INICIAR SESIÓN現代日本風乙女ゲーム『輝け青春☆エイト学園高等部』通称『エイト学園』の世界に転生してしまった佐藤美鈴。 これから沢山のイケメンとの出会いがあると美鈴は震えあがっていた。 それは嬉しいから、ではなく。 美鈴がとある理由から『男性恐怖症』を持っていたからだった。 美鈴は転生を理解した瞬間から、イケメン達との出会いを避けるべく奮闘する。だが、その結果は散々で…。 とは言え、美鈴だってただただ指を咥えている訳ではない。 まずは自分に出来る事からやっていこうっ! と自分の運命を変えるべく一歩を足を踏み出す。 これは様々な出会いと経験を経て、大きな愛を『思い出す』美鈴の成長ストーリーである。
Ver más「どうしてこうなった…」
机の上に置いた鏡と向かい合い、自分のやたら整った顔から零れた溜息混じりの呟きは宙に消えた。 この世に生を受けて5年目。でもって明日六歳の誕生日を迎える今、私は覚醒した。 いや、こんな言い方するとおかしいよね。 正しくは『思い出した』だ。 でもね、あのね。一つ言わせて欲しい。 私だってこんな状況思いもよらなかったよ。 だってさ?誰が思う? 生まれ変わったら、前世でプレイしていた乙女ゲームのヒロインになっているなんて。 はぁ…とまた溜息をついて、私はぼんやりと前世の事を思い出す。 前世の私は所謂隠れオタって奴だった。 外では普通に三十路に近い何処にでもいるであろうOLに擬態し、家ではネットサーフィンをおやつに乙女ゲームを主食として生きてきた本もゲームも美味しく頂ける活字中毒者。 二次創作や薄い本も嫌いじゃない。ううん、この言い方は卑怯だね。大好物です。常に美味しく摂取してきました。腐女子って言葉を正しい意味で私に与えられた称号として意識していた。 しかし、前世の私はすこぶる健康体だったし、まぁ脳内はある意味異常者かもしれないけどそれはそれなりに擬態してきた為、世間的にも悪い印象は与えていないはず。 そんな私は何故死んだのか。 これが、怖い話で家に押し入られたストーカーに刺されのだ。 刺された瞬間のあの男の顔は生まれ変わった今でも瞼の裏に焼き付いて忘れられない。さっきまで忘れてたじゃんって突っ込みはなしの方向で。 そして、何よりも気がかりがある。部屋に残った腐の産物、黒歴史を誰かが片したのかと思うと私は新しい今の人生を投げ出したくなるくらい恥ずかしい。羞恥で死ねる。 もう、どっちを後悔していいのやら…。 ……。 いやいや。落ち着け私。 話が盛大にそれている。 前世の私の話は今は置いておくとして、問題なのは前世でプレイしたそこそこ気に入っていた乙女ゲームの世界に生まれ代わっていたって事だ。 こういうのってさ?普通はさ? 悪役令嬢、とか、学校一人気のクラスメート、とかさ? そういうヒロインのライバル的な悪い立ち位置とか一切関係ない脇役とか、所謂ヒロイン以外の立場に生まれ変わってさ?運命なんて変えてやるっ!!とか言って盛り上がっていくのが常套句って奴じゃないの? え?なんでヒロインなの? ヒロインなんかに生まれ変わったら面倒臭い事この上ないじゃん。 だって男がわらわら寄ってくるんだよ? いい?皆落ち着いて考えて? 乙女ゲームにいるような男子が普通にいたら、正直どん引きじゃない? 壁ドン、無理矢理チュー、お姫様抱っこを突然に、だよ?どっかの歌のタイトルみたいだけど、ホントこうだよ? いやいや、あり得ないでしょ。 確かにそう言うのが好きな人はいると思う。 でも私は、前世の記憶が戻った私は、大の『男性恐怖症』である。と言うかならざる負えないよね。 前世の私は自慢じゃないけど結構モテた。世間では美人と言われる部類だったと思う。まぁ腐ってる内側を知らないからなんだろうけども。 小学生の頃は誘拐未遂が数回、誘拐されたのが数回、中学生の時はラブレターや呼び出しで休憩時間は全て消え失せ、高校生の時は帰り道に暗がりに連れ込まれた事数十回。大学に入って少しは何か変わるかと思ったら連れ込まれ回数が増加、電車通学になり毎日痴漢の嵐。流石に社会人になってもそれは嫌だったから電車通いしなくてもいい様に必死に自動車免許を取り車で通勤するようになって危険が減ったと思ったらストーカーの被害にあい、終いには殺されるという…。 これで男性を怖がるなって方が無理じゃない? それに私の前世は父がいない母子家庭だったから尚更、男性のイメージは悪くなる一方だった。そんな私を女で一つで育ててくれたお母さんも私が大学に入った時に亡くなっちゃったから、私は一人で生きてきたんだけど。 こんな目に日常的に遭遇し、名誉挽回の機会もなければ男なんて必要ないと思っても仕方ないと思うの。 でも勘違いしないで欲しい。 男性にも良い人がいるってことは知ってるんだよ? その証拠に遠くで見ている分には何の問題もないもの。 そう、鑑賞している分にはなーんにも問題ないっ! 二次元の世界の男はいいんだよっ! 私を見てる訳じゃないからっ! 三次元でも観賞用なら全然OKっ! 私を見てる訳じゃないからねっ! でも、でもさっ!? ここは乙女ゲームの中で私はヒロインな訳でっ!! って事はさっ!?って言う事はさっ!? 男が問答無用でやってくる訳じゃんっ!?ああぁぁ…。 触られるだけでも、鳥肌ものなのに、あ、あ、あり得ないっ!! 想像するだけでも鳥肌が、あわわわわっ!! 私の人生既に詰んだかもしれない。 「どうしてこうなった…」 本日2度目。溜息を深くしてもう一度呟いた。 正直男なんて私の人生にはもういらない。 なのに私は乙女ゲームのヒロインになってしまった。 私の苦手な男がもれなく付いて回ってくる。例えイケメンであろうと男は男。 近寄ることなど考えられない。 となると、今現在考えられる手段は…『攻略対象キャラと出会わなくする事っ!!』
これしかないっ!!
その目標の為にも今現在のゲーム情報を確認しなくてはっ!! 思い立ったが吉日。 私は、椅子からひょいっと飛び降りると、まだまだ低い身長ではやっと届く位置にあるドアノブを回して部屋を出た。 「えっと…ママは…居間かな?」 キョロキョロと辺りを見渡し、姿がない事を確認すると、そのまま部屋を出て右、廊下の奥へと向かう。因みに、私の部屋の右隣がママの部屋。迎えにお風呂、左へ行った奥が玄関だ。 隣のママの部屋からは仕事をしている音はしなかったから、多分、居間にいるはず。 てててっと早足で、廊下を進み背伸びしてドアノブを回し居間へ入ると、そこにはラグの上に直に座り、机の上にあるノートパソコンと睨めっこしているママの姿があった。 「ママー」 「あら?美鈴(みすず)どうしたの?」 呼びかけると、私に直ぐに気付いたママがにっこりと微笑んだ。 …ママ、目の下の隈さんが活性化してるよ?何徹目なんだろう…。綺麗な金髪もくすんでるし、碧い宝石のような瞳も曇っている。スタイル抜群で美しいママの背中は猫背。うぅ~ん…。 っと、いけないいけない。つい遠い目をしてしまった。ママの隈さんについては後でホットタオルでも作ってあげるとして今は当初の目的を果たさなくては。 「おえかきしてあそびたいから、みすずにノートちょうだい?」 「ノートが欲しいの?」 前世の記憶を取り戻したから、普通に喋れるものの、5歳児が急にシャキシャキ話し始めたら恐怖体験以外の何物でもないから敢えて舌っ足らずで話しかける。 すると、ママは優しく微笑み立ち上がるって居間にあるママ専用の棚からノートを一つ取り出してくれた。 「はい。これでいい?」 渡されたノートを満面の笑みで受け取り、その表紙を見て、私とママの時間は止まった。 『ヤンキー×優等生 ネタ帳』 黒のマジックペンでくっきりはっきりと書かれていた。ど、どうしよう…ママの黒歴史。 そっとばれないように、上目遣いでママの顔を窺うと、あ、…駄目だ。青ざめながら顔を赤くしてる。 ママって確か少女小説作家だったよね? …もしかして、違う方面でも書いてるのかな?それとも二次?うぅん…悩み所だけど、今はそんな事より…。 「ママー?これなんてかいてるのー?」 ママの矜持を立て直すっ! 大丈夫だよ、ママっ!!私は理解がある娘だよっ!! もう少し成長したら一緒に萌えトークしようねっ!!その為にも今は解らなかった事にするよ、ママっ!! 「こ、これはね。美鈴ちゃんがもう少し大人になったら分かる様になるから今は忘れていいのよー」 ママ、頑張ってっ!!遠い目から帰って来てっ!! 優しい笑顔カムバックっ!! 「こ、このノートはダメね。ちょ、ちょっと待ってねっ」 「うんっ」 バタバタと慌ててノートを本棚に突っ込み、妬けになったのか新品の五冊パックされたノートを取り出し、パックをバリバリ剥ぎ取ると、一冊私に向かって差し出した。 「こ、これなら大丈夫。これを使いなさい」 「うんっ。ありがとー、ママ」 両手でノートを受け取り、一緒に鉛筆も受け取った。まだ手が小さいからシャーペンだと使い辛いので有難い。 やっぱりママは優しい。ちょっとママの黒歴史覗いちゃったけど、私には何の問題もない。むしろこんなママが大好き。 それを全力で伝えようと思うっ!! 「ママ、ママっ」 「なぁに?」 「わたしね、ママのこと、だいすきっ」 えへへっ。 照れながらも伝えると、ママは泣きながら全力で私を抱きしめた。 骨がきしむ音がするけどそこはぐっと我慢するよ。理解ある娘だからねっ!! でも流石に骨が砕ける前に「仕事の邪魔にならないように部屋に戻るね」とたどたどしく伝えて戦利品を持って部屋に帰還した。 さて、と。 椅子に座り机の上に置いておいた鏡を手繰り寄せるとノートを広げる。 誰かに見られるようなへまをするつもりは無いけれど、万一見られたら面倒だから態と3ページ目から書き始める。 何を書くかと言うと、乙女ゲーム転生ネタの定番のアレだ。 乙女ゲームのネタ帳だ。 記憶を元に、ここがどんな世界だったのか、攻略対象が何人いたのか。等々必要な記憶をここに書き残すのだ。 いざという時に焦らないように。 えーっと、まずは、このゲームの内容だ。 ここは前世で私がプレイしたゲーム『輝け青春☆エイト学園高等部』(世間では結構評価の低くやる人が限られているマイナーゲームだった)の世界だ。舞台は日本。ただし、前世の私が暮らしていた日本とは少し違う。地毛で私みたいな金髪で水色瞳の日本人がいてたまるか。いやいるかもしれないけど、こんなに光り輝かない。ってか周りを見れば、水色やら赤やら蛍光ピンクやらあり得ない髪色が歩いている。あり得ないよ。だからパラレルワールドと言った方がいいかもしれない。私の前世に生きた日本のようで日本ではないのだ。 その異なる日本にあるエイト学園と言う高校に主人公が入学する時から始まり、プレイヤーである主人公が三年間、己を磨き攻略対象キャラクターとデートやイベントを繰り返し、恋に落ちて卒業式に告白されエンディングを迎えると言う、普通の学園ものの乙女ゲームだ。 だが、このゲーム他の乙女ゲームと違う所がある。それはーーー。【攻略対象キャラが半端なく多い】と言う事。
男性恐怖症の私にこのゲームの世界に、しかもヒロインに転生させるとか、神様どんだけ鬼畜なんだ。
普通の乙女ゲームなら数人のすり寄り回避で済んだはずなのに…。 このゲームの攻略対象キャラクターの人数は多すぎて正直ほとんど覚えてない。 そこまでやりこんでいなかったかな?とも思ったけれど、そんなはずはないと直ぐに否定した。 だって【ゲームをやるからにはフルコンプ】が私のモットーで例え好みじゃないキャラだとしても必ず一度は攻略していたはずなのだ。 要は必ずやり込んでいて、例え面白くないゲームでも記憶に残っているのに、何故か思い出せない。記憶力は良い方なんだけどなぁ。 となると、何か前世の記憶を思い出させるのに邪魔なフィルターがかかっているのかもしれない。 …念の為に攻略対象キャラクターを思い出せる限り書きだしてみよう。 思い出せる記憶の順に、私はペンを走らせた。樹龍也(いつきたつや) 三年生。生徒会長。メインヒーロー。必要パラメータ、文系、理系、運動、雑学、芸術、優しさ、色気を全てMAX状態で攻略可能。メインヒーローにつき、出会いは強制的。入学式の当日に主人公が廊下の曲がり角でぶつかると言うテンプレ的な出会いを迎える。美貌、権力、知力、体力全てを兼ね備えたオールマイティ型キャラ。実際にそんな人物がいたら怖いよねって笑い話が今現実のモノに。兎に角ここは全力回避したい人物。
白鳥葵(しらとりあおい) 三年生。生徒会副会長。必要パラメータ、文系、運動、優しさをMAX状態で攻略可能。白鳥棗(しらとりなつめ)とは双子の兄弟で葵の方が兄。そして、主人公の義理の兄である。ここ重要。赤丸チェック。
白鳥棗(しらとりなつめ) 三年生。生徒会書記。必要パラメータ、理系、運動、雑学をMAX状態で攻略可能。双子の弟。やはり主人公の義理の兄である。はい、ここも重要。赤丸チェック。
白鳥鴇(しらとりとき) 担任教師。必要パラメータ、文系、理系、雑学をMAX状態で攻略可能。双子の兄であり白鳥家長男。そしてやっぱり主人公の義理の兄である。ここもかなり重要、テストに出ます。
猪塚要(いのづかかなめ) 二年生。生徒会役員だったはずだけど、会計だったか文化部長だったか全く思い出せない。ただ、…綺麗な顔で雑な言葉遣いだったのはやたら覚えている。ギャップキャラの最たるキャラじゃなかったかな?
花島優兎(はなじまゆうと) 一年生。必要パラメータ、雑学、優しさ、色気をMAX状態で攻略可能。…だったはず。色気の所が定かじゃない。もしかしたら色気の所だけMAXじゃなくて半分だったのかも…?あ、でも確か主人公の幼馴染だった気もする。
……ピタッ。
私の手が止まった。 「ふふふ…全っ然思い出せないわ~…」 前世の記憶が甦ってもさ、ほら。前世の時ですら思い出せなかった事を今思い出せるわけがないじゃない?…はい、言い訳です。ごめんなさい。 このゲーム確かに全員攻略したはずなんだけどなー…。 攻略対象が多すぎて今書いた六人は多分半数にもいってない…。 やっぱり私の人生詰んだんじゃ…? メインヒーローは覚えてて当然だよね。ゲーム開始で強制イベントで必ず会されるからどのキャラ攻略するにしても見せられるシーンだし印象に強い。 白鳥家の三人は主人公と絶対関わるから記憶から消される事はない。同じ理由で優兎もだ。 猪塚は…多分私が一番好きだったキャラじゃないかなーと思う。だから思い出せた、んだと思う、が、攻略するためのパラメータが思い出せない。 やたら面倒だった気がするんだけど、それも微妙だ。残念過ぎる私の記憶力。何でだ…。 攻略キャラあと何人いたかなー…。 全然思い出せないけど、最低でも12人はいる筈だ。 何故断言できるかと言うと、攻略対象キャラの名前には、干支が含まれているからだ。 ゲーム製作者が分かりやすくするためにそう設定したんだろう。 色んな男が選べるのがこのゲームの売りだし、それは別にいいんだけど…12人でも多すぎない? 果たして本当に回避出来るのかな、これ…。 一抹の不安がよぎった気もするが、気の所為だと思い込む。 き、気を取り直して、思い出せるところは全てノートに書きだした。 これから記憶を取り戻す度にこのノートを更新していくとして。 次は自分の情報だ。一応これは書き留めずに脳内整理として、考えてみる。 まず、私の名前は美鈴。佐藤美鈴(さとうみすず)だ。これが今の人生の名前。前世は西園寺華(さいおんじはな)で、正直前世の方がよっぽど乙女ゲームヒロインっぽい名前である。 まぁ、それはいいや。 顔も髪色も瞳の色も全部母親似で瓜二つと言われている。ただ金髪ストレートのママと違って私の髪はふわふわのウェーブがかかってる。ここはどうやらパパに似たみたい。 パパは私が赤ちゃんの時に亡くなっていて、ママは女手一つで私を育ててくれている。 ママは少女小説作家で売れっ子。お蔭で生きて行く上で困ってはいない。…さっきの黒歴史の方が実は稼げているんではないか?って思わなくもないけれど、あえてそれには触れない。…ママのあの黒歴史。パパは知ってたのかな…? …っと、いけないいけない。触れないと誓ったばかりよ、私。 えっとなんだっけ。 あ、そうそう。自分の事の確認だよね。 ゲームでは祖父母の存在は描かれていなかったけど、ママの方の祖父母はもう既に亡くなっていて、パパの方にはママと私を溺愛する祖父母がいる。 毎年、夏休みと冬休みには里帰りしている。田舎だけどのんびりしていい所だよ、うん。 本当に良い所で、むしろあっちで暮らしたい。 変な男もいないし、イケメンとか面倒なのもいないし、あるのは畑と田んぼとお爺ちゃんお婆ちゃんだけ。若い人がいない訳じゃないけど、ママの顔見知りが主だし。男性も大抵既婚者だし。なんてパラダイス。 でも、ママの仕事上電波の欠片もない所では暮らせないんだそうだ。 うぅ…お祖母ちゃんの作ったおはぎ食べたいなぁ…。 なんてお祖母ちゃんのおはぎの味が恋しくなった辺りで、私の身の上の確認は終わった気がする。 次は、これからの事を考えよう。 このゲームに出てくる中で真っ先に私と接触してくるのは幼馴染である【優兎】だろう。 確か私の通う小学校に転校してくるはずだ。 あれ?って事は私が学区内の学校へ行かなければ、優兎と出会う事はなくなる…? そうだよっ、私が本来行く筈の学校に進学さえしなければ、シナリオが変わるよねっ!? 小学校は共学しかないけど、中学になれば近所って言うか同じ地区の山の中に一つ女子校がある。そこにいけばイケメンに会わずに済み、アルバイトをしつつママを養いながら隠れ蓑生活が出来るじゃないっ!! 確か白鳥家の父親にママが一目惚れされるのは、主人公が中学一年の時だから、出会いがなくなるママには悪いけど上手くいけばこっちもまたシナリオ回避が出来るかもしれない。 進む道が見えてきた気がした。 何としてでもイケメンとの出会いを回避し、ママと二人田舎暮らしもしくは隠れ蓑生活を手に入れる為。 私はイケメン回避作戦に打って出る事にした。 頑張れ私っ!! しっかりとノートを胸に抱きしめ、私は勢いよく立ち上がった。「…報告は以上です」 「…分かった。ここにある内容が全てか?社員の総意って事で間違いないな?」 「は、はい…」 目の前の若い男は社長でも何でもない。なのに何故この場に、白鳥財閥の総帥代理の前にいるのか。 少し考えれば解ることだ。こいつが今持って来たのは報告書だ。多額の負債を出してしまった案件の。 「君は…これで良いのか?」 「…え?」 渡された報告書を机に投げて、椅子の背もたれにゆったりと背を預けた。 「会社の上司が失敗した事を、新人である菅原、君が全ての責任を負ってこれからの人生を棒に振っても良いのか?」 「そ、れは…」 じっと言葉の続きを待つ。だが、やはり新人で若い男は俯き言葉を発する事はなかった。 …当然と言えば当然だ。自分の所の上司より遥か上の上司に会ってる訳だしな。しかもその理由が謝罪と報告。だがこいつは仕事を辞めるではなくきちんと謝罪に来た。それだけ根性があるって事だ。失うには勿体ない新人だ。 俺は言葉を失ったそいつの代わりに言葉を繋ぐ。 「この事案は君の様な新人が請けもてる案件ではない。そんな事は上の人間が一目見れば解る。もし解らないとでも思われていたのなら、…随分舐めた真似をしてくれるな」 「ち、ちがっ」 「分かっている。これは君がやれる上司への復讐だったんだろう?」 「え…?」 ゆっくりとそいつは青褪めた顔を俺へ向けた。 「君の様な人間は貴重だ。失うのは惜しいからな。一つ、君に頼みがある」 「頼み?」 「そうだ。それが出来たなら君をうちで引き抜こう」 「やりますっ!!」 一も二もなく頷くそいつに頷き返す。 「私は一体何をすれば…」 「…君の所の上司を連れて来い。何を言って誤魔化しても俺の立場を利用してでも良い。ここへ連れて来い。…出来るな?」 コクリと頷き、直ぐに踵を返して勢いよく部屋を出て行った。 多分、やり遂げるだろう。自分に失敗の責任を全て押し付けた上司に恨みはあれど同情はないだろうからな。それに、部下に自分の失敗を全て押し付ける様な輩は部下を率いて上に立つ資格はない。 自分でやり返さないと、恨みだけ残り続けるしな。 …さて。菅原を配属させる場所を選んで置かないと、だな。 今、何時だ? …………………23時? ちょっと待て?ちょっと待てよ? 今日は何日だ…? ………カレンダー
「次に貴方を見たのは、これまた私が学生の時よ」そう言って、男の視線は俺から、透馬達に流された。透馬、奏輔、大地の視線が冷えて行く。きっと俺も同じ目になっているだろう。※※※(乙女の独白そ・の・2はぁと)何事も、調査と言うのは必要不可欠な物。あの人の事を知りたければ、自分の足で動かなきゃっ☆そう。その為に私は今ここに、エイト学園にいるのだからっ!もうっ、聞いてよっ。ほんっとうに大変だったのよっ。ここの制服手に入れるのっ。何でも愛しの鴇様が入学してからエイト学園の制服を手に入れて不法侵入する輩が増えてんですってっ!だから、正規の生徒手帳がないと店では売ってくれないのらしいのっ!おかげでオークションで愛しの鴇様の制服を落札する為に30万も使っちゃったわっ!!こつこつと貯めてた手術代がパーよ、パーっ!ほんっとうに大変だったわぁ。不法侵入とかそう言う輩がいるから、最近の日本は犯罪者が増えて来てるのよっ!節度って大事よねっ!さ、てと。今は怒りを横に置いといて。愛しの鴇様には顔がわれてるから、バッチリ化粧と髪も染め上げて来たわ。これで絶対バレないは・ずっ☆まずは愛しの鴇様が登校してくるのを発見しないとっ☆待ってて、愛しの鴇様~☆校門の前で愛しの鴇様が来るのを待機。勿論、物陰から観察よっ。真正面からなんて恥ずかしくて出来ないわっ、きゃっ☆「なぁ、鴇。今日、姫に会いに行っていいか?」「あ、オレも行くー」「なら、俺も便乗させて貰うわ」「…お前らなぁ。そう言いながら毎日家にくるな、鬱陶しい」きゃあああああああっ!!!!なになになんなのっ!?あの神々しい集団はっ!!愛しの鴇様の周りにも神の御使いが三人もっ!!やだっ!!素敵ぃーっ!!校門側の大木の影に隠れていた私の所まで光を放つなんてっ!?目に焼き付けるのよっ!!この美しさを忘れないうちにっ!!ふー…ふー…。素敵…素敵よぉ…。愛しの鴇様が呆れながらも小さな笑みを浮かべてるわぁ。あぁ、愛しの鴇様の隣にいる紫髪の彼。彼もまたいいわぁ。着崩してる制服から見えるシルバーが溜まらないわ。その後ろを付いてくる、体育会系の彼。彼もいいっ。茶色の短髪も男臭くて堪らないけれど、それよりも体っ!体よっ!肉体美っ!美しい筋肉っ!あぁ、堪らないっ!更にその体育会系の彼の横にいる、繊細な美人もいいわっ!男の子な
「それじゃ、皆揃ったな。乾杯!」『かんぱ~いっ!!』それぞれがグラスを片手に声を上げた。金山達が使っているバーを今日は貸切、今は二つのテーブルで二つのグループで盛り上がっていた。「やっと日本に帰って来れたよ。葵兄も棗兄も久しぶり!」「優兎。随分頑張っているみたいだね。どこぞのアホと違って」「おい、葵。そのどこぞのアホってのは俺の事か?」「龍也以外誰がいるって言うのさ。大体、何しれっと鈴ちゃんに会いに来てるんだよ、図々しい」「あの時は仕事にちょっと余裕が出来たからだなぁ!」「樹先輩!白鳥さん見ませんでしたかっ!?」「あ?今日は女の参加はなしだろ?だったよな?棗」「そうだね」「は、話が違うじゃないですかっ!棗先輩っ」「お前がいつまでも鈴を狙ってるから、その措置に決まってるだろっ!!」「……相変わらず、姦しいけど、帰って来た気がするなー…」優兎が遠い目をして、双子と御曹司たちに挟まれて呟いている。安心しろ、優兎。こっちはこっちで悲惨だぞ。「だから、こっちより海里にはこっちの指輪のが似合うだろ」「じゃあ、こっちにしようかな…透馬兄、これだよね?」「なんで今そっちを選んだっ!」「………奏輔様。新しいお酒です」「いつの間に空良は俺の舎弟化したんやろなぁ…。でも、ほんっと、あの姉貴たちを見た後だと心洗われるわー…」「っしゃあっ!!じゃあ、五番勝負っすよっ!師匠っ!!」「陸実ー、オレに勝とうなんて十年早いー」「腕相撲から勝負だーっ!!」ほらな、地獄だろ?ぐったりしている優兎の視線が俺とかち合った。抜け出そうと言っている。俺も素直に頷いて、そこからするりと抜けて優兎と二人、カウンター席に座った。目の前にグラスでウィスキーのロックが並ぶ。「あー…落ち着いたー…」「あいつら、何であの歳でなおあそこまで騒げるんだか…」優兎と二人まったりと会話をする。一時期、優兎は美鈴の件で怒鳴ってしまった俺に引け目を感じていたらしいが、俺は全く気にしていないからか優兎も割り切って普通に戻っていた。「真っ直ぐここに来たんだろう?美鈴には明日会うのか?」「美鈴ちゃん、今、里帰りしてるんでしょ?じゃあ、明日僕も帰るから今日中に会える、かな?」「この飲み会が今日中に終わるか?日付越えるだろ、どう考えても。会うのは明日の朝だな」「それは、確か
片手にどうにか双子の娘達を抱え込み、ペンでまず俺の名前を書いた。「今佳織母さんに説明したのは俺の意思が生まれた一番最古の前世だ」「ふむふむ」「で、俺はここからまた、この世界に転生した」矢印を下に引いて俺の次の前世の記憶と書く。「そして、ここからリョウイチさんの干渉が始まる。そこまでは干渉ではなく見守りの状態だった。そして、なんでここでリョウイチさんの干渉が入ったのか。それは恐らく佳織母さん達の前世が繋がったからだ」もっと言うなら、佳織母さんにリョウイチさんが惚れたから、って事だろう。「けど今はリョウイチさんの視点ではなく俺の視点で話す。その次に真っ先に修正されたのは佳織母さんの立ち位置だ。それまで横暴だった佳織母さんはその修正により、佳織母さんの魂修正が入った。要はさっき佳織母さんが言った子供を大事にする要素だな。勿論他にもこまごまとあるだろうが、リョウイチさんが一番直しやすかった所から入ったんだろう」俺の名前の下に佳織母さん修正済みと書いた。「で、ここでリョウイチさんのミスが一つある」「…都貴静流、かしら?」「その通り。アイツが違う体に転生して、美鈴を狙い始めたんだ。その時はもう佳織母さんの修正が済んだ後。もっと言うなら、暫く他の世界を経由して来た後なんだよ」都貴静流の名前を佳織母さんの横に書く。「予想外の動きにリョウイチさんは次から次へと修正を繰り返した。数えきれないくらい修正したんだろうな。修正は沢山あった。暫く双子が生まれない時もあったし、優兎が転校してこず親に愛される、それこそ、所謂攻略対象者達と美鈴がくっ付いた時もあった。面白いのがそのどの世界軸でも俺は死んでいたって事だな」「そうだったの?」「あぁ。何度も死んださ。美鈴を想いながらな。何度も何度も修正を見て来たし、その数の多さの証拠があの都貴静流の転生体の多さだ」何度も何度も転生を繰り返し、発生した出来事を最初は何かしらでまとめていたが、最終的に佳織母さんに知らせる意味も込めて乙女ゲームと言う形をとったのだろう。「俺達は前世の記憶と言う形で混じり合ったが、本来人間の生は、命が終わった時点でリセットされねばならない。けれど、前世で繋がってしまったために新たな芽として生まれていた命が一つの大木として育ってしまった」「生の本流が出来上がってしまったのね」「そうだ。そして
「~~~っ、だから、鈴ちゃんは今すぐに転校させて家に帰って来た方が良いと思うっ」 「鈴にとっての利点を上げるならっ」 ……頑張るなぁ…。 これで何度目だ? 双子がこうやって佳織母さんに美鈴に関して交渉を挑むのは…。 でも、いくら挑んでも佳織母さんは自分の意見を曲げる事はない。 だから、今回も。 「却下。その程度の利点は美鈴には何の意味もないわ」 叩き斬られた。 「うぅぅ…」 「これでもまだ駄目かぁ…」 ぐしゃりとテーブルに崩れ落ちる双子。 「お前ら、いい加減諦めたらどうだ?」 見兼ねて俺が口を出すと、がばりと起き上がった二人が同時に俺の方を見た。 「鴇兄さんっ!兄
―――8月10日。 「やっと全員集まったわね。それじゃあ、調査報告会と行きましょうか」 花崎先輩の一言で、おれ達は各々調査した結果を報告する事になった。 場所はおれ達の暮らす施設のリビング。母さん先生に事情を説明したら喜んで場所を提供してくれた。 『美鈴さんの邪魔になるものは消してしまいなさい』 と、はっきりと宣言して。はて、母さん先生はこんなに自我が強い人だっただろうか? 「おい、空。何ぼーっとしてるんだ?寝惚けんのは海だけで十分だぞ?」 目の前で手を振られ、おれは我に帰る。 自分をきちんと戒めて、改めてリビングに集まった皆の顔を見た。 「そこっ、また寝てるんじゃないでし
―――8月8日。 「さて、こんなものかな?」 私は自室の鏡の前で自分の姿を今一度確認する。 長くなった髪を降ろして、ある程度邪魔にならない様に編みこんでいる。 紺色のパーティドレス。Aラインのスカートがいい感じに魅せてくれて、肌をなるべく出したくないと私が要望した通りに白のレースで出来たストールを用意して貰えたからそれを羽織っている。 あ、そうだ。ネックレス。樹先輩に貰ったネックレスが必要だ。正しくは指輪だけど指にはめるつもりは欠片もない。 本当ならこのネックレスだってつけたくない。 何ゆえに大事な友達であるユメを陥れようとしている相手、しかも自分に喧嘩を売って来た相手のくれた
夢を見た。 何時もの襲われそうになった時とか殺されそうになった時の夢じゃない。 前世で学生時代にお母さんのお見舞いに行った時の夢だった。こんな夢も珍しい。 『華、華っ、見て、これっ』 そう言ってお母さんは一冊の本を袋から取り出して、私の前に突き出した。そこにはエイト学園の年下組特集と書いたA4サイズの雑誌。 『お母さん?これ、どうしたの?』 『買ったのよっ、通販でっ』 どやっ! 胸を張って病院のベッドの上で仁王立ちして言う事だろうか? …まぁ、お母さんが楽しそうならいいけど。 私は持っていた花瓶をベッドの脇にある棚の上に置いて、ベッドへ座るとお母さんもストンとベッドに座っ
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