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51. 協力

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-05-13 20:02:24

 多くの人数が集まった新宿移動。向こうは新宿駅で待ってくれているらしい。

「時間だな、それでは行こうか。各自、注意を怠らないように」

「あ、すまん! ちょっと、一つ聞いていいか?」

 突然スエが手を上げ、主催者に質問をし始めた。

「どうした?」

「なんで19時に集まったんだ? もっと明るい方が行きやすかったろ?」

「それは思ったが、新宿区からの指示でな。このくらいの時間の方が、襲撃しやすいと言っていた」

「ふーん、まぁいいけどよ」

 渋谷駅に着いた時、ちょうど電車が来た。簡易型エスカレーターがすぐ用意され、3階へと乗れる事を示す。

「3階、行こっか」

 ユキに続いて3階へと上がる。その上がる途中、ユキが「初めて襲われたあの日、思い出すね」と小さく呟いた。俺は「⋯⋯そうだな」と。

 今思えば、あんなのは本当に始まりでしかなかった。その後は、君野先生との別れ、大学からの脱出、2回目の総理の記者会見、国会議事堂への突撃失敗、そしてユエさんとアオさんと裏部さんとの出会い。もっと正しい最適解を選べていれば、みんな生きていたのだろうか。また苛立ちが募り、ぐっと唇を嚙み締めた。

「まだ、悔やんでる?」

 隣のユキが顔を覗き込んでくる。

「⋯⋯当たり前だろ。絶対に殺す」

「ルイ⋯⋯」

「お前がやるんだったら俺もやるぞ。マッポの連中は総理の味方してるしな、もう役に立ちゃしねぇんだからよ」

「でも、いいんでしょうか、そんな⋯⋯」

「んじゃ黙って殺されろって言うのかよッ!!!」

 ついヒナに大声を上げてしまうと、周囲が騒ぎ始めた。近くにいたアスタたちが近付いてくる。

「どうしたんだよ、らしくない」

「いや⋯⋯ヒナ、ごめん」

「⋯⋯いえ」

「今日怖いよ君ら、何かあったの?」

 聞いてくるアスタの前へとシンヤが出た。

「どうもこうもあったもんじゃねぇッ! こっちで大事な仲間が二人も殺されたんだッ! "黄色いパーカーのヤツら"になッ!!」

「"黄色いパーカー"? ⋯⋯それって最近出てるっていう"殺人集団"の?」

「そう。アスタ君も気を付けてよ。深夜に襲ってくるみたいだから」

 ユキの声にアスタが頷く。すると、アスタの右隣にいた女の方が黒能面を取った。

「アスタ様は死にません」

 端正な顔立ちで急にそんな事を言った。と思ったら、左隣の男までも顔を出す。

「僕らがいれば、安全ですよ」

 アスタは
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  • フォールン・イノベーション -2030-   50. 黄色

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     何回歩いても夜の病院は気味悪く感じるな。こんな遅い時間になったけど、都心5区選別者会議に行ったのは、ユエさんの一押しもあってだった。 行く直前、ユエさんの病室にて。「ELECTIONNERが集まる場なら、絶対行っておいた方がいいわね。100人中何人来るか分からないけど、中には必ず同じ目的の人もいると思うの。今や三船君は一番注目の的、それを利用するのがいいわ」「なら、一人の方がいいですかね」「いや、みんなで行きなさい。それの方がより幅広く交流できるはずよ。裏部は留守番ね、モンスターやネルトの解析と、他の研究員の探索と、総理についてと、まだまだやる事あるわよ!」「ユエ先輩は妊婦ですよ!? さすがにちょっと休憩しておきましょうよ~」「いらないわそんなの、私もアンタもいつ殺されるか分かったもんじゃないだから。きっと赤ちゃんだって、私の事理解してくれてる。だって私とアオ君の赤ちゃんなんだから、ね~よちよち~」「アオ先輩という抑止剤がないと、この人は止められないのか⋯⋯」 裏部さんは終始、ユエさんの変わらなさに嘆いていた。でもどこか、嬉しそうにも見えた。昔からこんな感じのやり取りだったのが、二人から伝わってくる。「それに、私たちの功績もあって総理を倒したってなったら、メディア出演とか取材とか、さらに忙しくなっちゃうかもしれないわよ!? そのためとも思って踏ん張りなさい! あんたも大金持ちになれるじゃない!」「ってな事で、三船君。僕たちはここでお待ちしてますね」「あ、そうそう! 帰ってきたら、なるべく早めにここへ来て話して欲しいわ。どんな事があったのかを、新鮮なモノは新鮮なうちにってね」 ユエさんがこっちへウインクする。「分かりました。たぶん遅い時間になりそうですけど、大丈夫ですか?」「大丈夫大丈夫、私と裏部は夜型だから」 裏部さんと会ってから、ユエさんは少し楽しそうだった。やっぱりこんな状況で同僚に会えるってのは、嬉しいものなのだろう。あれだけ元気だと妊婦にも全く見えなかったな。メッセージを送っても返ってこないけど、たぶん今忙しくしているんだ、あまり邪魔しないようにしよう。 行ったらまず、この【イーリス・マザー構想の失敗作の捜索について】を聞かないと。これが本当なのかどうか。 先に予想をしておくと、たぶんユエさんはこの件を知らない。知ってい

  • フォールン・イノベーション -2030-   48. 疑惑

    「ドア、ちゃんと閉まってるな」「うん、何回も確認した。えらく慎重になるんだね」「まぁな」 病室に静寂が漂う。俺は"黒い資料"をテーブル上に広げた。 「なにこれ?」「さっきアスタから渡されたやつ。新東大の金庫にコレがあったらしい。ユキ、あったのは君野研究室だ」「え? どういう事?」「あの先生の部屋にこんなのが隠されてたらしい」「そこからアスタ君が取ってきたってこと?」「そうなるけど、これはコピー。本物はアスタが持ってる」 あいつを疑う訳じゃないが、まだ半信半疑なとこはある。でも嘘を吐くとも思えない。それをしてもメリット無いだろうから。 さっきのエレベーターから出る直前。「こっちはルイ君に渡しておくよ」「え、いいのか?」「うん、それコピーだから。そっちでも調べて欲しいって言っといて、渡さないのも変でしょ。でも僕と君だけだよ、それを今持っているのは」 そう言って慎重に管理するよう言われた。明日盗まれてもおかしくないってあいつは言ってたっけか、厳重に保管しないとだな。「【イーリス・マザー構想の失敗作の捜索について】って、なんなのこれ? 失敗作なんて聞いた事無いんだけど⋯⋯これ、君野先生は全部知ってたってことなの⋯⋯?」 ユキが目を見開き、手に取ってページをめくりながら言う。「分からない、どこまで知ってたのかは。ただ一つ分かるのは、先生はイーリス・マザー構想の一団ではあったけど、俺たちの味方で間違いないって事。俺の親とも関係が深かったみたいで、俺の事を匿ってくれていただろうし、たぶん」 この後、何も知らずポカンとした顔をしていたヒナに全てを説明しつつ、話し合いを続けた。ユエさんに聞きに行く前に、この資料から分かる事を簡単に整理しておこうと思う。 【イーリス・マザー構想の失敗作の特徴】 ・性別不明 ・年齢は俺たちに近い可能性が高い ・都心7区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、文京区、品川区)のどこかの施設にいた ・記憶におかしな点がある ・両親がいない ・AIへの依存度が誰よりも強い ・質量無い物に質量を与えられる可能性がある 一旦こんなところだろうか? まだ情報が少ないな。質量付与症候群に関しては、まだ嘘だと思ってしまう。「こんなヤツ存在すんのか? ゲームやマンガじゃねんだぞ?」「私も信じられません⋯⋯」

  • フォールン・イノベーション -2030-   47. 証拠

     この黒い資料が「新東京大学にあった」と、突然アスタの口から放たれ、さらにその話は続いた。「しかも君野研究室の金庫。正しくは、君野教授研究分室の金庫だ」「なんで⋯⋯お前がそんなところに」「詳しくは帰り際に話す。とにかく今すぐそれを読んで。明日にもそれは盗まれるかもしれないんだ」 そんなにこれは重要なんだろうか。誰も見てない事を改めて確認すると、こっそりとコレを読んだ。そこには失敗作がどこへ逃げて行ったかの推測や、これから発するかもしれない副作用が事細かく書かれていた。 前者は、東京7区のどこかの施設に行ったのではないかと書いてあり、千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、文京区、品川区に絞られている。 後者の副作用については、人格崩壊、記憶障害、AI絶対依存病、質量付与症候群などが起こるのではないか、とされている。AI絶対依存病と質量付与症候群なんて聞いたことが無い。「最後にあったAI絶対依存病と質量付与症候群、今回の件と繋がると思わない?」「⋯⋯こんな症状初めて聞いたんだが、本当にあるのか⋯⋯?」「まだ何も。これからも調査を続けるよ。まずはこれを事実と仮定して、ルイ君たちの方でも調べて欲しい。君とも"大きく関係する話"だろうから」 イーリス・マザー構想の失敗作。そもそも失敗作なんてのを知らない。後始末されたとかじゃなかったのか⋯⋯? これをユエさんは知っているんだろうか。疑問に思いながら、資料をアスタへと返す。そして、皆のいる1階へとエレベーターで降りていく。「僕が昔からイーリス・マザー構想に興味を持ってたの覚えてる?」「よく覚えてる。執拗に調べてたからな」「あれって謎が多くて不可解で、引き付けられたんだよね。この二人もその謎をいつか解決したいって、思ってたみたいでさ」「へぇ、気が合ったのか」「それもあるけど、実はこの二人、探偵と刑事でね。18歳にして、多くの難事件を解決してきたみたいなんだ」 さっきからアスタの隣にいた二人が黒能面を取り、「初めまして」と軽くおじぎをしてきた。一人は女の子だった。「その力を借りて、最初は僕の父親が元国家研究員で、イーリス・マザー構想一団の一人だった事が分かった。そこから細い細い糸を辿って、やっと一つの繋がりを見つけた」「それがこれか」 俺が黒い資料を示すと、アスタは静かに頷く。「君野教授

  • フォールン・イノベーション -2030-   46. 宴会

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