Mag-log in現代日本風乙女ゲーム『輝け青春☆エイト学園高等部』通称『エイト学園』の世界に転生してしまった佐藤美鈴。 これから沢山のイケメンとの出会いがあると美鈴は震えあがっていた。 それは嬉しいから、ではなく。 美鈴がとある理由から『男性恐怖症』を持っていたからだった。 美鈴は転生を理解した瞬間から、イケメン達との出会いを避けるべく奮闘する。だが、その結果は散々で…。 とは言え、美鈴だってただただ指を咥えている訳ではない。 まずは自分に出来る事からやっていこうっ! と自分の運命を変えるべく一歩を足を踏み出す。 これは様々な出会いと経験を経て、大きな愛を『思い出す』美鈴の成長ストーリーである。
view more「どうしてこうなった…」
机の上に置いた鏡と向かい合い、自分のやたら整った顔から零れた溜息混じりの呟きは宙に消えた。 この世に生を受けて5年目。でもって明日六歳の誕生日を迎える今、私は覚醒した。 いや、こんな言い方するとおかしいよね。 正しくは『思い出した』だ。 でもね、あのね。一つ言わせて欲しい。 私だってこんな状況思いもよらなかったよ。 だってさ?誰が思う? 生まれ変わったら、前世でプレイしていた乙女ゲームのヒロインになっているなんて。 はぁ…とまた溜息をついて、私はぼんやりと前世の事を思い出す。 前世の私は所謂隠れオタって奴だった。 外では普通に三十路に近い何処にでもいるであろうOLに擬態し、家ではネットサーフィンをおやつに乙女ゲームを主食として生きてきた本もゲームも美味しく頂ける活字中毒者。 二次創作や薄い本も嫌いじゃない。ううん、この言い方は卑怯だね。大好物です。常に美味しく摂取してきました。腐女子って言葉を正しい意味で私に与えられた称号として意識していた。 しかし、前世の私はすこぶる健康体だったし、まぁ脳内はある意味異常者かもしれないけどそれはそれなりに擬態してきた為、世間的にも悪い印象は与えていないはず。 そんな私は何故死んだのか。 これが、怖い話で家に押し入られたストーカーに刺されのだ。 刺された瞬間のあの男の顔は生まれ変わった今でも瞼の裏に焼き付いて忘れられない。さっきまで忘れてたじゃんって突っ込みはなしの方向で。 そして、何よりも気がかりがある。部屋に残った腐の産物、黒歴史を誰かが片したのかと思うと私は新しい今の人生を投げ出したくなるくらい恥ずかしい。羞恥で死ねる。 もう、どっちを後悔していいのやら…。 ……。 いやいや。落ち着け私。 話が盛大にそれている。 前世の私の話は今は置いておくとして、問題なのは前世でプレイしたそこそこ気に入っていた乙女ゲームの世界に生まれ代わっていたって事だ。 こういうのってさ?普通はさ? 悪役令嬢、とか、学校一人気のクラスメート、とかさ? そういうヒロインのライバル的な悪い立ち位置とか一切関係ない脇役とか、所謂ヒロイン以外の立場に生まれ変わってさ?運命なんて変えてやるっ!!とか言って盛り上がっていくのが常套句って奴じゃないの? え?なんでヒロインなの? ヒロインなんかに生まれ変わったら面倒臭い事この上ないじゃん。 だって男がわらわら寄ってくるんだよ? いい?皆落ち着いて考えて? 乙女ゲームにいるような男子が普通にいたら、正直どん引きじゃない? 壁ドン、無理矢理チュー、お姫様抱っこを突然に、だよ?どっかの歌のタイトルみたいだけど、ホントこうだよ? いやいや、あり得ないでしょ。 確かにそう言うのが好きな人はいると思う。 でも私は、前世の記憶が戻った私は、大の『男性恐怖症』である。と言うかならざる負えないよね。 前世の私は自慢じゃないけど結構モテた。世間では美人と言われる部類だったと思う。まぁ腐ってる内側を知らないからなんだろうけども。 小学生の頃は誘拐未遂が数回、誘拐されたのが数回、中学生の時はラブレターや呼び出しで休憩時間は全て消え失せ、高校生の時は帰り道に暗がりに連れ込まれた事数十回。大学に入って少しは何か変わるかと思ったら連れ込まれ回数が増加、電車通学になり毎日痴漢の嵐。流石に社会人になってもそれは嫌だったから電車通いしなくてもいい様に必死に自動車免許を取り車で通勤するようになって危険が減ったと思ったらストーカーの被害にあい、終いには殺されるという…。 これで男性を怖がるなって方が無理じゃない? それに私の前世は父がいない母子家庭だったから尚更、男性のイメージは悪くなる一方だった。そんな私を女で一つで育ててくれたお母さんも私が大学に入った時に亡くなっちゃったから、私は一人で生きてきたんだけど。 こんな目に日常的に遭遇し、名誉挽回の機会もなければ男なんて必要ないと思っても仕方ないと思うの。 でも勘違いしないで欲しい。 男性にも良い人がいるってことは知ってるんだよ? その証拠に遠くで見ている分には何の問題もないもの。 そう、鑑賞している分にはなーんにも問題ないっ! 二次元の世界の男はいいんだよっ! 私を見てる訳じゃないからっ! 三次元でも観賞用なら全然OKっ! 私を見てる訳じゃないからねっ! でも、でもさっ!? ここは乙女ゲームの中で私はヒロインな訳でっ!! って事はさっ!?って言う事はさっ!? 男が問答無用でやってくる訳じゃんっ!?ああぁぁ…。 触られるだけでも、鳥肌ものなのに、あ、あ、あり得ないっ!! 想像するだけでも鳥肌が、あわわわわっ!! 私の人生既に詰んだかもしれない。 「どうしてこうなった…」 本日2度目。溜息を深くしてもう一度呟いた。 正直男なんて私の人生にはもういらない。 なのに私は乙女ゲームのヒロインになってしまった。 私の苦手な男がもれなく付いて回ってくる。例えイケメンであろうと男は男。 近寄ることなど考えられない。 となると、今現在考えられる手段は…『攻略対象キャラと出会わなくする事っ!!』
これしかないっ!!
その目標の為にも今現在のゲーム情報を確認しなくてはっ!! 思い立ったが吉日。 私は、椅子からひょいっと飛び降りると、まだまだ低い身長ではやっと届く位置にあるドアノブを回して部屋を出た。 「えっと…ママは…居間かな?」 キョロキョロと辺りを見渡し、姿がない事を確認すると、そのまま部屋を出て右、廊下の奥へと向かう。因みに、私の部屋の右隣がママの部屋。迎えにお風呂、左へ行った奥が玄関だ。 隣のママの部屋からは仕事をしている音はしなかったから、多分、居間にいるはず。 てててっと早足で、廊下を進み背伸びしてドアノブを回し居間へ入ると、そこにはラグの上に直に座り、机の上にあるノートパソコンと睨めっこしているママの姿があった。 「ママー」 「あら?美鈴(みすず)どうしたの?」 呼びかけると、私に直ぐに気付いたママがにっこりと微笑んだ。 …ママ、目の下の隈さんが活性化してるよ?何徹目なんだろう…。綺麗な金髪もくすんでるし、碧い宝石のような瞳も曇っている。スタイル抜群で美しいママの背中は猫背。うぅ~ん…。 っと、いけないいけない。つい遠い目をしてしまった。ママの隈さんについては後でホットタオルでも作ってあげるとして今は当初の目的を果たさなくては。 「おえかきしてあそびたいから、みすずにノートちょうだい?」 「ノートが欲しいの?」 前世の記憶を取り戻したから、普通に喋れるものの、5歳児が急にシャキシャキ話し始めたら恐怖体験以外の何物でもないから敢えて舌っ足らずで話しかける。 すると、ママは優しく微笑み立ち上がるって居間にあるママ専用の棚からノートを一つ取り出してくれた。 「はい。これでいい?」 渡されたノートを満面の笑みで受け取り、その表紙を見て、私とママの時間は止まった。 『ヤンキー×優等生 ネタ帳』 黒のマジックペンでくっきりはっきりと書かれていた。ど、どうしよう…ママの黒歴史。 そっとばれないように、上目遣いでママの顔を窺うと、あ、…駄目だ。青ざめながら顔を赤くしてる。 ママって確か少女小説作家だったよね? …もしかして、違う方面でも書いてるのかな?それとも二次?うぅん…悩み所だけど、今はそんな事より…。 「ママー?これなんてかいてるのー?」 ママの矜持を立て直すっ! 大丈夫だよ、ママっ!!私は理解がある娘だよっ!! もう少し成長したら一緒に萌えトークしようねっ!!その為にも今は解らなかった事にするよ、ママっ!! 「こ、これはね。美鈴ちゃんがもう少し大人になったら分かる様になるから今は忘れていいのよー」 ママ、頑張ってっ!!遠い目から帰って来てっ!! 優しい笑顔カムバックっ!! 「こ、このノートはダメね。ちょ、ちょっと待ってねっ」 「うんっ」 バタバタと慌ててノートを本棚に突っ込み、妬けになったのか新品の五冊パックされたノートを取り出し、パックをバリバリ剥ぎ取ると、一冊私に向かって差し出した。 「こ、これなら大丈夫。これを使いなさい」 「うんっ。ありがとー、ママ」 両手でノートを受け取り、一緒に鉛筆も受け取った。まだ手が小さいからシャーペンだと使い辛いので有難い。 やっぱりママは優しい。ちょっとママの黒歴史覗いちゃったけど、私には何の問題もない。むしろこんなママが大好き。 それを全力で伝えようと思うっ!! 「ママ、ママっ」 「なぁに?」 「わたしね、ママのこと、だいすきっ」 えへへっ。 照れながらも伝えると、ママは泣きながら全力で私を抱きしめた。 骨がきしむ音がするけどそこはぐっと我慢するよ。理解ある娘だからねっ!! でも流石に骨が砕ける前に「仕事の邪魔にならないように部屋に戻るね」とたどたどしく伝えて戦利品を持って部屋に帰還した。 さて、と。 椅子に座り机の上に置いておいた鏡を手繰り寄せるとノートを広げる。 誰かに見られるようなへまをするつもりは無いけれど、万一見られたら面倒だから態と3ページ目から書き始める。 何を書くかと言うと、乙女ゲーム転生ネタの定番のアレだ。 乙女ゲームのネタ帳だ。 記憶を元に、ここがどんな世界だったのか、攻略対象が何人いたのか。等々必要な記憶をここに書き残すのだ。 いざという時に焦らないように。 えーっと、まずは、このゲームの内容だ。 ここは前世で私がプレイしたゲーム『輝け青春☆エイト学園高等部』(世間では結構評価の低くやる人が限られているマイナーゲームだった)の世界だ。舞台は日本。ただし、前世の私が暮らしていた日本とは少し違う。地毛で私みたいな金髪で水色瞳の日本人がいてたまるか。いやいるかもしれないけど、こんなに光り輝かない。ってか周りを見れば、水色やら赤やら蛍光ピンクやらあり得ない髪色が歩いている。あり得ないよ。だからパラレルワールドと言った方がいいかもしれない。私の前世に生きた日本のようで日本ではないのだ。 その異なる日本にあるエイト学園と言う高校に主人公が入学する時から始まり、プレイヤーである主人公が三年間、己を磨き攻略対象キャラクターとデートやイベントを繰り返し、恋に落ちて卒業式に告白されエンディングを迎えると言う、普通の学園ものの乙女ゲームだ。 だが、このゲーム他の乙女ゲームと違う所がある。それはーーー。【攻略対象キャラが半端なく多い】と言う事。
男性恐怖症の私にこのゲームの世界に、しかもヒロインに転生させるとか、神様どんだけ鬼畜なんだ。
普通の乙女ゲームなら数人のすり寄り回避で済んだはずなのに…。 このゲームの攻略対象キャラクターの人数は多すぎて正直ほとんど覚えてない。 そこまでやりこんでいなかったかな?とも思ったけれど、そんなはずはないと直ぐに否定した。 だって【ゲームをやるからにはフルコンプ】が私のモットーで例え好みじゃないキャラだとしても必ず一度は攻略していたはずなのだ。 要は必ずやり込んでいて、例え面白くないゲームでも記憶に残っているのに、何故か思い出せない。記憶力は良い方なんだけどなぁ。 となると、何か前世の記憶を思い出させるのに邪魔なフィルターがかかっているのかもしれない。 …念の為に攻略対象キャラクターを思い出せる限り書きだしてみよう。 思い出せる記憶の順に、私はペンを走らせた。樹龍也(いつきたつや) 三年生。生徒会長。メインヒーロー。必要パラメータ、文系、理系、運動、雑学、芸術、優しさ、色気を全てMAX状態で攻略可能。メインヒーローにつき、出会いは強制的。入学式の当日に主人公が廊下の曲がり角でぶつかると言うテンプレ的な出会いを迎える。美貌、権力、知力、体力全てを兼ね備えたオールマイティ型キャラ。実際にそんな人物がいたら怖いよねって笑い話が今現実のモノに。兎に角ここは全力回避したい人物。
白鳥葵(しらとりあおい) 三年生。生徒会副会長。必要パラメータ、文系、運動、優しさをMAX状態で攻略可能。白鳥棗(しらとりなつめ)とは双子の兄弟で葵の方が兄。そして、主人公の義理の兄である。ここ重要。赤丸チェック。
白鳥棗(しらとりなつめ) 三年生。生徒会書記。必要パラメータ、理系、運動、雑学をMAX状態で攻略可能。双子の弟。やはり主人公の義理の兄である。はい、ここも重要。赤丸チェック。
白鳥鴇(しらとりとき) 担任教師。必要パラメータ、文系、理系、雑学をMAX状態で攻略可能。双子の兄であり白鳥家長男。そしてやっぱり主人公の義理の兄である。ここもかなり重要、テストに出ます。
猪塚要(いのづかかなめ) 二年生。生徒会役員だったはずだけど、会計だったか文化部長だったか全く思い出せない。ただ、…綺麗な顔で雑な言葉遣いだったのはやたら覚えている。ギャップキャラの最たるキャラじゃなかったかな?
花島優兎(はなじまゆうと) 一年生。必要パラメータ、雑学、優しさ、色気をMAX状態で攻略可能。…だったはず。色気の所が定かじゃない。もしかしたら色気の所だけMAXじゃなくて半分だったのかも…?あ、でも確か主人公の幼馴染だった気もする。
……ピタッ。
私の手が止まった。 「ふふふ…全っ然思い出せないわ~…」 前世の記憶が甦ってもさ、ほら。前世の時ですら思い出せなかった事を今思い出せるわけがないじゃない?…はい、言い訳です。ごめんなさい。 このゲーム確かに全員攻略したはずなんだけどなー…。 攻略対象が多すぎて今書いた六人は多分半数にもいってない…。 やっぱり私の人生詰んだんじゃ…? メインヒーローは覚えてて当然だよね。ゲーム開始で強制イベントで必ず会されるからどのキャラ攻略するにしても見せられるシーンだし印象に強い。 白鳥家の三人は主人公と絶対関わるから記憶から消される事はない。同じ理由で優兎もだ。 猪塚は…多分私が一番好きだったキャラじゃないかなーと思う。だから思い出せた、んだと思う、が、攻略するためのパラメータが思い出せない。 やたら面倒だった気がするんだけど、それも微妙だ。残念過ぎる私の記憶力。何でだ…。 攻略キャラあと何人いたかなー…。 全然思い出せないけど、最低でも12人はいる筈だ。 何故断言できるかと言うと、攻略対象キャラの名前には、干支が含まれているからだ。 ゲーム製作者が分かりやすくするためにそう設定したんだろう。 色んな男が選べるのがこのゲームの売りだし、それは別にいいんだけど…12人でも多すぎない? 果たして本当に回避出来るのかな、これ…。 一抹の不安がよぎった気もするが、気の所為だと思い込む。 き、気を取り直して、思い出せるところは全てノートに書きだした。 これから記憶を取り戻す度にこのノートを更新していくとして。 次は自分の情報だ。一応これは書き留めずに脳内整理として、考えてみる。 まず、私の名前は美鈴。佐藤美鈴(さとうみすず)だ。これが今の人生の名前。前世は西園寺華(さいおんじはな)で、正直前世の方がよっぽど乙女ゲームヒロインっぽい名前である。 まぁ、それはいいや。 顔も髪色も瞳の色も全部母親似で瓜二つと言われている。ただ金髪ストレートのママと違って私の髪はふわふわのウェーブがかかってる。ここはどうやらパパに似たみたい。 パパは私が赤ちゃんの時に亡くなっていて、ママは女手一つで私を育ててくれている。 ママは少女小説作家で売れっ子。お蔭で生きて行く上で困ってはいない。…さっきの黒歴史の方が実は稼げているんではないか?って思わなくもないけれど、あえてそれには触れない。…ママのあの黒歴史。パパは知ってたのかな…? …っと、いけないいけない。触れないと誓ったばかりよ、私。 えっとなんだっけ。 あ、そうそう。自分の事の確認だよね。 ゲームでは祖父母の存在は描かれていなかったけど、ママの方の祖父母はもう既に亡くなっていて、パパの方にはママと私を溺愛する祖父母がいる。 毎年、夏休みと冬休みには里帰りしている。田舎だけどのんびりしていい所だよ、うん。 本当に良い所で、むしろあっちで暮らしたい。 変な男もいないし、イケメンとか面倒なのもいないし、あるのは畑と田んぼとお爺ちゃんお婆ちゃんだけ。若い人がいない訳じゃないけど、ママの顔見知りが主だし。男性も大抵既婚者だし。なんてパラダイス。 でも、ママの仕事上電波の欠片もない所では暮らせないんだそうだ。 うぅ…お祖母ちゃんの作ったおはぎ食べたいなぁ…。 なんてお祖母ちゃんのおはぎの味が恋しくなった辺りで、私の身の上の確認は終わった気がする。 次は、これからの事を考えよう。 このゲームに出てくる中で真っ先に私と接触してくるのは幼馴染である【優兎】だろう。 確か私の通う小学校に転校してくるはずだ。 あれ?って事は私が学区内の学校へ行かなければ、優兎と出会う事はなくなる…? そうだよっ、私が本来行く筈の学校に進学さえしなければ、シナリオが変わるよねっ!? 小学校は共学しかないけど、中学になれば近所って言うか同じ地区の山の中に一つ女子校がある。そこにいけばイケメンに会わずに済み、アルバイトをしつつママを養いながら隠れ蓑生活が出来るじゃないっ!! 確か白鳥家の父親にママが一目惚れされるのは、主人公が中学一年の時だから、出会いがなくなるママには悪いけど上手くいけばこっちもまたシナリオ回避が出来るかもしれない。 進む道が見えてきた気がした。 何としてでもイケメンとの出会いを回避し、ママと二人田舎暮らしもしくは隠れ蓑生活を手に入れる為。 私はイケメン回避作戦に打って出る事にした。 頑張れ私っ!! しっかりとノートを胸に抱きしめ、私は勢いよく立ち上がった。「王子ー。こっちの決裁よろしくー」 「あ、王子。ついでにこっちも頼むわ」 「王子、ごめん…私、計算間違えたぁ」 「こちらの書類は終わりましたわ。次はどうなさいます?王子」 うふふー…。仕事が山積みで私死にそう…。 ユメのあの事件から一か月。 結局あの後どうなったかと言うと。まず、また虐めを再開させようとしたB組の連中は円からの盛大な反撃をされ鳴りを潜め、B組を担任していた教師は私が自ら権力を用いて首にした。表向きは転任と言う形をとったけどね。下手な恨みは買いたくないし。本当なら警察行きなくらいの問題なんだから感謝して欲しいわ。 ただ、転任先が花札学園だから、真っ当に扱って貰えるかは解らないけどね。双子のお兄ちゃん達は卒業してるだろうけど猪塚先輩と大親友の華菜ちゃんがいるから、何かしら情報を仕入れてそれなりの報復をしてくれるだろう。 それから一年生の話だけど神薙杏子がどうにか抑え込み頑張っていたようだけれど、一向に解決せずもう面倒になったので、生意気な連中は一発がつんとやれば大抵黙るので、私は思い切りガツンッと恐怖を植え付けてやった。今後は何もしてこないと思う。余程の馬鹿じゃない限り、ね。え?何をしたかって?内緒☆。 残るは綾小路菊だけど。それは桃に一任している。これに関しては綾小路家という家の問題も絡んでくるから下手に手を出すよりかはと傍観を決め込む事にした。不用意に手を出してトバッチリが飛ぶとかは出来るだけ避けたい。 まぁ、そんなこんなで何とか、平穏な日々が訪れた。ユメにも笑顔が戻って万々歳。 万々歳、なんだけど…。 「なんで、こんなに山積みに書類が溜まってるのかなー?」 「それは、生徒会の書類の話?それとも仕事の書類の話?」 「仕事の書類の話」 「あぁ、それなら美鈴ちゃんが悪いよ。ここ数日余裕があったのに、皆とお揃いのシュシュ作るんだってひたすら製作に明け暮れてるんだもの」 「うぅー…。正論だから何も言い返せない…」 優兎くんの言葉の刃が刺さる刺さる。 机に突っ伏して、ぐったりとしている私の姿を見て四人が楽し気に笑う。そんな皆の姿を見るととても幸せそうで私は大層満足である。 「だって、皆似合うでしょー。私の作ったシュシュー」 「うん。皆可愛いと思うよ」 でしょうっ!? 力作なんだからっ!! 皆各々好きな所につけてく
……沈黙。 と言うよりは、緊張状態と言った方が正しいのかな? 防具を付けて、美鈴ちゃんと円ちゃんが薙刀を手に対峙している。 今日は美鈴ちゃんが小学生の時から続けている薙刀の練習をすべく、放課後円ちゃんと一緒に剣道部の道場に来ていた。 昔は薙刀部があったらしいけど、今は部員がいなくなった所為でなくなってしまったそうだ。 因みに、愛奈ちゃんは締め切り、夢子ちゃんは補習、桃ちゃんは夢子ちゃんの付き添いで三人共いない。 膠着状態が続いてるなぁ…。 相手の隙を見る為、なんだろうけど…もう20分もこの状況だよ? 忍耐力がものを言うのかな? ……今まで姿勢正してたけど、流石に疲れたから道場の壁に背を預けた。すると…。 「やぁっ!!」 「―――ッ!!」 同時に動き出す。 円ちゃんの突きを躱した美鈴ちゃんが繰り出した一撃が面へと決まった。 勝負あり、かな? 二人は距離をとり、互いに簡略的な礼をして僕の方へ歩いてきた。 動かずにその場で待っていると、二人は僕の前に来て、すとんっと床に座りこんだ。 手早く面を外して床に面を置いたのを確認すると、僕は二人にタオルを渡す。 「ありがとう、優ちゃん」 「サンキュ。優」 「二人共凄い汗だね」 「そりゃそうだよ~。円ってばぜんっぜん隙がないんだもん」 「そりゃアタシのセリフだよ。踏み込むタイミングが全然つかめなかった」 二人は汗を拭いながら言う。けれど何だか楽しそうだ。 「円は本当に凄いね~。剣道やってたのは知ってたけど、薙刀なんて私が言わなければ触る事もなかったんでしょう?」 「そうだね。でもこれやってみたら結構面白いし。剣道と近いものがあるしね」 「あ、そっか。円ちゃん、剣道やってたんだっけ」 二人共会話するのは良いんだけど、水分補給もちゃんとしなきゃ…。 僕は保冷バックからペットボトルを二つ取り出して二人へ手渡す。 「そう言う優は?何もしてないのかい?」 「私?私は…」 特にやっている訳じゃない。訳じゃないけど…。 僕は記憶を呼び起こした。※※※あれは確か小学五年の時だった。 あの時もこうやって美鈴ちゃんが良子様と金山さんに薙刀を習っているのを見守っていた。 (相変わらず白鳥邸の三階って広いよね…。ダンスも踊れるようになってるんだから当然と言えば当然だけど…) 椅子に
…辛い…。まさか、こんなにも辛いなんて、思いもしなかった…。「…………い」家に帰ってもお帰りって可愛い笑顔が見れない。「……おい」部屋で勉強してたら、こっそりと覗いてくるあの可愛いほわほわが側にいない。「…おいっ」辛すぎるよ、鈴ちゃんっ!うぅぅ……。鈴ちゃんがいない毎日に泣きそう…。「おいっ!!」バシッ。頭が叩かれた。「…………痛いんだけど?」「こんだけ呼んでるのに気付かないお前が悪いっ」「呼んでくれと頼んだ覚えはないよ」「そりゃそうだ…。って違うわっ!」うるさいなぁ…。ゆっくりとノートから目を離し頭を上げると、そこにはクラスメートの姿があった。………誰くんだっけ?「おまっ!?その表情っ!!小学六年間、中学も三年一緒だった俺の名前、まだ覚えてないとか言わないよなっ!?」…………あぁ、そうだ。田辺だ。「何の用?田口くん」「田辺だってのっ!!」「あれ?そうだっけ?」「おま、おまっ…」「……おい。葵。そうやって田辺を苛めるな。あとが面倒なんだから」あーあ。揶揄ってたのがバレちゃった。って言うか、そもそも。「何の用だったの?」僕が本題に入ると、顔を覆って泣いたふりをしていた田辺がすちゃっと元の態勢に戻り、親指で自分の背後を指し示した。視線を送るとそこには顔を赤らめた女子が一人と、それの付き添いらしき女子が二人。「………はぁ」溜息しか出ない。以前、小学校にいた頃は、僕が鈴ちゃん以外には優しくないって事を知っている人の方が多かったからこんな風に呼び出ししてくる人間は少なかった。それが今じゃ呼び出し放題、言いたい放題。ほんっと溜息しか出ない。「……龍也。代わりに行ってきてよ」「馬鹿言うな。俺だって今呼び出しが終わって戻って来たばっかりだ。これでまた出て行ったら昼飯食いっぱぐれるだろうが」「うん。それでいいと思う」「良いからさっさと行って来いっ。女子の噂は怖いぞ。やつらに酷い対応をしてまわりにまわって美鈴の所まで噂が届いたらどうする」「…………それは、良くないね。分かった。行ってくる」立ち上がって教室の出入り口の方へと向かう。その背後で。「あいつそんなに妹が好きなのか…」「まぁ、仕方ないだろ。それだけ美鈴は良い女だしな」と聞こえてきた。とりあえず後で龍也は殴ろう。彼女達の前に立ち、僕は微笑
今日は美鈴ちゃんと愛奈ちゃんと僕、三人でお昼。 他の三人は、円ちゃんはクラスで何かあるらしい。夢子ちゃんは先生に呼び出しを受け…って言うか多分補習の相談。桃ちゃんは神薙杏子と話があるそうだ。 生徒会室で三人で美鈴ちゃんが作ったお弁当を食べていると。 愛奈ちゃんが何かを取り出して読み始めた。 「何か見ながら食べるのは消化に悪いよ?」 一応突っ込んでみたけれど。 「うっさいよ、従者」 あっさり切り返された。 「でも実際お行儀が悪いよ?って言うか何見てるの?」 美鈴ちゃんに窘められて、愛奈ちゃんは渋々本を閉じてお弁当の横に置いた。 表紙も何もない本。厚さとしては雑誌よりも薄い? 大きさはB5サイズ、かな? 「……………ねぇ、愛奈?何かすっごく嫌な予感がするんだけど、ちょっとそれ見ても良い?」 「うん。いいよ。これはもう読んだから。読み直してただけだし」 許可を得た美鈴ちゃんはその本を恐る恐る手に取って中をパラパラと見て…静かに本を閉じた。 そんな風にされると中に何が書いてあるのか気になって仕方ないんだけど…。 「愛奈。これは一体誰発行?愛奈じゃないよね?だって愛奈の文章ではないもんね?」 「うん。私じゃないよ。これ発行してるのは文芸部」 「文っ!?…はぁ。おかしいとは思ってたんだよね。文芸部ってそこまで予算ないのにいっつも懐潤ってたし。…これの所為か」 うぅ…気になる…。 「ねぇ、美鈴ちゃん。私にも見せてくれない?」 「………優ちゃん。後悔しないならいいけど…」 「そんな後悔するような内容なの…?」 こくりと美鈴ちゃんが頷く。 一瞬どうしようか迷ったけれど。 それでも好奇心が勝ってしまって、それでもいいから見たいと言うと美鈴ちゃんがその本を渡してくれた。 ペラっと表紙を開くと。 『従者×王子 13』と書いていた。 更に一枚頁を送る。 『「私だって、守りたいのっ!貴女を守りたいのよっ」 「必要ない。分かって。王子…。私は貴女を守るためにここにいるの。この命はその為にあるのよ」 「そんなの嫌よっ!嫌っ!行かないでっ!優兎っ!」』 …………ん? ど、どう言う事かな? 一旦本を閉じて、目をごしごしと擦ってもう一度表紙をめくる。 『「そんなの嫌よっ!嫌っ!行かないでっ!優兎っ!」 「王子…」 「どうして貴女
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