― 2030年、AI総理が誕生して激変した大阪 受験が迫る高3のザイは、最近梅田に出来たばかりの新大阪大学へとオープンキャンパスに来ていた。 解剖医兼外科医の一人娘スアと、大学構内を見て回っている途中、ある人物がいるのを見かける。 それは、先日ここに来ていたとされる同級生二人と、数日前に突然行方不明になったという、大阪府知事の日岡知事だった。 後を付けてみると、【ProtoNeLT ONLY】と書かれた謎の場所へ入って行き、自分たちもこっそり入ってみる事にする。 そこには、謎の人型最新AIの"ProtoNeLT"が多数設置されており、さっき見かけた3人も含まれていた。 翌日、その違和感から全てが始まる⋯⋯
View Moreこれが新大阪大学か!
昨日も気になってずっと調べていたが、結局何も分からないままに今日が来た。 一緒に来たスアも興奮してる様子。 この大学だけは他と違う。 なぜか成績上位者のみにオープンキャンパスが行われるという、何とも変則的な場所で、男女2名ずつが選ばれる。 2日目に選ばれたのが俺とスア。ここは外からも内部が見えないようになっており、全てが謎に包まれている。閉塞大学や新大阪駅大学なんて言われていたりもする。 様々な大学の優秀者がここへ編入を希望しているらしく、これからの新たなAI社会に興味を持っている学生が、それだけいるという事だ。 それもそうで、2か月前に突然就任したAI総理の影響があまりに大きい。街中は一気に最新鋭のAIが導入され、何もかもが変わっていった。 この社会に付いていくには、より"新しい価値や人間らしさ"が重要視されるのと同時に、"AIを上手く使える能力が必須"とされている。 特に、AI総理によっていきなり配布された"コレ"。 L.S.と呼ばれる腕時計のような小型デバイス、通称"Linked Someone"。こいつとAIをどれだけ上手く使えるかが、問われている気がする。あまりに高性能で多機能すぎるため、2か月以上経った今ですら、新たな機能が発掘されている。それを教える事で稼ぐ人もいたりする。 そしてL.S.を付けている事は、この新大阪大学でも重要らしい。これが無いと大学内にすら入れない。 「私たち、見て回っていいんだよね⋯⋯?」 スアがきょろきょろしながら聞いてくる。 「いい⋯⋯はずだけどな。今日は見放題って言われてるし」 「だよね。どこから見よっか」 一応、見たいところは事前に決めてきた。 俺が行きたいのは、"三船コーチ"が行っている学部と似たところ。あの人が行く場所に間違いは無いだろうし、そこから自分のやりたい事を見つけたい。 当初は同じ大学にしようと考えた。けど、あの場所は難易度が高すぎるッ! 俺じゃ無理ッ! だから、何とかギリギリで行けそうなここにした。正直ここも行けるか分からないけど⋯⋯まぁやるだけやってやる。"三船コーチ"にも良い報告したいし。 「さっそく学際理工学部から行く?」 「おう!」 「あ! 走んないでよ!」 興奮しすぎてもう頭痛い。なんせ、やっと見られるんだからな。一体どんな事をこそこそやってんのか、俺に見せやがれ!んー、ここでいいんだよな?
近くの大きなホログラムキャンパスマップには、ここがそうだと書いてあるけど⋯⋯これ、どっから入ればいいんだ⋯⋯? ドアらしきものが全く見当たらないぞ? 「あら? もしかして、喜志可(きしか)くん?」 「へ?」 その声に振り向くと⋯⋯ 「やっぱり~! なになに!? ここに決めたの!?」 「え、エンナ先輩!? なんでここに!?」 「私ね~、呼ばれてこっちに編入したの! 何もかもが新体験で楽しいよ! ここ!」 突如現れたエンナ先輩が笑顔で話す。 この人は俺たちの2つ上で、部活の先輩だった人だ。 ずっと生徒会長もしながら、容姿端麗で運動神経も抜群だった。今靡かせている綺麗なポニーテールと、左サイドにあるピンクの時間変化バレッタに、目を奪われる男を何人見たか。 その度に「この子の面倒見ないといけないから~」とか言って、俺にヘイト向けるんだよこの人。 でも、そう言ってくれる時はいつも、背後からハグしてくれて、ひと時の幸せでもあった。正直、もっと話したいなって思った時には卒業だったんだよなぁ。 「おろ、スアちゃんも一緒だ!」 「師斎会長、元気そうで何よりです」 「うんうん、もう会長じゃないけどね~。相変わらず可愛いなぁ~スアちゃんは!」 スアを見かけたらすぐ抱き締めて頭を嗅ぐ癖、何も変わってない先輩まんまだ。 「すぅ~はぁ~、やっぱ落ち着くなぁ~このいい匂い⋯⋯」 「⋯⋯同じシャンプーにすればいいのでは?」 「それじゃダメなんだよね~。スアちゃんのこの頭で、この匂いじゃないと」 「⋯⋯その2つが揃わないとダメなんですね」 「うん! 揃うと最っ高! 麻薬よりいいわぁ~」 「⋯⋯麻薬やったことないですよね」 「ないねぇ~」 久しぶりに見る二人のやり取りで、なんか落ち着いてきた。せっかくだ、エンナ先輩にこの大学の事を教えて貰えないかな。 「それで、二人はオープンキャンパス? 案内してあげよっか。よく分かんないでしょ、ここ」 聞く前に言われてしまった。 「そうなんっすよ。誰も案内してくれる人、いないみたいで⋯⋯」 「あ~、ここは"未知からの高揚感"をテーマにやってるそうなんだよ~。その最初が"マッピングを楽しむ"って事らしくてさ。ほら、ゲームとかで行ってないところはまだ行けない、みたいな? そういったゲーム感覚を重視してるみたい。後は座りすぎないように運動も兼ねてとか? いろいろ考えてるっぽいよ!」 へぇ~、そんな大学今まで聞いた事無いな。 「たぶんL.S.に"新大阪大学のマップ"がもう追加されてるんじゃないかな? 二人とも、見てごらん?」 L.S.からホログラムパネルを複数展開すると、一番右に"新大阪大学キャンパスマップ"が立体展開された。まだ黒い部分が多く、マップが埋まってないとでも言いたいのだろうか。 お、説明アナウンスがあるぞ。 『ようこそ、新大阪大学へ。この新マッピングシステムに関しては、喜志可ザイ様がもう少し構内で迷われてから、自動で説明が入る予定だったのですが、師斎エンナ様のアシストが先に入ってしまったようですね。それもまた、人生の楽しいところですね』 ⋯⋯なんかチート使って先に知っちゃったみたいな言いぶりじゃん 『ここ一帯は"学際理工学研究科ゾーン"になります。ここで詳しく話しても頭に入り辛いと思いますので、構内を探索してみましょう。その都度、必要そうであれば、こちらから説明致します』 そう言うと、アナウンスは終わってしまった。 「まぁ~そんな感じのとこ! 大学ってさ、まだまだ受動的なところが多いじゃない? こうやって様々なイベントやプランが毎日あるみたいでさ、完了すると、単位になったり、お金になったり、専用アイテムが貰えたり、わざわざ人と交流しなくても、一人でも楽しめる工夫がいっぱいなんだよ!」 こんな大学見た事ねぇ⋯⋯。まるでゲームの主人公になって進んでいくみたいな、それでここは国立大学でもある。つまり、国を挙げて取り組んでるって事になる。 一人で出来るってのもいい。最近は一人で完結してる事が多く、それを大学でもしてくれるのはありがたい。結局、一番面倒なのは人間関係だし。 ⋯⋯めっちゃいいAIの使い方してる。やっべぇ、絶対ここ入りてぇ、エンナ先輩もいるし! 「そういえば、先輩はどこの学部なんすか?」 「私はね~、法学部! ここからちょっと離れたところにあるんだよね~」 エンナ先輩は、傍にある"バイクのような何か?"に乗り、こっちに来たという。こいつを使えば、軽く宙に浮き、AIで自動走行してくれるらしい。 乗らせて貰ったが、凄く欲しくなった。ちょっとしか浮かないのもいい、飛び過ぎると怖いって人もいるって事も考慮して、女性でも乗りやすくなっている。しかも、免許いらずに乗れるってのがヤバすぎる。 「ちょっと相談したい先生がこっち側と兼任しててさ、来たら二人に会っちゃった~みたいな!」 「なんかすみません、俺ら邪魔でしたよね」 「ううん、ぜ~んぜん大丈夫だよ。今後の研究とか話したいだけだったしね~。それより、二人がここにいるって事は、学際理工学部志望なの?」 「俺はそうですけど、スアは違うよな」 「私は医学部です」 「そっかそっか! どっちかは法学部来てくれると思ったのに、ざ~んねん! 受験で困る事とかあったら何でも聞いてね! ⋯⋯っと言っても、私は編入組だから分かんないんだけどね。受験をするのは、君たち世代が初めてって形じゃないかな?」 「この大学、出来たばかりですもんね。今の内部生は全員、引き抜き編入生と自力編入生のみでしたっけ」 「そう! 別々の大学からめっちゃ凄い人ばっかりでさ! 学力も可愛さも負けられないって感じ!」 他大学の優秀生の寄せ集めの場所。そして、受験で入る俺たちは1期生に当たる。だったら、その1期生は勝ち取るしかねぇ⋯⋯! その後、エンナ先輩と学際理工学研究棟ゾーンと呼ばれる構内へ、共に入る事となった。「それで、何があったの?」 対面に座るエンナ先輩が心配そうに言う。 「学園内にヤツが入って来たんです。人型AIの"ProtoNeLT"が」 「それって昨日言ってた話だよね? ごめん、途中から眠くなっちゃってたんだよね⋯⋯また一から教えて貰えるかな?」 先輩、風呂入ってからふにゃふにゃしてたもんな⋯⋯ 俺はヤツに対して知ってる情報全てを、改めて車内で話した。 「ほ、本当なの!? "頭を食べて人間になるAI"がいるなんて⋯⋯」 「はい。俺らが殺されそうになったのも、ソイツが原因なんです。最初は警備員になったアイツが突然現れて、急に"銃殺されるのは好きか"とか言い始めて⋯⋯」 「よくそんなホテルの50階から逃げて来られたね⋯⋯。さすが喜志可くんとスアちゃん、私だったら絶対絶対ぜ~~~~ったい無理だよ⋯⋯」 その後、秘桜アマがなんでここにいたのかの話に切り替わった。 「それで、なんでお前はあんなとこにいたんだよ。アフターバンパクシティの病院にいたはずだろ?」 「昨日の最後にあったAI総理と日岡知事の対談後から、院内の雰囲気が妙におかしくなったのを感じて、抜け出してきたんだ。症状も一時的なものだったから、身体は動かしやすかったからね。きっと君たちも逃げただろうと思い、大会も無くなる可能性が高いと想定した。それで、登校日に設定されているこの日曜、転校の視察で急遽入れさせてもらったんだ」 「転校? 親の都合とかで、か?」 「いいや。喜志可ザイ、君に興味を持ったからだ。普段の生活でどういった事をすれば、あんな強さに辿り着いたのか、参考にさせてもらおうと思ってね。さっきも使っていた"波が連なる銃"、それを手に入れた過程も知りたい」 ⋯⋯え、俺に興味持っただけでわざわざ転校しようとしてんの⋯⋯? 三船コーチは一旦諦め、俺を観察する事に徹底したいというコイツ。 なんか変なのが来ようとしてるんだが⋯⋯ 「だとして何もわざわざ、夏休みの登校日に来る必要無かっただろうに」 「自分の中に衝動が走ったんだ、すぐ見に行った方がいいと。思い立ったら吉日と言うだろ? 夏休み明けから行くための、いいイメージにもなるじゃないか。それほど、僕の中に"あの天井の深海からの巨大銃"が響いたのさ」 謎にドヤ顔で言っているんだ
俺は即座にハイスマートグラスを銃のように構え、海銃へと成り変えた。 「⋯⋯ッ!」 撃った瞬間に色彩が輝き、小波(さざなみ)に包まれた弾丸がヤツの身体へと直撃する。 「な⋯⋯ッ!」 しかし、なんと"ヤツの真っ赤になった身体"にはびくともせず、何度撃っても効かないまま⋯⋯。 こっちを見向きもせず、ヤツは突き刺した生徒の頭を食い散らかし、ソイツの姿へと変異した。 『⋯⋯あれェ? 僕の首が無くなってるゥ? 僕は、僕は、"これからの存在"ってのに、ナレタッテコトォォォォォ???』 「きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?!??」 阿鼻叫喚に包まれたクラスからは、6ヵ所ある出口へとそれぞれが走って逃げていく。 残った俺たちの前に、目を360度回転させて狂っているアイツ。もはやクラスメイトの面影を一つも感じない。ただ姿が同じだけの、"壊れた何か"がそこにいるだけだった。 「⋯⋯ッ! スアッ! 俺たちも逃げるぞッ!! こいつにはこれが効かないッ!!」 「ザ⋯⋯ザイ⋯⋯足が⋯⋯足が動かなくて⋯⋯」 「は!?」 緊急事態に身体が強張ったのか、どうにも出来ないようだった。 「行って⋯⋯一人で行って⋯⋯」 「⋯⋯なにいって⋯⋯」 「早くッ!! 次のも来てるからッ!!」 スアの視線の先の出口には、"違うヤツ"がさらに来ているのが、見えているようだった。 どうやってもヤツを止める方法はない。あのホテルでは助けられたのに⋯⋯ ⋯⋯スアを見捨てる⋯⋯しかない⋯⋯? こんなに一緒に、どんな時も一緒に、これからも一緒に生きていきたいのに⋯⋯? スアを⋯⋯スアを⋯⋯俺は⋯⋯ 考える隙など無く、ヤツは"ハンマーのような大きな鈍器"を取り出し、なぜか俺の方へと向いて振りかぶった。 標的はスアではなく、俺だったのだ。 ダメだ⋯⋯俺が逃げればスアに⋯⋯ 「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」 クラスに響く大きな叫び。その声の正体は俺ではない。 彼女が激しく叫んだ後、ピンクのハイスマートグラスを銃のように構えた。 刹那、あのハイスマートグラスから、"ピンクの鏡のような羽が4枚"生え始め、中央からは"新型人工衛星のような姿"が現れた。 放たれた一発がアイツに当たると、途端に赤色が剥がれていき、白色へと変わって動きを止めた。 ⋯⋯もしかして、今
まさかこんな事が出来る日が来るなんて⋯⋯ リムジンに乗って登校なんて、2次元でしか見た事が無い。 ってか、このリムジンってエンナ先輩のものなのかよ⋯⋯。俺はてっきり親のだと思ってたんだけど。 高校卒業祝いで新車になったこれを貰ったそうで、親はまた別の車を使っているらしい。 このリムジンはあまり使わないようにしているようで、やっぱり自分で何でも出来るようにしたいそうだ。 高校の時、エンナ先輩はいつも電車通学だったっけ。電車が止まったりした時だけリムジンで来てたんだっけか。 もちろん無人自動運転の最新型で、タッチパネルから選んで食べ物や飲み物までサービスしてくれる。これの面白いところは、ちょっと時間は掛かってしまうが、AIが目の前でライブキッチンのパフォーマンスなんてものまであるところだ。 もちろん、天王寺駅前から大阪都波裏学園なんて、車移動で20分もかからないため、使いたいなんて我儘は言わない。 「朝食は何でも遠慮せず選んでいいからね」 黒鮭定食を頼みながら、先輩は俺とスアに囁く。 「俺も黒鮭定食にしていいですか?」 「私も!」 「どうぞ~。美味しいわよ、黒鮭。私のおすすめ!」 数分で用意された黒鮭は焼きたてで、香ばしい匂いが漂ってくる。こんな良い鮭、食べた事ないぞ⋯⋯。 それに並ぶように置かれた白米と味噌汁と納豆は、どれも輝いている。 「ん~! 良い匂い! ずっと嗅いでられる~!」 スアは幸せそうな顔。 これは味わって食べたい⋯⋯けど、時間が無いからなぁ。 「「⋯⋯いただきます!」」 俺とスアはシンクロするように、黒鮭を一口。 ⋯⋯なんじゃこりゃぁ⋯⋯! 表面は炭火で焼いたようなカリっと深い味わい、そこから中に行くほど濃い旨味がぎっしり詰まっている。すぐに甘味もドンと口全体を覆ってきた。 ⋯⋯ダメだ、白米が止まらない! ⋯⋯美味すぎる! 「ふふ、気に入ったみたいね」 「先輩、この黒鮭とサーモンマグロが毎日欲しいです」 「え~、じゃぁ私と結婚しないとだね」 「ごほっごほっごほっ」 「き、喜志可くん!? 大丈夫!?」 「変な事、急に言わないでくださいよ⋯⋯!」 「(⋯⋯あながち、変な事でもないんだな~)」 こっそり言った先輩の言葉はあまり聞き取れなかった。 スアはという
「さっき車にいた時、パンツ見てたでしょ」 風呂から上がって牛乳を飲んでいるところ、エンナ先輩が隣にやってて、突然言われたのがこれ。 「⋯⋯まさか、んな事するわけないっすよ」 「私が気付いてないと思った?」 人生終わった。 この顔、何もかもバレてる。 落ち着いたところで、言うのを待っていたんだ。 「⋯⋯申し訳ありませんでした。今すぐ出て行きます」 「ふふ、な~にそれ。相変わらずだねぇ、喜志可くんは。あれは"重要な戦略"だよ? 対面でさ、若干見えてムラムラするくらいが、男の人には一番効果的でしょ。自社を気に入ってもらうには、時にはこういった事も大事だからね。それを喜志可くんにも試させてもらったってわけ」 「そんなの俺にしないでくださいよ⋯⋯"ハニートラップ"じゃないですか」 「え~? リラックス効果もあるみたいなんだけど、嫌だった?」 「それは⋯⋯」 実際、癒されたのかムラついたのか、混ざっていてよく分からなかった。 ⋯⋯そんなの口が裂けても言えない 「実は女の人もね、他の人が丈短いとさ、見えないかな~ってちょっと見ちゃうから、これは立派な研究結果の一つなんだよ。だから、喜志可くんは悪くないよ! ただし、盗撮とかはダメだからね?」 パンツちら見えがどれだけ素晴らしいのか、謎の力説を続ける先輩は、突然ミニドレスの裾をたくし上げ、中のパンツを見せつけてきた。 「ほら、見て。正解はただの見せパンでした~。パンツにしか見えなくて可愛いでしょ、薄ピンクのフリルが特にね」 喋りながら、なぜか先輩の顔がどんどん沸騰していく。 ⋯⋯あれって⋯⋯もしかして見せパンではないんじゃ⋯⋯ 「すぐに記憶って消せる? ねぇ、今すぐ消せる?」 真っ赤な顔で間近に迫ってくるエンナ先輩に、俺は「消しましたから!」と思わず叫んでしまった。 すると、一人がやってきて⋯⋯ 「あ、ザイと会長、そんなところで何やってるんですか?」 「な、なななな、なんでもないけど~?」 「会長がそんな焦るの、初めて見ましたけど?」 「い、いいから! 二人は早く食べてきなさ~いッ!!」 一体何の時間だったんだ⋯⋯。 エンナ先輩のあんな様子、俺も初めて見た。 先輩も焦ったりするんだな。どちらかといえば、いつも弄ばれる方だったんだけど⋯⋯。 ただ得
― 天王寺駅 赤と青に様変わりした駅全体と、あべのハルカスが視線を奪う。 もうどこに行ってもこんな状態になっていってる。 「喜志可くんッ!!」 「おわッ!?」 背後から抱き着いてきたのはエンナ先輩だった。 「うん、本物だね。よしよし」 「いや、赤ちゃんじゃないんですから」 言っても止まらず、抱き寄せて頭を撫で続けてくる。 なんか、なんか背中に柔らかい二つの感触が押し付けられて⋯⋯ 「いつまでされてんの」 しっかりとスアに怒られ、引っ張られてしまった。 「スアちゃん! どこも怪我してない!?」 「はい。さっき話した通り、ザイが守ってくれて、モアちゃんもいてくれたので」 「よく頑張ったね、喜志可くんも」 「いえ⋯⋯」 先輩の優しさに安堵していると、モアがこちらへと歩いてきた。 「あ、この子がモアさん?」 「⋯⋯水生(みなお)モアです。よろしく⋯⋯お願いします」 「うんうん、よろしくね! あら、もう一人は?」 ⋯⋯あれ、ケンがいないぞ。あいつどこ行ったんだ? 少し探し回っていると、天王寺駅の中へと入りそうなところを見つけた。 「おい! どこ行ってんだよッ!」 「見たらわかんだろ」 「なんでだよ、こっち来いよ」 「⋯⋯どう見ても、輪に入れそうな空気じゃねぇし」 「んな事ないって。あの人の家は"師斎トップホールディングス社長の豪邸"だ、もう二度と入れないかもしれないぞ?」 その後、ケンがゆっくりと帰ってきた。 「⋯⋯すんません、邪魔になりそうだったら出てくんで」 「そんなの気にしなくていいよ! その代わり、皆とは仲良く、ね?」 「⋯⋯うす」 そして、俺たちは"メタリックブルーのリムジン"へと乗り込んだ。 めちゃくちゃに広い車内、さっきのタクシーがなんだったんだと思うくらいに。 部活の時に乗せて貰った事があるけど、その時よりグレードアップした新車になってる。さすが師斎家はヤバすぎる。 「乗り心地は悪くない?」 「はい、最高です」 「そっかそっか。部活の時以来だよね、こうやって乗るのは。車は新しくなっちゃったけどね」 一番後方にエンナ先輩、スア、モアの女子3人。向かい合う形で、俺とケンが座った。 ここ、目のやり場に困るんだが⋯⋯。近い距離で対面に座った事によって、より強調さ
「やっぱこうなるじゃねぇか、気まずいだろうが⋯⋯」 助手席に座ったケンが呟いた。 「だからって、放って行く訳にもいかないだろ」 「⋯⋯っせぇ。俺は"偽プロ"と違って一人でもやれる」 不貞腐れたように、暗闇へ染まった夢洲都市を見つめるケン。さらに奥には、煌びやかではなくなったカジノが微かに見える。 「あのー、さっきは助けて頂いて、ありがとうございました⋯⋯」 その気まずさを裂くように、モアが一言置く。 「⋯⋯おう」 そういえば、さっきケンは"銃らしきもの?"を持ってたっけ。ちょっと聞いておくか。 「なぁ、ケン。さっき銃を使ってなかったか?」 「はぁ? お前知らねぇのか?」 「⋯⋯何がだ?」 「ついさっきの最新アップデートで、プロ専用のハイスマートグラスが、"簡易小型銃"になるようになったのを」 ⋯⋯そんなのあったっけ? 後ろに座る女子二人も全く知らない様子だった。 この情報はどこを調べても出回っていない、一部しか知らないらしい。 「まぁ、いきなりだったから、見てねぇヤツがほとんどか。今度からは常にチェックしとけ、死にたくねぇならな」 「あ、あぁ⋯⋯」 高低差での有利を活かすために、ハイスマートグラスをよくカスタマイズしているこいつにとっては、このくらい朝飯前だったのかもしれない。 そのアップデート内容とやら、今のうちに確認しておくか。 「ってか、スアちゃんごめんな。後で話したいって言っときながら、いきなりキャンセルしちまって」 「あ、ううん⋯⋯全然いいよ。⋯⋯⋯ケン君、私たちは天王寺駅に向かってるけど、このまま一緒でもいい?」 「⋯⋯俺は途中で降りるわ。スアちゃんの邪魔したくねぇし」 「別にそんな⋯⋯ねぇ、みんな? せっかく助けてもくれたし」 俺は、そっぽ向いたままのケンの方を向いた。 「今だけ睨み合うのはやめようぜ。嫌かもしれないが、協力する時じゃないか」 「⋯⋯ちっ、安全になったらすぐ抜けるからな。んな事より、天王寺駅まで行って何すんだ?」 「知り合いの先輩が迎えに⋯⋯」 その時、一つのメッセージが入った。大会延期のお知らせだった。いくら全体の主催がAI総理とはいえ、運営側が中止を申し出たようだ。 当然だ、明日の大会なんてもの
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