~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中

~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中

last updateDernière mise à jour : 2025-07-31
Par:  倉橋Mis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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「地球を滅亡させる。その任務は月世界セレネイ王国に任せる」  銀河連邦の決定により月からの地球侵略が迫る。 「今こそ我らセレネイ王国が、新たな地球の住人になるのだ」  美しき独裁者、キラーリ公主の下、地球侵略が進行する。  桜花高校一年特進クラスのクラス委員、朝井悠馬は心の優しい少年だったが、それゆえにクラスの雑用係をひとりでさせられていた。  その悠馬の前にひとりの美少女が現れる。  ウサギの長い耳のついた帽子をかぶり、悠馬のフィアンセと名乗り、悠馬を決して離さない。  ひそかに悠馬を見つめる特進クラス一番の成績を誇る如月飛鳥。  若き天文学者、荒川今日華。  美しき女性たちが多数、悠馬に近づく中、地球の危機が迫る。    

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Chapitre 1

~第一話 高蔵彩良先生~① 高蔵先生の夢

 昨夜《きのう》だけど、高蔵彩良《たかくらさら》先生の夢を見た。

 昼間、彩良先生の誕生日プレゼントを自宅に届けてきたからかもしれない。彩良先生の代わりに、彩良先生のお義母さんが受け取ってくれた。

 朝井悠馬《あさいゆうま》にとって、明日は桜花高校《おうかこうこう》の入学式。私立の名門で、母から強く入学を勧められたのである。

 母は天文学者で、日本が誇る東海科学館長野天文台の副館長をしている。学会の発表があるため、どうしても入学式には参加できない。悠馬は別に構わなかった。母が一緒に来れば、地学と物理の担当で天文部の顧問をしている荒川今日華《あらかわきょうか》先生に会うことになる。荒川先生は悠馬の母とは、先輩後輩、母の助手の関係。そのままストレートで天文部に入部ということになりそう。母が来ない方が都合よい。

 母は天文台に単身赴任中。そもそもほとんど自宅にはいない。家政婦さんが週に三回通って家事をしてくれるが、悠馬もたいていのことは自分で済ませていた。以前は荒川先生が母の代わりによく自宅に来てくれたが、仕事が忙しくなり、ほとんど尋ねてくることもなくなった。これも悠馬には好都合だった。

 悠馬は明日、学校へ提出する書類を点検の最中。

<朝井悠馬《あさいゆうま》 桜花高校一年特進クラス

 現時点での進路・美術関係

 現時点での進学希望校・アジア美術教育大学

 保護者 父は八年前に病死

     母・朝井芽衣《あさいめい》(天文学者)>

 この書類を母が見たら、ただでは済まないだろう。

 そして次のアンケートの回答も多分……。

<アンケートQ12

当校の教員、講師、職員の中に親族や知人がいますか?

 A.います いません〇 >

 母だけじゃない。母の後輩で母親代わりだった荒川先生はどう思うだろうか?

 ふたりがどう思うかはともかくとして、書類の点検終了。

 悠馬は改めて昨夜見た夢を思い出そうとした。

 小学三年のときの担任教師、高蔵彩良《たかくらさら》先生の夢。

 出会ってからのいくつもの思い出が、ドラマの総集編のように再生されていく。そんな懐かしくて楽しくて、そして悲しい夢だった。目が覚めたときは涙を流していた。

 高蔵彩良先生。一昨日、三十三歳になったばかり。悠馬の心に残る彩良先生のイメージ。

 短めのボブの髪型で茶髪。切れ長のシャープな目と真一文字の口元が、クールで近づき難い印象を与える。ハイネックのシアートップスに美しく盛り上がった胸元。そしてミニ丈のタイトスカートから覗く太腿は、六十センチ近くのサイズでかなり大きかったが、それを強調するかのようにピチピチのタイトスカートにレースのガーターストッキングを履き、今にもはち切れそうな太腿に練乳をたっぷりかけたスィーツのような甘さを演出していた。

 今、思い出すと、悠馬と彩良先生は、最初から担任と生徒の関係以上に仲が良かった。どうしてそんなに深い関係になったのだろうか? 実際、悠馬にもよく分からない。ふたりとも町はずれで家も近所だったからかもしれない。放課後や休みのときは、よく彩良先生の家に遊びに行っていた。

 母親代わりの荒川先生にも紹介。たまに母が帰ってきたときは自宅に招待した。気のせいかもしれない。荒川先生は、彩良先生とは距離を置いているように見えた。

「あのね、悠馬くん。分からないところがあったら、私が教えてあげる。一応、これでも朝井先輩から悠馬くんのこと頼まれてる、それにね。一応、これでも高校教師だよ」

 荒川先生からハッキリ言われたことを今でも覚えている。

「今日華姉さん、じゃあ、国語なんだけど、ちょっと教えて貰えますか?」

「あの、国語と社会は別で……、エエーッと、それから図工と音楽もちょっと……」

「……」

 そしてそんなとき、あの事件が起きたのだ。まだ小学三年の頃だった。

 

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~第一話 高蔵彩良先生~① 高蔵先生の夢
 昨夜《きのう》だけど、高蔵彩良《たかくらさら》先生の夢を見た。  昼間、彩良先生の誕生日プレゼントを自宅に届けてきたからかもしれない。彩良先生の代わりに、彩良先生のお義母さんが受け取ってくれた。  朝井悠馬《あさいゆうま》にとって、明日は桜花高校《おうかこうこう》の入学式。私立の名門で、母から強く入学を勧められたのである。  母は天文学者で、日本が誇る東海科学館長野天文台の副館長をしている。学会の発表があるため、どうしても入学式には参加できない。悠馬は別に構わなかった。母が一緒に来れば、地学と物理の担当で天文部の顧問をしている荒川今日華《あらかわきょうか》先生に会うことになる。荒川先生は悠馬の母とは、先輩後輩、母の助手の関係。そのままストレートで天文部に入部ということになりそう。母が来ない方が都合よい。  母は天文台に単身赴任中。そもそもほとんど自宅にはいない。家政婦さんが週に三回通って家事をしてくれるが、悠馬もたいていのことは自分で済ませていた。以前は荒川先生が母の代わりによく自宅に来てくれたが、仕事が忙しくなり、ほとんど尋ねてくることもなくなった。これも悠馬には好都合だった。  悠馬は明日、学校へ提出する書類を点検の最中。<朝井悠馬《あさいゆうま》 桜花高校一年特進クラス  現時点での進路・美術関係  現時点での進学希望校・アジア美術教育大学  保護者 父は八年前に病死      母・朝井芽衣《あさいめい》(天文学者)> この書類を母が見たら、ただでは済まないだろう。  そして次のアンケートの回答も多分……。<アンケートQ12 当校の教員、講師、職員の中に親族や知人がいますか? A.います いません〇 > 母だけじゃない。母の後輩で母親代わりだった荒川先生はどう思うだろうか?  ふたりがどう思うかはともかくとして、書類の点検終了。  悠馬は改めて昨夜見た夢を思い出そうとした。  小学三年のときの担任教師、高蔵彩良《たかくらさら》先生の夢。  出会ってからのいくつもの思い出が、ドラマの総集編のように再生されていく。そんな懐かしくて楽しくて、そして悲しい夢だった。目が覚めたときは涙を流していた。  高蔵彩良先生。一昨日、三十三歳になったばかり。悠馬の心に残る彩良先生のイメージ。  短めのボブの髪型で茶髪。切れ長のシャープ
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