乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!

乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!

last updateÚltima actualización : 2026-05-19
Por:  三木猫Actualizado ahora
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現代日本風乙女ゲーム『輝け青春☆エイト学園高等部』通称『エイト学園』の世界に転生してしまった佐藤美鈴。男性恐怖症を持ちながらも何とか家族や友達、先生や後輩達に支えて貰いながら成長し高校もいざ卒業となり、乙女ゲームの時間が終わると思った、その時母親からある真実を知らされる。 美鈴は一つの道を選択した。けれど、もしその時の選択肢が違ったならば…。 この外伝は、美鈴が選ばなかったIF(もしも)のストーリーと結末である。 ※この物語は本編の最終章第三十話の続きから、他の攻略対象キャラクターを美鈴が選択した場合のifストーリーとなっております。

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Capítulo 1

外伝第一章 御三家ルート 第三十一話 無限ー御三家編ー

※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。

「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」

「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」

「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」

「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」

「確かに。姫が一番可愛いな」

「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。お世辞言っても何もでないんだからっ。今日の晩御飯は何が良いっ!?」

全くもう、お兄ちゃん達は。何そのやれやれって顔はっ!?

本当に、透馬お兄ちゃん達は相変わらずだ。

リビングでお兄ちゃん達の作業を眺めつつ、私は笑った。

あの後…。

ママに選択を迫られたあの後、正直私は何処も誰も選べなかった。

精神の年齢がもうだいぶ高くなってしまっているから、双子のお兄ちゃんや優兎くん達はもう弟みたいな感覚で。旭達に至っては最早息子の気分である。ぶっちゃけて言えばその括りに陸実くん達も入ってしまっている。

となると残された選択肢は、鴇お兄ちゃんと御三家のお兄ちゃん達。鴇お兄ちゃん。鴇お兄ちゃんかぁ。なんでかな?鴇お兄ちゃんとは、今の距離を保っていた方が良い。そんな気がするんだよね。この感覚は今一良く解らないけど、従っていた方が良い気がするんだ。

ってなると、残るは御三家のお兄ちゃん達しか残らない訳だけど…こんな消去法で相手を選ぶ、人生を選ぶってのはどうなんだろう?

お兄ちゃん達に失礼極まりないよね。私としては御三家のお兄ちゃん達には自分が選んだ本当にとことん惚れ抜いている相手とくっついて欲しいと思ってるの。これは紛れもない私の心からの本音。

そう、思ってはいたんだけどね…。

私は今考えていた事をストレートにママにぶつけてみた。すると、ママは老いを感じない綺麗な顔の眉間に皺を寄せて、大きくため息をついた。

「よりにもよって、このルートを選ぶなんて。…参ったわねぇ」

「え?」

「けど、そうね。選んでしまったのものは仕方ないわ。私は娘が大事ですもの」

え?ちょっと待って。ママ一人で話し進めないで。説明プリーズっ!

私はどこも選んでいない。って言うか『選べないよ』とそう言ったはずなのに。ママは何やら勝手に納得して「ルートを選ぶなんて…」と言葉を濁した。

言葉を聞く限り、もうルートが確定したみたいな…どゆことっ!?

「…まぁ、そうね。こんな可能性もあると思って、特に鍛え上げた三人だから問題ないとは思うけど。とは言え、まず『数値』を確認しないといけないわね。それからアレがちゃんと表示されるかも確認する必要があるし。アレもあるかどうか…ぶつぶつぶつ」

へい、ママっ!

私と会話してっ!一人で納得しないでっ!数値ってなんぞっ!?私を置いてかないでっ!?このセリフ使い所が違う気がするよっ!?

ギロッ。

ママ。私は何故今睨まれてるのかしら?

「美鈴。ちょっと貴女の部屋に行くわよ」

へいっ、ママっ、会話プリーズっ!!

ママの行動がさっぱり分かんないんだけどっ!?

わーお、私を小脇に抱えて歩きだしちゃった。

ママは私を抱えているなんて微塵も感じさせない動きで、ドアを優雅にぶち開けた。どえらい音に驚いた弟達がトーテムポールよろしく曲がり角で顔を覗かせているが、一切触れずママは一直線に私の部屋へと向かった。

階段を登り、私の部屋につくとドアを開けて、高校卒業と同時に再びとりつけられた鍵を閉めた。

キョロキョロとママは視線を彷徨わせ私の机の方を向いて、動きを止めた。

「…やっぱりあるわね」

「何が?」

聞くと、ママは真っ直ぐ私の机の上を指さした。

机はいつもと変わりなく…なかった。

あれは一体何?私あんな辞典並に太い本をそこに置いた覚えはない。と言うか買った覚えもない。

ママが小脇から降ろしてくれたので、自分の足で歩いてその不思議な本をじっくりを観察する。

表紙は、ない。背表紙、もない。茶色のふっといだけの本?外装は洋装みたいだけど…こんな本私持ってた?家にあったかな?誰かが買って置いてったとか?案外優兎くんが買ってそうな感じだけど…。

恐る恐る本を持ってみる。中は一体何が書いてあるんだろう?

ペラペラと捲ってみる。…白紙?あれ?全部真っ白。ノート?だとしたら変わったデザインだよね。いや、確かにテンションは上がると思うよ?でもこんなノート持ってたら中二病丸出しで。だってほら。これってまるでRPGとかで出てくる図書館とかにありそうな本で…ハッ!?

気付いてしまった。もしかして、そう言う事?

私の脳裏にママのさっきの言葉が過る。

『よりにもよってこのルートを選ぶなんて…』

とママは言っていた。私は選んだつもりはないけど、ママはもうルートが確定しているかのように言っていた。尚且つ、今現在私の手には『RPG風の本』がある。

これはどうやら、私はやらかしてしまったらしい。

思い出してみよう。

ママが教えてくれた内容。本来のゲームでは、四つのルートがある。白鳥家、御三家、御曹司、年下の四つ。そして、そのゲームは全て乙女ゲームだと言う基礎は変わらないが、ゲームの形態が違うと、そう言っていた。

その中であった筈だ。

RPG、ロールプレイングゲーム系乙女ゲームが。

『戦いの中に芽生えた恋。貴女は彼との愛を信じ戦い続ける事が出来るのかっ!?【『無限―エイト―』~御三家編~】』と言うやり込みRPG系乙女ゲームがあったって。

そして、その御三家と言うのが。

鴇お兄ちゃんの御三家と言われた。

天川透馬。

丑而摩大地。

嵯峨子奏輔。

の三人だ。意図して選んだ訳じゃない。だけど、どうやら私は『御三家ルート』を選択してしまったらしい。

どうしてこうなった?誰も選ばないって言う選択肢が許されなかったって事?

それで、私が消去法に当てはめなかったお兄ちゃん達に白羽の矢がぶっ刺さった?ヒロイン補正の力?だとしたら、…お兄ちゃん達、ごめんね。うぅ…神様に呪い贈っておくから許して。

罪悪感がちくちくと胸を刺し続けてはいるものの、やっとママが言っていた事を理解した。

本を手に遠い目で天上を見上げていると、

「美鈴。それを貸してくれるかしら?」

「はい、ママ」

言われるままにママの手に本を置いた。途端本は強く光を放つ。

「ふみっ!?」

驚き本を見ようとしたけれど、あまりの眩しさに目を閉じてしまった。瞼越しの光に耐えていると、暫くして光が収まっていくのが瞼越しだけど解った。そろそろ大丈夫かな?目を開けたら異世界にいました、とかそんなドッキリとかいらないからね?恐る恐る瞼を上げると、真っ先に視界に映ったママの手にある筈の本がない。また驚いて、落とした可能性も含めて辺りを見渡すと何故か机の上に本が置かれていた。

「やっぱりね」

ママが頬に手をあて、頷いた。

ママ、何がやっぱりなのか詳しく。

そう突っ込む前に、ママは私に説明してくれた。

「美鈴。この本はセーブシステムよ」

「セーブ。って、え?セーブってあの?」

「そう。あのセーブよ。ゲームでお馴染みの」

え?確かに、RPGには本に触れるとセーブが出来る仕組みはつきものだけど…ホントに?

思わずママを疑いの眼差しで見るが、ママはあっさりと受け流して、真剣に話を続けた。

「たった今、普通の本ならあり得ない光を放って私の手から離れて消えた。これ以上の証拠ないでしょう?」

「確かに…」

でも、セーブ。セーブか…。

本の形って事は、日記みたいに書く事で本に記憶をとどめる、って事なんだよね?

ちょっと試しに何か書いてみようかな…。

私はペンを持って表紙を捲った。そして、今の現状を書き記してみる。

『ママに話を聞いた。どうやら私は御三家ルートを確定してしまったらしい。これからどうなるか不安である』

と。うん。これで良し、と。

さぁ、初めて書いたけど、どうかな?何か変化起きるかな?

じっとそのページを見ていると、何もしていないのに、日付と時間、それから何故かハートマークが3つ。それが私の書いた文字の下に浮かび上がっていた。書いた覚えがないのにじわじわと。言葉通りに浮かび上がったのだ。こえぇっ!

ホラーだよ、ホラー。叫びたい、突っ込みたい衝動をぐっと堪えて、浮かび上がった文字を見直す。

日付と時間は何となく理解出来るけど、このハートは一体?

「ママ?このハートって何だろう?」

「ハート?」

「うん。ほら」

頁を開いたまま、ママに身を寄せて一緒に覗き込む。だけどママは静かに首を振った。

「…私には何が書いてあるのか視えないわ」

予想外の言葉を返された。こんなにハッキリ、ショッキングピンクなハートアタックなのに視えないとなっ!?

「きっと主人公にしか視えないんでしょう。だって美鈴の書いた文字ですら私には視えないんだもの」

「あー…」

成程ー。ヒロインのみが許される道具なのねー。

遠い目をするしかない。意味が解らない事が多過ぎる。ハートの意味が解らない、文字が浮かび上がるのはどう言う仕様?本が机の上に戻る理由は?ふふふ。わっかんねー。

とりあえずヒロイン補正で納得出来る所は無理矢理納得するとして。それでも納得出来ない、と言うか解らないのがこのハート、だよね?

あ、もしかして乙女ゲームだから好感度とか?御三家は三人だし。だから3つ?

「なんてねー」

好感度が目に見えて解る、とか。そんな非日常的な事がある訳ないよねー?

それにもしこれが好感度のゲージなら、MAXに色が付いている現状は、好感度がかなり高いと言う事になっちゃう。

お兄ちゃん達が私に恋心を抱いているとは思えないし、私だってお兄ちゃん達をそう言う目で見た事はない。だって『お兄ちゃん』だし、私は『友達の妹』な訳だしね。

でも、そうすると、このハートは一体何?

あ、そうだ。試しに…。

ペンを持って文字を書く。日付とハートがある行の下に。

『ハートの意味が解らない。でもこの本はヒロインが持つべき本らしい』

と書いてみた。

すると、やっぱりその文字の下に、日付と時刻、ハートが3つ浮かび上がった。しかも前に浮かび上がってたのが消えて、まるまる下に移動した形になってる。…こえぇっ!

怖いけど、これで私が書いた文字ではないって事が改めて実証された。他にも何か書いてみようかな?

ちょっとワクワクしながらペンを持つと、ママに名を呼ばれた。

何だろう?問うと、この本を持って一旦部屋を出てみろと言う。

「廊下に出ればいいの?」

本を閉じて、ドアに向かって歩き、鍵を開けて、と。これで一歩外に出るの?

よいしょっと。

「ふみっ!?」

本が再び光を放って私の手から消えた。

「ふむ。どうやら、持ち出し禁止のようね。美鈴。貴女の部屋がゲームで言う所の宿屋の役割を果たしている様よ」

宿屋の役割と言うとー。ゲームを中断する為のセーブ、ゲームの再開や全滅した時とかにロードやコンテニューをした時に開始する場所だったり、失った体力や魔力を回復したりって言うあれ?

その役割が私の部屋?

まぁ、主人公の自室って言うのはセーブ場所としては定番だよね。

「ここまで変化しているとなると…。美鈴、カムバック」

「う、うん」

部屋の中に戻り、再び鍵を閉めてママの前に立つ。

「『ステータス画面』だしてごらんなさい」

「何のゲームの?」

「コントローラー探しに行こうとしなくて良いから。今現在貴女のステータス画面よ」

「いやいや、出せないから。ママ、ちょっと落ち着いてよ。そして私に現状をちゃんと説明して欲しい。そもそも私が『ステータス』と言った所で」

ブォンッ。

「…出た…」

突然目の前に半透明な板の様なものが現れ、そこには私の情報がずらりと…。…何でBWHまで表示されるかな。…鍵をかけておこう。BWHの横に鍵のマークがあるからそれを押しておく。

上から、名前、年齢、性別、BWH、職業、体力、精神力、攻撃力、知力、移動速度、運、スキルが表示されている。

…スキルの所、すっごく長いんだけど…。それから職業の所。大学生、財閥総帥、転生者、ヒロインって合ってるけど意味の解らない表示をされてる。まぁ、間違ってはいないからいいんだけどさ。

「そもそも転生者って職業なの?」

「さぁ?でも私のもそう書かれているわよ?」

「あ、ママにもステータスあるんだ?」

「えぇ、ほら」

ママがステータス板をスライドすると、そのまま私の前まで移動してくる。

えっと、ママの職業が…、主人公の母、主婦、作家、転生者、最恐戦士。…最恐戦士?

「ま、ママ?最後に何か物騒な職業が」

ステータス板から顔を上げてママに向かって言うと、ママは良い笑顔で頷いた。あ、気に入ってるのね。じゃあ何も言わないでおくわ。

他にはえっと…、BWH…あ、私の方が胸が少し大きくて、ウエストが少し細い。ヒップはとんとん?

それから体力8800。精神力880。…私が体力2200で、精神力が2220だから…ママ、化け物?攻撃力に関してはほぼ表示不可になってる。知力は残念な程少ない。ママ、この少なさはどうなの?あとは…スキルは読みあげたらきりがないから省くとして、移動速度は…7~8って凄くない?私?私は5~6だってさ。運は…ママが8、私が5ってなってるけどMAX値が想像つかないから何とも言えないかな。

大体の数値を見比べて、何となくだけど上限とかが分かった気がした。でも、それがあってるかどうかはもっと違う人のを見ないと何とも言えない。

「ステータスも出た。これで間違いなく御三家ルート確定って事が分かったわね。こうなってしまえば、他の攻略対象キャラとは暫く会えなくなるわ。偶然の遭遇とかはあるかもしれないけどね」

「そうなの?でも鴇お兄ちゃん達は」

「あの子達も、ヒロイン補正の所為で帰ってくる事が出来なくなると思っていいわね。今日の夜辺りにでも帰宅出来ないって連絡が来るはずよ」

お兄ちゃん達が帰って来なくなる…それは、寂しい。

しょんぼりと肩が落ちる。

「美鈴。寂しいと思う暇はないのよ」

「え?」

「御三家ルートはRPGなだけあって、生身の人間にはかなりハードなルートよ。貴女の苦手な男もうようよと出てくるわ」

ビクゥッ!

嘘ーっ!?

恐怖に体が飛びあがる。

「私が助けられる事があれば当然手を貸すけれど。美鈴、自分の名前の横に数字があるの解る?」

名前の横に数字?

あ、あるね。確かに。

私の名前の横には5と書かれている。ママは88。これは一体?

「それはレベルよ」

「レベルっ?私のレベル低っ!?」

「主人公のレベルがゲーム開始から高い訳がないでしょう」

「それは、そうかもしれないけどっ」

5はないでしょ、5はっ!!

体力、所謂HPが思いの外高かったから安心してたのにっ!まさかのレベル5っ!

「しかもキリが良いしっ。レベル限定技とか使われたら、私確実に即死っ」

「そうね。そこはしっかりと用心するとして。まずそのレベルだけど、詳しく説明すると、それは『恋愛レベル』よ」

「ふみ?恋愛レベル?」

「そう。まず大前提として忘れてはいけないのは、このゲームはあくまでも乙女ゲームってこと。乙女ゲームは主人公が恋する過程を楽しむものが主流。つまり、このレベルは『主人公の恋心が進展』することによって上昇するの」

「こっ!?」

なんてこったい。

いや、まぁ、ママが言うからにはその通りなんだろうけど…。うぅ…これは、照れる。顔があついのよーっ!

「だから、攻略対象者。この場合は、御三家の三人のレベルも主人公と比例して伸びて行くわ。それは説明書にも掲載済みだったし間違いないわ。攻撃力とか戦闘に必要な力等はその恋愛レベル関係なく、敵を倒す毎に経験値として入手して、操作によって割り振りする事が出来るから実質あまり関係なかったわね」

「パラメータは個々に独立してるって事なのね?」

「そうなるわね。因みに、さっきも言ったけど敵を倒して手に入る経験値は自分で割り振りする事が出来るの」

「割り振り?」

「そう。ほら、美鈴、ここを見て」

ママがステータス板の一か所を押した。

おお?画面が変わった。

言うなれば2ページ目って所?

そこには、経験値ゲージと入手アイテムが記されていた。

下段にある入手アイテムの意味は分かるから良いとして、問題は経験値ゲージの方だ。

そこには、私の名前と御三家のお兄ちゃん達の名前が表示されている。私の名前は左側に、お兄ちゃん達の名前は右側に表示されていて、それぞれ名前の下にゲージがある。

因みに私の名前の横のゲージは桃色で満杯になっており、逆にお兄ちゃん達の所は色がなく空っぽだ。

「今美鈴の経験値ゲージは満杯に、御三家の三人が空なのは解るわね?」

「うん」

「で、貯まったゲージの経験値を三人に割り振る事が出来るの。そうね、一旦『天川透馬』の名前を長押ししてごらんなさい」

えっと…透馬お兄ちゃんの名前を長押し、…ていっ。

あっ。私のゲージが減って、透馬お兄ちゃんの名前の下のゲージが三分の一が紫になった。

「このゲージが満タンになったら、透馬くんにスキルを一つ、もしくは移動速度を上昇をさせて貰えるわ」

「あぁ、そっか。乙女ゲームだもんね。ヒロインの能力を分けると同時に攻略対象がヒロインを助ける。そうする事で好感度も上がって行くって事だね」

「そう。でもRPGでもあるのだから、能力のばらつきは命取りよ。全体的にある程度の数値は上げとくべきね」

「そうだね」

昨今のゲームはむしろ能力特化型が重要だけど、私のいる世界はそんなに新しいゲームの世界ではなさそうだから、平均の方が良さげである。

なので、ママの言う通りにしておく。

…現状はゲームのストーリーだと知り、攻略対象が固定されて。更に世界感の説明とゲームシステムの説明。…今のこの状況を例えるならチュートリアルってとこなんだろうか?

「美鈴。全体的に均等に経験値を割り振ったらどうかしら?」

「うん。そうする」

私は大地お兄ちゃんの名前と奏輔お兄ちゃんの名前にも触れてゲージを動かした。すると大地お兄ちゃんのゲージにはオレンジの、奏輔お兄ちゃんのゲージには青の色がついた。一方私のゲージは空になる。

ゲージがMAXにならなかったから変化が良く解らないんだけど…何か変わったのかな?

「これでステータスの説明も出来たわね」

満足気なママに私はうぅ~んと微妙な返事をした。

ハッキリとした変化がないから何とも言いようが…。

そんな私をさておいて。

「後は、ストーリーの流れ、かしら?」

ママはあっさりと話を先に進める。

「ストーリー?」

「そうよ。貴女が選んだのが、白鳥家ルートだったり、御曹司ルートだったのなら、ストーリーを教えたら返って危険だから黙秘する所なんだけど。御三家ルートは聞かないでいると返って危険かもしれないから。い~い、美鈴。忘れないようにしっかりと聞きなさい」

そう言ってママはストーリーの大まかな流れを教えてくれた。

ゲームの始まりは、主人公の家の中。

RPGを重視したゲーム。当然主人公を操作し、戦闘や探索をして、ストーリーを進めて行く。

本来、私達白鳥家は家族仲がすこぶる悪い。その片鱗は続編で出された『エイト学園』で語られた過去の回想シーンでの葵お兄ちゃん達の態度を見れば納得出来る。

主人公である美鈴は家に独りでいる孤独感から、外に出歩くことになる。

ゲーム開始のその日、主人公はいつも通り孤独を埋める為、近所の商店街に遊びに出掛ける。そんな時(操作して向かった場所により出会う人が違うが)御三家の内の一人と出会う。因みに私は既にお兄ちゃん達に出会ってるんだよね。そこはどう変化するのかな?

そこで会話イベントが発生する。同じ攻略対象と会話を三回以上すると、ストーリーが進み初戦闘。初戦闘の相手は謎の男と表記された、黒服の男。

戦闘に勝利すると、主人公と攻略対象者との仲が少し深まるイベントが発生。そのイベント内容が、ストーリーを大きく変化させる所で。謎の男が苦し紛れに攻略対象に攻撃を放つ。それを咄嗟に庇った主人公は攻略対象に向けられた毒薬を全身に受けてしまう。薬品は、主人公の命を削る毒薬だった。

自分を庇った健気な主人公を救う為に、攻略対象は立ち上がる。そんな攻略対象を一人では行かせられないと主人公も共に行く覚悟をし、解毒薬を求め旅立つ。

様々な場所を巡り、情報、解毒薬の素材などを集め、主人公と攻略対象者は互いの絆を深めて行く。

最後に解毒薬を手に入れ、主人公は救われる。攻略対象者との絆、恋心、イベントをこなしていくと、攻略対象者との恋愛エンディングを、それがなくても友情エンディングを迎える事が出来る。

……滅茶苦茶命がけやないかーいっ!!

思わず心の中で全力で突っ込みを入れてしまった。

でも、言わずにはいられないっ!

完璧に危ない橋じゃないっ!!

「ふみみみみ…」

私が真剣に考え込んでいると、ママはぺしぺしと私の頭を叩いた。

「これはあくまでもゲームの流れよ。御三家の三人は私がそこそこ鍛え上げてるし。もしかしたら、毒薬の件をあっさりと回避する事が出来るかもしれない。何より、その謎の男ってのが誰か解らないけど、男なら美鈴は近寄る事はしないでしょう?」

「それは、そうだけど…」

「こっちには前世の記憶があるわ。先手をとるチャンスよ。回避してしまえば問題ないわ」

確かに。回避出来る可能性もあるんだもんね。

例えば、透馬お兄ちゃん達と常に一緒にいて、謎の男を登場させない、とかっ。

何にしてもまずは行動起こしてみないと始まらないよね。

どんな事が起きたとしても、何もしない後悔より、何かした後悔の方が良いって言うしねっ。打ちひしがれてる場合じゃないよねっ!

「良しっ。じゃあ、手始めに、お兄ちゃん達を家に監禁してみようっ」

「それでこそ我が娘よっ!」

ぐっ。

ママと二人拳を握って宣言する。

思いたったら即行動っ!

鍵を開けて廊下に飛び出す。念の為にママに付き添って貰って。真っ直ぐ透馬お兄ちゃんの家であるお肉屋さんへゴーっ!!

無事到着したので、ママに透馬お兄ちゃんのお母さんを任せて、ついでに夕飯のお肉の買いだしも任せて、私は透馬お兄ちゃんの部屋に飛び込んだ。

作業後疲れ切ってベッドですやすや寝ている透馬お兄ちゃんの上にダーイブっ!!

ボフッ!!

「ぐえっ!!?」

してやったりっ!!

何が何だか解らない透馬お兄ちゃんが体を起こすと私はベッドから転がり落ちる。

「ふみゃんっ!?」

「ってぇ…って、姫っ!?悪ぃ、大丈夫かっ!?」

そう言いながら私に手を伸ばして起こしてくれる。何で私がここにいるのか不思議でたまらない様子の透馬お兄ちゃんに何の問題もないと告げつつ、

「透馬お兄ちゃんっ」

「お、おう?」

「監禁させて頂きますっ!どやっ!」

「は?」

「真珠さん、カモーン!!」

パチンッ。

指を鳴らすと同時に真珠さんが何処からともなく現れて、透馬お兄ちゃんを肩に担ぎ上げて、

「のあああああああっ!?!?」

颯爽と白鳥邸へと連れ帰った。

ふぃ~、満足。

さ、次だーっ!

次は奏輔お兄ちゃんの所へ、ゴーッ!

ダッシュッ!

走って、お姉ちゃん達に許可を得て、奏輔お兄ちゃんの部屋に向かうと、奏輔お兄ちゃんは何故かスーツ姿で部屋から出て来た所だった。

「姫さん?どうしたん?そんな慌てて」

「えへへっ。奏輔お兄ちゃんを拉致監禁しに来たの」

照れちゃう。えへへっ。

「…姫さん。はにかみ顔、めっちゃ可愛いけど。そん顔に似合わんえらい言葉が聞こえたんやけど?」

「真珠さん、カモーンッ!」

指を鳴らして真珠さんを召喚する。

真珠さんはやっぱり颯爽と現れて、

「はっ!?はあぁぁぁっ!?」

奏輔お兄ちゃんを小脇に抱えて走り去っていった。

ふぃ~…良い仕事したよ。

額の汗を拭って、と。

さ、次は大地お兄ちゃんだーっ!

ダッシュッ!

それにしても、商店街をこうして走ってると、皆微笑ましいと言いたげな視線を私に向けて道を開けてくれる。中にはその微笑まし気な視線の意味を理解出来ない人もいるけど、そう言う人は商店街の人が引っ張って道を開けてくれるのだ。

会話に聞き耳を立てると、

「あんた、道を開けないと轢かれるよ」

「は?何言ってんだ?」

「あの子達がああやって動いている時は近寄らないのが自分の為さ」

…解ってらっしゃる。

優しさと恥ずかしさで複雑。

それはさておいて、私は大地お兄ちゃんの家である八百屋さんに入った。

「大地お兄ちゃーんっ!」

呼ぶと、

「はーいーっ!」

即行で現れる。流石、大地お兄ちゃん。

突然目の前に現れるこの技術。ちょっと恐怖。

「ねっ、ねっ。私の家に監禁されて?」

「「喜んでっ!!」」

うん?声が増えた?

あれ?勝利さん?

「ズルいぞっ、大地っ!」

「さ、行こー、姫ちゃん。さっさと行こー」

ガン無視?

私は大地お兄ちゃんに連れられるまま、店を出た。

あ、野菜買い忘れた。…ママに頼もうかと思ったけれど、大地お兄ちゃんの手にネギが飛び出している箱があったので気にしない事にした。

無事に家に帰りつき、大地お兄ちゃんと一緒にリビングに入ると、そこには真珠さんに放り投げられたらしき透馬お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃん、そして二人にお茶を出そうとしている真珠さんがいた。

「あー…真珠さん、姫に関する男にマジで容赦ねぇな」

「ぶれへん、ね…」

「真珠さんに運ばれるならオレも抵抗したら良かったかもー」

「三人共、ソファに座っててー。今おやつ出すね」

好き勝手に言いながらキッチンに入って、作り置きのパウンドケーキを切ってトレイに乗せて運ぶ。

お茶は真珠さんが用意してくれたから問題ない。

お兄ちゃん達の前に差し出すと、何の躊躇いなくあっさり一口食べて、上手いと笑ってくれた。えへへ。やっぱり何度褒められても嬉しいよね。

「で?どうして俺達は姫に監禁される事になったんだ?」

あ、やっぱり気になっちゃうよね。素直に言ってもお兄ちゃん達なら信じてくれる気がするけど。うぅ~ん。取りあえず、その場をしのげないかな?

「実は…かくかくしかじかで…」

「あー、成程ねー、って姫さん。かくかくしかじかで意味が通じるのは物語の中だけやで」

「ちっ、騙されなかったか」

「口の悪い姫ちゃんも可愛いー」

「そりゃ可愛いけども」

「俺らも一応仕事があるんやで?それなりに納得出来る理由が必要や」

三人の視線が私に集まる。

正論過ぎて何も言えない。正直に言う?さっきも思ったけど、お兄ちゃん達は信じてくれるとは思うの。ただ、自分達が側にいる事が返って私の危険を誘うなら駄目だと出て行ってしまう気もするんだよね。他のルートを選べって言いそうで。

お兄ちゃん達がいなくなる…。

チクンッ。

そう考えると何故か小さく胸が痛む。お兄ちゃん達には側にいて欲しい。離れないでいて欲しい。それに、もしかしたら途中でルート変更した事によるヒロイン補正込みのバグが出るかも知れない。私の知らない所で、私の所為でお兄ちゃん達が怪我をするかもしれない。そんなのは嫌。

うぐぐ…。何か上手くお兄ちゃん達を言い包められないものか?

三人は相変わらず私の出方をじっと窺っている。う、う~ん…何か、お兄ちゃん達が止まれる良い感じの理由…理由はないかな?

にこにこ笑みを浮かべたまま脳内をフル回転させていると、私以外の携帯が一斉に鳴り始めた。

三人はそこで初めて私から視線を外して携帯に意識を向けてくれた。

よっしゃっ!今がチャンスっ!何か理由を考えるべしっ!

案その一!実は家が狙われてて、一緒に守って欲しいの。

…駄目だ。危険だって追い出される。下手するとお兄ちゃん達だけで調査に行っちゃう。

案その二!実は私、巳華院くんをリスペクトして筋肉をつけようと思うのっ、協力してっ。

…うん。お兄ちゃん達の驚愕の表情と自分の精神ダメージが半端ないから無理。

案その三!お兄ちゃん達の誰かと結婚しようと思うのっ。

…そんな事言える訳がないっ!

どうしよう、全く良い案が出て来ない。遠い目して流してしまおうか。

私が遠い目を実行しようとしていると、お兄ちゃん達が何やら小さく笑っている。

もう一度私を見つつ、え?何?その微笑まし気な、小さい子を見るような表情は?

「姫。言い辛い事言わせて悪かったな」

「ふみ?」

「監禁了解や。ほんなら暫く世話になるで」

「ふみみ?」

「部屋はいつも借りてる部屋を使っていいのかなー?」

「ふみみみ?」

どゆこと?お兄ちゃん達が納得してる。何で皆納得したの?私の念派でも届いた?

首を傾げて、説明を要求したら、逆に不思議そうな顔をされた。

「鴇と双子が仕事で出張に行くんだろ?」

「その間姫さんを頼むて、今鴇からメールが来たで?」

「姫ちゃんは自分から寂しいとは言わないだろうけど、強制的に家に連れ込むような行動をとるかもしれないからーって」

「ちょ、ちょっと待って?」

咄嗟にお兄ちゃん達の前に手を出してストップをかけ、お兄ちゃん達の言葉を反芻する。

えっと…じゃ、じゃあ、なに?

私は鴇お兄ちゃん達が出張でいなくなるから、寂しくてお兄ちゃん達を連行したと思われてるの?

………えぇ~…嘘でしょう…?

首から顔に徐々に熱が上がっていくのが分かる。赤くなっているだろうって自覚出来る程に顔が熱い。

す、すっごく、恥ずかしいんですけどっ!なに、その思われ方っ!確かに理由を探してたし、助かったけどそんな理由…鴇お兄ちゃんのばかぁっ!

恥ずかしさのあまり私はトレイで顔を隠した。

そっと、トレイの影から三人を覗くと、三人は相変わらず微笑ましそうな顔で私を見ていた。

ふ、ふみみぃ~…いたたまれないぃ~…。

確かに、確かに助かったけど。鴇お兄ちゃんのメールに助けられたけどっ。代償が酷い。

これは暫く、お兄ちゃん達の生暖かい視線と己を襲う羞恥心と戦う事になりそうである。うぅ~…。

それから数日経って。

私達は毎日こうしてリビングに集まって一緒に仕事する事が増えた。

私の職業の所に大学生と書いているけれど、これは通信教育の大学生であり、もうとれる単位は殆どとってしまっているので私は仕事に集中できる。ゲームだとフリーターだったみたいだけど、私は仕事をしているから、そこも違う点だったりするんだろうなぁ。

何はともあれ、皆でわいわい騒いで仕事するのは楽しい。

騒ぎながら仕事をして、ふと時計を見ると夕ご飯の準備をする時間になっていた。

いそいそと立ち上がり、エプロンをしながらキッチンに入る。材料を出しつつお兄ちゃん達の仕事っぷりを見守りながら準備を進めた。

今日はお兄ちゃん達リクエストの鍋です。海鮮鍋。

必要な材料を切って、準備をして。

後はー…あっ!大事な鱈がないっ!?

「お兄ちゃん達ー。ちょっと私買い出し行ってくるー」

「姫?」

「今、結構暗いで?一緒にいこか?」

「って言うか、一緒に行くよー」

「大丈夫だよ。直ぐそこだし。真珠さんが付いて来てくれるから」

お財布を持って、エプロンをつけたまま私は外に出た。

夕暮れ時。

オレンジの光が街を照らして、綺麗。

てくてくと歩く。

あっという間に商店街について、話しかけて、話かけられて。会話を楽しみながら買い物を済ませていると、背後から声をかけられた。

「王子っ」

そこには愛奈の姿があった。偶然出会えた事が嬉しくて、愛奈に駆け寄る。

「愛奈も買い物?」

「うん。王子も?」

「そう。お鍋の足りない具材を買いに」

「そうなんだ。あ、じゃあ、アレ上げる。さっき福引で当たったんだけど。コタ」

「了解でござるっ」

突然現れた近江くんは背中にでっかい発泡スチロールの箱を担いでいた。

って言うか、その持ち方して平気なの?水物とか入ってない?

突っ込みを入れる前に、背中から降ろされた箱を手渡されてしまった。

一体何だろう?中を覗くと、そこには立派な蟹が九匹。

「凄い立派な蟹だねっ」

「特賞だったの。でも私だと料理出来ないから。しかも十匹も流石に食べ切れないし」

「十匹?九匹しか」

「ほぎゃああああっ!痛いでござるっ!背中挟まれてるでござるぅぅぅっ!!」

「大丈夫。ちゃんと十匹いるよっ!」

愛奈、近年稀に見る良い笑顔だね。近江くん、走り回ってるよ?壁だろうが屋根だろうが関係なく走り回ってるよ?しかも蟹とれてないよ?…愛奈が満足そうだから良いのかな?

所で、ホントに貰ってもいいのかな?蟹だよ?高いよ?

「ホントに貰っても良いの?」

「いいよ」

愛奈は頷く。

でもただ貰うのは気が引けるよね。あ、そうだ。だったら、

「愛奈。折角だから食べて行って。近江くんも」

「え?でも」

「折角新鮮な蟹貰ったんだもん。それに元々は愛奈の蟹なんだから。一緒に食べよう?ね?」

私は愛奈と近江くんを夕飯に誘う事にした。

ちょっと強めに押した所為か、愛奈は頷いてくれた。

「折角商店街にいるんだし、華菜ちゃんも誘おう」

帰りの道すがら華菜ちゃんの家へ行くと、華菜ちゃんとデート帰りの逢坂くんもセットでゲット…げほんっ、夕飯に誘う事に成功した。

「あ、そうだ。美鈴ちゃん、これあげる」

「?、なぁに?」

「米」

「まさかの米」

華菜ちゃんが袋に入ったお米をくれた。五キロくらいだからまだ持てるけど、これ大袋だったら持てなかった。

…良いお米だ。ちょっとお高い奴。

「あら?美鈴ちゃん、お買い物?」

「はい、そうです」

「今日の夕ご飯は何にした?決められなくて困ってるのよぉ」

「今日は、海鮮鍋ですっ」

「あら。いいわねぇ。私もそうしようかしら。あ、そうそう。さっきお店入ったらおまけ貰ったのよ。良かったらお友達と食べて」

「わぁ、ありがとうございますっ」

お菓子ゲット。

「美鈴ちゃん。今日は良いお肉が入ったよ。見て行かない?」

透馬お兄ちゃんのお母さんに呼び止められる。

そこでちょっと話して、お得なお肉とおまけをゲット。

………はて?

帰り道中、話かけられては食材をゲットして、困ってる人を見つけては話かけて貰った食材をあげたりした。

こんなに人にあげたり貰ったりってあんまりしないよね?

仲が良い人だらけとは言えど、ねぇ?

ふふふ…嫌な予感がするわー。

これってさ?もしかして、さ?御三家ルートが確定した所為?

RPGだとよくある光景じゃない?

主人公が村人達と話して情報を得て、物を渡して新しい物を得て。買い物して、仲間に会って。

……何か、完全に御三家ルート確定してませんか?

もし、もしも確定してしまっていると言うのなら、危機意識持たないとヤバいかも知れない。

歩きながら、私はいつもよりも少し強めに周りを意識して歩くのだった。

皆で仲良く会話しながら、歩いているのだけど、ふとした瞬間私が会話から抜け出る事がある。

当然と言えば当然。

だって私だけ独り身ですもの。ふふふ、せっつなーい。

かと言って男の人に集団で襲ってこられても、死にそうなので現状で満足なんだけどね。

二つのカップルを微笑ましく見守りながら坂道を上る。

そう言えば、さっき色々食材手に入れたけど、あれってさ?ある意味入手アイテムだよね?

確か、ステータス画面のページに入手アイテムって欄があったよね?

例えば愛奈に貰ったこの蟹とかも載ってたりするのかな?

まさかーとは思うけど、ちょっと試してみたくて、

「(ステータス)」

こっそりと呟き、ステータス画面を開く。声を小さくした所為か画面も小さい。まぁ、声の強弱はあんまり関係なさそうだけど。大きさに関しては私の意識の違いなのだと思われる。

開かれたステータス画面の頁をめくり、入手アイテム欄を見てみると、今貰った食材や買った物がずらりと並んでいた。なんてこったい。蟹に至っては、足が一本欠けていたり、近江くんの千切られた服の破片までリアルに表示されている。

クオリティの高さにびっくりだ。

他には?米、肉…。間違いなく私の買い物籠に入ってる内容そのものだった。

ここのクオリティ上げる必要ある?神様は一体何に重きを置いているのかしら。

思わず呆れていると、愛奈に顔を覗き込まれた。

「王子?」

「あ、うん。ごめん、なんでもないよ」

成程。このステータス画面って、メインキャラ以外は視えないんだね。だとしたら、ステータス画面を眺めている時の私は、宙をぼんやり眺めているおかしな人になってしまうのね。うん。気を付けよう。

「ぼーっとしててごめんね。それで?どうしたの?」

「あ、そうじゃなくて。王子がぼーっとしてるのは何時もの事だし別に構わないんだけど」

「そこは構って欲しいなぁ」

「私が呼んだ理由は、あそこ」

そう言って愛奈が指さした先を視線で追うと、そこには旭と蓮、蘭、燐の姿があった。

しかも…こっちに向かって全力で走って来ている。もしかして、―――誰かに追われてるっ!?

「旭っ!蓮、蘭、燐っ!」

慌てて弟達に向かって叫ぶと、あちらも慌てたようにこっちに向かって家へ入れと指し示してきた。

しかも私達の後ろを見て更に焦り、走れとの指示も同時に。

一体何を見て、そんなに焦ってるの?

気になって振り向くと、そこには覆面をした、黒子が数人。私達の方へと向かって来ていた。

―――ぞわりっ。

この感覚、―――男だっ!

恐怖が一瞬私の体の動きを止める。

だけど、そんな私の代わりに皆が動いてくれた。

「美鈴ちゃんっ、逃げようっ」

華菜ちゃんが私の手を握ってくれる。

私はその手に感謝しながら、大きく頷く。

「コタっ」

「お任せ下さいっ。逢坂殿、三人をっ」

「解ってるっ。行くぞっ、華菜っ、白鳥っ」

頷いて走りだす。

正面から走ってくる旭達と合流したと同時に、ほぼほぼ直角に方向転換して、門をくぐって家の中へと飛び込む。

バンッと盛大に音を鳴らし玄関に飛び込んだ所為か、リビングにいたであろうお兄ちゃん達が部屋の中から飛び出して来てくれた。

「姫っ、どうしたっ!?」

「そ、そ、外にっ、変なっ、人達がっ」

「大地っ、奏輔っ」

透馬お兄ちゃんは私達を庇うように急ぎ中へと入れてくれて、代わりに大地お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんが外へと飛び出した。

透馬お兄ちゃんにリビングに入る様に言われて、入ったけど…大丈夫かな?

お兄ちゃん達も勿論だけど、愛奈達も怪我、してたりしないよね?

外が見えないから、不安。

窓から、覗けないかな…?

ふらふらと窓の側へ寄ろうとしたけれど、

「姫。窓の側に行くな。今は出来る限り部屋の真ん中で待機してろ」

「う、うん…」

透馬お兄ちゃんに止められて、軽率な行動をしたことに気付いて反省する。

私は透馬お兄ちゃんの言う通りに、部屋の中央…ソファに座った。

「大丈夫だよ。美鈴ちゃん。大地さん達は包丁で刺されても死なないから」

「いや、普通に死ぬからな」

「そんな事より」

「新田、そんな事扱いも酷いからな?」

「王子の弟くん達は一体誰に追われてたの?あんまりちゃんと確認は出来なかったけど、私達を襲って来た奴らと同じ恰好、だったわよね?」

旭達が切れた息を整えつつも真剣に頷いた。確かに、同じ恰好だった。…と言うかあの時は覆面黒子としか認識出来なかったけど、良く考えたらあの恰好は…。

「忍び装束だったよね?」

「…全く忍んでなかったけどね」

「確かに」

「しかも堂々と、存在アピールしてたな」

「刀持ってたよ」

「斬りかかってきたっ」

「避けたけどっ」

「投げてきた手裏剣投げ返したけどっ」

堂々と銃刀法違反をするとは…。忍者の刀、小太刀かな?それと手裏剣。忍びの人間以外の何者でもない事を自分から証明しちゃってるし。

けど、『忍び』、忍びって事は…。

「真珠さん」

パチンと指を鳴らすと、

「はいっ、お嬢様っ」

即、私の前に姿を現してくれた。今一体何処か、ら…?考えないでおこう。

今はそれ所じゃないからね。まずは、襲ってきた連中の身元を確認しよう。

「あいつら、誰だか解る?」

「…申し訳ございません。奴らの装束に見覚えがないのです」

「見た事がない?」

「はい。…今、叔父を…金山を呼びます。少々お待ちを」

パチン、パチンっ。

真珠さんが二回指を鳴らす。

「御呼びですか、お嬢様」

「のあっ!?」

「何故に、透馬お兄ちゃんの背後に…?い、いや、それは後で良いや。あのね、金山さん。今真珠さんにも聞いたんだけど、今外で…」

私は今のこの状況の流れを金山さんに説明すると、金山さんは眉をピクッと一瞬動かした。いつもニコニコ笑顔なのに、こんな反応は珍しい。金山さんは私達に少し待っている様に告げて姿を消した。

実際に状況確認しにでも行ったのかな?

じっと金山さんの帰宅を待つ。

…。

………。

…………正直、手持無沙汰である。

え?何してたらいいのかな?家の外に出る訳にも行かないし…。

ぼんやりとしてたら時間がもったいないよね。

こっそりとステータス画面を押して、何か変化はないか確かめる。…あ。蟹…。

そうだ。待っているだけってのも辛いし、折角だから夕飯のお鍋作りの続きでもしようかな。

「透馬お兄ちゃん。ご飯作っててもいいかな?」

「家から出ないなら良いぞ。俺の見える範囲にいてくれ」

「らじゃー」

透馬お兄ちゃんに許可を取ってキッチンに入って鍋作りを再開。

金山さんもだけど、お兄ちゃん達、大丈夫かな…。

終始ハラハラしながら蟹の足を折る。

買ってきた魚の内臓をとりつつ、じっとお兄ちゃん達が戻ってくるのを待つ。

三匹目の魚を三枚におろそうとしたその時、ガチャッと玄関のドアが開いた音が聞こえた。

急いでリビングのドアを開いて覗きみると、そこには金山さんと大地お兄ちゃん、奏輔お兄ちゃん、それから外出していた筈のママがいた。

皆の無事な姿に笑みが浮かぶ。

「良かったっ、お兄ちゃん達が無事でっ」

「あんな奴ら敵じゃないってー」

「そうそう、って姫さんっ?顔とエプロンに血が付いとるでっ?しかも、包丁からも血が滴って怖いんやけどっ?」

「ふみ?…あ、ごめーん。魚捌いてたから。えへへ」

「お嬢様の照れ顔可愛いっ」

何か部屋の中から真珠さんの声がしたけど、それは一先ず置いといて。

私はキッチンに戻って包丁を置く。エプロンを外して、タオルで顔を拭って、しっかりと魚の血を落としてからリビングへ戻った。

お兄ちゃん達もママも帰宅したから、金山さんの報告を聞くには調度いい。

早速報告を聞こうと私達は小さなテーブルを囲んでソファに座った。こう言う時、真珠さんと金山さんは決して座らないので、真珠さんは私の、金山さんはママの後ろに立ったままだ。

「結果から申しまして。あの忍び装束。私も知らぬものでした」

「そうなの?」

「はい」

「恐らく、通販等で仕入れた市販品に少し手を加えたものかと」

まさかの既製品っ!

じゃあ、あれかな?コスプレ的な事かな?

……何故、あんな目立つの着たし…。

全員が言葉を失い、あー…と遠い目をしていると、金山さんが「ですが」と話を続けるので遠くに行きかけた視線を金山さんへと戻す。

集められた疑問の視線を受け、金山さんは小さく頷き言葉を続ける。

「あの動き、技の出し方。どれも、私共と基礎は同じのようなのです」

「基礎が同じ?ならば同じ門派の人間と言う事?」

私が問うと、真珠さんと金山さん、そして実は金山さんの後ろをコッソリ付いて来てちゃっかり愛奈の隣に座っていた近江くんは三人顔を見合わせて、渋い顔をした。

「…門派の人間の可能性がある、止まりです。正直断定は出来かねるのです。何故ならば、私は皆様方が戦った人間の顔を見た事がありません」

「金山。貴方は首領よね?それでも見た事がないの?」

ママの言葉に金山さんはハッキリと頷く。

「ありません。私は立場ゆえに一族の者全ての顔とその人間性全てを把握しております。己の部下、配下は勿論の事。一族内で私を敵視している者達の部下や配下。全てを網羅しているのです」

「それでも完璧いうことはありえへんやろ?」

確かに。流石に金山さんと言えど人だからね。そんな完璧はあり得ないはず。

でも金山さんはハッキリと言い切った。「いいえ」と。

「忍びは一族の長に対し隠し事が出来ません。いえ。出来ないと言った方が良いでしょう」

「隠し事が出来ない?何故?」

「無駄だからです。隠しごとを探るのが我らの性で生業。そんな中でも能力がトップの私に対して秘密は全て無意味です。いずれ知られる情報ならば隠す必要はないのでしょう?勿論、私にだって良心はありますから、何もかも暴くと言う事はしませんが」

「金山は一族の人間の交友関係、職場ですら全てを把握しています。当然無暗に隠し事を口に出したり、自分を表にさらけ出したりもしません。だからこそおかしいのです。この近辺に私達以外の忍びがいる事が。忍びには縄張りがあります。そこを荒らす事は御法度なのです。となると奴らは私達と同じ一派と言う事になる。なのに、金山が顔を知らない」

金山さんが、忍びの長が知らない、縄張りを侵す忍びの者。

「じゃあ、あの忍び装束の人達は一体…?」

誰なんだろう?

一瞬沈黙が落ちる。

それを破ったのは、予想外の近江くんだった。

「ちょっと良いでござるか?」

「駄目よ」

「そんなっ、酷いでござるっ。でも、嫁にいじられるのはそれはそれで幸せで、だがしかし…」

「愛奈。話が進まなくなるから、近江くんを苛めるのは後にしてね」

「むぅ、仕方ないわね。で?何なの?」

愛奈が許可した途端、ぱぁっと顔を輝かせ嬉しそうに愛奈を抱きしめる近江くん。完全に愛奈に遊ばれてるけど…近江くんが幸せそうだから良いのかな?

…まぁ、愛奈も満更じゃなさそうだから良いんだけどさ。ただし、忍びとしては、顔に感情が出過ぎてて駄目なのでは…?と思わなくもない。

「で?虎太郎。何が気になるの?」

真珠さんの言葉に愛奈を抱きしめつつも我に返った近江くんが胸ポケットから何かを取りだした。

「これを見て欲しいでござる」

そう言えば全然気にしてなかったから今気付いたんだけど、近江くん忍び服着てないね。顔もすっかり丸出ししてるし。完全なカジュアルな洋服だし。愛奈と付き合うようになって変わったのかな?…それはそれで許すまじっ!

っと、そうじゃないそうじゃない。今気にするとこはそこじゃない。

近江くんが中央のテーブルに何かを置いた。コトと音がしたって事は硬い何かだよね。

何だろう?

皆でその置かれた物を覗き込む。そこにあったのは…硬貨?

「外で戦った奴が落としていった物でござる。見覚えないでござるか?」

見覚え?私達は忍びと言われる人と付き合いはあれど、忍びの内情ってのは知らないから、忍びの家紋とか言われてもきっとと言うか確実に解らない―――うん?

じっと良く見てみる。これって解り辛いけど花だ。ただの凸凹に見えるけど。よーく観察してみると花だって解る。多分藤の花だ?それが、一つ、二つ、三つ…全部で九つ刻まれている。

「藤の花……まさか、『表門(おもてもん)』の人間か?」

金山さんが不快そうに顔を顰めた。珍しい金山さんの表情に私は首を傾げる。

『オモテモン』って何?

疑問がハッキリと顔に出てたんだろう。金山さんは私の方を見て、真剣な表情で説明してくれた。

「『表門』を説明するには私達一族の『裏門』も併せて説明した方がよろしいでしょう。所謂、世間一般でも良く知れ渡っている忍びという者は、忍ぶ者。つまり、夜を渡り、闇に紛れ、主から依頼された様々な事をこなす間者の事。しかし、昔はそれで何も困らなかったものの、今の世の中それだけでは生きて行けません」

「うんうん」

「そこで私達の先祖は、表面上は普通の田舎の村、そして裏では様々な忍びの依頼をこなせるように隠れ里を作ったのです」

「うんうん」

「ですが、人とは衰え行くもの。平和な世を生きて行くに従い、忍びとしての能力を失う者達も現れ始めたのです。忍びとして生きて行く事が出来なくなった者は皆、里の表門から里を出て、各々外で日中の職を探し、それぞれ生涯のパートナーを連れて表門から帰ってくるようになりました。逆に忍びの能力を維持した人間は、闇に紛れる様に誰も知らぬ裏門から里を抜け、夜に溶け、そして夜の間に裏門から戻り人の目に映らなくなっていったのです」

「成程」

「しかし、一つだった里は、能力を持つ人間と持たぬ人間で別れ始め、その二つの勢力は段々と互いを相容れぬようになりました」

「そうなの?もしかして能力の違いからくる嫉妬?」

これはどんな場所にもあることだよね?どんなに小さな村でも起きえる諍いで、力の違いって言うのは生物にとって一番の争いの種だもんね。

私が納得しかけると、金山さんが苦笑して静かに頭を振った。

「いいえ。お嬢様。そうではないのです。これは身内の恥なのであまり、申し上げたくはないのですが…ハッキリ申しますと」

「申しますと?」

「お金の問題です」

「世知辛いっ!」

裏門の人間は裏社会の仕事をしているし、そもそも忍者としての一家の跡取りが多いので土地や権利等々で収入が多いのだそうだ。

逆に表門の人間は、一旦里を出て稼ぎ場所を探さねばならない。その時に家族や里から支度金は貰えてもそれ以上の補助は、基本が機密性保持の為して貰えないのだ。普通はお金が貰えるだけでも儲けものだと思うけど、そこはそれ。普通とは違う生き方をしてきた人達だ。何かしらあるのだろう。

その何かしらの所為で、表門の人達は金策の一つとして、土地を要求した。けれど、裏門の人間はそれを突っぱねた。当然だよね。だって土地って一番秘密が漏れやすいじゃない?そもそもそんな隠れ里の土地。もし立地が何かに使える有益な土地だったとしたら、売った瞬間色んな人間が押し寄せて機密も何もあったもんじゃなくなってしまう。

そんなお金に関する争いが何年、何十年と続いていたらしい。

「結局表門、裏門は袂を分かつ決意をして、以後互いに干渉せぬように決めたのです。その時に裏門は裏門の人間が持てる金を全て表門の人間に明け渡したと聞きます」

「渡せるものは全て渡したんだ?土地以外」

「その通りです」

一つの忍びの里。そこで表の活動しか出来ない人間と闇に紛れた忍びの能力を持った人間を二つに分けた。

本来は分ける必要もなかったかもしれないが、お金が絡み、やっかみが生まれて、争うよりは里を分けようとしたんだね。

成程。世知辛い。

うんうんと頷きつつ、脳内生理。

皆が脳内を整理したのを見計らって金山さんは話を続けた。

「さて。話は戻りますが、この硬貨です」

金山さんは硬貨を持ち、私達の前で裏返して見せた。裏には五芒星が描かれている。

「この硬貨は昔、表門と裏門。二つが一つの里だった時に使われていた貨幣です。そしてこれらは全て里を二つに別つ時、表門の人間に持たせました。裏門はその後新しい貨幣を作ったので、裏門の人間はこれを持っている筈がない。使えない貨幣を持つ意味はありませんから」

「裏門の人がこっそりと持ってたりしないの?」

「それこそ最初の話に戻りますが、私達忍びの者達は長に隠し事は出来ません。全てを表門に明け渡すと言っているのに残す事を当時の長は許さないでしょう」

「でも貨幣って、これ一般的に使える硬貨だったの?」

里しか使えない硬貨なんじゃないの?これ。

じーっと硬貨を見ると、金山さんがふっと笑って言った。

「お嬢様。この硬貨を振ってみてください」

「振る?こう」

えっと、握って左右に、えいっ。

キンキンッ。

「え?音が鳴ったっ!?」

「この硬貨は中が空洞になっていています。中身は…『金』なのですよ」

「ふみみっ!?」

もう一度振ってみる。

えっ!?えっ!?

五百円玉位の大きさの硬貨に入ってるって事は結構大きいよ、これっ。

一気に価値が膨れ上がったよ、この硬貨っ。

そっとテーブルに戻した。怖い怖い。

「でも、そっか。金山さんがこの硬貨を見て、表門の人間の仕業だと思ったのは、そう言う事情があったからなんだね」

ひとまず硬貨から話を逸らす。

すると金山さんもそれに乗ってくれて、頷いてくれた。

「って事は?私を狙った理由は結局なんなんだろう?」

って何で皆私を見てるの?私何かしたっけ?取りあえず隠れるよ?

コソコソとキッチンへ向かおうとしたけれど、ママに襟首掴まれたので失敗に終わる。

「結局狙いは変わってないんじゃないかしら?」

「お金ってこと?」

「そう。狙いやすいじゃない?裏門の人間が仕えている主でしかもお金持ちの弱そうな女子」

「あー、成程ー。確かにねー。納得ー。って納得出来るかっ!」

「姫さん。見事なノリ突っ込みやで」

「ありがとう、奏輔お兄ちゃんっ。そんな事よりっ、ちょっと表門の皆様勝手過ぎませんっ!?」

ママの手から離れて着地して、腕を組みながら訴える。

「それはその通りだが、姫。もう一つ忘れちゃいけない事があるぜ?」

「忘れちゃいけない事?」

「金山さんの話だと表門の人間は、忍者としての能力がない筈だ」

「うんうん。なのに、オレ達がさっき戦った奴らは、かなりの身体能力者だったよー」

「金山さんと互角に渡り歩いていた人間もおったで?」

「金山さんとも?」

それは、凄い能力者って事では?

「金山さんは、今の表門の長って知ってるの?」

聞くと、金山さんは静かに首を振った。

「表門と裏門が袂を分けたのは、もう今から三百年以上も前の事ですから」

そんなに前の事なのか。じゃあ、解らないよね。完全に関係を絶っていたみたいだし。

「表門の人間には関わるなと先代からずっと言い伝えられておりますし」

「拙者みたいな若造でも知っているくらい、厳重な掟でござる」

「とは言え、そうも言ってはいられませんな。お嬢様方に迷惑がかかるのであればこちらの掟等構っていられますまい。真珠、虎太郎」

真珠さんと近江くんが金山さんと小さく頷き合い、次の瞬間、金山さんは姿を消した。

残された私達。さて、どうしよう。

「姫ちゃん。ちょっとオレ達、外見回ってくるー」

「直ぐ戻ってくるから大人しくしてろよ?」

「なんなら夕飯作ってても構へんよ?」

リビングを出て行ったお兄ちゃん達に何か言う暇もなく見送り、確かにどうする事も出来ないから鍋の続きを作って待ってる事にした。

見回りに行っていたお兄ちゃん達が戻り、鍋を食べて。

その後も特に何事も襲撃もなく、一日が終わった。

念の為に華菜ちゃん達にも泊まって貰って、朝になってから真珠さんに安全に送り届けて貰った。

忍びの内情を知る事が出来た襲撃の日から暫く何事もない日々が過ぎていった。

あまりに変化のない日々。

透馬お兄ちゃん達と警戒はしていたけれど、それも何だか無駄なんじゃないかと思い始め、もしかして金山さんがどうにかしてくれたのかな?と思っていた、ある日。

私は気分転換に商店街へ旭と買い物に来ていた。

大地お兄ちゃんのお店で野菜を買えば今日の買い物は終了だ。

「毎日ごめんなさいね~。邪魔でしょう?うちの息子。邪魔よね?あの図体でいられたら邪魔なのよねぇ~」

「そんな事ないですよ~。私はお兄ちゃん達が一緒で楽しいです。えへへ」

「そうかい?ほんと美鈴ちゃんは可愛いんだからっ。ほら、おまけだよっ!」

玉葱を買いに来たのに、人参とジャガイモと茄子を貰ってしまった。なんならおまけの方が多い。

うぅ~…申し訳ないので、オレンジとレモンも買って行く事にした。そしてまた大地お兄ちゃんのお母さんにおまけを増やされる前に店を出て。買い忘れがないかどうか確かめてから私達は帰路につく。

「美鈴っ」

「あれ?ママ?」

坂道を上っていると、ママが前から走ってくる。

「ママ?どうした」

最後まで言う前に私は旭を抱き上げて、今来た道を戻る。

「お姉ちゃん?」

「しっ。駄目よ、旭。あれは、ママじゃないわ」

「え?でも…」

「見て。旭。お姉ちゃんの手」

抱き上げている逆の手を走りながらも旭に見せる。すると旭は大きな目を更に見開いて、納得してくれた。

…ママに私が震える筈がない。私が恐怖で震えるのは…男のみだっ。

ママに誰かが変装している。それは間違いない。だから―――逃げなきゃ。

「お姉ちゃん、降ろしてっ。僕も走れるよっ」

「駄目っ。旭の歩幅だと追い付かれるかもしれないっ。それに、狙いが総帥(わたし)じゃなく、金持ち…白鳥家全員ならば、旭も狙われるのっ」

全力で走る。

下り道だから、速度は増している。だけど同じだけ追ってくる男も速度も上がっている筈だ。

とにかく、何処かに逃げ込まなきゃっ!

そう、思っていたのに。やはり、忍者。恐ろしく速かった。

目にも止まらぬ速さで私を追い抜き、そして私の前に立ちはだかる。

「…お命頂戴する」

「嫌ですっ」

きっぱり、はっきりと。

そっと旭を降ろして、背に回すと一歩、二歩と後退する。

「(お姉ちゃん。真珠さんは?)」

「(さっきから呼んでるんだけど、反応がないの)」

実はさっきからこっそりとポケットに入っている、真珠さん特製緊急呼び出しボタン(見た目防犯ブザー)を押しまくってるんだけど、反応がない。

これは、真珠さんの方も襲われている可能性が高い。

どうしよう…、今何か武器になるような物、持ってたっけ。

ポケットを触ってもそれらしいものはない。

落ち着け、落ち着け、私。武器、道具…アイテム…そうだっ、入手アイテムっ。そこに武器になりそうな物はないかな?

や、でも待って。ステータスなんて開いてる余裕なさそう。

今まさにジリジリと間合いを取り合って、背中は冷汗が流れてるのに。

「(お姉ちゃん。僕、透馬さん達、呼んでくる)」

「(えっ?旭?何言ってっ)」

私が引きとめるのも聞かず、旭は走りだした。

「駄目っ!旭っ!もしかしたら、後ろにだってっ」

敵はいるかもしれないのよっ!

こう言う時、迂闊な行動は命取りになる。

それを私は知っているけれど、まだ幼い旭にわかるはずがない。

でも待って?

賢い弟が、私の大事な弟が、突然こんな行動をとるとは思えない。

もしかして…。

もしかしたら、私が抱っこして逃げたのは…。

ドスッ…。

お腹に鈍い衝撃。

「―――ッ!?」

喉に熱い液体が上がって来て、咳と共に吐きだした。

赤い液体が地面を濡らす。

「お姉ちゃん?僕はここにいるよ?」

「……ぁ、さ、ひ…」

「本当の旭は、僕達の里で眠ってるけどね」

眠ってる?

いつ、入れ替わったの?

叫びたいのに、目が霞む。刺された所と、喉からと。血が溢れている。目が霞むのはきっとその所為だ。

それでも倒れ込むのだけは絶対に許されない。

ギッと睨みつける。

「ぉ、もて、もん…?」

声が出ない。

刺されたお腹から流れる血をとどめようと無意識に右手で抑えながら、掠れる声で問う。

すると、目の前の旭の偽物は笑った。

「表門に能力がないなんて、いつの話?僕達だって忍者の末裔だよ?」

そうか…。先祖返り…。

「美鈴ーっ!!」

遠くで本物のママの声が聞こえる。

「邪魔よっ!離しなさいっ!美鈴っ、美鈴ーっ!!」

ママの声が近づいてきている。

だけど、立っていようと踏ん張っていた足から力が抜けて、私の体は傾く。

私の意識は地面の衝撃を感じる前に途絶えた…。

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外伝第一章 御三家ルート 第三十一話 無限ー御三家編ー
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」「確かに。姫が一番可愛いな」「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。お世辞言っても何もでないんだからっ。今日の晩御飯は何が良いっ!?」全くもう、お兄ちゃん達は。何そのやれやれって顔はっ!?本当に、透馬お兄ちゃん達は相変わらずだ。リビングでお兄ちゃん達の作業を眺めつつ、私は笑った。あの後…。ママに選択を迫られたあの後、正直私は何処も誰も選べなかった。精神の年齢がもうだいぶ高くなってしまっているから、双子のお兄ちゃんや優兎くん達はもう弟みたいな感覚で。旭達に至っては最早息子の気分である。ぶっちゃけて言えばその括りに陸実くん達も入ってしまっている。となると残された選択肢は、鴇お兄ちゃんと御三家のお兄ちゃん達。鴇お兄ちゃん。鴇お兄ちゃんかぁ。なんでかな?鴇お兄ちゃんとは、今の距離を保っていた方が良い。そんな気がするんだよね。この感覚は今一良く解らないけど、従っていた方が良い気がするんだ。ってなると、残るは御三家のお兄ちゃん達しか残らない訳だけど…こんな消去法で相手を選ぶ、人生を選ぶってのはどうなんだろう?お兄ちゃん達に失礼極まりないよね。私としては御三家のお兄ちゃん達には自分が選んだ本当にとことん惚れ抜いている相手とくっついて欲しいと思ってるの。これは紛れもない私の心からの本音。そう、思ってはいたんだけどね…。私は今考えていた事をストレートにママにぶつけてみた。すると、ママは老いを感じない綺麗な顔の眉間に皺を寄せて、大きくため息をついた。「よりにもよって、このルートを選ぶなんて。…参ったわねぇ」「え?」「けど、そうね。選んでしまったのものは仕方ないわ。私は娘が大事ですもの」え?ちょっと待って。ママ一人で話し進めないで。説明
last updateÚltima actualización : 2026-04-29
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第三十二話① 表裏の輪
私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でもさ?私今意識あるよね?こうやって考えていられると言う事は意識が戻ってるって事だもの。 と言う事は、意識は戻ってるけど、目を閉じているだけ、って感じ? …じゃあ、目を開けば…。 閉じていた目を開くと。ででんっ!「ふみっ!?」 目の前に毎度恒例ママのドアップ。 これ、本当にびっくりするから勘弁して欲しい。 ばっくばっく言う心臓を抑えつつ、数歩後ろに引くとママはこれ見よがしに大きなため息をついて私に呆れた目線を向けた。 「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」 「へ?」 本?廊下? 何を言ってるのかな?ママは。 何をぼんやりしてるって私の方が聞きたいし。刺された娘に本を持って廊下に立ってろなんて、なんとゆー拷問。 大体刺されたお腹だって……あれ?お腹に包帯も何もない。痛みもない。 え?ちょっと待って。そもそもなんで私、本を持って立ってるの? 「美鈴?聞いてるの?本を持って廊下に出てみなさい?」 「ふみ?」 全く状況を理解出来なくて首を傾げる。 待って?これどういう状況?本を持って、廊下って、え?さっぱり解らないんだけど。 手に持っていた本を見てみる。RPGに出てきそうな…って、これも前に思ったけど、これってセーブの本だよね? この本は私の部屋からは持ち出す事は出来ないって、もう実証済みだよね?一回やったもんね?結果は解ってるんだし、何度もやらなくてもいいんじゃ…? と言うか…今気付いたけど、ここ私の部屋じゃない? 周りを見渡してみても…うん、間違いない。私の部屋。
last updateÚltima actualización : 2026-05-05
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第三十二話② ※※※
「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。でもこれはヒロインが持つべき本らしい』これは確かに私が書いた。それは間違いない。でも以前書いた時と違う箇所がある。私の書いた文字じゃない。それは以前と変わらない。違うのは勝手に浮かび上がった日付の後ろにあるハートの数だ。私が最初に見た時は三つあった。それが今は一つになっている。それを見て私は確信した。間違いない。これ、『残機』だ。残機って言うのも解り辛いかな?『ライフ』と表記するゲームもあるし。要は失敗できる回数って奴だ。RPG系のゲームには珍しいものでもある。これが良くあるのはそう、例えば土管工のおじさんが巨大亀を倒しに行くあのアクションゲームとかかな?今は土管工ゲームについての詳細は省くけれど、何故私がこのハートにその役割があると思ったのか。それは、私の記憶から解る事。恐らく、私は二回、『死んだ』のだ。一回目は、旭に化けた表門の女に刺された時。二回目は、旭を庇った時に投げられた、多分即死効果のある毒針を刺された時。初めて死んでゲームをやり直した時。私はこのセーブの本をちゃんと確認しなかった。今の状況が夢か何かだと思いたかったから。事実として受け入れ難くて、それに皆の安全を優先したかったのもある。だから本を確認しなかった。でもそれじゃ駄目なんだ。今になってママが以前言っていたこの世界はゲームの世界だって、油断するなって言った意味を痛感した。私は机に駆け寄りペンをとる。『何の因果かは解らない。だけど、今解る事を書き記そうと思う。いつどんな状況でまたやり直す事になるか解らないし、もしかしたらやり直せないかもしれない。でもこの本は役に立つ。使い方次第だか
last updateÚltima actualización : 2026-05-06
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第三十二話③ ※※※
それから、襲撃のある8日まで。私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。…私、本当にこれでいいのかなぁ…?ちょっと不安になるよね。だって、お兄ちゃん達は忙しく動き回ってくれてるってのに、私はここで華菜ちゃんと楽しく会話しながら、仕事をしているだけなんて。いいのかな…?こんなんで…。お兄ちゃん達の仕事だって滞るよね…。お兄ちゃん達のお店にだって迷惑がかかるだろうし…。…お兄ちゃん達に何か他に出来る事ないかって聞きに行こうかな…。最悪何も出来なくても差し入れだけでも…。うん、そうしよう。開いていたパソコンを閉じて、お財布を持って。部屋で勉強していた華菜ちゃんに断りを入れて、買い物に出る。おー。いー天気ー。朝からこんなに晴天だとお昼頃には暑くなるかもなー。動きやすい恰好で出て来て正解だったかも。えっと今日は何を買おうかな。お昼ご飯はもう決まってるから、晩御飯の材料かな。今日の晩御飯は…華菜ちゃんパパのリクエストでもつ鍋ですっ!前回、華菜ちゃんママのリクエストを聞いたら華菜ちゃんパパが拗ねちゃったからね。今日は華菜ちゃんパパのリクエストっ。まずはもつ鍋の一番の目玉である『もつ』を買いに行かなきゃ。透馬お兄ちゃんのお店が肉屋さんだから丁度いい。お肉、お肉~。どんな時でもお買い物って楽しいよね~。あ、勿論警戒は怠ってませんよ?ふっみみみ~♪脳内でのみ鼻歌を歌いつつ、少し軽い足取りで透馬お兄ちゃんの実家のお店へ向かっていると、「きゃあああああっ!!」えっ!?何事っ!?突然の叫び声。…叫び声だけど、どっちかと言うと喜び系の叫び、所謂黄色い声だったような?女性が群れをなして走って行く。しかも皆三方向へ割れた。途中まで同じ方向に走ってたのにっ?直角に割れて行くよっ!?あーゆー時の女子の
last updateÚltima actualización : 2026-05-07
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第三十二話④ ※※※
車で揺られる事、数時間。 「そろそろ目的地に近いと思うんだけどー」 大地お兄ちゃんの言葉に私は、運転席と助手席の間から顔を出して、カーナビを見る。 確かにそろそろ免許証にあった住所につく。 なんてこったい、案外近かった…。 高級住宅街。言うだけあってそれはそれは立派なお家が建ち並んでいる。 そんな住宅街のド真ん中に、後藤鉄平(ごとうてっぺい)宅はあった。 「うぅ~ん、確かに立派な家だけど…」 「姫さん。白鳥家と比べたらあかんで?」 「あ、うん。それは勿論比べたりはしないけど。でも、なんでかな?高級なお宅感があんまりしないよね…何で?」 「言われてみたら確かに。何て言うん?こう…悲壮感が漂うてると言うか…」 悲壮感?窓の外を見ると、高級な住宅が何軒も建ち並んでいるが。どこの家にも高級住宅街と言うには違和感がある。 一体何が他の高級住宅街と違うのかな? じーっと違和感を探る。高級住宅……あれ? 「あぁ、そっか。庭とか壁とか全部放置されてるんだ」 「?、姫さん?」 「ほら、奏輔お兄ちゃん。見てみて。普通の高級住宅なら、誰かしらがお庭の手入れとか、壁の修繕とかするはずだよね?なのに、見て。外観の目立つ所以外は」 「あぁ、なるほど。…元々あった金を当てにして、何もせぇへんからこうなるんや」 車がゆっくりと狙いの後藤家の前に止まる。一先ず降りたりはせずに、車の中から家の中の様子を窺った。……特に私達の事は報告されている訳では無さそうだね。報告が行ってるのなら、この車にだって何しかしら反応を示すはず。スッと後藤家の窓の方に視線だけを向ける。…視線は感じない。こちらの様子を探っている訳でもなさそう。 視線を車の中へ戻すと、前に座っているお兄ちゃん達もこちらを振り返っていた。目を見ると、お兄ちゃん達も真剣に頷いた。きっとお兄ちゃん達も同じ結論に達しているんだろう。 「まず、俺が行って様子を見てくる」 シートベルトを外した透馬お兄ちゃんが車を降りた。 門の前に立ち、律儀にチャイムを鳴らすと、奥さん?らしき人が出て来た。 透馬お兄ちゃんを見て、一瞬固まったかと思うと一言二言話して、会釈して戻って行ってしまった。 透馬お兄ちゃんがそれから数度チャイムを鳴らすけれど、奥さんらしき人は戻って来なくて。透馬お兄ちゃんはそのまま車に戻って来た。
last updateÚltima actualización : 2026-05-08
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第三十三話① 白猫が奏でるは魔學士の夢(嵯峨子奏輔編)
「奏輔お兄ちゃんっ!」叫んで。 トスっと背中に衝撃がきた…と思ったけど、あれ?痛くない? 閉じていた目を開いて、そっと振り返ってみると。 確かに私の背中に矢はぶつかっていた。 けど刺さってない。 むしろくっついているが正しい。吸盤でこうぴったりと。 あれ?もしかして使われた矢って玩具の矢だった? でも、あっちから感じた気配は完全に狙ってきたものだと思ったけど…。 首を傾げていると、私が庇った筈の奏輔お兄ちゃんが急に私の腕を肩から引っ張り上げて背負った。 しかもそのままくるんと半回転。 「ふみっ!?」 慌てて奏輔お兄ちゃんの首に腕を回してしがみつく。 「姫さんの性格上、こうなる気はしとったんや。前もって対策しといて正解やったわ」 ふーやれやれと言いたげに奏輔お兄ちゃんは大きく息を吐いた。 そして少しずれた眼鏡のブリッジを指で戻したかと思うと、 「透馬。大地。屋根の上や」 と、二人に指示をした。透馬お兄ちゃんも大地お兄ちゃんも気付けば私達の横に立っており、 「屋根上だな」 「了解ー」 二人は一斉に駆け出す。 残されたのは奏輔お兄ちゃんとそれにぶら下がる私。 「えーっと…?」 「ちょっと待っとってな。直ぐにアイツらが連れて来るやろうから」 「う、うん。でもこのままでいいの?重くない?」 「全然。お姉達に比べたら軽いし可愛ぇしで何も問題あらへんよ」 「ふみ?桜お姉ちゃん達も可愛いよ?美人よ?」 「姫さん。とうとう目が悪くなってもうたんやなぁ。後で眼鏡買いに行こな」 そんな心底『可哀想に』と同情するような目で私を見なくても…。 なんでー?お姉ちゃん達は奏輔お兄ちゃんと同じでとっても美人なのに。 美人だけどまだ独身なのは、きっと高嶺の華だからだと思うの。うんうん。 「所で奏輔お兄ちゃん」 「うん?」 「そろそろ降りても良い?腕が痛くなって来たの」 「もう少し頑張りぃ。あんまり広範囲の盾(シールド)はまだ使えへんのや」 「盾(シールド)?って?」 「スキルや。どうやら俺はスキル特化型らしくてな。透馬や大地より一回に覚えれるスキルが多いんよ」 「へぇ~。じゃあ、私の背中に刺さってるこれもスキル?」 「そや。武器変化のスキルを使うた。言うてもこのスキルは使用者の体に触れてる事が大前提や」 「って事は?」
last updateÚltima actualización : 2026-05-09
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第三十三話② ※※※(奏輔視点)
「いっ」姫さんには悪いけど叫び出しそうなその口を手で塞ぐ。今叫び声を上げられると、逃げ出している事がバレる。もしかしたら既にばれている可能性もあるが、それでも。俺の意図を理解してくれた姫さんが大人しくしてくれている。その隙に源祖父さんが張ってくれた結界を頼りに庭へ降りた。肩に担いだ姫さんがどんどん冷えていくのが触れた部分から伝わって、どうにかしてやれないかと背中を叩いてみる。これで少しでも安心してくれると良い。こんな事しか出来ない自分が情けなくもある、「邪魔だなぁ…。華の横に男は要らないんだよ」嫌な予感がした。背中から何か嫌な気配がして、咄嗟に俺は姫さんを肩から降ろして腕の中に入れた。同時に背中から爆音と風圧が襲ってきて、俺達は庭に転がった。何とか姫さんは守れたと思う。けど元々俺の体力はそこまで強くない。恐らく鴇や透馬等に比べると俺が一番弱い。大地や透馬ですら直ぐに動けない爆風を喰らった俺が直ぐに動ける筈もない。せめて姫さんだけは守らないと。頭ではそう思っていても動けない。背後からは姫さんを狙う男が迫って来ている。立ち上がらないと…。腕に力を込めて立ち上がろうとした。だが、それよりも早く姫さんが動いた。一瞬だけかち合った視線。その視線は強く語っていた。俺達を守らないと、と。巻き込んではいけない、と。違う。姫さん、その選択は違うでっ。俺の腕から抜けた姫さんは振り返らずに走りだす。男が姫さんの後を追う。姫さんがいくら本気を出して逃げたって、相手はあいつだ。どこまでも追い掛けて行くだろう。駄目だ。こんな、こんな攻撃で足を止めてる場合じゃないっ。動かない体を無理矢理に立たせて、足を動かす。姫さんの後を追って道路に出て、俺の視界に入った光景は…。「美鈴っ!!」「ママっ!!」姫さんの手と佳織さんの手が触れあうと同時に、男の体が青く光りその手から出された青い光が姫さんの体と接触した瞬間だった。「姫さんっ!」俺の声は姫さんに届いただろうか。崩れ落ちた姫さんの体を佳織さんが抱き止める。「姫さんっ!」もう一度叫ぶも姫さんは俺の声にピクリとも反応しない。「美鈴っ!しっかりしなさいっ!美鈴っ!」佳織さんが姫さんの体を揺さぶるも全く動かない。遠目で見ても姫さんの体からは少しずつ血の気が失せて行く。「…
last updateÚltima actualización : 2026-05-10
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第三十三話③  ※※※(奏輔視点)
佳織さんが転移させた場所。それは、 「おかえりなさい。佳織」 源祖父さんの家。佳織さんの実家の庭だった。出迎えの言葉をくれるヨネ祖母さんの声が尚更転移した事実を実感させた。 だが確かにここは地図に載らない場所。安全ではあるかもしれない。けれど俺達は皆この場所を知っている。 逃げ場としては、あまり良くないのでは? 俺の疑問は顔に出ていたんだろう。 佳織さんは俺の顔を見て、静かに首を振った。 「大丈夫よ。奏輔くん。ここからもう一度転移するから」 「え?」 「私の秘密基地へ移動するわ」 頷いてから佳織さんはヨネ祖母さんの方を向く。 「母さん。頼んどいたあれは」 「ちゃんと配達させといたわ。安心なさい」 「ホントに?助かるー。父さんには」 「何も言わないように言ってるわ」 と言いながら、ヨネ祖母さんの手には何やら四つ折りにした紙が一枚。 …二人がえらい悪どい顔して笑ってるって事は、近寄らないが吉。 「ありがとう。母さん」 「この位何の問題もないわ。…頑張るのよ」 「えぇ。絶対に助けるわ」 大きく頷いて、再び足元へ特大の魔法陣が現れる。 そして、また俺達は転移した。着いた場所は、窓一つ無い殺風景な狭い部屋。 「こっちよ、奏輔くん」 手招きされてそちらを見ると壁がある。 こっちよって、その壁に何かあるのか? こんな時におふざけなんて佳織さんは絶対しないだろうから。 俺は大人しく佳織さんの後を追うと、ガコンと音を立てて壁に穴が現れた。 中を覗くと、滑り台状に下へと穴が続いている。……先が見えない。 「はい。入って入って」 入ってって…ホンマに大丈夫なんか?これ…。 下からヒョオオオオと風の音がしてるんやけど…? 「奏輔くん。入らないなら蹴るわよ」 「い、行きます」 無理矢理蹴落とされるなら、素直に覚悟決めるわ。 姫さんをしっかりと抱えて、一二の三で尻から滑って降りる。 人二人分の重みと何故かしっかりと滑る様に出来ている滑り台の所為で加速する加速する。 正直怖い。 姫さんと眼鏡を抑えて加速するまま下ると、突然滑り台が消えぽいっと体が投げ出された。 ボフンッ。 体を何かが受け止めてくれたが、自分の後ろから直ぐに佳織さんが来ると察知して素早く横へ避ける。 「よっと」 着地した佳織さんがカツカツと歩く音
last updateÚltima actualización : 2026-05-11
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第三十三話④ ※※※(奏輔視点)
「それじゃあ、私は調査に行ってくるわね。あ、そうそう。あっちに見えるドアがトイレで反対側に見えるドアがキッチンね。あと向うに見えるのがお風呂場へ向かうドア。ここにあるものは自由に使ってくれても構わないから。食材も母さんに運んで貰ってるし」「了解です」俺が頷くと満足気に頷いて佳織さんはまたスキルを使ってその場から消えた。……さて。あの野郎の事は佳織さんに任せる事にして。念の為に。姫さんを抱き上げて一旦椅子に座らせて、靴を脱いでベッドに乗り上げた。俺達が落ちて来た穴。あれを塞ぐ。魔法で塞ぐって事も出来なくはないが、完全に塞いで異常事態が起きた時逃走経路がない、なんてそんな事で焦りたくはないからな。そこらにあった何の変哲もない段ボールをテープで貼り付けるだけに止めて置いた。これで侵入者が気配を消して入ってきたとしても気付けるだろう。(けどこれだけやと逆に不安やな…。何かスキル、ないんか?)自分のスキル一覧の所を見ると、【盾(シールド)】の上位互換スキルに【結界(バリア)】がある。ステータスを開いて、結界(バリア)を習得して、この部屋全域に発動させる。これで誰が来ても解るし、不要な侵入者も防げる。段ボールの意味はないかも知れないが、明かりが見えなかったりとか多少の誤魔化しには、まぁ使えるやろ。守りをそれなりに作り上げてから、ベッドを少しだけ移動させて、もう一度そこへ姫さんを戻した。セーブの本を開いて、もう一度中を確認する。相変わらずハートのマークは点滅している。そこに逆に安堵を覚えた。これが点滅してる限りは姫さんはまだ意識を保っている証拠だから。そのセーブの本を姫さんの枕の横に置いて、俺は中央の机に戻り佳織さんが用意してくれた書類に向き合った。(さっきは佳織さんと話を合わせたけど…正直、佳織さんを信用出来ない部分がある。確かに佳織さんは姫さんを救う為にはなんでもする。それは間違いない。けどそれは【佳織さん】の感情であって、ゲームでの【佳織さん(ラスボス)】ではない。姫さんが言っていたヒロイン補正。それが何処で出てくるかなんて解らない。そもそも俺が疑ってるのはそこだ。【ゲームの主軸から外れた】と。それは本当なんだろうか?)何も書いていない紙とペンを持ち、疑問に思った事をつらつらと書きとめて行く。(もし主軸から外れたとしたのなら、佳織さ
last updateÚltima actualización : 2026-05-12
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第三十三話⑤ ※※※(奏輔視点)
あれも駄目、これも駄目、と。 もうかなりのパターンを試してみたと思う。 (けど…それらしき結果は出なかったな) しかも、何日も夜通しぶっ続けで実験を繰り返していたから、正直体力的にも限界に来ている。 (いい加減、何か食べないと…頭が上手く回転しぃひん) あれから何日経過している? この部屋には窓がない上に地下にあるようで、さっぱり今が何日の何時なのか解らない。 一先ず時間だけでも確認出来ないかと周囲を見回して、壁にかけてある時計を見つけた。見ると時間は十五時を指している。 (ここに来た当初は気に止めんかったけど、良く見回してみるとここ、時計いくつあるん?しかもなんで全部日時時計で表示が二十四時間?) 疑問には思ったものの直ぐに理由に思い至る。成程。その時計にしないと感覚が狂うからか。数があるのも例えば何かの時計が狂った時に他の時計で時間を合わせる為なんだろう。 あれから五日経ってたのか…。俺良く動けてたな…。 さてと。 足をキッチンのドアに向ける。 姫さんとの会話とトイレしか往復してなかったから、キッチンに入るのは初めてだな…って、これはキッチンか? シンクと蛇口の横に何故か電子レンジ。横にドでかい冷蔵庫と床にカセットコンロ。狭いキッチンの面積はほぼ冷蔵庫が占めている。 冷蔵庫を開けて気付く。 (これ冷蔵庫でなく、冷凍庫や…) 恐らくヨネ婆さん手製の料理がジップされて積み重ねられている。 …佳織さんが言っていたのはこれの事だったんだろう。 適当に手に取り、そのまま電子レンジへ入れて解凍と温めをする。その間に皿を……ないやん。 食器類が何もない。せめて、せめて箸か何か…。 周りを見回し、部屋の隅に小さな段ボールがあるのを発見し、急いでそれを開けると中から使い捨てのスプーンが大量に出て来た。 (スプーンがあるなら、何とかなるわ…) チンッと音が電子レンジから聞こえ、解凍されたジップの中に入っているのがおでんだと解る。 汁が零れないように慎重に取り出さなあかんね…熱いだろうから袋の上の部分の端っこを掴んで…あちち…。 キッチンから戻り、どうせならと姫さんと会話しながら食べようと姫さんのベッドの側へ。 俺は床に座って、姫さんの手を握った。 「姫さん。聞こえるか?」 (はいはーい♪聞こえてるよー♪) 会話をしながらお
last updateÚltima actualización : 2026-05-13
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