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第3話​

川辺の夕映え​
柊人が家に帰ってくると、目を真っ赤に腫らして泣いている私の姿が見えた。

彼は私を力いっぱい抱きしめ、その瞳にはいたわりの色が浮かんでいる。

「七瀬、ごめん。

あの時、親父が病気で亡くなって、俺はK市に戻って家を継ぐしかなかったんだ。君は出身が貧しすぎて、おふくろが結婚を許すはずがなかった」

私はこれ以上聞いていられず、泣きながら彼を突き放した。

「だから、他の人と結婚したの?柊人、この七年間の遠距離恋愛は何だったの?」

柊人は見下ろすように私を見つめ、その瞳はいつもの冷静さを取り戻した。

「七瀬、俺は岩月家の一人息子だ。果たさなきゃいけない責任がある。えみりとは家柄も釣り合ってるし、政略結婚は両家にとって最適な選択だった。

えみりも言ってた。君が大人しくしてるなら、見て見ぬふりをして、俺のそばにいてもいいって」

私は顔を上げて彼を見つめると、涙が頬を伝って落ちた。

柊人は身を屈め、指先で私の目尻の涙を拭った。

「七瀬、これだけ長く一緒にいたんだ。無下にはしない。K市に残りたいなら、俺の秘書として会社に入れるよう手配する」

私は彼の頬をひっぱたいた。呆然とする彼を後にして、スーツケースを引きながら足早に屋敷を飛び出した。

タクシーで去る途中、柊人から音声メッセージが届いた。

「七瀬、わがままを言うな。岩月グループには入りたくても入れない人間が山ほどいる。三日間やるから、よく考えろ」

続けて、彼から200万円の送金があった。

これまでは秘密を守るために、一度の送金額が二万円を超えなかったのに。今や、ためらうことなく200万円を送金した。

私は返信せず、お金をすべて突き返した。

アパートを借りて落ち着いた後、再びスマホを開いた。

ネット上で炎上している。

誰かが、岩月グループのビルの前で私がうろたえている動画をネットにアップしたのだ。

動画の中の私は、視線を泳がせてひどく無様な姿だ。

トレンドには、#岩月柊人が不倫・#泥棒猫が大胆にも会社に乗り込んできた、という言葉が並んでいる。

私が本物の恋人なのに、いつの間にか、世間から軽蔑される不倫女に仕立て上げられた。

私は意を決して、柊人とのこれまでの歩みと、チャット履歴をネットに投稿した。

その内容をよく見ると、私と柊人の交際が、彼とえみりの結婚よりもずっと前から始まっていたことは明らかだ。

世論は一変し、ネット上はクズ男への罵倒で溢れ返った。

柊人から何度も電話がかかってきたが、すべて拒否した。

数分後、えみりがSNSに結婚指輪の写真を投稿し、夫婦仲が円満だと投稿した。そして、私が売名のために自作自演をしていると非難したのだ。

岩月グループの広報チームも動き出し、私が投稿したチャット履歴は捏造だと断定し、名誉毀損で訴えると警告書を突きつけてきた。

ゴシップサイトなどはこぞってデマを流し、私を本妻に牙を剥く愛人だと罵った。

コメント欄は完全に荒れ果てた。

【不倫女の反撃失敗、おまけに弁護士から警告とか(笑)】

【やっぱり本当の妻は格が違うわ。一言でこの図々しい女を黙らせちゃうんだもん!】

【人の家庭を壊しておいて、売名までしようとするなんて、虫唾が走るわ!】

……

私のDMには罵詈雑言が溢れ、死ねという呪いの言葉まで届いた。

30分後、私の投稿は消され、アカウントは凍結された。

大物の勢力の前で、自分がいかに滑稽な存在かを初めて思い知らされた。

スマホの着信音が何度も鳴り響く。出ないでいると、相手はしつこくかけ続けてきた。

仕方なく、通話ボタンを押した。

かけてきたのは柊人ではなく、えみりだ。

「秋永さん」彼女の声には、嘲りの色が混じっている。「少し、話をしようか」

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