クリスデン=ダマスス公爵はルー侯爵が陛下に相談をする場に同席していた。
(やはり…令息のスティールがやらかしたのか…)
「もう私はどうしたらいいものかと陛下に奏上している次第です」
その時点でお家おとり潰しだと思うんだけどなぁ。
「まず、スティールは嫡男として相応しくないと考える」
「はっ、廃嫡をします」
「しかしだ。ルー侯爵家自体は昔から王家に忠誠を誓ってくれているよい家臣だと考えている」
「もったいなきお言葉」
「その女の子供だけをルー侯爵家に残すことはできないのか?」
「まだ産まれていませんので、なんとも……」
「その子供はルー侯爵家の血筋を引いている子供に間違いはない。男の子なら即嫡男に、女の子ならよき婚約者に侯爵家を継いでもらうのが良いと思うのだが?」
「そのように動きたいと思います。一家臣の相談に乗っていただき誠にありがとうございました!」
しかし、リンドラの義妹も共にしでかしたことだな。リンドラには言わないようにしよう。ルー侯爵家の今後も注視しよう。
ルー侯爵は自宅に帰ると即外部から鍵のかかる部屋にナターシャを押し込めた。
「父上!あまりにひどいのではないのですか?」
「陛下のお考えだ。お前は廃嫡する。もう、嫡男ではない」
「では、この家は誰が継ぐのですか?」
「ナターシャの腹の子が男の子なら、その子が継ぐ。女の子なら、その子が優秀な男を輿入れさせる。これは陛下のお考えだ。間違ってもナターシャと駆け落ちみたいな真似はするな。これ以上この家に泥を塗るな」
そう言ったのに、夜中にナターシャの部屋の前に鍵の束を持ってスティールは現れた。
「この鍵も違う、この鍵も違う、この鍵も違う…………」
中では
「え?ドアがガチャガチャ言って超コワイ。軟禁されてるけど、この部屋はこれはこれで快適なんだけど。侍女がいないのがなぁ」
「あ゛ー、全部鍵が合わないんだけど何でだよ?」
当然スティールの行動の先を呼んで侯爵が肌身離さず鍵の束を持っていた。
扉の前の声を聞いて、「ああ、スティール様?どうしてこんなことになったんでしょう?」
「俺にもよくわからない。俺達がやった緑化事業が裏目に出たようなんだ」
「なぜかしら?」(私のスキルは完璧なのに!)
「このままだと、君は子供を産んだ後子供を侯爵家に取り上げられる。俺はそれが納得いかないから君と家を出ようと思っている」
「え?スティール様は侯爵様でしょう?」
「さっき廃嫡されたよ。はははっ」
(廃嫡された男に用はないわ。あなたの価値は爵位だけ(・・)よ。全く、侯爵夫人になれると思ったのにサイアク!)
「それって平民になるって事?」
「まぁ、そうだな。君とならどこでもやっていけると思うんだ」
「私は嫌よ、平民なんて。子供を産んだら大人しく子供を侯爵家に渡して、実家に戻るわ」
この日、スティールは信じていた女性に裏切られ、廃嫡され、茫然自失となった。
「余計な邪魔が入ったが、ああアーノルドが寝たままで良かった。養子縁組をしよう」「はい」私は嬉しくなった。スティール様のいないルー侯爵家には何も恐れるものはないから。私はサインをすべきところにサインをして、正式にルー侯爵の養子となった。アーノルド、ありがとう!寝ててくれて!!ダマスス公爵家に帰りいきなり、クリスデン様が私と正式に婚約をすると公言した。(使用人の皆とか聞いてる~。超恥ずかしい!!)ダマスス公爵家では、使用人のみなさますごくよくしてくれて。あっ、サーラは私付きの侍女になりました♡クリスデン様との生活は甘々で今のところ1男1女です。まだ増える予感がします。子供達長男はアンディ。長女はセリーヌ。二人ともルー侯爵家のアーノルドを兄と慕っています。子供たちが仲良くて何より。血筋だとイトコ同士なのかな?アンディとアーノルドは領地経営について議論をしてたりする。子供らしからぬ動きです。もっと釣りとか野山を駆け巡るとかはしない。あとはチェスとか?チェスも十分子供らしくないかぁ。もっと外で大暴れ!みたいな。使用人さんが困りますよ?的な。今のところ使用人さんは「坊ちゃんもお嬢様もおとなしくらっしゃるわぁ」などと言っている。本心は「楽」だろうなぁ。セリーヌは「アーノルド兄さん♡」と「将来はアーノルド兄さんと結婚するの!」と言っては、クリスデン様を困らせている。なまじ実際に結婚出来るだけに始末が悪い。色々ありましたが現在の私は幸せです!了
流石は侯爵家。華美ではないが質素ではない調度品がそこかしこに飾ってある。「昔は置いたりもしてたんだけど、今はアーノルドが壊したりしたら危ないから倉庫に入れている」そうだ。甥の名前、アーノルドっていうのか…。「久しぶりね、リンドラちゃん」「お久しぶりです、侯爵夫人。お変わりなく、ご健勝で何よりです」「やだ~!年取ってるのよ。疲れやすくなったかしら?若い時から鍛えておけば…って今になって思うのよぉ」「肝に銘じます」侯爵は先ほど門のところにスティール様がいた件で、クリスデン様と話しているようです。「アーノルド、いらっしゃい!あなたのオバサンよ」「おばぁさん?」「違うわよ、お・ば・さ・ん」「今度、うちに養子縁組するんだから私の娘ね。オバサンじゃないわね。おかあさまよ」本当はナターシャの子なんだけどなぁ。私にはちっとも似てない(当たり前だけど)。「おかーしゃま?」「そうよ、おかーさまよ」****************「門の入り口で貴殿の息子が待ち構えていた」「それは本当ですか?」「話が通じないので、当身で気絶させて門兵に身柄を預けた」「確かリンドラと顔を合わせない約束だったと思うが?」「どういうことだ?私は『今日は大事な人が来るから部屋から出るな』としか言っていないが?」「とりあえずの処置をして屋敷の中に入った。部屋の方に乗り込んでくることも考えられるなぁ」「ペナルティとして家の地下牢にでも放り込んでおきます。その間に養子縁組をしてしまいましょう!」「よろしく頼む」********************クリスデン様も合流したなんだかやっぱり安心する。アーノルドは人見知りするようだ。私の陰に隠れてしまった。私がお母様なら、クリスデン様がお父様??「クリスデン様がアーノルドのお父様という認識でいいのでしょうか?」と、私はこそっと侯爵夫人に聞いた。「多分そうよねぇ。なんか似合わないけど」「アーノルド、この人はおとーさまよ?」「おとーしゃま?」私の陰に隠れていたアーノルドが顔を出してじーっとクリスデン様を見る。“氷に生きる新緑の貴公子”だからなぁ、大人でもビビるから、子供だったら…。「アーノルド、肩車しようか?」この一言でアーノルドは懐柔された。同年代の他の子は肩車経験ありなのに、自分のところは肩車をしても
再び王宮に俺、ギジマクス伯爵、ルー侯爵が呼び出された。「ダマスス公爵がなぁ、ギジマクスのもうひとりの娘と婚約したいんだそうだが、その娘は爵位が低いこと。自分は家を追い出されている事を上げているんだ。ギジマクス、そなたは娘を家から追い出したんだな?」「これには事情が…」「そなたの事情などどうでもいい。事実のみ。追い出したという事実があるんだな?」「申し訳ありません」「誰に謝っているんだ?追い出された娘ではないのか?」「……」「それでだなぁ、公爵のために、ルー侯爵のところと養子縁組をできないだろうか?」「元は愚息の婚約者だった娘です。どんな子か存じ上げております。大歓迎ですよ。リンドラが我が侯爵家と養子縁組してくれるかわからないですけど。愚息とは絶対に顔合わせないようにします!いいこだからなぁ」「だそうだ。ダマスス公爵。邸に持って帰り、リンドラに話してみます。ルー侯爵、ご協力感謝いたします」***************「という話し合いがあってな?ルー侯爵家のところで養子縁組するのはやっぱり嫌か?」「あちらの侯爵さまも侯爵夫人もいい方です。それに、スティール様には絶対に顔を合わせないという約束もしてくれましたから、大丈夫です」「因みに、ルー侯爵家には君には甥にあたるアーノルド君もいる」「まぁ」「彼が嫡男だ。スティールは廃嫡された。君の妹はスティールを捨てて実家に戻っている」ナターシャがしでかしたことも聞いた。そんな事になっていたのか…。その上でルー侯爵家は私を受け入れて養子縁組してくれると言っているんだなぁ。と思うと心がぽかぽかしてくる。「では、ルー侯爵にアポイントメントをとって、連絡がついたら顔合わせに行こう」「私は甥に会うのも楽しみです」翌々週末にルー侯爵家に行くこととなった。私は朝からクリスデン公爵様の婚約者として、磨かれ、垢を落とされ(こんなに汚れてたのか…)、素敵なドレスを着て、メイクに髪も結われて、完全武装といった感じだった。クリスデン様(呼び捨ては無理です!)は正装が美しい!流石です二つ名通り“氷に生きる新緑の貴公子”の貴公子様です。クリスデン様にエスコートされ馬車に乗り私達はルー侯爵家に向かった。門の入り口でスティール様が待ち構えていた。馬車はちょっと手前で止まって、馬車からクリスデン様だけが降りて門の入
なんでも一生懸命なのも好ましい。しかしだ!なんで俺の事を好きになってくれないんだろう?「何を今更言ってるんですか?爵位の差じゃないですか?と言っているじゃないですか」「もう、俺の方からアプローチしようかな?」「ご自由に」こうしてクリスデン公爵のアプローチ大作戦が始まった。以前、躓いたリンドラを支えたのはワザとだ。彼女に俺の事を少しでも意識されるようにだ。「あぁ、それでしたら、どうして旦那様が逞しいのか気になっている様子でした。遠回しにどうして旦那様は日課で剣術の鍛錬をしているのか聞かれましたし。旦那様の体格は意識しているようです性格は知りません」持ち上げておいて落とされたこの気分。どうしてくれようか?「旦那様!サーラ!焼きプリンが出来たそうですよ!」気分が上昇した。「はははっ、サーラ、リンドラも共にお茶にしよう!」三人でお茶会となった。「なんか今日のお茶は美味いなぁ」「ハイ!私が淹れました!」いつから挙手制になったんだろう?可愛いから許す。リンドラが淹れたお茶、噛みしめて(?)飲もう。「このお屋敷ってスイーツも絶品ですよね。シェフが素晴らしいんでしょうね」「ああ、王宮を辞したシェフをうちに住み込みで雇ってる。王宮になんか不満があったんだろうか?まだ若かったからなぁ」「そんな凄い方が日々の食事を作ってらっしゃるんですね。やはりこれは食事の前に東方の国では当然の作法である『イタダキマス』を言うべきですね。そして食後には『ゴチソウサマデシタ』と」リンドラは素直だと思う。いつのまにかサーラはどっかに行った。「リンドラ聞いてくれ。私はリンドラを好ましく思っている。リンドラにはそんな使用人のような仕事をしてほしくない。私の正式な婚約者としてここにいてほしい」「こんにゃく………こんやくしゃ………婚約者???」「そうだ、婚約者だ!」言った。言ったぞー!!リンドラは頭の中がパニック状態のようだから、「今すぐにとは言わない。リンドラの気持ちが俺の方に向いていなければ意味ないからな」「旦那様は素敵な方だとは思います。しかし、私はしがない伯爵令嬢、しかも家を追い出された身。とても公爵家には相応しくないと思います」「やはり爵位を気にしているのか…。爵位が気にならなくなったら構わないと?」「え?…まぁ、そうですけど」赤面しているリ
旦那様は特に軍事に関わっているわけではないのに、なんであんなに逞しいのかしら?あんな抱きとめてもらうなんて…。……事故よっ、事故!「何を一人で赤面してるの?」「あ、サーラ。ちょっと気になる事があったのよ!」(さすがにサーラにも「どうして旦那様があんなに逞しいのか考えてた」とは言えない。そして、どうして逞しいのか聞きたいけど…ハズカシイ)「今日は夕飯までどうすれば?」「旦那様付きの侍女だもの。旦那様がいないんじゃお休みね。旦那様が帰ってくる前に起きれば昼寝だってできるわよ!」そういってサーラは私にウインクした。そっかぁ、昼寝、しばらくしてないなぁ。あれ?したことあったかな?よし、昼寝チャレンジ!!私は初☆昼寝☆をすることにした。まさか、翌朝まで寝てると思わなかったけど。旦那様が、疲れているのだろうってそのままにしてくれたらしい。朝、小鳥の囀りで目が覚めた。「マズい…昨日の夕飯前に起きる予定だったのに」「おはようございます、旦那様」「おはよう、リンドラ」朝からキラキラしい爽やかな顔ですね。「申し訳ありません!昨日から今朝まで寝てしまい侍女として恥ずかしい。やはり首なんでしょうか?」「人間味があるじゃないか。慣れない仕事で疲れていたんだろう?」旦那様はいつでも優しいなぁ。合掌。「コラコラ、拝まないでおくれ。今日は家での仕事になるから、よろしくな」わりと慣れ親しんだ仕事だから、わかる!動こう。そして体力をつけねば!今日も剣術の鍛錬ですね。これは何のためなんでしょう?「サーラ。なんで旦那様は剣術の鍛錬を日課にしてらっしゃるの?」「ここ、ダマスス公爵家は武術、特に剣術に特化した家なので、旦那様は幼少の頃より鍛錬を続けているのです」はぁ、なるほど。いやぁ、近いうちに戦争があるのかとか悪いことばかり考えちゃってた。それにしたって一朝一夕じゃ、剣術は上達しないよね~。はっ、仕事仕事。えーっとタオル準備オッケー。お風呂準備オッケー。着替えの支度もサーラがしてくれたみたいでオッケー。いつでも大丈夫です!まーた、色気全開で旦那様が鍛錬終了。旦那様って汗臭いとか、思わないんだよなぁ。汗が臭くない(ただし、イケメンに限る)なのかしら?「サーラ~、鍛錬終了直後の旦那様は水も滴るいい男って感じで色気がすごいですよね~。ただでさえイケメンな
サーラに聞いた。旦那様の鍛錬は日課なので、毎日風呂と着替え・タオルの準備をしなくてなならない。他には、執務に当たっている、旦那様に紅茶を入れて差し上げる。等。多岐に渡るものだった。紅茶を上手く入れる方法は正直わからないので、サーラに個人授業を受けることとなった。「茶葉の状態は見てわかりますけど、気温と湿度は経験です。こればっかりは回数をこなす以外にないですね。基本的な事は指導しますけど…」と、サーラの指導を受け、なんとか人並みにはうまく紅茶を淹れられるようになったと思う。旦那様の評価をいただこう。旦那様は今日も鍛錬をしている。色気が2割増し…。いいんだろうか?女として色気で旦那様の方がありそうだ。見惚れてしまった…。いけないっ。「旦那様!タオルをどうぞ!邸の方では既に風呂・着替えの支度が済んでおります」「おぉっ」旦那様に優秀な侍女だと思われたい!「風呂で疲れた時には紅茶でも必要な時は呼んでください」(侍女として有能だが、俺を男として見てくれているんだろうか?)私としたことが…躓いてしまった。ハズカシイ。「危ないじゃないか!大丈夫か?」「ハイ、ダイジョウブデス!」(胸板ー!筋肉逞しい!!旦那様は所謂細マッチョなの??)「今日は王宮から呼び出しがあったからそっちで仕事あるから。夕飯はここで食べる」「「わかりました。行ってらっしゃいませ」」はて?なんかあったのかなぁ?***********王宮には俺、ギジマクス伯爵、ルー侯爵が陛下に呼び出されていた。「陛下の助言通りに愚息のしでかし、ギシマクス伯爵の娘とうちの愚息は離れさせ、愚息は廃嫡しました。ギシマクス伯爵の娘との間には男児が生まれたのでその子を嫡男として育てています」へー、廃嫡したんだ。婚約も白紙にして。 「恐れながら、陛下この場になぜダマスス公爵がいらっしゃるのですか?」「ほう、そなたは知らないのか?そなたのもう一人の娘はダマスス公爵家にいる」「へ?」「元婚約者の行く末と今後どうなるのかという公爵家。とりあえず呼んだ。おかしいか?」「いえ、私が把握していなかっただけの事です」「話によると、娘を着の身着のまま邸から追い出した所を公爵が拾ったと聞いているのだが?」「めめめ、めっそうもございません」「そうなのか。まあいい。そのうち明らかになるだろう」「ル