異常のダイバーシティ

異常のダイバーシティ

last updateLast Updated : 2025-09-08
By:  Mr.ZUpdated just now
Language: Japanese
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― 2030年、AI総理が誕生して激変した大阪  受験が迫る高3のザイは、最近梅田に出来たばかりの新大阪大学へとオープンキャンパスに来ていた。    解剖医兼外科医の一人娘スアと、大学構内を見て回っている途中、ある人物がいるのを見かける。  それは、先日ここに来ていたとされる同級生二人と、数日前に突然行方不明になったという、大阪府知事の日岡知事だった。  後を付けてみると、【ProtoNeLT ONLY】と書かれた謎の場所へ入って行き、自分たちもこっそり入ってみる事にする。  そこには、謎の人型最新AIの"ProtoNeLT"が多数設置されており、さっき見かけた3人も含まれていた。  翌日、その違和感から全てが始まる⋯⋯

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Chapter 1

1. 視察≪Visit≫

 これが新大阪大学か!

 昨日も気になってずっと調べていたが、結局何も分からないままに今日が来た。

 一緒に来たスアも興奮してる様子。

 この大学だけは他と違う。

 なぜか成績上位者のみにオープンキャンパスが行われるという、何とも変則的な場所で、男女2名ずつが選ばれる。

 2日目に選ばれたのが俺とスア。ここは外からも内部が見えないようになっており、全てが謎に包まれている。閉塞大学や新大阪駅大学なんて言われていたりもする。

 様々な大学の優秀者がここへ編入を希望しているらしく、これからの新たなAI社会に興味を持っている学生が、それだけいるという事だ。

 それもそうで、2か月前に突然就任したAI総理の影響があまりに大きい。街中は一気に最新鋭のAIが導入され、何もかもが変わっていった。

 この社会に付いていくには、より"新しい価値や人間らしさ"が重要視されるのと同時に、"AIを上手く使える能力が必須"とされている。

 特に、AI総理によっていきなり配布された"コレ"

 L.S.と呼ばれる腕時計のような小型デバイス、通称"Linked Someone"。こいつとAIをどれだけ上手く使えるかが、問われている気がする。あまりに高性能で多機能すぎるため、2か月以上経った今ですら、新たな機能が発掘されている。それを教える事で稼ぐ人もいたりする。

 そしてL.S.を付けている事は、この新大阪大学でも重要らしい。これが無いと大学内にすら入れない。

「私たち、見て回っていいんだよね⋯⋯?」

 スアがきょろきょろしながら聞いてくる。

「いい⋯⋯はずだけどな。今日は見放題って言われてるし」

「だよね。どこから見よっか」

 一応、見たいところは事前に決めてきた。

 俺が行きたいのは、"三船コーチ"が行っている学部と似たところ。あの人が行く場所に間違いは無いだろうし、そこから自分のやりたい事を見つけたい。

 当初は同じ大学にしようと考えた。けど、あの場所は難易度が高すぎるッ! 俺じゃ無理ッ!

 だから、何とかギリギリで行けそうなここにした。正直ここも行けるか分からないけど⋯⋯まぁやるだけやってやる。"三船コーチ"にも良い報告したいし。

「さっそく学際理工学部から行く?」

「おう!」

「あ! 走んないでよ!」

 興奮しすぎてもう頭痛い。なんせ、やっと見られるんだからな。一体どんな事をこそこそやってんのか、俺に見せやがれ!

 んー、ここでいいんだよな?

 近くの大きなホログラムキャンパスマップには、ここがそうだと書いてあるけど⋯⋯これ、どっから入ればいいんだ⋯⋯?

 ドアらしきものが全く見当たらないぞ?

「あら? もしかして、喜志可(きしか)くん?」

「へ?」

 その声に振り向くと⋯⋯

「やっぱり~! なになに!? ここに決めたの!?」

「え、エンナ先輩!? なんでここに!?」

「私ね~、呼ばれてこっちに編入したの! 何もかもが新体験で楽しいよ! ここ!」

 突如現れたエンナ先輩が笑顔で話す。

 この人は俺たちの2つ上で、部活の先輩だった人だ。

 ずっと生徒会長もしながら、容姿端麗で運動神経も抜群だった。今靡かせている綺麗なポニーテールと、左サイドにあるピンクの時間変化バレッタに、目を奪われる男を何人見たか。

 その度に「この子の面倒見ないといけないから~」とか言って、俺にヘイト向けるんだよこの人。

 でも、そう言ってくれる時はいつも、背後からハグしてくれて、ひと時の幸せでもあった。正直、もっと話したいなって思った時には卒業だったんだよなぁ。

「おろ、スアちゃんも一緒だ!」

「師斎会長、元気そうで何よりです」

「うんうん、もう会長じゃないけどね~。相変わらず可愛いなぁ~スアちゃんは!」

 スアを見かけたらすぐ抱き締めて頭を嗅ぐ癖、何も変わってない先輩まんまだ。

「すぅ~はぁ~、やっぱ落ち着くなぁ~このいい匂い⋯⋯」

「⋯⋯同じシャンプーにすればいいのでは?」

「それじゃダメなんだよね~。スアちゃんのこの頭で、この匂いじゃないと」

「⋯⋯その2つが揃わないとダメなんですね」

「うん! 揃うと最っ高! 麻薬よりいいわぁ~」

「⋯⋯麻薬やったことないですよね」

「ないねぇ~」

 久しぶりに見る二人のやり取りで、なんか落ち着いてきた。せっかくだ、エンナ先輩にこの大学の事を教えて貰えないかな。

「それで、二人はオープンキャンパス? 案内してあげよっか。よく分かんないでしょ、ここ」

 聞く前に言われてしまった。

「そうなんっすよ。誰も案内してくれる人、いないみたいで⋯⋯」

「あ~、ここは"未知からの高揚感"をテーマにやってるそうなんだよ~。その最初が"マッピングを楽しむ"って事らしくてさ。ほら、ゲームとかで行ってないところはまだ行けない、みたいな? そういったゲーム感覚を重視してるみたい。後は座りすぎないように運動も兼ねてとか? いろいろ考えてるっぽいよ!」

 へぇ~、そんな大学今まで聞いた事無いな。

「たぶんL.S.に"新大阪大学のマップ"がもう追加されてるんじゃないかな? 二人とも、見てごらん?」

 L.S.からホログラムパネルを複数展開すると、一番右に"新大阪大学キャンパスマップ"が立体展開された。まだ黒い部分が多く、マップが埋まってないとでも言いたいのだろうか。

 お、説明アナウンスがあるぞ。

『ようこそ、新大阪大学へ。この新マッピングシステムに関しては、喜志可ザイ様がもう少し構内で迷われてから、自動で説明が入る予定だったのですが、師斎エンナ様のアシストが先に入ってしまったようですね。それもまた、人生の楽しいところですね』

 ⋯⋯なんかチート使って先に知っちゃったみたいな言いぶりじゃん

『ここ一帯は"学際理工学研究科ゾーン"になります。ここで詳しく話しても頭に入り辛いと思いますので、構内を探索してみましょう。その都度、必要そうであれば、こちらから説明致します』

 そう言うと、アナウンスは終わってしまった。

「まぁ~そんな感じのとこ! 大学ってさ、まだまだ受動的なところが多いじゃない? こうやって様々なイベントやプランが毎日あるみたいでさ、完了すると、単位になったり、お金になったり、専用アイテムが貰えたり、わざわざ人と交流しなくても、一人でも楽しめる工夫がいっぱいなんだよ!」

 こんな大学見た事ねぇ⋯⋯。まるでゲームの主人公になって進んでいくみたいな、それでここは国立大学でもある。つまり、国を挙げて取り組んでるって事になる。

 一人で出来るってのもいい。最近は一人で完結してる事が多く、それを大学でもしてくれるのはありがたい。結局、一番面倒なのは人間関係だし。

 ⋯⋯めっちゃいいAIの使い方してる。やっべぇ、絶対ここ入りてぇ、エンナ先輩もいるし!

「そういえば、先輩はどこの学部なんすか?」

「私はね~、法学部! ここからちょっと離れたところにあるんだよね~」

 エンナ先輩は、傍にある"バイクのような何か?"に乗り、こっちに来たという。こいつを使えば、軽く宙に浮き、AIで自動走行してくれるらしい。

 乗らせて貰ったが、凄く欲しくなった。ちょっとしか浮かないのもいい、飛び過ぎると怖いって人もいるって事も考慮して、女性でも乗りやすくなっている。しかも、免許いらずに乗れるってのがヤバすぎる。

「ちょっと相談したい先生がこっち側と兼任しててさ、来たら二人に会っちゃった~みたいな!」

「なんかすみません、俺ら邪魔でしたよね」

「ううん、ぜ~んぜん大丈夫だよ。今後の研究とか話したいだけだったしね~。それより、二人がここにいるって事は、学際理工学部志望なの?」

「俺はそうですけど、スアは違うよな」

「私は医学部です」

「そっかそっか! どっちかは法学部来てくれると思ったのに、ざ~んねん! 受験で困る事とかあったら何でも聞いてね! ⋯⋯っと言っても、私は編入組だから分かんないんだけどね。受験をするのは、君たち世代が初めてって形じゃないかな?」

「この大学、出来たばかりですもんね。今の内部生は全員、引き抜き編入生と自力編入生のみでしたっけ」

「そう! 別々の大学からめっちゃ凄い人ばっかりでさ! 学力も可愛さも負けられないって感じ!」

 他大学の優秀生の寄せ集めの場所。そして、受験で入る俺たちは1期生に当たる。だったら、その1期生は勝ち取るしかねぇ⋯⋯!

 その後、エンナ先輩と学際理工学研究棟ゾーンと呼ばれる構内へ、共に入る事となった。

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 これが新大阪大学か! 昨日も気になってずっと調べていたが、結局何も分からないままに今日が来た。 一緒に来たスアも興奮してる様子。 この大学だけは他と違う。 なぜか成績上位者のみにオープンキャンパスが行われるという、何とも変則的な場所で、男女2名ずつが選ばれる。 2日目に選ばれたのが俺とスア。ここは外からも内部が見えないようになっており、全てが謎に包まれている。閉塞大学や新大阪駅大学なんて言われていたりもする。 様々な大学の優秀者がここへ編入を希望しているらしく、これからの新たなAI社会に興味を持っている学生が、それだけいるという事だ。 それもそうで、2か月前に突然就任したAI総理の影響があまりに大きい。街中は一気に最新鋭のAIが導入され、何もかもが変わっていった。 この社会に付いていくには、より"新しい価値や人間らしさ"が重要視されるのと同時に、"AIを上手く使える能力が必須"とされている。 特に、AI総理によっていきなり配布された"コレ"。 L.S.と呼ばれる腕時計のような小型デバイス、通称"Linked Someone"。こいつとAIをどれだけ上手く使えるかが、問われている気がする。あまりに高性能で多機能すぎるため、2か月以上経った今ですら、新たな機能が発掘されている。それを教える事で稼ぐ人もいたりする。 そしてL.S.を付けている事は、この新大阪大学でも重要らしい。これが無いと大学内にすら入れない。「私たち、見て回っていいんだよね⋯⋯?」 スアがきょろきょろしながら聞いてくる。「いい⋯⋯はずだけどな。今日は見放題って言われてるし」「だよね。どこから見よっか」 一応、見たいところは事前に決めてきた。 俺が行きたいのは、"三船コーチ"が行っている学部と似たところ。あの人が行く場所に間違いは無いだろうし、そこから自分のやりたい事を見つけたい。 当初は同じ大学にしようと考えた。けど、あの場所は難易度が高すぎるッ! 俺じゃ無理ッ! だから、何とかギリギリで行けそうなここにした。正直ここも行けるか分からないけど⋯⋯まぁやるだけやってやる。"三船コーチ"にも良い報告したいし。「さっそく学際理工学部から行く?」「おう!」「あ! 走んないでよ!」 興奮しすぎてもう頭痛い。なんせ、やっと見られるんだからな。一体どんな事をこそこそや
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2. 蒼紅≪Unknown≫
「ここね、こうやってどこからでも入れるんだよ!」 「「おぉ~!」」  まさかの壁だった場所が自動ドアのように開いた。大学関係者なら、L.S.を提示するだけで、どこでも開くそうだ。 「私も初めてこっちに来たけど、中はこんな風になってるんだねぇ」  視界に真新しい世界が広がった。まさに近未来とでもいうのか、各々の研究内容が壁に沿うように、プロジェクションマッピングで流れている。こうして興味を持って貰えるよう、工夫しているのだろうか。  静かな廊下で三人の足音だけが響く。周りを見ながら歩いていた時、ふと一瞬、左奥の通路に数人が過ぎ去るのが目に留まった。 「⋯⋯あれって」 「ん? ザイ?」 「ごめん、ここで待っててくれ」 「え? ちょっと!?」  なんであいつらが今日いるんだ⋯⋯?  ここに来るのは昨日だったはず、それになんで日岡知事が⋯⋯?  静寂を裂くように俺は走り続け、後を付けた。何とも言えない胸騒ぎと好奇心が、自分を掻き立てる。  どこ行ったんだ⋯⋯3人揃って歩いていたはずなのに。  さらに研究棟の奥へ進むと、1か所だけ"変な場所"があった。【ProtoNeLT ONLY】と記載された大きな扉、そこへ3人が入っていく様子が微かに見えた。  行こうとした瞬間、 「ザイ! 勝手に動かないでよっ!」  腕を引っ張られ、そこにはスアがいた。 「どうしたの、急に」 「⋯⋯さっきいたんだ。コウキと大井さんが」 「栖原君とリンカが? その二人って昨日じゃないの?」 「そのはずだろ? それに⋯⋯日岡知事もいた」 「!? あの"行方不明中"の!?」 「共通点の無い3人が、あの中へ入って行った。おかしいだろ?」  意外にも俺を疑わなかったスアは、一つ提案をしてきた。 「⋯⋯それが本当なら、入って確かめる?」  バカな事言わないで戻れって言われると思ったのに、スアは憑り付かれたように興味津々になっていた。  あの"蒼紅が交錯する扉"の先に何があるのか⋯⋯ ― 吸い込まれるように俺たちは足を踏み入れた「⋯⋯なんだ、これ⋯⋯」  そこには、大きな薄暗い講義室に並ぶように、謎の人体模型のようなものが後ろ向きで置かれていた。左右の壁には"コレら"の簡単な紹介映像が立体的に流れ、天井には大きく"未知なるAIを目指して"とある。 「これっ
last updateLast Updated : 2025-07-25
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3. 謎卵≪Ovoid≫
 今日は招待された≪急催R.E.D.//SUMMIT≫に出演する日。 俺以外にも数人の"AR e-Sportsプロ"がやってくる。今回はそういった現実感に特化したゲームのイベントが一部あり、土日の二日間で競って総得点で優勝者を決める。 このイベント、今年から始まる世界大会の"World AR E-Sports Championship"、通称"WAREC(ワレク)"への参加権を賭けたポイントも入るため、他も勝ちに来ると思われる。 だからこそ、"昨日のあの事"ばかり気にしてはいられない。昨日は昨日、今日は今日で切り替えないと⋯⋯ 少し考えていると、上からスアが降りて来た。「よぉ。体調はどう?」「結構寝たら治った。ごめんね、私のせいで大学内あまり見られなくて⋯⋯」「そんくらい気にすんな。どうせ今日の事で、あまり長く回れなかっただろうし」 今一瞬、「それにあんなの見たらなぁ」と口から出そうになり、喉元寸前で止めた。 この話はしたらダメだ、スアがまた思い出して崩れるかもしれない。「ザイは朝ご飯食べた?」「いや、行きで適当に食おうかなって」「なら、夢洲駅に新しく出来た回転寿司行かない? 限定の"サーモンマグロ"、まだあるみたいよ」「おぉ、いいね」 支度が整ったスアと出発し、俺たちは大阪駅へと向かった。 相変わらず"白神楽家(しろかぐらけ)"は居心地がいい。昔から世話になってるのもあるが、俺のもう一つの実家と勝手に思ってる。 スアの両親は夜遅くまで"白神楽病院"にいるのもあって、好きにしていいと言われているのは、よっぽど信頼してくれているのだろう。それか、もう一人の息子と思ってくれてたりして。「ザイ、今日はいけそう?」「どうだろう。自信があるって言えば嘘になるかもなぁ」「珍しいじゃん、ザイがそんな事言うなんて。いつも自信満々なくせに」「今日は"アイツ"がいるからなぁ。最近当たって無かったからラッキーだったんだけど」「あー、"秘桜(ひおう)君"?」「相性悪いんだよ。直近だと1勝5敗っていう⋯⋯嫌いだわ、アイツ」「あの"人外カウンター"、凄いよねぇ。どうやってるのか誰も分かってないもん」 "秘桜アマ"とやるのは毎回しんどい。アイツだけが使える"フェイズバウンド"というカウンター技術が、俺とあまりに相性が悪い。 弾丸の直撃時の軌道位
last updateLast Updated : 2025-07-27
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4. 入場≪Admission≫
『お待ちのお客様、12の席が動きます。座ったままお待ち下さい』 夢洲駅のとある回転寿司。 アナウンスが流れると同時に、俺とスアのL.S.へと、ホログラムメッセージが伝う。案外早く席が空いたようだ。「うわ、ほんとに動いた!」 驚く彼女の顔は期待感に溢れている。この回転寿司店、さっそく面白いのが、【12】と書かれた待機スペースに座っていると、席がそのまま自動で動いて連れて行ってくれる。会計した場合はというと、また席が動き、反対側から出口へと向かってくれる。つまり、店舗内で歩く必要が無く、他の人と会う事も無い。さっきまで【12】にいた人はもういないだろう。 席へ到着するやいなや、お寿司マークの可愛らしい自動ドアによって、俺たちだけのプライベートスペースが完成した。当然、誰からもじろじろ見られる事は無い。が、代わりに「たった今、マグロが注文されました!」というメッセージとコミカルな動画がドアビジョンに流れる。こうしてリアルタイムで人気ネタを伝え、購買意欲を促しているとの事。 さて、頼むのはもちろん"サーモンマグロ"。この2匹が一体化した魚とはどんなものなのか、やっと食べられる日が来た。 "残りあと50皿"と、自分のオーダー用非接触パネルに明記されている。スアの方の注文画面にも、同じ物が出ているだろう。 それにしても、この非接触パネルは、L.S.のホログラムタッチパネルの下位互換ではあるが、まだまだ便利だなと思う。自分の角度からしか見えないタッチパネルビジョンの技術、これが一気に普及したからこそ、L.S.という化物デバイスが出てきたのだから。「どんな味なんだろうね、サーモンマグロ」「白神楽スア様のおかげで食べられます。ありがとうございます」「⋯⋯どしたの? 私のとこの病院行く?」「はい、行かせて頂きます」「食べた過ぎて壊れちゃってるし」 だって、朝に来てなかったら絶対売り切れてる。感謝しかないだろこんなの。 そして、サーモンマグロはやって来た。 ⋯⋯ネットで見た通りのやつだ! こんな魚がいるのが未だにピンと来ない。サーモンとマグロが交互にボーダー柄のようになっている。レビューでは、"とにかく2匹のいいとこ取りの味"とあったが、分かるかいそんなの。「では、ザイさんからどうぞ!」 屈託のない笑顔で言うスアは、俺の感想を待っている。「⋯⋯よ
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 ― アフターバンパクシティ 2025年の大阪万博終了後、地下跡地へと新しく作られた、最新AIで駆動している地下都市。あらゆる都市機能の超高度化・効率化したものの導入を目指し、全てAIによって賄われているそうだ。 1ヵ月前くらいから開業したんだっけか。動画で予習してきたから、どの辺に何があるかは何となく分かる。このまま真っすぐ歩いて、突き当たりを左、その次の突き当りを右だ。まぁ、マップ開けば分かる話なんだけど。 ここの面白いところは、特定の壁に近付くと、その壁へ小さくマップ表示できるようになっているところ。他にもいろんなアクションが施され、どんな人でも散策できるようになっている。 大阪万博で人気だったパビリオンの一部紹介も行われており、一日中歩き回ってる人がいるのも頷ける、食い物とかも安いし。 それにしてもデカい。地下でこんな都会があるなんて、暇しないだろうな。「あ、見えてきたよ! ザイ!」 ― 竜星天守閣 その名の通り、屋根から竜の顔が数体飛び出し、星のように輝いている。派手な近未来城の見た目から、離れていてもすぐに気付く外観。こんな場所にこんなの、よく作ろうと思ったな⋯⋯ 今日はここで≪急催R.E.D.//SUMMIT≫の一つ、"L.S.専用ARゲームのLast Twilight 4"の対戦イベントが行われる。そして、一番最後には、AI総理のスペシャル対談が控えている。他にも竜星天守閣外では、最新AIの体験や展示会やゲームイベントがあり、これらを一括りにしたのが、この≪急催R.E.D.//SUMMIT≫。 メインはAI総理の対談だけど、それに負けないくらいに盛り上げたい。これ目当てに見に来てる人だって、いるはずだから。「意外と近かったね」「ここに入って5分くらいか」「ね。これなら皆も来やすくていいね」 既に何人も入っていってる。このエリアは今日から解禁だから、何があるのか分かっていない。 入った瞬間、変なロボットがこっちに向かってやってきた。左が猫耳で右が兎耳の、謎なマスコットキャラのようなのが。『喜志可ザイ様、白神楽スア様、お待ちしておりましたウニャ! この"ウサネッコ"に付いて来てもらえますかウニャ!』 ぺこりと一礼した後、この小さなマスコットキャラは、テンション高そうにまた二足歩行し始めた。「可愛いね、ウサネッコだって
last updateLast Updated : 2025-07-30
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 早速モアとスアは、多くの人から声を掛けられ、サインも書いている。 いいよな、可愛くて強くて人気なんだから。 さっき楽屋前でケンに"偽プロ"と言われたが、その通りでしかない。 俺は本当のプロではない。骨折した人の代わりとして、繰り上がりで今期枠に入れて貰ってるだけ。ちょっと前の大会で運良くアマに勝ったもんだから、"次に来る日本プロプレイヤー30名"に載ってしまっただけの無名。 その時は、アイツのファンにSNSで叩かれまくった。ここでも誰かに勝ったら、どうせヤジが飛んでくる。 が、そんなの関係無い。"三船コーチ"と約束したんだ、"いつかあなたと対峙出来る存在になりたい"って。「すみません、ザイ先輩! お待たせして⋯⋯」「ザイ、ごめんね~!」「⋯⋯」「ザイ?」「ザイ先輩⋯⋯?」「ん、あぁ、行くか」 あまりに広い天守閣。 様々な店舗が並び、それだけでも楽しめるようになっている。その道中、当然俺の応援は一つも無い。「あ! ここの"竜星クレープ"食べてみようよ!」「いいですね! ザイ先輩もどうですか⋯⋯?」「俺はいいよ、二人で食べな」 さっきの夢見寿司で充分食べたんだよなぁ。なのに、スアの胃袋はどうなってやがんだ⋯⋯これが甘い物は別腹か。 かなりの行列だったのに、案外早く自分たちの番がやってきた。俺が二人分を払い、クレープをそれぞれ渡すと、ある人物と目が合った。 帽子を被ってマスクし、赤レンズの"ハイスマートグラス"を付けているが、風貌で何となく分かる。 だが気付かないフリをし、近くのテーブルへ座った。あの格好からして、触れない方がいいに違いない。ってか、話した事もないのに、いきなり話しかけるのもおかしい。「ありがとうございます。奢って頂いて」「ありがとね、ザイ! こんな事をさらっとしちゃってさ、さらにモテちゃうねぇ」「全くモテねぇわ、モテてるのはあんたたちだろ」「んな事ないよぉ。ねぇモアちゃん?」「ザイ先輩、これ以上モテないでください、お願いします⋯⋯!」 いや、どういうお願いなんそれ。 すっごい上目遣いで言われているんだが⋯⋯ それより、その角度見えるんだって、アレが。グレー色のアレが⋯⋯! ⋯⋯やっぱ胸でっか この後も、いろんなスイーツを堪能していた女子二人。天守閣ティラミスだの、ネオキャッスルパフェだの。
last updateLast Updated : 2025-07-31
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7. 取決≪Arrangement≫
 楽屋へ戻った瞬間、アイツと目が合った。 帽子、マスク、赤レンズの"ハイスマートグラス"で隠れて、こっそり並んでいたアイツと。「⋯⋯」 そんな睨まなくてもいいだろ⋯⋯「⋯⋯今日は、よろしく」 俺がそう呟き、自分の部屋へと入ろうとした時だった。「ねぇ、なんで君なんだ?」 突如そう言われた。「なんで僕じゃなくて、"三船さん"は君に付いている? 僕にこそ相応しいのに」 どうやら、三船コーチが俺に付いているのが気に食わないらしい。 これまで話した事も無いのに、いきなり失礼な野郎だよ。「⋯⋯そういう取り決めなんだから、仕方ないだろ」 そう言うと、冷たい表情で俺の顔を見た。「それでも、認めない。あの人はこんな所にいるべきじゃない」 ⋯⋯分かってんだよ、そんなの  ― 【境覇宰星《きょうはさいせい》】の三船ルイ それを持っている者は試合を出禁とされる、もう誰も取る事が出来ない唯一無二の称号。これは不名誉な物ではない。一撃も食らう事無く、一撃も外すことなく、これまでの出場大会全てを優勝し続けた者にしか与えられない。 この界隈の人間なら誰もが欲しがる称号で、知らない者はいない。ただ、彼は名前と顔を隠して試合に出ていたため、素性を知るものはいないと言われていた。 が、最近になって名前を公開し始め、そろそろ復帰するのではないかと噂されている。 こんな凄い人が、なぜ俺のコーチをしてくれているかというと、運営から一つの指示があったからだ。 ― プロとしての実力が足りないため、あの人に付いてもらう たぶん三船コーチにとって、これも復帰のための条件の一つなのだろう。あまり勝てていない俺の面倒を見る事で、さらに大会に復帰し易くする、みたいな。きっと三船コーチも、本当は乗り気ではなかったはずだ。 なのに、三船コーチは毎回会う度、そんな素振り一つ見せない。いつも楽しそうで、本気で俺が勝つ事を考えてくれる。その結果の一つが、人外カウンターの使い手である"秘桜アマへの勝利"だった。 三船コーチは死ぬほど喜んでくれて、夜中遅くでも焼肉に連れて行ってくれて、次の作戦を練ってくれた。自分の事だって、いろいろと忙しいはずなのに。だって、あの人が経営する事務所には、"日本代表の有川シンヤさん"がいる。 たまに有川コーチとしても参戦してくれたり、もう何もかも助けて貰
last updateLast Updated : 2025-08-02
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8. 初戦≪FirstRound≫
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last updateLast Updated : 2025-08-03
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9. 海銃≪LevaNoiA≫
 始まった瞬間、ケンは何かを使って飛び上がり、なんと天井に逆さで立って見せた。 「お前の事はよく知ってんだ、逆にお前も俺の事をよく知ってるだろ? だが、こいつは知ってんのか? あぁッ!?」  想定していない場所からの激しい銃撃が続き、俺は何も対応できないまま2ラウンド取られていた。  1試合は3ラウンド。頭か心臓に攻撃が入った時点で1ラウンド取られるため、天井からの一撃はあまりに有利だった。 「てめぇはな、家でのんびり"WAREC"見とけや、な?」  ヤツの特に厄介のところは、こっちが天井に撃っても、なぜか弾が届かずに止まって落ちてしまうところだった。まるで勢いを失ったかのように、何も銃の意味を成していない。 「おい、早く諦めろやッ!! そうやって逃げ回って無駄な時間稼ぎすんじゃねぇッ!!」  どうにか撃たれる前に遮蔽物へと走り、防ぎ続けているが、もうあまり耐えられそうにない。 「だからてめぇは"偽プロ"なんだよッ! スアちゃんの枷になってる事、さっさと気付けやッ!!」  枷⋯⋯?  俺が⋯⋯スアの⋯⋯?  不意にスアが俺に話しかけて来た風景が浮かんだ。あの時の顔は、俺の事をそんな風に思っていないはずなんだ。 「"昔の事"をいつまでも引きずらせやがってッ! スアちゃんの優しさに、いつまでも付け込んでんじゃねえぞッ!!」  こんなどうでもいい言葉に、なんで動揺してんだ俺は⋯⋯  スアはずっとその事を気にして⋯⋯? ♢ 高1春の入学式。 「どう? 好きなりそ?」  ピンクのプリーツミニスカートを靡かせ、俺に喋りかけてくる彼女。  今日からお互い高校生。それを示すように、俺は水色の制服、スアはピンクの制服を着ている。 「会ってそうそう何言ってんだよ」  俺が先に歩き出すと、スアが隣を歩き出す。 「ザイ似合うね~、やっぱこの高校の制服、かっこいいね~」 「それ俺が似合うんじゃなくて、制服が格好いいだけだろ」 「んな事ないよ~。ほれっ!」 「おいっ!? 何やって!?」  突然スアは俺の腕に飛び付いてきた。ピンクのブレザーの上からでも、胸の感触が伝ってくる。 「ね? 似合ってるのが分かったでしょ?」 「分かったから! こんな人前で変な事すんなって!」 「変な事じゃないでしょ~。付き合いの一つだもん」  いやここ日本だし
last updateLast Updated : 2025-08-06
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10. 勝決≪WinnersFINAL≫
「ねぇねぇ! あんな凄いの隠し持ってたんだ! 三船コーチから何か裏技でも教えてもらったの~?」 「⋯⋯まぁ」  スアだけでなく、モアまで駆け寄って来た。 「いつもの"コバルト・ハイスマートグラスガン"に見せかけたあのやり方、鳥肌立ちました⋯⋯! 今後の参考にさせて頂きます⋯⋯!」  目をギラギラ輝かせる女子二人を前に、俺は何も答える事が出来なかった。  だって知る訳が無い。こんなの、三船コーチと訓練して得た結果じゃない。それに、あの"脳内を巡った謎の声"はなんだったんだ⋯⋯?  あの声で不思議と身体が落ち着き、銃に秘めた何かをスムーズに扱える感覚があった。どう考えてもおかしいのに。 「おい」  その声に振り向くと、ケンがいた。 「お前も隠し玉用意してたんだな。あんなやべぇの、どこで手に入れたんだよ⋯⋯。けど、俺はまだ諦めてねぇから。LOSERSから這い上がってやる、ぜってぇに」  そう一言だけ残し、楽屋の方へ行ってしまった。 「八花先輩って、スア先輩の事めちゃくちゃ狙ってる感じですよね」 「んー、だよねぇ。別に特別嫌いじゃないんだけど、目がエロいっていうか⋯⋯モアちゃんならこの感じ、分からない?」 「分かります~! 胸とか足とかずっと見てくるアレですよね。ワンチャンいけるんじゃないかってあの感じ、マジ無理です」 「あはは⋯⋯。でも、たまにザイとチーム組んでやってたりするからさ、そこを壊さない関係ではいたいんだよねぇ」 「大変ですね⋯⋯スア先輩も。それに比べてザイ先輩は安心感があってかっこよくて、(すき⋯⋯)、じゃなくて! 話しやすいです⋯⋯!」  取ってつけた感が凄いな。最後の方に好きって聞こえたような気がしたけど⋯⋯さすがにそんな訳無いか。  これからも、このファン二人に嫌われないよう、しっかり立ち回るのも大事そうだ。 『男子プロ部門1回戦の結果一覧がこちらになります。しばし休憩の後、次は来場者との対戦イベントを開始します!』  結果を見ると、アマの方は3-0で圧勝していた。やっぱり優勝候補、この大会内でも抜けて強い。このまま進んでいけば、WINNERS FINALでアイツが待っている。上手く進めばの話だけど⋯⋯  この"近海銃リヴァノイア"ってのは一体なんなんだ⋯⋯?  シークレット実装として、新しくゲーム内にこっそりあ
last updateLast Updated : 2025-08-12
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