乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!

乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!

last updateLast Updated : 2026-08-11
By:  三木猫Updated just now
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現代日本風乙女ゲーム『輝け青春☆エイト学園高等部』通称『エイト学園』の世界に転生してしまった佐藤美鈴。男性恐怖症を持ちながらも何とか家族や友達、先生や後輩達に支えて貰いながら成長し高校もいざ卒業となり、乙女ゲームの時間が終わると思った、その時母親からある真実を知らされる。 美鈴は一つの道を選択した。けれど、もしその時の選択肢が違ったならば…。 この外伝は、美鈴が選ばなかったIF(もしも)のストーリーと結末である。 ※この物語は本編の最終章第三十話の続きから、他の攻略対象キャラクターを美鈴が選択した場合のifストーリーとなっております。

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Chapter 1

外伝第一章 御三家ルート 第三十一話 無限ー御三家編ー

どんな男の心にも、手に入らなかった「特別な女」がいるという。

江崎詩織(えざき しおり)はずっと、賀来柊也(かく しゅうや)だけは違うと信じていた。なにしろ二人は、若い頃からずっと一緒にいたのだから。

でも、そんなのはただの幻想だった。

結局、誰もがそんな「忘れられない人」を胸に抱いて生きている。柊也もまた、その例外ではなかったらしい。

詩織が柊也と付き合い始めたのは18の時。それから、もう7年が経つ。

二千日を超える夜と朝を共にし、誰よりも深く肌を重ねてきたというのに。それでも、彼が若い頃に一度だけ目にしたという女性の面影には、敵わないなんて。

なんだか、笑えてくる。

7年もかけて、一人の男の本心さえ見抜けなかったのだ。

一体どれほどの想いだったのだろう。こんなにも長い間、その人を胸の内に秘めさせてしまうほどだなんて。

詩織の意識が逸れていることに、彼女の上で激しく体を動かしていた柊也は気づいた。不機嫌さを隠しもせず、彼女に集中を促す。

彼はベッドの上では、いつも貪欲だった。

その拍子に、彼の腕がベッドサイドに置かれていた黒いビロードの小箱に当たった。

落ちそうになったそれを、柊也は慌てて受け止める。下にいる詩織に当たらないように。

見慣れないものだったからだろう。彼は珍しく興味を示した。

「なんだ、これ」

詩織は感情の読めない表情でその小箱をひったくると、無造作にベッドの脇へ放る。そして柊也の首に腕を絡め、喉仏に唇を寄せた。

「こんな時に別のものに気を取られるなんて。もしかして、私に飽きたの」

その吐息まじりの囁きに、柊也は抗えない。小箱のことなど一瞬で思考の彼方へ追いやられた。

男が自分に夢中になっているその時、詩織は傍らに追いやられた黒い小箱に視線をやった。瞳が、じわりと潤む。

──柊也、あなたはこの箱の中に何が入っているかなんて、永遠に知ることはないのよ。

……

ひと月前、エイジア・キャピタルが上場を果たした。柊也の仲間たちが、彼のためにささやかな祝賀パーティーを開いてくれた。

詩織はめいっぱいお洒落をして、そのパーティーで柊也にプロポーズするつもりでいた。

本来、そういうことは男がするべきだろう。

でも詩織は、柊也を深く愛していたから。彼のためなら、女の意地もプライドも捨てて、自分からプロポーズしたって構わなかった。

この日のために、彼女が丸7年も待っていたなんて、誰も知らない。

柊也は仕事一筋の男だった。詩織はそんな彼のために、好きだった専攻を変え、興味のなかった金融の世界に飛び込んだ。

大学を卒業すると、海外の有名大学からの誘いも断り、エイジア・キャピタルに入社して柊也を支えた。

一番下の平社員から、一歩一歩キャリアを積み上げ、彼のトップ秘書にまで上り詰めたのだ。

その裏にあった苦労は、詩織本人にしかわからない。

付き合い始めて一番夢中だった頃、詩織は何度も柊也に問いかけたくなった。

「私と、結婚してくれる?」

けれど、その言葉を飲み込んで、結局一度も口にすることはなかった。

母がよく言っていた。贈り物も愛情も、自分からねだるものじゃない、と。

相手が自ら与えてくれるのが「愛情」で、こっちから求めるのはただの「施し」よ、と。

それに、柊也は愛情を言葉にするような男ではなかった。

これまでの長い間、彼の隣には詩織しかいなかったし、他の女性の影など一度も見えたことはない。

だから結婚は、二人にとってごく自然な成り行きのはずだった。

詩織はその未来を信じて、これまで会社の矢面に立ち、がむしゃらに戦ってきた。

仕事の大小や困難さなんて、関係なかった。

交渉のためにどれだけ酒を飲み、何度病院に担ぎ込まれたか、自分でももう覚えていないくらいだ。

急性アルコール中毒で流産した時は、手術台の上で本当に死にかけた。

親友の近藤ミキ(こんどう みき)が彼女に尋ねた。

「死の淵を彷徨って、少しは後悔した?たった一人の男のために、自分をこんなボロボロにしてまで、それって価値のあることなの」

詩織は迷いなく頷いた。

「価値はあるよ」

そんな詩織に、ミキは称号を授けた。

『愛に突っ走る勇者』!

そして、こう言った。

「あんたが、負けないことを祈ってる」

その時の詩織は、自信満々に答えたのだ。

「柊也が私を負けさせたりしない」

その信念だけを頼りに、彼女はエイジア・キャピタルが上場するその日まで、ひたすら耐え抜いたのだった。

柊也が本港市で上場を知らせる鐘を鳴らしたあの日、詩織が部屋に閉じこもって、一人で泣きじゃくっていたことなど誰も知らない。

泣き終えると涙を拭い、詩織は柊也へのプロポーズのサプライズを準備し始めた。

仕方ない。柊也はあまりにも忙しすぎた。

エイジア・キャピタルが上場を果たし、いくつものプロジェクトを抱えている。親しい友人や仕事仲間からの祝いの席にも、次から次へと顔を出さなければならない。二人のことまで考える余裕なんて、きっとないはずだ。

だから、自分から動くことにした。

柊也の負担を、少しでも軽くしてあげたかったのだ。

早くから覚悟を決めていたというのに、いざその瞬間を前にすると、詩織は心臓が張り裂けそうなくらい緊張していた。

ドアの外に立ち、何度も深呼吸を繰り返しながら、震える手をもう片方の手でさする。

口を開く前に声が詰まって、暗記するほど練習したプロポーズの言葉が出てこなくなってしまいそうで、怖かった。

ドアの向こうではパーティーがたけなわで、男たちの大きな話し声が聞こえてくる。

「なあ柊也、柏木志帆(かしわぎ しほ)とはまだ連絡取ってんのか」

「柏木志帆?それって、柊也の『忘れられない女』だろ?なんで今さらその名前が」

「あいつ、近々桜国に帰ってくるらしいぞ」

「マジで?じゃあ、柊也もついに本命とよりを戻せるってわけか」

その言葉に、興奮で微かに震えていた詩織の手が、ぴたりと止まった。

「つーか、志帆ちゃんの親父さん、最近じゃかなり出世してるらしいじゃないか。柊也が彼女と結婚すりゃ、柊也自身にとっても会社にとっても、メリットは計り知れないだろ。エリートと美人のお嬢様、家柄だって釣り合ってるしな。

しかも相手は柊也の『忘れられない女』だ。仕事も恋も、一気に手に入れるってか。最高じゃん」

そう言ったのは、柊也の幼馴染である宇田川太一(うだがわ たいち)だった。

自分は柊也と「ガキの頃からの付き合いだ」といつも豪語している男だ。彼の言葉に、嘘はないのだろう。

柊也に……忘れられない人が、いたなんて。

詩織の心臓が、不意にぎしりと軋むような痛みを立てた。

「じゃあ、詩織さんはどうなるんだ?」誰かが興味本位といった口調で尋ねる。「なんだかんだ、もう長年尽くしてくれたんだろ」

太一は、それを鼻で笑った。

「手切れ金でも渡してやればいいだろ。

そんなに惜しいなら、結婚してから囲っとけばいい」

彼の周りでは、そういった男は珍しくもなかった。家庭を壊すことなく、外にも女を作る。それが彼らにとっては当たり前の感覚だったのだ。

ドアの外で、詩織は感覚がなくなるほど強く拳を握りしめていた。

彼女は、柊也の答えを必死に待っていた。

彼がすぐに反論し、そして皆に宣言してくれることを。愛しているのは詩織で、結婚するのも詩織なのだと。

しかし、いくら待っても聞こえてきたのは、彼の気のない一言だけだった。

「いつからそんなゴシップ好きになったんだ、お前ら」

反論も、否定もしない。

それは、まるで事実だと認めているかのような響きだった。

「はいはい、わかったって。せっかくのめでたい日なんだ、もっと面白い話をしようぜ。退屈で寝ちまいそうだ」

太一がソファから身を起こし、その場の空気を変えようとする。彼は札付きの遊び人で、いつも変わったゲームを提案しては場を盛り上げる役だった。

「各自、今までで一番ヤバかった経験を一つ話すってのはどうだ」

すると、誰かがとんでもないことを口にした。

「カーセックス」

太一が茶化す。

「そんなの、別にヤバくもなんともねえだろ」

相手は付け加えた。

「新幹線で、な」

その一言で、個室全体がどっと沸いた。

「お前、やるな!」

太一は興奮気味に、退屈そうにしている柊也に尋ねた。

「柊也は?なんかヤバい経験あるか」

柊也は数秒考え込んだ後、静かに口を開いた。

「好きな女のために、不倫した」

その一言で、部屋中が先ほど以上に沸き立った。

あの賀来柊也が、だぞ。この江ノ本市でも指折りの名家の跡取りで、どんな女だって手に入るはずの男が。本気で愛していなければ、そんなことまでするはずがない。

太一の反応は、誰よりも激しかった。その甲高い声は、ドアを隔てていても詩織の鼓膜をビリビリと震わせる。

「相手、柏木志帆だろ!やっぱりまだ志帆ちゃんのこと、好きだったんだな!昔、お前は志帆ちゃんが好きで、志帆ちゃんは俺のいとこ、宇田川京介(うだがわ きょうすけ)が好きだった。だから、お前は不倫相手に甘んじたのか! 柊也、お前ってやつは……マジもんの純愛ファイターだな!」

男たちの囃し立てるような笑い声が、頭から浴びせられた冷水のように、詩織の体を芯から凍えさせた。

胃の奥から、何かがせり上がってくる。気持ち悪さに耐えきれず、詩織はその場にゆっくりと蹲った。

太一はまだしつこく食い下がっていた。

「なあ柊也、正直に言えよ。十月十日、お前、志帆ちゃんに会っただろ」

柊也が聞き返す。

「なんで知ってる」

「あいつがあの日、SNSに上げてたんだよ。『再会はこの世で一番ロマンチックなこと』だってさ。絶対あんただと思ったぜ!

で、どうだったんだよ、その夜は。再会を祝して一発、ってとこか?」

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第三十二話① 表裏の輪
私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でもさ?私今意識あるよね?こうやって考えていられると言う事は意識が戻ってるって事だもの。 と言う事は、意識は戻ってるけど、目を閉じているだけ、って感じ? …じゃあ、目を開けば…。 閉じていた目を開くと。ででんっ!「ふみっ!?」 目の前に毎度恒例ママのドアップ。 これ、本当にびっくりするから勘弁して欲しい。 ばっくばっく言う心臓を抑えつつ、数歩後ろに引くとママはこれ見よがしに大きなため息をついて私に呆れた目線を向けた。 「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」 「へ?」 本?廊下? 何を言ってるのかな?ママは。 何をぼんやりしてるって私の方が聞きたいし。刺された娘に本を持って廊下に立ってろなんて、なんとゆー拷問。 大体刺されたお腹だって……あれ?お腹に包帯も何もない。痛みもない。 え?ちょっと待って。そもそもなんで私、本を持って立ってるの? 「美鈴?聞いてるの?本を持って廊下に出てみなさい?」 「ふみ?」 全く状況を理解出来なくて首を傾げる。 待って?これどういう状況?本を持って、廊下って、え?さっぱり解らないんだけど。 手に持っていた本を見てみる。RPGに出てきそうな…って、これも前に思ったけど、これってセーブの本だよね? この本は私の部屋からは持ち出す事は出来ないって、もう実証済みだよね?一回やったもんね?結果は解ってるんだし、何度もやらなくてもいいんじゃ…? と言うか…今気付いたけど、ここ私の部屋じゃない? 周りを見渡してみても…うん、間違いない。私の部屋。
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第三十二話② ※※※
「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。でもこれはヒロインが持つべき本らしい』これは確かに私が書いた。それは間違いない。でも以前書いた時と違う箇所がある。私の書いた文字じゃない。それは以前と変わらない。違うのは勝手に浮かび上がった日付の後ろにあるハートの数だ。私が最初に見た時は三つあった。それが今は一つになっている。それを見て私は確信した。間違いない。これ、『残機』だ。残機って言うのも解り辛いかな?『ライフ』と表記するゲームもあるし。要は失敗できる回数って奴だ。RPG系のゲームには珍しいものでもある。これが良くあるのはそう、例えば土管工のおじさんが巨大亀を倒しに行くあのアクションゲームとかかな?今は土管工ゲームについての詳細は省くけれど、何故私がこのハートにその役割があると思ったのか。それは、私の記憶から解る事。恐らく、私は二回、『死んだ』のだ。一回目は、旭に化けた表門の女に刺された時。二回目は、旭を庇った時に投げられた、多分即死効果のある毒針を刺された時。初めて死んでゲームをやり直した時。私はこのセーブの本をちゃんと確認しなかった。今の状況が夢か何かだと思いたかったから。事実として受け入れ難くて、それに皆の安全を優先したかったのもある。だから本を確認しなかった。でもそれじゃ駄目なんだ。今になってママが以前言っていたこの世界はゲームの世界だって、油断するなって言った意味を痛感した。私は机に駆け寄りペンをとる。『何の因果かは解らない。だけど、今解る事を書き記そうと思う。いつどんな状況でまたやり直す事になるか解らないし、もしかしたらやり直せないかもしれない。でもこの本は役に立つ。使い方次第だか
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第三十二話③ ※※※
それから、襲撃のある8日まで。私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。…私、本当にこれでいいのかなぁ…?ちょっと不安になるよね。だって、お兄ちゃん達は忙しく動き回ってくれてるってのに、私はここで華菜ちゃんと楽しく会話しながら、仕事をしているだけなんて。いいのかな…?こんなんで…。お兄ちゃん達の仕事だって滞るよね…。お兄ちゃん達のお店にだって迷惑がかかるだろうし…。…お兄ちゃん達に何か他に出来る事ないかって聞きに行こうかな…。最悪何も出来なくても差し入れだけでも…。うん、そうしよう。開いていたパソコンを閉じて、お財布を持って。部屋で勉強していた華菜ちゃんに断りを入れて、買い物に出る。おー。いー天気ー。朝からこんなに晴天だとお昼頃には暑くなるかもなー。動きやすい恰好で出て来て正解だったかも。えっと今日は何を買おうかな。お昼ご飯はもう決まってるから、晩御飯の材料かな。今日の晩御飯は…華菜ちゃんパパのリクエストでもつ鍋ですっ!前回、華菜ちゃんママのリクエストを聞いたら華菜ちゃんパパが拗ねちゃったからね。今日は華菜ちゃんパパのリクエストっ。まずはもつ鍋の一番の目玉である『もつ』を買いに行かなきゃ。透馬お兄ちゃんのお店が肉屋さんだから丁度いい。お肉、お肉~。どんな時でもお買い物って楽しいよね~。あ、勿論警戒は怠ってませんよ?ふっみみみ~♪脳内でのみ鼻歌を歌いつつ、少し軽い足取りで透馬お兄ちゃんの実家のお店へ向かっていると、「きゃあああああっ!!」えっ!?何事っ!?突然の叫び声。…叫び声だけど、どっちかと言うと喜び系の叫び、所謂黄色い声だったような?女性が群れをなして走って行く。しかも皆三方向へ割れた。途中まで同じ方向に走ってたのにっ?直角に割れて行くよっ!?あーゆー時の女子の
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第三十二話④ ※※※
車で揺られる事、数時間。 「そろそろ目的地に近いと思うんだけどー」 大地お兄ちゃんの言葉に私は、運転席と助手席の間から顔を出して、カーナビを見る。 確かにそろそろ免許証にあった住所につく。 なんてこったい、案外近かった…。 高級住宅街。言うだけあってそれはそれは立派なお家が建ち並んでいる。 そんな住宅街のド真ん中に、後藤鉄平(ごとうてっぺい)宅はあった。 「うぅ~ん、確かに立派な家だけど…」 「姫さん。白鳥家と比べたらあかんで?」 「あ、うん。それは勿論比べたりはしないけど。でも、なんでかな?高級なお宅感があんまりしないよね…何で?」 「言われてみたら確かに。何て言うん?こう…悲壮感が漂うてると言うか…」 悲壮感?窓の外を見ると、高級な住宅が何軒も建ち並んでいるが。どこの家にも高級住宅街と言うには違和感がある。 一体何が他の高級住宅街と違うのかな? じーっと違和感を探る。高級住宅……あれ? 「あぁ、そっか。庭とか壁とか全部放置されてるんだ」 「?、姫さん?」 「ほら、奏輔お兄ちゃん。見てみて。普通の高級住宅なら、誰かしらがお庭の手入れとか、壁の修繕とかするはずだよね?なのに、見て。外観の目立つ所以外は」 「あぁ、なるほど。…元々あった金を当てにして、何もせぇへんからこうなるんや」 車がゆっくりと狙いの後藤家の前に止まる。一先ず降りたりはせずに、車の中から家の中の様子を窺った。……特に私達の事は報告されている訳では無さそうだね。報告が行ってるのなら、この車にだって何しかしら反応を示すはず。スッと後藤家の窓の方に視線だけを向ける。…視線は感じない。こちらの様子を探っている訳でもなさそう。 視線を車の中へ戻すと、前に座っているお兄ちゃん達もこちらを振り返っていた。目を見ると、お兄ちゃん達も真剣に頷いた。きっとお兄ちゃん達も同じ結論に達しているんだろう。 「まず、俺が行って様子を見てくる」 シートベルトを外した透馬お兄ちゃんが車を降りた。 門の前に立ち、律儀にチャイムを鳴らすと、奥さん?らしき人が出て来た。 透馬お兄ちゃんを見て、一瞬固まったかと思うと一言二言話して、会釈して戻って行ってしまった。 透馬お兄ちゃんがそれから数度チャイムを鳴らすけれど、奥さんらしき人は戻って来なくて。透馬お兄ちゃんはそのまま車に戻って来た。
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第三十三話① 白猫が奏でるは魔學士の夢(嵯峨子奏輔編)
「奏輔お兄ちゃんっ!」叫んで。 トスっと背中に衝撃がきた…と思ったけど、あれ?痛くない? 閉じていた目を開いて、そっと振り返ってみると。 確かに私の背中に矢はぶつかっていた。 けど刺さってない。 むしろくっついているが正しい。吸盤でこうぴったりと。 あれ?もしかして使われた矢って玩具の矢だった? でも、あっちから感じた気配は完全に狙ってきたものだと思ったけど…。 首を傾げていると、私が庇った筈の奏輔お兄ちゃんが急に私の腕を肩から引っ張り上げて背負った。 しかもそのままくるんと半回転。 「ふみっ!?」 慌てて奏輔お兄ちゃんの首に腕を回してしがみつく。 「姫さんの性格上、こうなる気はしとったんや。前もって対策しといて正解やったわ」 ふーやれやれと言いたげに奏輔お兄ちゃんは大きく息を吐いた。 そして少しずれた眼鏡のブリッジを指で戻したかと思うと、 「透馬。大地。屋根の上や」 と、二人に指示をした。透馬お兄ちゃんも大地お兄ちゃんも気付けば私達の横に立っており、 「屋根上だな」 「了解ー」 二人は一斉に駆け出す。 残されたのは奏輔お兄ちゃんとそれにぶら下がる私。 「えーっと…?」 「ちょっと待っとってな。直ぐにアイツらが連れて来るやろうから」 「う、うん。でもこのままでいいの?重くない?」 「全然。お姉達に比べたら軽いし可愛ぇしで何も問題あらへんよ」 「ふみ?桜お姉ちゃん達も可愛いよ?美人よ?」 「姫さん。とうとう目が悪くなってもうたんやなぁ。後で眼鏡買いに行こな」 そんな心底『可哀想に』と同情するような目で私を見なくても…。 なんでー?お姉ちゃん達は奏輔お兄ちゃんと同じでとっても美人なのに。 美人だけどまだ独身なのは、きっと高嶺の華だからだと思うの。うんうん。 「所で奏輔お兄ちゃん」 「うん?」 「そろそろ降りても良い?腕が痛くなって来たの」 「もう少し頑張りぃ。あんまり広範囲の盾(シールド)はまだ使えへんのや」 「盾(シールド)?って?」 「スキルや。どうやら俺はスキル特化型らしくてな。透馬や大地より一回に覚えれるスキルが多いんよ」 「へぇ~。じゃあ、私の背中に刺さってるこれもスキル?」 「そや。武器変化のスキルを使うた。言うてもこのスキルは使用者の体に触れてる事が大前提や」 「って事は?」
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第三十三話② ※※※(奏輔視点)
「いっ」姫さんには悪いけど叫び出しそうなその口を手で塞ぐ。今叫び声を上げられると、逃げ出している事がバレる。もしかしたら既にばれている可能性もあるが、それでも。俺の意図を理解してくれた姫さんが大人しくしてくれている。その隙に源祖父さんが張ってくれた結界を頼りに庭へ降りた。肩に担いだ姫さんがどんどん冷えていくのが触れた部分から伝わって、どうにかしてやれないかと背中を叩いてみる。これで少しでも安心してくれると良い。こんな事しか出来ない自分が情けなくもある、「邪魔だなぁ…。華の横に男は要らないんだよ」嫌な予感がした。背中から何か嫌な気配がして、咄嗟に俺は姫さんを肩から降ろして腕の中に入れた。同時に背中から爆音と風圧が襲ってきて、俺達は庭に転がった。何とか姫さんは守れたと思う。けど元々俺の体力はそこまで強くない。恐らく鴇や透馬等に比べると俺が一番弱い。大地や透馬ですら直ぐに動けない爆風を喰らった俺が直ぐに動ける筈もない。せめて姫さんだけは守らないと。頭ではそう思っていても動けない。背後からは姫さんを狙う男が迫って来ている。立ち上がらないと…。腕に力を込めて立ち上がろうとした。だが、それよりも早く姫さんが動いた。一瞬だけかち合った視線。その視線は強く語っていた。俺達を守らないと、と。巻き込んではいけない、と。違う。姫さん、その選択は違うでっ。俺の腕から抜けた姫さんは振り返らずに走りだす。男が姫さんの後を追う。姫さんがいくら本気を出して逃げたって、相手はあいつだ。どこまでも追い掛けて行くだろう。駄目だ。こんな、こんな攻撃で足を止めてる場合じゃないっ。動かない体を無理矢理に立たせて、足を動かす。姫さんの後を追って道路に出て、俺の視界に入った光景は…。「美鈴っ!!」「ママっ!!」姫さんの手と佳織さんの手が触れあうと同時に、男の体が青く光りその手から出された青い光が姫さんの体と接触した瞬間だった。「姫さんっ!」俺の声は姫さんに届いただろうか。崩れ落ちた姫さんの体を佳織さんが抱き止める。「姫さんっ!」もう一度叫ぶも姫さんは俺の声にピクリとも反応しない。「美鈴っ!しっかりしなさいっ!美鈴っ!」佳織さんが姫さんの体を揺さぶるも全く動かない。遠目で見ても姫さんの体からは少しずつ血の気が失せて行く。「…
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第三十三話③  ※※※(奏輔視点)
佳織さんが転移させた場所。それは、 「おかえりなさい。佳織」 源祖父さんの家。佳織さんの実家の庭だった。出迎えの言葉をくれるヨネ祖母さんの声が尚更転移した事実を実感させた。 だが確かにここは地図に載らない場所。安全ではあるかもしれない。けれど俺達は皆この場所を知っている。 逃げ場としては、あまり良くないのでは? 俺の疑問は顔に出ていたんだろう。 佳織さんは俺の顔を見て、静かに首を振った。 「大丈夫よ。奏輔くん。ここからもう一度転移するから」 「え?」 「私の秘密基地へ移動するわ」 頷いてから佳織さんはヨネ祖母さんの方を向く。 「母さん。頼んどいたあれは」 「ちゃんと配達させといたわ。安心なさい」 「ホントに?助かるー。父さんには」 「何も言わないように言ってるわ」 と言いながら、ヨネ祖母さんの手には何やら四つ折りにした紙が一枚。 …二人がえらい悪どい顔して笑ってるって事は、近寄らないが吉。 「ありがとう。母さん」 「この位何の問題もないわ。…頑張るのよ」 「えぇ。絶対に助けるわ」 大きく頷いて、再び足元へ特大の魔法陣が現れる。 そして、また俺達は転移した。着いた場所は、窓一つ無い殺風景な狭い部屋。 「こっちよ、奏輔くん」 手招きされてそちらを見ると壁がある。 こっちよって、その壁に何かあるのか? こんな時におふざけなんて佳織さんは絶対しないだろうから。 俺は大人しく佳織さんの後を追うと、ガコンと音を立てて壁に穴が現れた。 中を覗くと、滑り台状に下へと穴が続いている。……先が見えない。 「はい。入って入って」 入ってって…ホンマに大丈夫なんか?これ…。 下からヒョオオオオと風の音がしてるんやけど…? 「奏輔くん。入らないなら蹴るわよ」 「い、行きます」 無理矢理蹴落とされるなら、素直に覚悟決めるわ。 姫さんをしっかりと抱えて、一二の三で尻から滑って降りる。 人二人分の重みと何故かしっかりと滑る様に出来ている滑り台の所為で加速する加速する。 正直怖い。 姫さんと眼鏡を抑えて加速するまま下ると、突然滑り台が消えぽいっと体が投げ出された。 ボフンッ。 体を何かが受け止めてくれたが、自分の後ろから直ぐに佳織さんが来ると察知して素早く横へ避ける。 「よっと」 着地した佳織さんがカツカツと歩く音
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第三十三話④ ※※※(奏輔視点)
「それじゃあ、私は調査に行ってくるわね。あ、そうそう。あっちに見えるドアがトイレで反対側に見えるドアがキッチンね。あと向うに見えるのがお風呂場へ向かうドア。ここにあるものは自由に使ってくれても構わないから。食材も母さんに運んで貰ってるし」「了解です」俺が頷くと満足気に頷いて佳織さんはまたスキルを使ってその場から消えた。……さて。あの野郎の事は佳織さんに任せる事にして。念の為に。姫さんを抱き上げて一旦椅子に座らせて、靴を脱いでベッドに乗り上げた。俺達が落ちて来た穴。あれを塞ぐ。魔法で塞ぐって事も出来なくはないが、完全に塞いで異常事態が起きた時逃走経路がない、なんてそんな事で焦りたくはないからな。そこらにあった何の変哲もない段ボールをテープで貼り付けるだけに止めて置いた。これで侵入者が気配を消して入ってきたとしても気付けるだろう。(けどこれだけやと逆に不安やな…。何かスキル、ないんか?)自分のスキル一覧の所を見ると、【盾(シールド)】の上位互換スキルに【結界(バリア)】がある。ステータスを開いて、結界(バリア)を習得して、この部屋全域に発動させる。これで誰が来ても解るし、不要な侵入者も防げる。段ボールの意味はないかも知れないが、明かりが見えなかったりとか多少の誤魔化しには、まぁ使えるやろ。守りをそれなりに作り上げてから、ベッドを少しだけ移動させて、もう一度そこへ姫さんを戻した。セーブの本を開いて、もう一度中を確認する。相変わらずハートのマークは点滅している。そこに逆に安堵を覚えた。これが点滅してる限りは姫さんはまだ意識を保っている証拠だから。そのセーブの本を姫さんの枕の横に置いて、俺は中央の机に戻り佳織さんが用意してくれた書類に向き合った。(さっきは佳織さんと話を合わせたけど…正直、佳織さんを信用出来ない部分がある。確かに佳織さんは姫さんを救う為にはなんでもする。それは間違いない。けどそれは【佳織さん】の感情であって、ゲームでの【佳織さん(ラスボス)】ではない。姫さんが言っていたヒロイン補正。それが何処で出てくるかなんて解らない。そもそも俺が疑ってるのはそこだ。【ゲームの主軸から外れた】と。それは本当なんだろうか?)何も書いていない紙とペンを持ち、疑問に思った事をつらつらと書きとめて行く。(もし主軸から外れたとしたのなら、佳織さ
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第三十三話⑤ ※※※(奏輔視点)
あれも駄目、これも駄目、と。 もうかなりのパターンを試してみたと思う。 (けど…それらしき結果は出なかったな) しかも、何日も夜通しぶっ続けで実験を繰り返していたから、正直体力的にも限界に来ている。 (いい加減、何か食べないと…頭が上手く回転しぃひん) あれから何日経過している? この部屋には窓がない上に地下にあるようで、さっぱり今が何日の何時なのか解らない。 一先ず時間だけでも確認出来ないかと周囲を見回して、壁にかけてある時計を見つけた。見ると時間は十五時を指している。 (ここに来た当初は気に止めんかったけど、良く見回してみるとここ、時計いくつあるん?しかもなんで全部日時時計で表示が二十四時間?) 疑問には思ったものの直ぐに理由に思い至る。成程。その時計にしないと感覚が狂うからか。数があるのも例えば何かの時計が狂った時に他の時計で時間を合わせる為なんだろう。 あれから五日経ってたのか…。俺良く動けてたな…。 さてと。 足をキッチンのドアに向ける。 姫さんとの会話とトイレしか往復してなかったから、キッチンに入るのは初めてだな…って、これはキッチンか? シンクと蛇口の横に何故か電子レンジ。横にドでかい冷蔵庫と床にカセットコンロ。狭いキッチンの面積はほぼ冷蔵庫が占めている。 冷蔵庫を開けて気付く。 (これ冷蔵庫でなく、冷凍庫や…) 恐らくヨネ婆さん手製の料理がジップされて積み重ねられている。 …佳織さんが言っていたのはこれの事だったんだろう。 適当に手に取り、そのまま電子レンジへ入れて解凍と温めをする。その間に皿を……ないやん。 食器類が何もない。せめて、せめて箸か何か…。 周りを見回し、部屋の隅に小さな段ボールがあるのを発見し、急いでそれを開けると中から使い捨てのスプーンが大量に出て来た。 (スプーンがあるなら、何とかなるわ…) チンッと音が電子レンジから聞こえ、解凍されたジップの中に入っているのがおでんだと解る。 汁が零れないように慎重に取り出さなあかんね…熱いだろうから袋の上の部分の端っこを掴んで…あちち…。 キッチンから戻り、どうせならと姫さんと会話しながら食べようと姫さんのベッドの側へ。 俺は床に座って、姫さんの手を握った。 「姫さん。聞こえるか?」 (はいはーい♪聞こえてるよー♪) 会話をしながらお
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