めて問い詰めた。「走ってきたのなら、どうして一滴も汗をかいていないの?」彼の額はカラッと乾いていた。汗どころか、湿り気すらなかった。私の言葉で、和也の表情が一変した。眉をひそめ、怒気を含んだ声で言い放った。「何が言いたいんだ?俺が嘘つきだと?わざと結婚を避けてるって言うのか?必死で走ってきたのに、信じてくれないのか?結衣、お前がそんな冷たい女だとは思わなかっ
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第2話
メッセージを何度も読み返した。どれだけ鈍感な私でも、これが挑発だとわかる。赤城和也が約束を破る理由は想像できたが、園田美咲(そのた みさき)からのメッセージを見た瞬間、息が詰まるような感覚に襲われた。私と和也は幼なじみで、子供の頃からずっと一緒だった。「大きくなったら和也のお嫁さんになる」小学一年生で宣言した時、両親も和也の両親も笑い転げた。和也もずっと私を大切にしてくれた。大学で彼が初めてほかの女性を家に連れてくるまでは。その人が美咲だった。二人の特別な雰囲気を見て、初めて気付いた。和也の私への優しさは、愛なんかじゃなかった。だから慌てた。卒業後、冗談のつもりで婚姻届を提出しようと誘った。両親たちは賛成してくれたが、和也に徹底的に拒否された。それから七、八年。数十回も婚姻届を迫り、約束してくれたのは七回だけ。そして七回全て、すっぽかされた。毎回、美咲から挑発的なメッセージが届く。携帯がまた震えた。美咲だと思い、切りたいと思ったが、表示を見ると友達からの着信だった。今夜の飲み会に誘われた。「和也も来る?」つい口から出てしまった質問に、友達は即答した。「心配しないで!和也には事前に伝えてあるから、絶対来るよ!」「……じゃあいい。彼が来るなら私は行かない」友達の喋る声がぷつりと止まった。驚いたようだ。誰もが知っている。私がどれだけ和也を追いかけてきたか。卒業式で無理やり花束を渡し、就職先を考えてあげ、掃除に洗濯に料理まで。ある友達の誕生日会で「和也は前世で徳を積んだから、結衣みたいな人がついてるんですよ」と言われた時、和也は冷たく笑った。「しつこい野良犬みたいで煩い。誰が喜んでるんだ」昔の私は気にしなかった。いつか変わると思っていたから。でも今は違う。電話を切り、知り合い全員にメッセージを送った。【これからは和也が参加する飲み会には呼ばないで】タクシーでアパートに帰り、和也に関わるものを全てまとめた。スーツケースに詰め込み、配達員に和也の元へ送らせることにした。配達員が来た時、親友が駆けつけてきた。荷物を見て、真っ先に叫んだ。「結衣!引っ越すの?」笑いながらスーツケースを開けて見せた。「違うわ。全部和也のものよ。返すつも
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第3話
必死で拒んだが、結局親友に連れ出され、彼らの飲み会場へ向かうことになった。個室の前まで来た時、和也の声が聞こえてきた。「お前ら、煽るのやめろよ。どれだけ強がっても、結局結衣は俺のところに戻ってくるんだから。今日もただの八つ当たりさ。機嫌が直れば、またしっぽ振って寄ってくるよ」口の中の柔らかい肉を噛みしめ、血の味が広がった。長年、真心込めて尽くしてきたことが、和也の心ではこんなにも軽いものだったのか。親友が私の赤くなった目を見て、手を握り返してきた。ドアを開けようとした瞬間、私が止めた。もう和也の顔すら見たくない。彼女の手を引いて、その場を離れようとした。曲がり角まで来た時、個室から和也と美咲が出てきた。美咲が甘えた声で言う。「和也、酔っ払って余計なこと言わないで。結衣が聞いたら傷ついちゃうよ」「それがお前の望みだろう?毎回『婚姻届に行け』ってそそのかして、最後の最後でドタキャンしろって……美咲、お前本当に悪質だな」和也の言葉で、堪えていた涙が溢れた。私はただのバカだった。二人のゲームの中で弄ばれる駒にすぎなかった。和也が初めて婚姻届に同意した時、彼の目に喜びがなかった理由がようやくわかった。私は突然の幸せに酔いしれ、彼の眼底にある軽蔑に気付かなかっただけだ。美咲は和也の胸に寄りかかり、ふざけて小突いていた。「私が悪いって?このアイデア、最初に言い出したのは和也でしょ?」「あの時はお前を喜ばせようと思ってのことだよ!」二人は周囲を気にせずキスを始めた。私は魂が抜けたように、親友を引きずりながらホテルを出た。冷たい夜風が、心まで凍りつかせるようだった。「結衣は優しすぎるんだよ!だからあの腐れカップルに弄ばれてたんだ!」親友が怒り狂う中、私は静かに笑った。口を開くと、血の味が広がった。「もう終わったの。これから和也とは一切関わらない」親友と分かれ、アパートに戻ると配達員から連絡が入った。「指定場所に着きましたが、受取人の電話が繋がりません」和也が知らない番号をブロックする癖を思い出し、配達員を待たせて和也に直接電話した。バーにでも行ったのか、騒がしい背景音の中、彼は得意げだった。「こんなに早く電話してくるなんてな。昼間あんな態度で捨てた根性はどこ
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第4話
あの日以来、和也とは一切連絡を取らなかった。電話番号もSNSの友達リストも、全て削除した。友人たちとの集まりには、必ず事前に和也の出席を確認するようになり、やがてみんな自然と、私と和也のどちらか一方だけを誘うようになった。時が流れ、学園祭の前日。親友から早めに連絡が入り、学園祭に誘われた。卒業生として、私も学校から招待状を受け取っていた。しかし、今回の学園祭に和也も出席すると知ってしまった。まあ当然だろう。学生時代から成績が優秀で、卒業後も学校に就職支援をしていたのだから。親友と学校に着いた時、すでに人だかりができていた。配布されたプログラムを見て、すぐに和也の名前を見つけた。彼の出番は7番目。6番目の演目が終わるのを見届け、私は口実を作ってその場を離れた。講堂を出ようとした時、背後で誰かに呼び止められた気がした。でも振り向かなかった。すぐに大学時代の担任の先生からのメッセージが届く。【清水さん、もう帰ったの?何度も呼んだのだが、これから彼氏さんの出番だよ】【用事ができてしまいました。それと、私は独身です。彼氏はいません】メッセージを送りながら、思わず首を振った。大学生時代があまりに騒がしかったから、担任の先生まで私と和也の関係を知っているのだ。でも、先生がメッセージをくれた時、和也もそばにいたなんて知らなかった。和也は私の返信を目にした。暗い講堂の照明の中、彼の表情は複雑で読み取れなかった。学校を後にして、会社へ向かった。学園祭に急いで向かったため、カバンを会社に忘れてしまったのだ。会社に着いて驚いた。進行中のプロジェクトの企画書に、和也の会社名がパートナーとして記載されていた。すぐに社長に電話し、事実を確認すると、即座に退職を申し出た。「社長、私的な事情で退職します」「清水さん、突然だな。このプロジェクトは君に担当してもらおうと思っていたんだが」「結構です。あの会社とは折り合いが悪いものですから」電話を切り、すぐにパソコンを開いて辞表を作成した。会社が和也と提携するなら、避ける方法は退職しかない。辞表を社長室に置き、会社を後にした。アパートに戻ると、廊下の明かりがついていることに気付いた。この階は二部屋しかなく、隣は空き部屋だか
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第5話
ホテルのフロントから聞こえる和也の怒鳴り声に、私は階段を上る足を止めた。高級ホテルとはいえ、フロントが私の情報を漏らさないか不安だった。しかし、プロの対応を見せてくれた。「申し訳ありませんが、お客様のプライバシーに関わるため、お答えできません」いつもは紳士的な和也が、公共の場で自制心を失う姿は初めて見た。「プライバシーだと?彼女は俺の妻だ!どこにいるか知る権利がある!」妻?あきれて笑いそうになった。そんな言葉、一度も聞いたことがない。「お客様、ご本人にお電話いただければ……」フロントの丁寧な対応に、和也は言葉を失った。とっくに彼の電話番号をブロックしたし、友達リストからも削除したから、彼が連絡できるわけがない。その後は聞かずに、静かに部屋へ向かった。ベッドに横になった途端、親友から電話がかかってきた。興奮した声で、和也をどう扱ったのかと聞いてくる。「信じられない!和也から電話があって、あなたのことを探してたわ!この最低男、思い知らせてやらなきゃ!ねえ結衣、今回だけは絶対に心を許しちゃだめよ!」私はため息をついた。これほど執拗に追ってくるのは初めてだ。「大丈夫、今回はそうしないから。彼がアパートの前で待ち伏せされてたから、ホテルに逃げ込んだの。場所は絶対教えないでね」と電話を切った。だが、和也がまだ諦めきれていないとはまったく予想外だった。見知らぬ番号で私に電話をかけてきたのだ。「もしもし」と出た途端、向こうが機関銃のようにまくし立て始めた。その声は焦りを帯び、かすれていた。「どこにいるんだ?どうして俺から逃げるんだ?どれだけ必死で探したかわかってるのか?何時間も待ったのに、なぜ一度も会おうとしないんだ!」和也の声を聞くや、私は一言も返さず、即座に電話を切った。ブラックリストに登録しようとした瞬間、彼からメッセージが届く。【また電話をブロックしたらもうお前のことなんか知らないぞ!すぐにブロックを解除しろ!今回は許してやる!】読むだけでまたブロックした。LINEでも新しいアカウントから友達申請が来たが、今度は通さずに無視した。不思議と、その夜はぐっすり眠れた。翌朝、同僚の電話で目が覚めた。「清水さん、突然退職したなんて、送別会も開け
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第6話
一通り目を通すと、着信やメールはほぼ友達からの連絡だった。ただ一つ見知らぬ番号からのメッセージが混じっている。内容を読むまでもなく、これまた和也がどこからか借りてきた番号だとすぐにわかった。再びブロックした後、LINEを開くと、画面いっぱいに赤い通知マークが並んでいた。多くの友人が何かあったのかと心配してくれている。苦笑いしながら、とりあえずSNSに投稿することにした。【元気です。ただ、過去の出来事や特定の人とは完全に縁を切りました】投稿した瞬間、親友が即座に「いいね」し、すぐに電話がかかってきた。「結衣、やっと起きたの?あの人、完全に狂っちゃってるみたいよ!」親友の声はぐったりとした調子で、私は訝しんだ。事情を聞いた後、思わず笑いが出てしまった。和也は私の知り合い全員に連絡を取り、最後に行き着いた先が親友だったらしい。昨夜から今朝にかけて、何度も電話をかけ、出ないと彼女の家まで押しかけてきたという。「結衣、あいつ完全におかしいよ。『結衣とは連絡取れてない』って何度言っても、私の家に隠れてるって信じ込んで、無理やりドア開けさせようとしてきたの。私が魔法使いか何かだとでも?いきなり結衣を召喚できるわけないじゃん!」私も呆れ笑いするしかなかった。朝から友達に心配される理由がようやくわかった。ホテルの部屋はまだチェックアウトせず、今日一日様子を見るつもりだった。和也の昨夜の行動から察するに、きっと私のアパート前で待ち構えているに違いない。夜になって、管理会社の警備員に確認してもらうと、やはり和也はエレベーター前で待ち伏せしていたらしい。警備員を私と間違え、いきなり抱きつこうとしたそうだ。最初は警備員に追い払ってもらおうと思ったが、どうやら和也が警備員の同情を買ったみたい。「清水さん、彼氏さんはもう反省しています。一度許してあげては?吸い殻が山ほどあって、このままでは体を壊しますよ」と警備員の電話がかかってきた。警備員の言葉は不幸にも的中してしまった。数日後、親友から和也が入院したと聞いた。私のアパート前で何日も徹夜で待ち続け、気温の低下もあって高熱を出したらしい。意識がぼんやりとしている中でも、私の名前を呼んでいたとか。私は苦笑した。何度も私を騙しておいて、今更
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第7話
案の定、翌朝早く母から電話がかかってきた。「和也君が病気で、ご両親も仕事で看病に行けないから、幼なじみのあなたにお願したいって」もちろん即座に断った。「お母さん、余計なお世話よ。和也には彼女がいるんだから、看病はそっちがするはずでしょ?私が行ったら邪魔になるだけ。忙しいから、これで切るわ」母の返事を待たずに電話を切った。これで一件落着かと思った。だが、和也はあらゆる人を利用してでも私を引きずり出そうとしてくる。母への電話を切って間もなく、今度は病院から着信があった。主治医と名乗る男性は、私が和也の家族かと聞いてきた。「いいえ、全く関係ありません」と否定すると、電話の向こうで和也の弱々しい声がした。「結衣……知らないだなんて……どうして……俺たちもうすぐ入籍する約束だったじゃないか……お前のせいで……俺はこんなに……苦しんでいるのに……少しは……心配してくれても……いいだろう……?」声は次第にかすれ、泣きじゃくりながら続ける。「今から……手術なんだ……もし……俺が死んだら……」看護師たちが「大した手術じゃない」となだめる声が聞こえた。私は黙ったまま聞いていたが、医師が「家族のサインが必要だ」と言った瞬間、きっぱり拒否した。「第一に、私は家族ではありません。第二に、この手術と私は無関係です。第三に、彼には彼女がいます。そちらに連絡してください」どうやら和也にも聞こえたらしい。「違う!お前しかいない!この間まで入籍の話をしてたじゃないか!結衣、覚えてるだろう?」覚えてるわ。7回も道化にされたこと、忘れるわけがない。彼の叫び声を無視し、電話を切った。その夜、親友が「さすが!」と電話してきた。「最低男にはこれくらいの報いが必要よ!最後に情なんかかけちゃダメだからね!」親友との通話が終わると、今度は和也の母親から着信が。泣き声まじりの声だった。「結衣ちゃん、和也と何かあったの?ずっと会ってないって聞いたわ。今回の入院も見舞いに来ないし、医師の電話も無視するなんて……」胸が痛んだ。小さい頃から、和也の母親には本当によくしてもらった。学生時代はいつも美味しい料理を作ってくれた。和也にはじめて結婚をすっぽかされた時は、夜通し和也を叱りつけてくれた。
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第8話
あの日の出来事の後、私は実家に戻っていた。年末年始の集まりは本当に多く、地元に帰ったと知った旧友たちから次々と誘いが来た。何日か続けて同窓会に出席していたのだ。最後の同窓会で30分遅れて到着した時、個室の外からふと「赤城和也」の名前が聞こえた。「和也、結衣とはいつも一緒だったよね?幼なじみ同士なのに、まだ結婚してないの?」「そうそう、大学卒業したらすぐ結婚するんだとばかり思ってたよ!」ドアノブに掛けた手が止まった。室内で和也はしばらく黙り込み、「ま、まあね……そのうち……」と曖昧に返している。仲間たちの野次が飛ぶ中、私はその場を離れようとした。ちょうどその時、元クラス委員がドアを開け、私を見つけて嬉しそうに声を上げた。「結衣!ちょうど君の話をしてたところだよ!和也も来てるし……」「彼がいるなら結構。用事があるから」即座に断り、振り返って歩き出した。ホテルを出ると、背後から慌ただしい足音が。路地裏に身を潜めていると、和也が必死に前を探しながら走り去っていく。「結衣!出て来い!どうして俺から逃げるんだ!3ヶ月も会わせてくれないなんて……どうしてだ!」たまたま通りかかった女性が私と同じ色のコートを着ていた。和也は目を疑い、いきなりその女性に抱きついた。結果は当然で、平手打ちを食らい、周囲に取り囲まれて警察を呼ばれそうに。騒動に紛れて路地から出ると、冷ややかにその場を後にした。和也は私の後ろ姿に気づき、また叫び始めた。「待て、結衣!」しかし人垣に阻まれ、一歩も動けない。その後どうなったかは知らないし、興味もない。家に帰ると、母から「毎日外出ばかりで一緒に食事もできない」と愚痴をこぼされた。「明日は絶対いるから!」と甘えてごまかした。翌日、食卓に余分な膳があるのに気づき尋ねると、「和也君が来るからよ。久しぶりだし、体の調子も聞いてあげようと思って」眉をひそめ、適当に料理を摘んで「食べたから」と外出した。団地を出ようとしたら、和也と遭遇しそうになった。すぐ隣の建物に身を隠した。そこで意外な光景を目にした。和也と美咲が言い争っているのだ。「どうして連絡くれないの?結衣のせい?あなたが彼女を何度騙したか覚えてるの?彼女が許すわけないでしょ!」和
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