LOGIN「だからこんな重要な時に、あなたが凪に迎えに来いって命令すれば、それをいい事に彼女がお義母さんに告げ口して、あなたが責められるに決まってるわ。凪が大きな取引先と話をつけたのだから、お義母さんは彼女の味方をするはずよ」その言葉を聞いて、若葉は嫉妬心を燃やしていた。「凪、本当に運がいいですね」「まったく」綾も同じく嫉妬していた。凪が自分の立場を確立させてしまえば、黛家当主の座を奪われ、綾の夫が何もかも失ってしまう。夫が黛グループのためにあれだけ努力して必死に働いているのに、結局最後は何も得られないとあれば、夫は悔しがるだろうし、綾自身もそんなのは納得できない。柏浜で、黛家の覇権争いで本物と偽物が火花を散らしている時、星城では、唯花が大勢にチヤホヤされる日々が始まっていた。音濱岳から帰ってきてからというもの、彼女は二日ほど休息を取り、また仕事に精を出しはじめていた。理仁は彼女に仕事をしてはいけないとは言わなかったが、姫華のほうが仕事を抑制するように言ってきた。唯花が何かしようとしていると姫華が知ると、彼女は止めに入った。唯花に事業のことで気を使わせたくなかったのだ。唯花には妊娠中家でゆっくりさせようとするものだから、唯花は複雑だった。本来、昼には顧客と会食予定だったが、姫華が言った。「唯花、私が行くから。あなたは結城社長の昼休憩になったら一緒にお昼ごはんを食べに行けばいいわ。それか家に帰って、結城おばあ様と清水さんがあなたに豪華な昼ご飯を用意しているはずよ。それか唯月さんのお店に行ってもいいじゃない。そうだ、唯月さんの新しいお店は明日オープンするでしょ。お祝いのお花を注文してあるのよ、あとで花屋に電話して、事前に持って行くようお願いしておくわね」唯花は笑った。「姫華ったら、私は大丈夫よ。まるで私を病人みたいに扱わないでちょうだい。理仁さんは昼会食があるから、一緒にご飯を食べられないってもう言われているの。妊娠しただけよ。しかもまだ妊娠してあまり経っていないし、家に帰って休めだなんて、私は嫌よ」姫華は唯花の前に座った。「まだつわりはあるの?」「朝、歯磨きしてる時に吐いちゃった。胃液まで出たわ。食事なら、酸っぱいものとか甘いものとか食べなければあまり吐くことないの。甘くて酸っぱいものを食べるとすぐ吐いちゃ
「お母さん?」若葉は母親が電話の相手になるとは思っていなかった。若葉はすぐに態度をガラリと変えて、悲しそうな声を出した。「お母さん、結城社長にいじめられたの。あの人、私の車のタイヤの空気を四つとも抜いたのよ。だから、運転できなくなって、外はすっごく暑いし、凪に迎えに来てもらいたいの。今は仕事の時間じゃないし、白山グループに迎えに行くのにはそんなに時間がかからないから、夜の残業の合間にちょっと来てくれるのは問題ないはずよ」「あなた、また結城社長を怒らせたの?お母さんが言った話を全然聞かないわけ?彼に手を出して怒らせたらダメだとあれだけ言ったのに、彼は結城家の人なのよ!私でさえ彼には礼儀を欠いてはいけない相手よ。それなのにあなたみたいな人がまたそんなことをしたっていうの?」和子は腹を立てているので、口調も厳しかった。普段、若葉に対するあの優しさはなかった。「彼を怒らせて、黛家に仕返しされたらどうするのよ。若葉、そうなった時にあなたで対処できると思ってるの?そうなったら時は黛家からあなたを追い出して黛家を守ったとしても私を責めるんじゃないよ」「お母さん!」若葉は自分の聞き間違いじゃないかと疑った。これがあれほど自分を愛してくれていた母親なのか?「お母さん、私はただ結城社長と同じように白山社長にアプローチしようと思っただけよ。まさか彼が白山グループにいるなんて思ってもなかった。だから偶然顔を会わせちゃったの。私だって別に彼に何かしたんじゃない。逆に彼のほうが勝手に私の車のタイヤをパンクさせていたの。彼のほうから私に手を出してきたのよ。彼は私をライバル視してるからちょっかい出してきたんだわ」「あんたはそもそも彼の恋敵だったわ。若葉、凪は今私と一緒に顧客に会うところだから時間がないのよ。うちの運転手かお兄さんに連絡して迎えに来てもらいなさい。今後、平日は凪の邪魔をしないでちょうだい。彼女の仕事に影響が出ては困るから」そう言い終わると、和子は直接電話を切って、携帯を凪に返した。「お母さん、ありがとう」凪は母親にお礼を言った。和子はこの時心を痛めていた。和子が黙認していることで、若葉が凪に嫌がらせをし、何かとちょっかいを出すのが行き過ぎている。実の娘を暫くの間見つめていてから、和子は淡々とした口調で言った。
こんな重要な時に、凪が大切な顧客を放っておいて、若葉を迎えに行くわけがない。顧客に会うからというだけでなく、そうでなかったとしても、凪が若葉を迎えに行くことはない。偽物のくせに、本来彼女のものだったはずの全てを占領している。真実が明らかになった後も、申し訳なく思うこともなく、いつも凪に嫌な思いをさせようとしてくるのだから、どうしてそんな相手を迎えに行ってやる必要があるのか?「誰から?」和子は娘が電話に出て何も言わずに電話を切ったのを見て、穏やかな口調で尋ねた。「若葉からよ」「あの子、どうしたの?電話して何を言ってきたの?」母と娘はすでにホテルに入っていた。「車が壊れたからすぐに迎えに来いって言われたわ」凪はとても落ち着いた様子で答えた。「お母さん、こんな時に迎えに行くなんて無理よ。だからお母さんに泣きついてきても、私は悪くないからね」和子は険しい顔で言った。「それはわかったわ。若葉が何か訴えてきたら、きつく言い聞かせるから。あの子は今一日中暇してるからね。あなたは仕事があるし、今は重要なお客様に会わないといけない。あなたが取ってきた顧客なんだから、放り出してあの子を迎えになんて行けるわけないでしょ?うちには専用の運転手もいるし、お父さんもお兄さんのお嫁さんたちだって家で暇しているから、誰か適当に連絡して迎えに来てもらえばいいわ。どうしてもあなたに行かせようとするなんて」和子はこの時養女に対する不満を漏らした。養女がわざと実の娘である凪に迷惑をかけようとしていることもわかっていた。「凪、安心して。この件は私はあなたの味方をするから。若葉のせいで不機嫌になってお客様に接しないでちょうだい。それはビジネスをする上で最もしてはいけないことだからね」凪は頷いた。「わかったわ、お母さん」和子はじいっと娘を何度か見た。そしてこの子は母親に対してずっと淡々とした態度だと思った。和子とは余計な話はしない。普段どうして和子が実の娘である凪に冷たくあたっているのか、凪も理解しているのでよかった。和子は実の娘を冷遇し、養女のほうに傾倒している。だから周りにいる多くは若葉と凪が権力争いをするように唆して、虎視眈々と自分が利益を得るのを狙っている。そのような人たちは野心がある。和子はもう結構な年で、物事を処理する能力が衰え
「白山社長はあんたみたいな男を好きになったりしないもん!」若葉は荒々しくそう吐き捨てると、怒りに呼吸を荒くさせながら背を向けて帰ろうとした。若葉では奏汰に敵うはずもない。和子もよく若葉には奏汰と争うなと忠告している。奏汰の後ろには結城グループが控えており、和子ですらも彼には礼儀を欠いてはいけない。奏汰は二人の警備員に言った。「さ、仕事に戻ってください。あんな頭のおかしい女なんか構う必要はありませんよ。何かあったら俺がどうにかしますから」黛当主があの偽物のために自分に復讐してくるか見てやろうじゃないか。詩乃が唯月を連れてこっそりと柏浜に来てからというもの、奏汰は心の中で、黛家はすでに結城家のターゲットになっていると確信していた。黛家当主は、唯花の祖母とその家族を殺害したのだ!警備員二人は奏汰に礼を述べ、それぞれ自分の持ち場へと戻っていった。彼らも玲から指示されてやったことなので、怖くはなかった。それで若葉を無理やり移動させただけのこと。若葉が後先考えずに白山社長の道を塞ぐのがいけないのだ。白山社長が本気にならなかっただけでも、彼女は運がよかったと言えるだろう。若葉は自分の車に乗り込み、その場を去ろうと思ったが、突然タイヤがおかしいことに気づいた。タイヤ四つともパンクしている。彼女はすぐに車を降りてタイヤを確認した。タイヤにはそれらしい穴は見当たらず、一体どうして空気が抜けたのかわからなかった。ただ、これは誰かの仕業だと言い切れる。彼女が来た時は、タイヤの空気圧は問題なかった。それに、パンクするとしても一つだけだろう。同時に四つ全てがパンクすることなどあるはずがない。若葉は腹を立てて、大声で怒鳴り散らした。「どこのクソがタイヤの空気を抜いたの!」タイヤには穴はないが空気がないのだから、誰かがわざと空気を抜いたのだと疑った。奏汰はそんな彼女を横目でちらりと見た。彼は冷たく微笑むと何も言わずに自分の車のほうへ向かった。「あんたでしょ、あんたの仕業に決まってる!」さっき警備員はタイヤに何かする暇はなかった。白山グループの社員は出入りしていたが、それでタイヤの空気を抜くなんてことはしないはずだ。残るは奏汰だけ。彼にはそれをするチャンスがあった。そうだ、さっきあの男はこの車が停まっ
若葉は精一杯二人の警備員の手から逃れようともがき、振り返ってきつく警備員の一人に平手打ちをお見舞いした。そして罵る言葉を吐いた。「この下っ端のただゲートを見張ってるだけの人間が、この私に触れるなんて。あんた達、私が黛家の令嬢だって思ってないから、コケにするわけ?本物だとわかった黛凪ですら、私の前では大きな顔ができないのよ」そう言い終わると、またパシンッという音が響いた。それは若葉がもう一発叩いた音ではなく、逆に彼女が警備員にお返しされた音だ。警備員は男だから、その一発はかなり力が強かった。重たい一撃が若葉の綺麗な顔に落ち、彼女はその衝撃に驚いていた。彼女は殴られた頬を手で押さえ、信じられないといった様子で警備員を睨みつけた。ヒリヒリとした痛みが、若葉を現実に引き戻した。そして怒った彼女はまた手を大きく振りかざした。しかし、今度は警備員もおとなしくその一発を受けることはなく、ひらりと躱して、彼女を押した。押された彼女はよろよろと後ろに数歩さがって立っていた。「このクソ野郎、この私を打つなんて。しかも押したわね、許さないわ!」若葉はしっかりと重心を安定させると、すぐに自分の鞄を手に取り、狂ったようにその警備員に向かって振り回した。彼女のほうが先に手を出したくせにだ。この時、もう一人の警備員が急いで加勢に入り、同僚と一緒に若葉を取り押さえた。「あんたらどっちも最低ね、私を放しなさい、放しなさいよ!私にここまでのことをして、帰ったらお母様に言いつけてやるんだから。彼女が絶対に私に代わって仕返しするわ。私のお母様が一体誰なのか知ってんでしょうね?さっさと放しなさいよ!」この時、ちょっとさっき若葉の車に「悪い事」をしてきた奏汰は、若葉と警備員の喧嘩を目撃した。すると彼は近づいていった。奏汰の姿を見て、若葉はもがくのを止めた。彼女は恋敵の目の前で、こんなに取り乱した姿を見せたくなかった。「お二人とも、黛さんにここまでするのはちょっとやり過ぎですよ。放してあげてください。彼女のことをほっておいて、仕事に戻ってください」奏汰はわざとらしく、話すときには表面的な笑みを見せていた。すると二人は若葉を解放した。彼女に叩かれた警備員が奏汰に言った。「結城社長、そこの彼女のほうがひどいんです。いきなり手を出してきて怪我
数分後。どうにか奏汰を振りほどき、このまま会社を離れられると思っていた玲だったが、今度は自分の追っかけに道を塞がれた。若葉だ。若葉は奏汰が恥を捨て図々しく玲につきまとい、玲が成す術がない様子を見て、ある真理に辿り着いていた。それは、玲が好きなら遠慮せずに気持ちを示し、大胆に追いかけ回すということだった。玲がどのような反応をしても、自分を受け入れるかどうかも構わず、努力して心からの態度を示そうと決めたのだった。それに若葉は自分が玲を危機的状態から救いだせるとまで思っていた。奏汰は男だ。それは玲も同じ。二人とも男なのだから、世論が受け入れるはずがない。周りからの祝福など得られるはずがない。それに玲が同性愛者ではないから、奏汰に対して明らかに嫌悪感を抱いている。若葉は奏汰と同じやり方で、玲を追いつめる作戦だった。若葉は玲とは異性同士だから、玲と一緒にいることで奏汰を諦めさせることに成功するかもしれない。玲は自分の前に立ちはだかる若葉を見て、車の窓を下ろし、警備員に近づくように合図した。すると警備員が急いでやって来た。玲は冷ややかな声で指示を出した。「あの黛家のお嬢さんを道端に連れていけ。怪我をさせないなら、どんな方法を使っても構わない」そう言うと、彼女は窓を閉めた。警備員は命令を受け、すぐに同僚を呼んだ。二人で若葉に近づき、有無を言わさず若葉を担ぎ上げ、引きずるように無理やり路肩へと連れていった。玲の専用車はこうやってようやく会社を離れられる。彼女は顧客とホテルグラン・エデンで商談を兼ねた会食をする予定だ。約束の時間に遅れるわけにはいかない。あの黛若葉とかいう女は本当に命が惜しくないらしい。自分のことを結城奏汰だとでも思っているのか?ん?玲は自分自身驚いていた。この時、自分が気づかないうちに奏汰に多くの特例をつくっていることを意識したのだ。それに、奏汰のせいで無理やり、特例を作らされている。玲は心の中でため息をついていた。あとどれほど持ちこたえられるか自分でもわからなかった。あの粘着性の高いくっつき虫と対峙すると、彼女は本当に恨めしくもあり、どうしようもなかった。彼の事を考えると、たまにときめいてしまう自分がいる。玲は結局、奏汰からかなりの影響を受けてしまっ
姫華は兄がホテルを出て、また戻ってきているとは知らず、善とホテル一階にあるカフェにやって来た。善は姫華にジュースを注文し、自分はコーヒーを頼んだ。「今コーヒーを飲んだら、夜寝られるの?」姫華は他にいくつかのデザートも注文した。「大丈夫です。僕たちみたいに仕事量が多い人間は、コーヒーを飲まないと夜中まで持ちませんからね」彼らの仕事も細かく予定が詰まっている。毎日深夜まで仕事をすることが多い。もし、結婚という人生の一大イベントを迎えることになれば、彼はもちろん時間を絞り出して、時間のある社長に様変わりするが。「姫華」二人が少しおしゃべりをしたところで、玲凰が入ってきた。
しかし、祖父たちにとって、唯月は唯花ほど価値はなかった。一人は離婚して子供を連れて孤独な生活を送るシングルマザーで、もう一人は結城家の夫人だ。どちらが価値があるか、三歳の子供でもわかるはずだ。「もう出ていって!」陸はもじもじしながら言った。「お姉ちゃん、タクシー代は……」唯花に睨まれると、陸は慌てて逃げだした。さっきの約束はどうなったんだ!いつも騙しやがって!どうしてこんな従姉がいるのだ?陸は唯花を罵りながら、智文の借りている部屋へと向かった。智文の高級車は今、四つのタイヤが全部パンクしてしまい、運転して戻すことができなかったから、彼自身に何とかしてもらうし
今、理仁がその写真を見たいと思ったのは、ここに唯花がいるからだった。何か面白いことがあれば、愛妻に聞かせたり見せたりしたいのだ。辰巳だって馬鹿ではない。理仁が辰巳と奏汰の事をある種のゴシップとして妻に教えてやろうと思っているのはわかっている。妻を楽しませるためであれば、理仁は自分の兄弟、従弟たちですらも売ってしまうのだ。辰巳はその二枚の写真を渡した。心の中では自分は本当に気骨のない男だとしょげていた。理仁が辰巳の情報を妻に売って楽しませようとしているのがわかっていながら、大人しくへこへこと命令に従うのであった。もし、辰巳も将来恋に悩みを抱えることになって、理仁と唯花の助けが
姫華「……つまり、私のことをあなたのお守り代わりだと思ってる?」善は彼女からそう言われても、冷静にこう返した。「お守り代をお渡ししましょうか」姫華は笑って言った。「以前は桐生家についてあまり知らなかったんだけど、あなたと知り合ってから、お兄さんに桐生家についていろいろと聞いてみたことがあるの。善君って桐生家ではあまり護身術とかが得意じゃないから、出かける時には常にボディーガードをつけているんでしょう?」「ええ、僕は小さい頃太っていたんです。太っている人はあまり運動が好きではないでしょう。護身術を習っている時にいつもさぼっていて、結局兄弟たちの中で一番弱い男になってしまいました。仕方