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95.惨状

Penulis: 空空 空
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-29 01:10:15

「……外が……」

 まだ鹿間さんとの電話途中だが、少し外が騒がしくなってくる。

皐月もそれが気になったようで、窓際に寄り下の景色を眺めた。

『……すまない、水瀬くん……。ちょっと、こっちの方でも……対応しなきゃいけない事態みたいだ……。ちょっ……』

 鹿間さんの方でも何かが起き始めているのか、電話に鹿間さん以外の不明瞭な声が割り込んでくる。

その後『済まない、とにかく二人は……今は念のため外に出ないでいてくれ』とだけ言って、電話が切れてしまった。

「あっ……」

 いったい何がどうなっているのか。

もう誰ともつながっていない電話をポケットにしまい、窓際の皐月に歩み寄る。

そしてその肩越しに街並みを見下ろすと……。

「なんだ……これ……」

 朝の静けさの中にあった街の状況は、一変していた。

「魔物だ……。それも、一体や二体じゃない」

 皐月はホテルの外に広がる光景を冷静に言い表す。

あの教室を除けばゲートすら存在していなかったこの廃都近縁に、多数の魔物が現れていた。

大きさや姿はまちまち、ダンジョン内部の魔物に見られるような一貫性が……ここに突如として現れた魔物たちにはなかった。

「あ、おい……皐月……!」

 この状況を見るなり、皐月は部屋の出口へ駆け出してしまう。

その肩を引き寄せようと手を伸ばすが、俺の指先はぎりぎり届かなかった。

「待って、皐月! 鹿間さんが待ってろって……!」

「知ってる。聞こえてた。水瀬は……言うとおりにしたいって言うなら、ここで待ってればいい。けど……結局私たちが何のためにここに来てるのか、やらなきゃいけないことが何なのか……後悔しない選択をした方がいいよ」

「それはっ……」

 一度は足を止めた皐月だったが、俺を試すかのような一瞥をくれると……いよいよ外へ駆け出してしまった。

「それは……そう、だけどさ……」

 ホテルの部屋のドア。

そこを潜り抜けてしまえば、俺はおそらく……この混沌の渦中に放り込まれる。

鹿間さんの命に背いてだ。

今思えば……こういう時の皐月を引き留めるのも、鹿間さんが俺に期待した役割だったのかもしれない。

 あのドアの向こうへ俺も行きたい。

一度踏み出してしまえば、ある意味では……楽になれるのだ。

けれど……。

「……ふっ」

 うじうじと得意でもないのに色々と考える俺が、少しばかばかしくなってくる。

そうだ、この期に及ん
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