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第591話

北野 艾
「お姉ちゃん、今日はやけに気合入ってるね。柊也さんとデート?」部屋に入ってきた美穂が目を輝かせる。

志帆は鏡の前で髪を整えながら、ふふっと笑った。

「違うわ。今日は大事な投資家の方と会うの」

そう言いながら、ジュエリーボックスを開ける。美穂はここぞとばかりに派手なダイヤのネックレスを指差したが、志帆はそれを無視して、清楚な鈴蘭を象った小ぶりなイヤリングを選んだ。

「えっ、それだけで行くの?」地味すぎない?と美穂が首を傾げる。

「これがいいのよ」

さらに志帆はクレンジングシートを取り出すと、完璧に仕上げたはずの真紅のルージュを拭い去ってしまった。

「あーっ!せっかく塗ったのに!」

「……色が強すぎるのよ。これじゃダメ」

数多の男を見てきた志帆の直感が告げている。

二階堂澪士という男は、派手で自立した女よりも、守ってあげたくなるような「儚げな少女」を好むはずだ。

彼女は薄付きのグロスを引き直し、今流行りの「すっぴん風メイク」を完成させた。鏡の中には、計算され尽くしたか弱きヒロインが映っている。

「完璧ね」

満足げに立ち上がる志帆に、美穂も慌ててバッグを手に取った。
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