Se connecter「若葉はただ会社で中身のない肩書きだけでいいと、私とは後継者争いはしないと言いました。彼女と争うことは別に怖くありませんが、会社に利益をもたらせない人間を養うなんて絶対に嫌です。でも、最近母はちょっと若葉を会社に戻そうとしている気がします。まあ、そうなったとしても、別に恐れることはないんですが」玲は顔を凪のほうへ傾けた。凪も同じように玲を見つめ、暫くしてから笑って言った。「白山社長、まさかあなたが私の本性に気づいているとは思いませんでしたよ」「他の誰かがあなたをどう見ているかは重要ではないです。お母様があなたを理解し、凪さんの秘めた実力を見抜いていればそれでいい。あなたの一族は、当主となる人間が絶対的な権力を持ちます。だから、お母様があなたを理解できているなら、他の人なんか構う必要はないんです」凪の顔から笑みが消えた。「母ですか、母の気持ちはいつも若葉のほうへ傾いています」玲は何も言わなかった。若葉は当主の傍で育った。何も真実を知らなければ、黛家当主の娘に対する愛は、若葉のほうへ注がれやすい。若葉が偽物だとわかったとしても、当主も長年かけて育ててきた母と娘の情をそう簡単に捨てることはできない。そして凪に対して、彼女は完全に後継者として見ているだけで、母と娘の情などほぼゼロに近いのだ。もし、黛家にあの規則がなければ、凪は今の立場も得られていなかったはずだ。「白山社長、私のことはここまでにしましょう。私に関することなんてこれくらいで、みんなが噂している話が全てです。それよりもちょっと社長にお尋ねしてもいいですか」玲は穏やかな声で答えた。「どうぞ」「白山社長と結城社長は……その、お付き合いされることはあるのでしょうか?」玲は言った。「……それは、俺も答えられませんね。明日の事は誰だってわからないでしょう」凪は笑って言った。「私は本当に白山社長のことを尊敬しています。あなたも私のことをよく理解してくれている。もし、白山社長が結城社長の気持ちを拒み続けるのであれば、私にもチャンスをくれませんか」最初に凪が玲に接近した目的はわざと若葉を刺激して、怒らせたいと思っていたからだとするなら、今の凪は玲のことを本当に高く評価するようになっていた。それは主に玲が彼女のことをよく理解し、本性を見抜いているからだ。玲は彼女に対しても
玲はため息をついた。「きっと、よその子供のほうがいいんでしょう」凪は笑って言った。「白山社長の気持ちは理解できます。うちの母もそうですから。いつも、どこどこの家のお嬢さんはどれだけ優秀だとか、私を馬鹿で役立たずな娘だと怒るんですよ。それにいつも若葉と比べてきます。若葉のほうが私よりもできる子だって。もし、黛家に代々から伝わる規則がなければ、彼女は私を後継者として育てることはしなかったでしょう。どのみち、いろいろ私の事が気に食わないんですよ」凪は気にしていない様子で話していたが、玲は彼女の心の苦痛を聞き取った。凪は黛家当主のそばで育ってはいないが、血の繋がる母と娘には違いない。母親からいつも傷つけられて、つらく感じないほうがおかしい。「凪さん、あなたはとても素晴らしい女性です。お母様がいくら何を言っても、きっと将来当主の座を勝ち取り、黛グループを率いていくことでしょう」玲は凪に慰めの言葉をかけた。それからまた続けた。「黛若葉は確かに当主に育てられた。小さい頃から後継者としての教育を受けてきましたが、実際、彼女の実力は高くありません。初めて彼女に会った時、弟にこっそり言ったことがあります。黛グループが彼女の手に渡ったら、会社はいずれ倒産するとね」きっと遺伝も関係しているのだろう。若葉は黛家の血を継いでいない。だから黛家の女性に伝わる優秀な遺伝子など持っていない。黛家当主は以前、生まれたばかりの娘が他の娘と差し替えられたことなど知らなかった。ずっと若葉のことを実の娘だと思い込んでいたのだ。だから、彼女を溺愛し、しっかりと育て、小さい頃から後継者になる教育を受けさせてきた。それでも、今の若葉は玲にとってはお粗末な不合格品だった。ただ、当主には一人しか娘がおらず、当時も娘が入れ替わっていたことなど知る由もなかった。黛家に伝わる規則では将来当主となるべきなのは若葉だった。当主は心の奥底では若葉の能力には満足していなかったが、それを表に出すことはなかった。若葉を順調に後継者にするため、当主は息子を会社に入れて重要なポジションに就かせ、娘の補助をさせるつもりでいた。若葉の能力は玲から見れば、会社を発展もなく今の状態のまま経営していくので精一杯だろう。しかし、最悪な状況は、それすらもできないことだ。一方、凪のほうは生まれ持ってビ
凪は養父母に田舎で育てられ、いつもいじめられていた。何か食べる物があるだけでマシだったのに、いちいち好き嫌いなど言っていられなかった。大人になって自分で稼げるようになり、社長職を経て、かなりの金持ちになった。それで多くの山や海の幸を堪能できるようになったが、依然として好き嫌いはしない。大したご馳走でなくても彼女は食べることができる。もちろん高級料理も好きだ。黛家で出される食事も、もちろん良い食材を使った美味しい物ばかりだ。しかし、彼女が好き嫌いをしないので、キッチンのほうも毎回別に凪が好きな料理を作ることもなかった。確かに彼女は好き嫌いはしないが、特別に好きな料理だってあるというのに。つまり黛家のシェフも凪のことを軽視しているのだ。毎日大家族が一緒に食事をする時にはテーブルの上に必ず当主が好きな料理がある。そして若葉の好きな料理も当然ある。それ以外の人は自分の好みの料理が一つは用意されているが、本物の令嬢である凪だけがシェフから重視されていない。凪はそんなことなど気にしないが、全部心の中に覚えていた。今は焦ることはない。将来、凪が黛家の全てを掌握してからまた考えればいい。人間はみんな、権力や利益に引き寄せられやすい存在だ。凪もシェフが今は当主と若葉が力を持っているから、そちらに傾倒しているだけだとわかっている。弥和は笑って言った。「好き嫌いがないのは良い子の証拠ですよ。黛さんは見るからに良い方だわ。私はあなたのような女の子が大好きですよ」一体黛家当主は何を考えているのか、さっぱり理解できない。血の繋がる我が娘を愛さない。なのに、血縁など無縁の若葉とかいう娘を可愛がっている。若葉の実の父親が、あの二人が赤子の時に悪意を持って入れ替えた首謀者なのに。もし、弥和だったら、さっさと若葉を田舎の本当の家に帰しているだろう。あそこが本来彼女がいるべき場所なのだから。凪は恥ずかしそうに笑っていた。弥和に催促されて、玲は凪を連れて母屋を出た。白山邸の総敷地面積は広い。門を入ってすぐに広がる庭もバックヤードも素晴らしい景色だ。玲が暮らしている大見原の屋敷と比べるともっと豪華だ。玲は家の前に広がる庭をぐるりと一周し、バックヤードも案内して凪に言った。「バックヤードは木が多くて、木陰ができるから涼しいんで
つまり、黛家当主は馬鹿ではないということだ。彼女は黛一族が不利になるような事などしない。「玲の言うとおりですよ。黛さんがこれから来たい時にいつでも来てください。私たち家族みんな喜んでお迎えしますからね」弥和は凪がいつ来ても大歓迎のようだ。彼女は娘が凪から女性とはどのようなものか学ぶのに良い機会だと捉えているのだった。さほど期待はできないが、弥和は少しでも希望を持ちたいと思っている。それにしても、本当に彼女は後悔していた。過去、娘を息子として育てるべきじゃなかった。まだ玲が小さい頃は、単純にこれも面白いと思っていたのだ。双子を連れて出かける時、二人とも男の子の格好をしていたので、みんな彼女は双子の兄弟を生んだのだと思っていた。そして子供たちが幼稚園に上がった時も、娘は相変わらず男の子の格好をしたいと主張した。弥和はまだ子供は小さいから、別に問題ないだろうと、玲の好きなようにさせてしまった。それから時間が経って、娘が男装するのに慣れてしまい、そろそろ元の性別で生きてもらいたいと思った時にはもう手遅れだった。娘は世間では「御曹司」や「坊ちゃん」と呼ばれるようになり、みんな玲のことを男だと思い込んでいる。玲は大人になると自分の意思を強く持ち、自立心が強くなった。母親である弥和も娘の制御は不可能になり、仕方なく、好きなようにさせるしかなかった。もし、娘が本気で好きになれる男性に出会えれば、きっと女性の姿に戻ってくれるだろうと弥和は思っていた。そんな中、流星の如く颯爽と現れた奏汰が、弥和の一縷の望みとなったのだ。しかし、まだ玲に革命を起こすことに成功していない。奏汰はまだまだ努力が必要だ。「奏汰君、一緒に釣りに行くかい?」茂が奏汰に尋ねた。彼はまた凪に言った。「黛さんもせっかく来たんだし、うちで夕食を食べて行ったらいい。私と奏汰君が釣りに行ってくるから、それを調理しよう。黛さんにもぜひ、奏汰君の作る魚料理を味わってもらうぞ。すごく美味しいんだ」凪は笑ってはいたが、それを聞いてそこまでするのは申し訳ない様子で言った。「そ、それはちょっと都合が悪いかと」「何が都合の悪いことがある?ほら、夕食も食べていったらいいよ」玲も凪を引き留める言葉を口にした。そしてまた、弟のほうを意味深にちらりと見た。碧は姉に
玲は優秀で、二枚目だ。奏汰はそんな玲にはまってしまい、世間の目など気にせずに堂々と玲にアタックし始めた。奏汰はかなり度胸があると言えるし、それも玲の魅力が半端ない証拠だ。最初はよく理解できていなかった凪も、後で自分の伯母の二人の娘は星城にいて、伯母の次女の娘が結城理仁の妻である唯花だと知って、ようやくどういうことなのか腑に落ちたのだ。凪は自分がきっと誰かに似ていたのだろうと思った。奏汰の自分に対する様子から見て、凪は自分と唯花がとても似ているのだと察した。唯花は奏汰の従兄の妻だ。結城家の若者世代はみんな理仁のことを特に敬っているという。そんな理仁の周りにいる人のことを、彼らは自然と尊重するわけで、唯花のことも大事に思っているのだろう。凪も一度星城に行って、詩乃と唯花、唯月に会ってみたいと思っていた。凪は詩乃とは従姉妹関係にある。そして、唯花と唯月の姉妹も自分の親戚にあたるのだ。しかし、そうするのはまだ時期早々だろう。黛家当主の情報収集能力は高い。一族の中で星城に赴き、神崎夫人に会おうとしていた人間がいると素早く情報をキャッチした。すると彼女はすぐに人を手配して星城に行かせ、一族の人間が神崎夫人に会うのを阻止するだけでなく、柏浜に連れ帰り、厳しくしつけと警告をしているところだ。そんな緊張状態にあるタイミングで、凪が星城に行けるはずがない。母親のこの反応から凪はさらに疑いを深めていった。当時、母親が当主の座に就くために、汚い手を使ったのだろう。母親の姉と妹の死は、きっと母親の仕業だろうと凪は思っている。しかし、それを証明する証拠がない。彼女は裏でこそこそと聞きまわり、一族の中から証拠を見つけ出そうとしたが、今のところ何の手がかりも掴めていない。若者世代はこの事を知っている人はいない。当時の事を知っているであろう年代の人に尋ねても、口を割ろうとしない。彼らが星城に行って神崎夫人に会いたいと思っても、凪に母親の姉一家の死について語ろうとしない。「黛さん、こいつに構う必要はありません。私たちがいつ会おうと自由ですから。来たい時にはいつでも来てくれていいですよ」玲は凪にそう答えた。そして玲は弟を一瞥した。碧はこの時、姉はなんでそんなふうに見てくるのかと思っていた。姉は自分と黛凪をくっつけたいとまだ思って
玲がやって来ると、凪は立ち上がって挨拶した。「お邪魔しています、白山社長」玲は珍しく笑顔を見せ、凪に座るよう促し、微笑みながら尋ねた。「黛さんはいつこちらに?来るなら連絡してくれればよかったのに、門までお迎えに行きましたよ」凪は少し申し訳なさそうな様子で少し顔を赤くさせて言った。「週末は仕事が休みで家にいてもつまらないし、他に友人はいなくて、白山社長は私に気さくに接してくださったから、それで勇気を出して社長とお話ししようとお邪魔したんです」凪は玲に恋心を抱くつもりはない。しかし、玲は確かに凪に対して優しくしてくれた人だった。玲は他の若い女性には氷のように冷たく当たるのに、ただ凪に対してだけは少し優しい態度をとるのだ。今も凪に対して微笑みかけてくれている。凪は玲が笑うと特に素敵だと思った。玲は普段からあまり笑みを他人に見せることはない。きっと彼を追いかける女性たちが多いせいだろう。玲はいつも冷たく、他人を寄せつけない態度を見せている。多くの玲を慕う女性たちはみんなそんな玲の心を溶かし、唯一無二の存在になりたいと思っている。もし、玲がいつも春風のように優しく微笑んでいたら、もっとファンを増やすことになる。きっと玲の服まではぎ取ろうとするような狂った女まで現れてしまうだろう。凪が黛家の令嬢であると発覚して戻って来てから一年。玲に対してそこまで知っていることはないが、ある点についてはよく理解している。玲は今まで多くの女性たちを虜にしてきて、いくら自分を恋い慕う女性が多くいても、彼女たちを受け入れることもないし、みんなを拒絶している。誰に対しても希望を与えることはない。凪はたまに、ここまでハイスぺな男性が結婚相手を選ぶ基準はなんだろうと考えることがある。そして奏汰が玲に告白して、世間の目も気にせず口説き始めてから、目立つような求愛の行動を見せている。それに対して玲は受け入れてはいないが、人を使って奏汰を遠ざけることもしていない。そう、この点が不可解なのだ。まさか玲は本当に男のほうが好みなのだろうか?凪は心の中でとても残念だと思っていた。「今後、黛さんが暇な時にはいつでも連絡してくれて構いませんよ。週末は普通家にいて、外出はあまりしませんので」凪が奏汰のほうへ目を向けると、奏汰は何も気にする様子はなく、
辰巳は首を傾げて咲をちらりと見て言った。「君は見えないでしょう。バスが過ぎてしまったら、止めることはできないんじゃないですか」咲はそれに答えた。「バス停近くのある店に警備員さんがいるんですけど、とても親切な方たちで、毎日バスが見えたら私に教えてくれて、私が無事に乗るまで見ていてくれるんですよ」辰巳はその後何も言わなかった。この二人はお互いにまだよく知らない。辰巳は本来、こんなに早く行動を起こそうとは思っていなかったのだが、義姉にけしかけられるような形で理仁と唯花から笑い者にされないようにするためにも、咲に近づくことにしたのだ。しかし、彼は咲のことをあまりにも知らなさすぎる。
辰巳は理仁の話に興味津々で尋ねた。「名医だって?目の治療もできる?」「できると思うぞ。じゃないと名医って呼ばれないだろう」辰巳はまた尋ねた。「その人は今どこにいるかわかる?人を寄越して来てもらえるかお願いしてみよう」「以前、A市の音濱に現れたことがあるらしい。だけど最近はあそこにはまたいないらしい。聞いた話だけど、その名医の元で教わっていた医者が桐生家の新君とは近い間柄らしいが、弘毅君のほうとはあまり仲はよろしくないらしいぞ。善君に聞いてみたらいい。その名医に教わったと言う医者の名前は確か酒見(さけみ)さんと言って、かなり凄腕の女医らしいぞ。彼女と望鷹市の篠崎家当主の奥さんは以
英子は外に出て、智文の車の前まで来ると、手に持つナイフでタイヤ全てを刺していった。全て終わらせると、英子はナイフを持って店に戻り、綺麗に洗って元の場所に戻した。そして帰る時に唯花に言った。「私があいつの車のタイヤを駄目にしたから、弁償しろと言ってきたら、この佐々木英子のところに来るように伝えてちょうだいね。じゃあ、唯花さん、これ以上商売の邪魔にならないように、私たちは帰るわ」佐々木家はすぐに去っていった。そして店の中が静かに戻ると、姫華は陽に目隠しするのをやめた。その時に陽が彼女の胸の中でぐっすり眠っていることに気づき、おかしくなって唯花に言った。「陽ちゃんったら、いつの間
その場にいる内海家の面々は黙ってしまった。互いに目を合わせた後、智明は尋ねた。「唯花、君たち姉妹でいくらで家を売ってくれるか話し合ってくれ。やっぱり家も土地も全部俺らに買い取らせてくれよ」「言い値で家を売るって、あんた達がお金を出すわけ?それとも住む二人に出させるの?」智明は言った。「そりゃあ、じいちゃんとばあちゃんが住むんだから、この二人が金を出すさ。だけど、ばあちゃんが病気で入院してから二人の貯金はあまりないし、ばあちゃんの術後ケアも俺らのほうで出しているからな、たぶん一括では大金を払うことはできない。二人に借用書を書かせて、じいちゃんとばあちゃんが払える分を先に払って。足







