LOGIN「わたしはヒロイン。殿下と結ばれるのが、運命なの」 そう信じて疑わなかった女子高生から転生した乙女ゲームのヒロイン、サフィー・プラハは、聖女グルナの囁きに従い、破滅したはずの悪役令嬢アプリルを再び告発する。 夢のような舞踏会、優しい王子の言葉。 ――すべては、偽りだった。 断罪、破滅、そして廃都への追放。 ヒロインであるはずの彼女は、気づけば「ヒドイン」として物語の外へ落とされていた。 崩壊した夢の中で、彼女は何を選ぶのか。 これは、聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けた少女が、すべてを失う物語。
View More宿を出てから、朝の街道を進んでいく。 人通りが多くて、荷車や様々な人達が行き交っている。「昨日より、人が多いね」 ふとアプリルに呟いた。「首都に近づいているからでしょうね」 まだまだ距離はあるんだけれどね。 でも、確実に近づいてはいる。「今年は巡礼も多いな」 歩いていると商人達の会話が聞こえてくる。 巡礼かぁ。「聖女様の祝祭が近いからな」 やっぱりこの国において、そういったのがあるんだ。 しかも、聖女様って。「祝祭……」 私達も参加して良いかな。 お祭りだったら、出店とかもありそうだから。 それと同時に不安もあった。 私達にとっては、”王国の”聖女様に断罪されている。 「首都では、聖女様に関する催しも多いみたいです」 ロータスが説明した。 この国のこと、知っているのね。「人気なんだね」 私は少しだけ微笑みながら返事を行う。 やがて歩いていくうちに、遠くに白い城壁が見えてくる。 少しずつ塔がはっきりと。「……大きい」 近づくにつれて、人や建物が視界に。 私はそれに圧倒されそうだった。「王国の王都と同じくらい、人が多そうですわね」 アプリルは顎に手を当てて考えているようだった。 それくらい大きいんだったら、街に飲み込まれてしまうかもしれない。 けれども、この大きさにワクワクしてしまう。「ここなら」 やがて首都を取り囲む城壁と城門が目の前に。 そこには、役人らしき人が数個尋ねて通していた。 私達も例外じゃなくて、訊かれることに。「名前と出身、それに滞在目的を」 そのまま伝えていって、役人は頷きながら聞いていた。「隣国から来たのか」
「ありがとうございました」「こちらこそ。守ってくれてありがとう」 私はこの街を出ていく直前、ニコラさんに挨拶をした。 彼は私が守っていた露店で営業を行っている。 かつての光景が戻っていた。「それとこれ、道中持っていけ」 挨拶が終わって街の外へ歩こうとしたら、ニコラさんは商品をいくつか渡してきた。 食料とかは、分けてもらっているけれども。 さらにということ。「えっ、いいんですか?」「渡した分だけじゃ、足りないと困るからな」 ニコラさんは豪放磊落《ごうほうらいらく》に笑いながら、私達を見つめていた。「でも……」「いいから受け取っておけ」「……ありがとうございます!」 私はそのまま受け取ることにした。 ニコラさんに笑顔を見せる。「まあ、なんだ。何かあったとき、アンタの戻る場所はどこだってあるからな。当然ここの街にも、な」「そうですね。では、幸運を」「ああ。まあ、また店を空けることになりそうだったら呼ぶかもな」 戻る場所。 どこにもあるんだ。 私はそれを胸にしまいながら、露店を背にして、街を離れていく。 ”帰れる場所”があるだけで、少しだけ怖くなった。 少し歩いて振り返ると、露店街は見えなくなっていた。「短かったね」 一ヶ月も経っていない。 それでも、守っていた露店も見えなくなって、寂しく感じる。 だけど。「ちゃんと、生きましたわ」 アプリルの声は、少し誇らしそうだった。 はっきりと居場所があった。 私だけじゃない、アプリルもロータスも。 王都やクリスタリア学院という輝く場所じゃないけれども、はっきりと。「次も生きられるかな」「分かりませんわ」 軽く首を振りながら、アプリルは答え
【グルナ視点】 わたしは学院にある聖堂の高窓から、光を見上げていた。 優しい光がわたしを包んでくれて、気持ちが落ち着く。 大丈夫、あの二人の動向は分かっていない。 おそらく、廃都かどこかで果てている。 何も報告が来ないのが証拠かもしれない。 動向があれば、来るのだから。 特に廃都で果てているなら、報告する人間なんているわけ無い。『心配しているのですよ、グルナ』 優しい声が頭に響く。「大丈夫」『余裕みたいですが、そうなのかしら』 すると、聖女様の声が聞こえてくる。 わたしだけに聞こえる、導きの声。「えっ?」 まるでわたしの考えが間違っているかのように。『廃都は抜けようと思えば抜けられる。一人だけでは不可能ですが、アプリルの存在があれば……』「そんなこと」 少し俯きながら、聖女様の言葉を聞いていた。『どうでしょうね』 わたしを厳しい言葉で言い放った。 それから、少しして学院の侍女がわたしのところへ。「グルナ様、隣国の廃都に近い街において、マッサージで有名な露店があるようです」 マッサージで有名? どういうことなんだろう。「あの、どうしてその話題を?」「何日か前から金髪の少女が店主不在の間、行っているらしく、人気らしいです」 その言葉を聞いて、身体が震えた。 もしかして、サフィー・プラハなの? 彼女はマッサージが上手だった。 容姿が一致している。『だから言ったではありませんか。あなたが緩めたから、闇が息を吹き返そうとしているのです』 聖女様はわたしを糾弾した。 まるで犯罪者を逃がしたかのように。「でも、そこで終わる可能性だって」 小さな街で生きているだけ。 それならば、影響は大きくないはず。『いいえ。放置すれば、
荷物を整えて二週間以上過ごしていた宿を後にする。 ここから首都へ向かうことになる。 ニコラさんに頼んで旅路《たびじ》に必要な食べ物は、分けて貰った。 私のお金で買ったものもあるから。「サフィー、教会に行って良いかしら?」「は、はい」 アプリルがそう頼んできた。 確かに行ってみるのも悪くないかも。 聖女様の加護はないとしても、神頼みくらいはしても良いよね。「アプリルさん、本日出られるのですね」「ええ。お世話になりましたわ」 アプリルはカーテシーをしながら、教会のシスターに挨拶をしていた。「お祈りをしても?」 私はシスターに問いかける。「勿論」 この世界の教会における作法で、女神像に祈りを捧げる。 ふと目に入ったのは、聖女らしき肖像画が見えていた。 綺麗に描かれていて、描かれてから日数は経っていないみたい。 光が差していて、女神像よりも心なしか豪華だった。 まるで、祈りの中心が入れ替わっているみたいだった。「お美しいですね」 私はふと呟いていた。「はい、女神様は私達に見えませんが聖女様は度々現れます」「そうなんですね」 確かに、あの聖女様もいるのだから。 だからこそ、私は少し怖くなった。「我が国にもいらっしゃいますが、隣国の王国では有名な聖女様がいらっしゃるとか」「……グルナ・フスト様でしょうか」 私は絞り出すようにしながら問いかけた。 すると、シスターは驚いていた表情をしている。「よくご存じですね!」 知っているんだ。 となれば、このまま居続けても良くなかったかもしれない。「グルナ様は様々な奇跡を起こせるとか」「奇跡……」 確かにあった気がする。 不安になっていた人を安心させていたから。