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29.虫!虫!

Penulis: 空空 空
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-10 21:17:50

 地面に落下したクモはひっくり返ったまま動かない。

その脚はまるで閉じかけの手のひらのように中途半端な位置で硬直していた。

「これ……死んでんのかな……」

 向ける対象を失った刃を下ろして、クモの様子を遠巻きに窺う。

その牙の周りは分泌された毒液でてらてらしていて、あそこから垂れたものが俺にかかったのだと思うと背筋に嫌な感覚が走った。

 鹿間さんはちょっとずつそのクモに近づきながら言う。

「いや……たぶん一時的に気を失っているだけでまだ生きている。直当てじゃないとボクの拳の威力なんかたかが知れてるしね……。そこでなんだけど、水瀬君……トドメ頼めるかな? ちょっと直接は触りたくなくて……」

「あ、はい……任せてください、それくらいなら……」

 いきなり飛び起きて襲い掛かってきたら嫌だななんて思いつつも……仰向けのクモに近づく。

近くでまじまじ見ると、体毛の質感や細かな模様なんかがはっきりしてより気持ち悪かった。

 何かされる前にその体に炎の剣を突き立てる。

魔石云々も一瞬頭にちらついたが、俺もできれば触りたくなかったし、何よりその体毛にも毒性があるか分からないので燃やしつくして灰にしてしまった。

それでも魔石は残ったりするのだろうかと小さな期待もあったが、灰の中には何も残らず……全てが完全に塵になっていた。

「しかし水瀬君……それ、便利だね……」

「あ、これ……ですか?」

 炎を出すのを止めてもなお、以前輝きを宿した刀身。

目の高さまでそれを持ち上げると、なりを潜めた熱が鼻先を温めた。

「それ……なんだろう、明るいだけじゃなくて……色合いのせいかな? 辺りがすごい見やすいよ」

「ああ、確かに……そうですね……」

 炎の剣を松明のように掲げて、洞窟の中を照らし出す。

鹿間さんの言うようにそれは単に明るいだけでなく、岩肌の細かな亀裂や窪み、点在する苔など……そういった細部を浮き彫りにしていた。

と同時に、光の性質上仕方のないことなのだが……それは物陰の影も濃くしてしまう。

が、それもまあ……この”よく見える”ことと比べると些末なことなのだった。

「確かにこれ……もっと早くからこうしてればよかったですね……」

「この明かりなら……魔物たちもかなり嫌がるはずだよ。基本的にボクらには見つかりたくないようだからね……」

 鹿間さんの影が壁面まで延び、大げさな壁画みたいに揺れる。
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