تسجيل الدخول【ハロウィンから始まる恋】小さなカボチャに刻まれた詩が心を秋色に変える 裏庭に、転がっていた皮に短い詩が刻まれた小さなかぼちゃ――“パンプキンレター”。どうやらこれは隣家からやってきたらしい。 人との関わりに疲れた主人公と植物と関わる寡黙な隣人。――隣人同士の小さな日々が重なり、二人は少しずつ距離を縮めていく。 ハロウィンの夜に綴る、秋色のヒューマン・ロマンス短編。
عرض المزيد最初のカボチャは、夕方の色が庭に沈みきる頃に見つけた。
庭のベンチの下、掌に収まるほどのオレンジの球が転がっていた。
つるの名残が、猫のしっぽのようにくるりと曲がっている。持ち上げると、皮に彫り込まれた文字があった。細い刃で綴られた詩。灯りは小さいが
道になる彫ってあるのでカクカクとした字ではあるが、しっかり読み取れた。刻まれた溝は新しく、そこに指を当てるとほんの少しカボチャの生々しさが残っている気がした。
庭越しに隣家を見れば、背の高いヒマワリが秋の名残を振っている。その陰に、薄い色のシャツの人影。隣に住む笹川さん――だ。
影は動きを止めた。私も、カボチャを手にしてしばし動きを止めた。
しばらくして、その影は姿を現すことなく建物の向こうへと去ってしまった。
◇◇◇
祖母の家に戻ってきたのは、今年の春。ほこりを払って暮らしを置き直し、地域が運営する図書室で非常勤司書の職を得た。
昨年の夏までは、東京の都心にある雑貨店で働いていた。昔から小物づくりが好きで、大学卒業後に雑貨販売の会社に就職をしたが、どうやら私は作るのが好きなのであって、売るのは性に合わなかったようだ。
追われるような仕事の日々に心が追い付かず、祖母の入院を機に仕事を辞めた。
春に祖母が亡くなるまでは、その世話を一手に引き受けた。母からは、仕事を辞めさせて申し訳ない、と言われたが、祖母の介護を言い訳に仕事を辞めたところもあり、少し後ろ暗い気持ちではあった。
小学2年の頃に母が離婚し、私は学校が休みに入るたびによく祖母の家に預けられた。
だから、この場所は第二の故郷と言っても過言ではない。地域の図書室も、歩いていける植物園も、小さい頃は毎日のように通った場所だ。
祖母と最後の日々を過ごせたことは、自分の中の祖母への思慕の整理にもなった。翌日の夕方にも、ベンチの下にミニカボチャが転がっていた。
風の手紙は
季節を運ぶ昨日のとは違う言葉が彫ってあった。持ち上げてしばし周囲を眺める。
――お隣さんよね? どうしよう。うちの庭に入ってましたよ、って持っていくべきかしら
大きな口をあけたようなカボチャは、中がくりぬかれ、その中にろうそくがおけるように作られている。
結局、もう暗いから、と自分に言い訳をして、家にそれを持って入り、昨日のカボチャの横に並べてみた。
ふと思いたって、祖母の仏壇から蠟燭を一本拝借し、カボチャの中に灯してみる。「うわぁ……」
中の
カボチャ2つともに蝋燭を立て、部屋の電気を消して眺めてみる。
文字の位置を調整しているのだろう。どちらも同じくらいの場所に、綺麗に字間を整えて彫ってあるので、実にいい雰囲気を作っている。
「ふふ。素敵」
どうやらお隣さんは、こうしたモノづくりに凝るタイプのようだ。
彫りこんでいる詩は、お隣さん――笹川さんの創作だろうか。
引っ越してきた時に挨拶をした後は、偶然玄関先で出会えば会釈をする程度で、会話らしい会話はしたことがない。
お隣さんも、たぶん、1人暮らし。
いつも庭が綺麗に手入れされているが、ほとんど姿を見たことがない。年はたぶん私より少し上、くらいだろう。背が高くひょろっとしている。こんな繊細な物を作るようには見えなかったが、人はみかけで判断してはいけないものだ。
「明日、仕事から帰ってきたら、あなたたちを返しに行かないとね」
肘をついて灯る灯りを見ながら、ツンツンとかぼちゃをつついた。
◇◇◇
「小野さーん。子どもたちの読み聞かせ会、お願いできる?」
図書館長の真弓さんが、半地下の書庫の入り口から声をかける。
「大丈夫でーす。これ戻し終わったら上がりますねー」
木曜日の午後は、子どもたちの読み聞かせ会がある。ちょうど保育園や幼稚園からの帰りに親子が立ち寄れる時間。
書庫から戻ると、キッズスペースにはすでに3組のほどの親子が座って待っていた。
「はい。では、今日の絵本は何かなぁ?」
ちらりと表紙を見せると、子どもたちが口々に「魔女!」「猫ちゃんだー」「オバケの話?」と大人の膝を離れて近寄ってくる。
「もうすぐハロウィンね。だから、今日は、『ハロウィンのふしぎ』というお話を読みますよ」
園でハロウィンの飾りを作ったことを、子どもたちが口々に報告してくれる。いつの間にか周囲に子どもの数が増えていた。
「リンは、おばけも夜も怖い女の子。だから、みんながおばけになりたがるのがふしぎなのです――」
”そんな、怖がりのリンは、ハロウィンの夜に小さなランタンの精ポッカと出会う。飼い猫ルゥと三人で、“どうして仮装するの? どうして『トリック・オア・トリート』って言うの? どうして灯りをともすの?”というハロウィンの“ふしぎ”を集めに、町を歩き始めます。”
「――リンが『どうして、みんな こわいおばけに へんしん するの?』と聞くと、魔女帽子のパン屋さんはこう答えました。『こわいものに へんしん すると、こわいが おともだちになって こわくなくなるからよ』――」
子どものうちの1人が、「おばけがなかまになるの?」と聞く。「ふふふ、どうかな。おばけも妖怪もこわいものは、みーんな仲間になるんじゃないかな」そう言うと、「えー!すごーい!」と騒ぐ。
”リンは夜の街を歩いてたくさんのふしぎの理由を知り、最後にポッカに聞きます。”
「――「どうして よるに あるくの?」するとポッカが笑って言いました「よるは こわい? でもね、よるだから みえる ひかりが あるんだよ」リンが手にした小さなランタンを指さしました。「さぁ、ひかりをたどって あるいてごらん」リンはランタンの明かりの上を歩きました――」
”こうしてリンは家に辿り着く。”
「――ふわりと浮いた体は窓へ リンの小さなランタンの灯りは消えて『ふしぎを たくさん わけっこしたね。また らいねんね』 ポッカはそういうとコトンと小さなかぼちゃに戻り、ルゥはニャーと鳴きました。 リンはもうハロウィンがこわくなくなっていました。 『こわいはともだちになったんだわ』そう思って 夜空を見ながら眠りについたのでした。おしまい」
引き込まれたよう、にすっかり静かに聞き入っていた子どもたちが、口々に『ハロウィン、こわくないよ!』『おばけもこわくなーい』と言い合い始める。
それを微笑ましく眺めながら、顔を上げると、書棚の影に背の高い男性の姿が一瞬見えた。
――あ、笹川さん?
キッズコーナーから出て行く親子に挨拶を返しながら、目の端でその姿を追う。読んでいた絵本を手にキッズコーナーから出て、しばらくそのあたりの書棚をウロウロと探してみるが、その姿は無かった。
「小野さん、お疲れさま。読み聞かせ上手ねぇ。読みながら絵本を動かすとか、すごい高等技だわ」
「真弓さん、そんな…ありがとうございます。あの、カウンターの所に背の高い男性がいませんでした? 眼鏡の」 「え? いたかな? 今日はお父さんも多かったけど。知り合い?」 「あ、えぇ、まあ…」見間違いだろうか? そもそもそんなに知らない相手だから、本人かどうかなんてわからない。
例のカボチャのランタンを返しそびれているから、気になり過ぎているのだ。
今日帰ったら必ず隣家を訪ねてみよう。そう思った。笹川さんの動作を見ているときは、簡単に思えたが三角の角をキレイにくりぬくのは思いのほか難易度が高かった。「ちょ…っと、片目だけすごく大きい子みたいになってしまいましたが……」出来上がると左右の目の大きさが全然違う。「大丈夫ですよ。こっちも目を大きくして、目の大きい子にしてしまえば」ナイフを手に取ると、笹川さんがなんてことないように片方の目を一回り大きくして、さらに口を彫って全体の切り口を滑らかにしていく。「やっぱり、違いますね。クオリティが」 「クオリティなんてそんな。ただのカボチャですから」 「でも、笹川さん、文字を彫ってたでしょう? あんな小さなカボチャに」仕上げをしている笹川さんの手元を肩越しに覗きながら、丁寧な作業に感心する。「確かに字を彫るのは、練習がいりますね。僕もいまだに小さな点とか囲いの中をうっかり切り落としてしまいますし」笑いを含んだ声でそう言う。「練習したら、私も自分の名前くらいは、彫れるようになりますか?」 「できますよ」出来上がったカボチャを眺める。「……名前、彫りましょうか」 「え?」「このカボチャ。片目は小野さん作だから名前入れましょうか」 「そんな。植物園の物なのに」「名前、なんておっしゃるんですか?」いつかの玄関先の会話を思い出した。ちょっと顔が熱くなる。「……はるか、です」笹川さんは、マジックで顔の反対側の下の方に平仮名で“はるか”と下書きをすると、さっき顔を作るのに使っていたナイフよりもさらに細い長い刃のついたもので、字を彫り始めた。静かな、でも穏やかで心地よい時間。ふっと顔を上げると作業台の向こうの、家に繋がるガラス戸にロウが丸くなっている影が見えた。「はい」出来上がった名前を笹川さんが見えるように持ち上げてくれる。 カボチャに彫られた自分の名前。「これが植物園の通路にあると思うと、絶対に見に行かないといけない気持ちになりますね」笹川
ハロウィン当日。キッズコーナーでワークショップの準備をしていると、植物園の職員ジャンパー姿の笹川さんが段ボールを抱えて現れた。「小野さん。こんな感じでどうですか?」箱の中には、細工されたミニカボチャがぎっしり。「素敵……ありがとうございます」飾り付けを終えた書棚の上に並べていく。笹川さんも、壁の折り紙に触れないよう気を配りながら手伝ってくれた。カボチャにはアルファベットが一文字ずつ彫られていて、順に置くと「HALLOWEEN」。 両端には表情の違うオバケカボチャが二つずつ並べられるようになっていた。「急にお願いしたのに、本当にありがとうございます」 「いえ。終わったら回収に来ますね」 「あの、しばらく飾っておいてもいいですか?」 「もちろん」並べ終えると、彼は段ボールを片手に”では”と足早に図書室を後にした。「今の、笹川さん?」入れ違いで真弓さんが事務所から出てきて、閉まりかけたドア越しに背中を見送る。「ご存じなんですか?」 「うちの夫、植物園勤めなの。とはいっても、笹川さんは研究員でうちの旦那は管理作業員なんだけど。小野さん、知り合い?」 「お隣さんなんです。この飾りをお願いして」並べたカボチャを見せる。「へえ! 小さな町はすぐ繋がるわね。笹川さん、以外だわ。こんな特技があるとは」ちょうどその頃、親子連れが集まり始めた。用意していた材料を机に広げ、子どもたちを迎える。◇◇◇ワークショップは大成功だった。保護者の協力もあり、長谷川さんと二人でなんとか子どもたちが楽しめるように回し切った。。「このカボチャ、すごく可愛い! 職員の方の手作りですか?」帰り際、姉妹の手を引くお母さんが声をかけてくる。「いえ、得意な方がいて、その方からお借りしています」 「素敵ですね。大人向けのワークショップもやってほしいです」そう言って、微笑みながら帰っていった。 そんな声があったことを、笹川さんに伝えたかった。◇◇◇夜。焼き菓子を紙袋に入れて、インターホンを押す。反応が無い。 ふと、ガレージの方から灯りが漏れているのに気づく。「こんばんは」車の奥の人影に声をかけると、薄手のカーディガンを羽織り、眼鏡をかけた笹川さんが顔を上げる。「あ、こんばんは。すみません。インターホンに気づかなかったかも」 「いえ。今日はありがとうござ
夜、食事を終えた頃に、いつものように隣家に車が帰ってくる音がした。先日は、帰って、着替えて、さあゆっくりしよう、という時間に訪問してしまったに違いない。 急ぎ足で隣家へ向かう。インターホンを押すと『はい』という返事があって、私が名乗ると、すぐに玄関が開いた。 良かった。笹川さんは、植物園の職員用ジャンバーを着たままだった。「お疲れのところすみません。実は笹川さんにお願いがあってお伺いしたんです。少しだけお時間いいですか?」昼に考えたアイデアがどうしても拭えず、ダメもとでお願いしてみることにした。「あ、玄関先ではなんですから、良かったら上がりますか?」そう言われて厚かましくも家に上がり込んだ。玄関から続く廊下の奥に摺りガラスのドアがあって、その奥がリビングだった。祖母の家と建てられた時期が同じなだけあって、台所のシンクの場所などは古い感じではあったが、壁を取り払ってリンビングとダイニング繋げ広く快適な作りにリフォームしてある。 ロウが走り回れるようにしたのかもしれない。「どうぞ。そこにかけてください。さっき帰って来たばかりなので、お茶を入れるので少し待ってくださいね」そう言うとコンロにヤカンをかけた。「あ、お構いなく。お仕事帰りお邪魔してしまってすみません」 「いえいえ、大丈夫です」キッチンを向いて背中を越しに笹川さんが返事をする。その横に寄り添うようにロウが座る。 本当にベッタリなのね。微笑ましくて笑いがこぼれた。入れてもらったお茶を飲みながら、笹川さんに昼間に思いついた案を相談する。「それなら大丈夫ですよ。実はカービング用に中をくりぬいたカボチャがすでにいくつかあるので、すぐにできます」 「本当ですか? 良かった。子どもたちがすごく喜ぶと思います」「良かったら当日図書室に直接持って行きますね」 「え! そんな、申し訳ないですから。私、お預かりさせていただければ……」 「小さいけど数があると重いですから」結局、お願いした物は笹川さんが、ハロウィン当日に図書室まで持ってきてくれることになった。先にご飯を貰ったロウが、食べ終えてダイニングの足元に寄ってきた。私の横にもお愛想をしにきてくれたので、そっと顎を撫でる。「お仕事の間は、ロウはお留守番ですか?」綺麗に片づけられたダイニングには、ロウのケージとその向こうにトイレ
週末から雨が続いていた週明け月曜日の休日。リビングで趣味の押し花アートに没頭する。最近、少し老眼になりつつあって、ピンセットで花びらを掬う時に突き刺してしまわないように気を使う。 時折、眉間を指でつまんでほぐさないと、気づくと目が疲れて仕方がない。春から夏にかけて作った材料を、組み合わせながら、花や花びら、葉を重ねて全体にグレーとブルーの配色をする。「よし、これにパンジーの黄色を入れて月っぽくしたらいいかな」1人暮らしの良いところは、声を抑えず独り言が言えるところで、悪い所は独り言が増えてしまう点だ。図書室の子どもたちへのハロウィンのプレゼントに栞を作ってみた。夏のワークショップで一緒に押し花をやったので、たぶん喜んでくれると思う。うーん、と体を伸ばして椅子の背もたれをグーっと体で押したとき、インターホンが鳴る。カメラを覗くとどうやらお隣さんのようだ。「はい、今出ますね」相手が何も言わないのに、パタパタと廊下を小走りに玄関に向かっていた。玄関を開けると、傘を差した笹川さんとカッパを着たシェパードが立っていた。「こんな日にすみません。先日のタッパーをお返しに来ました」 「すみません。ご丁寧にありがとうございます」ついついカッパを着て賢くお座りをしている犬の方に視線がいく。「お名前なんていうんですか? 」 「……“みなと”です」犬の名前にしては、珍しい。横浜とか神戸とかの生まれなのだろうか。「みなとくん? ちゃん? かな」しゃがみ込んで、目線を合わせてみた。「いい子だね、みなとくん」 「あっ。すみません。“みなと”……僕の名前です」 ――すごい空気が流れた「……この子はローワンです。普段は、ロウって呼んでいて……」顔が熱くて立ち上がれない。“みなとくん”って……「すいません。恥ずかしい間違いをしてしまって……」頭上から焦るような、困ったような声が降ってくる。「こちらこそ……すみません」しゃがみ込んだまま、謝った。「ほ、ホントにいい子ですね。ちっとも騒がないし、吠えたりもしないし」取り繕ったような感じで立ち上がると、笹川さんは耳まで赤くして、目線を合わせない。 こういう勘違いってホントに恥ずかしい。でも、お互いにそうだ、と思ったらちょっとほぐれた。「その……ロウは、保護犬で。前の飼い主に声帯を除去されたようで