登入弦は笑った。「それもそうですね。結婚は適当に相手を探してはいけませんからね。おば様がいつも小夏さんたち子供の人生のことを心配しているから、何か私にもできればと思って」今弦は、小夏には自分の存在をじわじわと慣れさせて、好きにさせるように辛抱強く向き合っていかないと、彼女が恋に落ちることはないと確信した。日常の細かな事から、少しずつ彼女の世界に溶け込み、彼女には自分の存在が当たり前になるように変えていかなければならない。彼と離れることができないと思わせてやっと、それが恋という気持ちだと気付かせることができるだろう。どのみち弦は結婚相手に小夏を決めたのだ。ゆっくり時間をかければいい。焦っても意味がない。「小夏さん、実は私はある病気のようなものを抱えているんです」小夏は驚き、すぐに心配そうに尋ねた。「どんな病気なんですか?全然そんなふうには見えませんけど。誰よりも健康そうなのに」「パーソナリティ障害というんです」「パーソナリティ障害?初めて聞きました」弦は詳しくどういうことなのか彼女に説明した。小夏は言った。「……、つまり異性に関心が持てないってことは、結婚も難しいってことですね。それで弦さんがこんなに素敵な方なのに、ずっと彼女がいなかったわけだ」弦の特殊な状況を知り、小夏はさらに彼のことを気兼ねなく付き合える男友達のように感じた。しかしこの時、彼女はすでに弦が掘った深い深い穴にすでに足を踏み入れてしまったことに気付いていなかった。その罠にはめられたことに、いつか気付いても、時すでに遅しだ。……星城は曇りや雨の日々が続いていた。それに伴い風も強く吹いている。今はもうみんな秋物の服に衣替えし、さらに薄手のコートも必要になってきた。少し前まで暑い日が続いていて、一気に気温が下がったことで、みんな一気に天気が変わったと思っていた。咲は夜中に寒さで目を覚まし、本能的に隣にいる男の懐に抱きついた。うとうとしていた辰巳は何かが自分の胸に入り込んできたのに気づき、反射的にそれを押しのけようとしたが、咲に触れた瞬間すぐに頭が冴えた。目を開けて妻になったばかりの咲が自分の胸元に抱きついているのを見て、彼はクスッと笑った。彼は咲と入籍して夫婦になったことにまだ現実味がないのだ。かなり前から咲と甘い夜を過
弦は笑った。 「小夏さん、そんなふうに思ってもらえるなんて、調子に乗ってしまいますよ。ははは」「調子に乗れるくらい実力があるんです」リリリリ……この時、小夏の電話が鳴った。彼女は携帯を取り出して母親からの電話だとわかると、弦に言った。 「今お母さんが電話してきたってことは、きっと明日のお見合いはキャンセルになったっていう話です」小夏が電話に出ると、やはり忍の怒りに燃える声が聞こえてきた。「安川さんが紹介してきたあの男、どこが優秀な男よ。まったく自分ってものを持ってないわ。他人が言った言葉をそのまま鵜呑みにしちゃってさ。私も相手が太くて豚みたいだからって嫌ってないってのに、あっちは私の娘を暴力女だなんて言ってきたのよ!それはあっちのほうでしょ。あの男の家庭こそ狂ってるわ!うちの娘があちらの息子とじゃないと、結婚できないとでも思ってんの?この世にあの豚みたいな男しか残ってないっていうわけ?ああ、ったく、本当に腹が立つわ!小夏、あんた頑張りなさいよ。自分で若くてカッコいい、能力もあるハイスぺックな彼氏を連れてきなさい!あちらに大恥かかせてやろうじゃないの!」「ちょっと、お母さんったら落ち着いてよ。こうなることは最初からわかってたでしょ。私はもう期待なんてしてなかったよ。それに、私はまだ二十四なんだし、焦らなくていいんだってば。数年後に、お母さんが気に入る正真正銘のハイスぺ彼氏を連れてきて、あいつらにぎゃふんと言わせてやろうじゃないの」お見合い相手から拒否されたのは一度や二度ではないので、小夏はすでに慣れていた。知り合いにも何回も男性を紹介してもらい、いつも白紙になってしまうので、周りもだんだん紹介してくれなくなってきた。小夏は若くて綺麗だし、文武両道、さらには家庭も良い。ただ、小さい頃から武術を習い、身につけているものだから、お見合い相手は怯えてしまうのだ。忍は誰かがわざとお見合い相手の前で小夏の悪口を言っているのではないかと疑っていた。小夏が以前学校では喧嘩王で、一発拳をお見舞いされただけで、男たちはやられてしまうと。「あなたは口では何度も聞こえの良いことを言うけどね、一度も彼氏を連れて帰ってきたことがないでしょ。ああ、これもお父さんのせいよ。娘は一人しかいないんだから、素敵なお嬢さんに育てないとって口を酸っぱ
「じゃあ、遠慮なく受け取っておきますよ」小夏はそのお金を財布に戻すと、携帯を取り出してみんなに夜食を奢ろうと、ネットでいろいろと注文した。「もう少ししたらうちに帰って何か食べましょうか」小夏の言葉に弦は笑って言った。「私は夜、あまり夜食を食べないんです」「じゃあ、弦さんの分はいらないんですね。私はほぼ毎日食べてますよ。きっと昼間の運動量が多いからでしょうね。夜何も食べないとお腹が空いて眠れなくて。でも、いつもはだいたい家に帰って食べてます。お母さんが私たちのために作ってくれてるんです」小夏はみんなの分を道場に送るように注文を終えてから立ち上がり、弦に言った。「私たちは帰りましょう。みんなの稽古の邪魔をしたらいけないから」弦がさっき大和と試合をして勝ったので、この時道場生たちはまだ驚いて呆然としていた。目の前で起こった事が夢ではないかと疑っていた。「わかりました」弦は小夏について歩き、小夏は二人の兄に言った。「お兄ちゃんたち、弦さんとちょっと出てくるから、二人は家で私たちのことを待っていなくていいからね」大和が返事をした。「おう、弦さん連れて必要なもん買いにショッピングしておいで」小夏は頷き、弦を連れて道場を出た。道場を出た瞬間、小夏は崇拝するような眼差しで弦を見て尋ねた。「弦さん、一体誰に武術を教わったんですか?とても複雑な技とか動きでしたけど、どれも、かちっと完璧でした。少なくても二十年以上は稽古されたんでしょ?」小夏に憧れの眼差しで見つめられ、弦は自分が大和に勝つ選択をしたのは正しかったと確信した。やはり小夏は強い人を尊敬している。「ええ、二十数年は学んでいます。師匠はたくさんいますよ。みんな父が私に選んでつけてくれた先生です。いつも父からきちんと学び、身につけなければ、家に帰って来るのは許さん、と言われていて、必死になって学びました。だから、どの先生も私が彼らの教え子の中で一番強い生徒だったんです」小夏は言った。「……そうだったんですね」「私がお兄さんに勝って、びっくりしました?」「ええ、少し意外でした」「実際、勝てたのは偶然です。私が小夏さんを勝たせようと思って必死になっていたら、お兄さんが半分くらいの力しか出さなかったんです」小夏は笑った。「そんな気を使
大和は笑って言った。「負けは負けだ。言い訳なんてする気はない。お前らは負けて悔しいって?ずっと賭けには勝ってきたんだから、たまには負けを味わってみるといい。賭け事はいつだって勝ち負けがあるもんだ。負けて納得できないってんなら、今後は一切しないこった」勇飛「……」小夏は端の方へ行き、座ってお金を数え、合計金額から半分を寛太に渡して笑った。「木下君、これがあなたの分よ」寛太はお金を受け取るとすぐにそれを半分にして、小夏に返し言った。「小夏姉さん、僕は二千円しか賭けてないから、半分もらうには多すぎます。これだけでも半年夜食を買うのに十分足りるんで」「あなたにあげたんだから、そのまま受け取っておいて貯金したらいいじゃない。新しいお母さんには知られないようにね」寛太は小さい頃に両親が離婚し、彼は父親に引き取られた。父親はもともと寡黙な人で、離婚してからさらに口数が少なくなり、寛太にはまったく関心を向けない。それで彼は祖父母に育てられた。そして父親が再婚し、初婚のある程度年のいった女性と結婚した。寛太は学校に通うために父親のもとに戻ってきたが、その継母がひどい人間で、寛太はよく叩かれるなどつらい日々を送っていた。彼は反抗したかったが、まだ子供で反抗しても意味はなかった。そして反抗するとさらにひどく叩かれてしまう。父親はお金を稼ぐのに仕事が忙しく、よく出張していて、息子に対する関心はほとんどなかった。それで、息子が新しい母親からいじめられていることを知らなかった。寛太のおばが、甥が可哀想で継母に直接注意したことがある。しかし、父親はよく出張で家をあけているものだから、その間継母は以前よりも厳しくなってしまった。それを知ったおばが、自分でお金を出して寛太に道場に入門させて、体を鍛えて強くさせようと思った。それに技を習得して戦う術を身につければ。継母にいじめられることもなくなるはずだ。そしてそれから六年、今継母は寛太に手を出せなくなっている。手は出せないから金銭的に彼を苦しめるようになった。彼のお小遣いは、異母兄弟よりも少ない。そのため彼は普段からあまりお金を使わないようにかなり節約して生活している。さっき賭けに出した二千円は、父親が出張から戻ってきてくれた小遣いで、夜お腹が空いた時に何か買えといって渡してくれたものだ。
勇飛とその場にいる先生たちはみんな弦が隙をついて、運良くギリギリ大和を倒せたとわかった。しかし、勝ちは勝ちだ。大和もわざと弦に負けたのではなく、弦は本当に実力で大和に勝った。弦は大和に手を差し出し、彼が立ち上がってから握手を交わした。「大和さん、最後は手加減してくれましたね」大和は笑って言った。「いや、手加減なんてしていませんよ。あなたが俺の弱点を見事についたんです。不意をつかれて反応ができませんでした。弦さん、俺の負けです」それでも、弦は謙遜する言葉を述べた。その場はしんと静まり返っていた。二人の会話の声が呆然としていた全員の意識を呼び戻した。「わああああ!!!」この時、寛太が大喜びで飛び跳ねて、小夏の肩をぱんぱんと叩いて叫んだ。「小夏先生、小夏姉さん!僕たち賭けに勝ちましたよ!九条さんが大和先生に勝った。僕たちの勝ちです。二十万は僕たちのものですよ。はははは、半年分の夜食代だ!」他の道場生たちは一斉に飛び跳ねて大喜びしている寛太に視線を向け、嬉しくて叫ぶ彼の声を聞いていた。彼らは寛太のことを嫉妬と羨望の眼差しで見ていた。小夏も呆然としていた。彼女はこの間、弦が悪人に立ち向かい、その動きを実際に目の当たりにしたし、弦も自分が武術ができることを素直に認めていた。小夏は弦の武術の腕が自分に劣ることはないと思っていたが、まさか弦が本当に兄の大和に勝つとは思っていなかった。たとえ運良く勝てたのだとしても、勝ちには違いない。「ねえ、小夏姉さん」賭けに勝ったことに大喜びしている寛太は再び小夏を軽く叩いて笑った。「さあ、早く賭けに勝ったお金をもらいに行きましょうよ」そう言うと、彼は弦の傍まで駆け寄って、思わず弦に抱きつき、あまりの喜びで大きな声で叫んだ。「九条さん、いや、小夏姉さんの彼氏さん、言ったでしょ、もし大和先生に勝ったら、小夏さんの彼氏にしてあげるって。へへへ、彼氏さんはすごいな、まさか大和先生に勝つなんて。僕の半年分の夜食代を勝ち取ってくれたんですよ、はははは!」弦は少し力を入れて、この大喜びしている寛太を引き剥がすと、おかしくなって言った。「わからなかった?君たちの先生は最後手加減してくれたから、私が隙を狙えたんだよ。私は遠くから来ている客人だから、大和さんが私を勝たせようとして
その瞬間、全員が寛太を見た。寛太はケラケラ笑って言った。「うちの小夏姉さんには彼氏がいないでしょ。もし、九条さんが大和先生に勝てたら、僕に仲介費用をくれなくたって、小夏姉さんと九条さんの仲をとりもちますよ」寛太の目には、小夏と弦は本当に理想的なカップルに映っていた。二人とも美形すぎる。寛太はこの年齢になって、初めてこんな芸能人レベルのイケメンに会った。彼のクラスにいる女性たちが追っかけをしているアイドルなどよりもずっとカッコいい。それに……そうだ、高貴な雰囲気を身に纏っている。つまり、寛太は弦のことをとても良いと思っているのだ。弦が大和に勝てたら、寛太と小夏は二十万円を山分けできるし、そうなった暁には弦に対する好感度は爆上がりだ!勇飛は笑いながら言った。「このクソガキ!弦さん、頑張ってくださいよ。あいつが賭け金が手に入るなら、ただでうちの妹との赤い糸を引いてやるって言ってますよ!」「お兄ちゃん、木下君はでたらめを言ってるだけよ。お兄ちゃんまで一緒になってどうするのよ」小夏はもう笑いでお腹が痛くなりそうなくらいだった。彼女は軽く寛太に蹴りを入れ、笑いながら彼を叱った。「このクソガキ、私を笑いで殺す気?」寛太も楽しそうに笑っていた。この時、大和も笑いながら弦に尋ねた。「弦さん、負けましょうか?」「大和さん、負けてくれるのは構いませんが、わざと負ける必要はありません。私は正々堂々とあなたに勝利してみせますので」弦は自信たっぷりにそう言った。大和は弦のこの自信をとても評価した。互いに攻撃をくり出し、十数分が経過した。大和ももう弦を軽視することはできなくなった。弦は実はかなりの腕を持つ強者だとわかったのだ。しかも、弦は実は簡単に自分を負かすことができるのではないかとまで疑ってしまうほどだ。しかし、弦はこの試合を速戦即決することはなく、時間を引き延ばしているようだった。時間をかけて勝負し、大和が弦に負けたなら、弦はただ運が良かったとか、相手が手加減してくれたからだと言えるからだ。そうすることで、大和も恥をかくことはない。弦の計画ではないかというその予想は、ある程度当たっていた。弦が時間を引き延ばしているのは、なんとか大和に勝てたというギリギリの状況を演出するためだ。この場にい