Masuk若葉は自分の想い人が、結城奏汰のせいで趣向を変えて、男に興味を持つようになると思うと、発狂してしまいそうだった。「会長夫妻はどう考えているのかしら?まさか、結城家と親戚関係になるために?結城家がいくら勢力を誇る名家だとしても、ここから遠い星城での話だし、結城家が柏浜でビジネスをしているとしても、白山グループと比べられるかしら?白山会長も結城奏汰のご機嫌を取ろうとする必要なんてないでしょ。あのろくでもないクソ男め、本当に嫌われるタイプよ。柏浜の女の子たちで、彼に対して悔しい思いをしていない子なんていないわ。もし、殺人が犯罪にならないのであれば、彼は早い段階で何回も地獄に落ちているわよ」若葉はあまりに奏汰のことが憎すぎて、彼をぎたぎたに切り刻んでしまいたいほどだった。和子は暫くの間黙っていてから、口を開いた。「それは部外者の私たちでは説明できないわよ。白山社長自身がどう思うかでしょ。彼がもし、本気で結城社長のことを好きになるなら、いわゆる一般的な考え方を捨てて彼と一緒になる道を選ぶでしょうね。そうなれば、誰も白山社長を引き戻すことなんてできないわ。白山会長夫妻は子供に対しては昔から自由にさせてきたし、あのお二人は古い考えを持ってない。息子さんが何をしようと、夫婦はあまり干渉したりしないでしょう。それに白山玲さんも……もしかすると、もともと同性愛者だったのかもしれないし」和子は低く沈んだ声で言った。「彼のことを恋い慕う女性はたくさんいるし、どなたも素敵な女性ばかりよ。それなのに、彼は一人も気に入ることはなかった。以前は彼の理想が高すぎるのかと思っていたけど、今考えてみれば、もしかすると男のほうを好きだったのかもしれない。だから、女性からいくら口説かれても受け入れなかったのよ」それを聞いて、若葉は焦り始めた。「お母さん、だったら、私はどうすればいいの?私、彼のこと、とても好きなの。彼が同性愛者だとしたら、そんなの受け入れられないよ。彼が男のほうが好きなことなんてあるわけないでしょ?それもあの結城奏汰のせいだわ。お母さん、あの男をどうにかして柏浜から追い出せない?」和子は若葉の頭をつっついた。「結城社長が普通の人間だと思ってる?お母さんでさえ、彼に会う時には礼儀を欠いてはいけないくらいよ。表だけ見れば、彼の背後には結城グループがだけが支
黛家当主である和子の夫の名前は河野洋文(こうの ひろふみ)と言って、一族の中ではみんなから「河野さん」と呼ばれている。息子に限って、外では彼と同じく「河野」と名乗っていた。若い頃、彼が和子と結婚し、黛家の婿養子となると決めた日から、一生黛家当主の前では頭が上がらず、妻の尻の下に敷かれることになると覚悟を決めた。幸いなことに、和子は当時彼のことを心から愛していて、夫婦二人の仲が非常に良い。子供たちや使用人の前で、和子は夫の顔を立てて、父親としての威厳を保ってあげていた。それで彼も、子供たちの前では一家の大黒柱的な存在としていられた。凪は父親の話を聞いて、口角を上げて言った。「私は別に白山家から婿養子に来てもらおうなんて考えたことはないわ。それに、私だって白山会長をお訪ねしに来たとあちらにははっきり申し上げたの。だけど、ちょうど週末だから、白山社長もご実家に戻っていただけ。だから、お父さんも私が白山社長に執着するんじゃないかって心配しなくていいから。それよりも、あなたのその可愛い娘の心配をしたほうがいいよ、だって若葉のほうこそ狂ったように誰かに絡むタイプだからね」洋文は若葉のほうを見て言った。「若葉、お前と凪は違うから、堂々と安心して白山社長を追いかけていいんだぞ。父さんはお前のことを応援しているからな。白山社長みたいに優秀な男性を落とすことができれば、母さんはきっと大喜びするぞ」この時、和子も微笑んで言った。「若葉、言ったと思うけど、あなたは何も気にせず自由に本当の愛を求めていいんだからね」「白山社長と若葉なら、美男美女カップルだよ」長男の嫁の綾がそう絶賛した。黛家一家は全員若葉が白山家に嫁ぐことを期待していた。凪に関しては、ただ使い物にならない適当な男を婿養子として見つけるしかない。もし能力の高い男なら、普通は婿養子となるのを選ばない。だから、凪の結婚は絶対に若葉ほど幸せにはならないだろう。みんなから励まされて若葉は顔を赤くさせた。そして姿勢をぴしっと正し、自信たっぷりに瞳を輝かせて、凪をちらりと見た。しかし、凪は意味深な笑みを浮かべただけで、若葉をまた腹立たせた。なんだか、凪が何かを知っているような、そんなふうに感じてしまう。「お母さん、白山会長夫妻はとっても結城社長のことを気に入ってるみたい
凪は黛家で唯一の娘だ。今確かに次期当主という立場にある。将来は当主の座に就き、本当に彼女が発言権を持ち、全てを決めていくのだ。凪の兄には後継者になる資格はない。その嫁たちは言うまでもない。この一族は女性のほうが発言権を持つのだが、それは黛の姓を持つ者に限り、外から嫁に来た女性にはなんの権利もなかった。「もう終わりにしましょう。そんなにピリピリして、何を言い争っているの?」和子が厳しい口調で言った。「凪には新車を買うと約束したのだから、撤回する気はありません。あなた達に意見があっても、もう言わないでちょうだい。なんと言っても、凪が次期当主であることには変わらないわ。いつも誰かのおさがりの車を運転していたのであれば、それは世間体にも恥ずかしいわ。彼女は今我ら黛家を代表する立場なのだから、彼女が恥をかけば、それは黛家全体の恥になるのよ。凪に新しく車を買うのは、黛家の体裁を保つことでもあるの。若葉、明日は凪に付き添って車を買いに行ってきて」すると和子はまた凪に言った。「気に入った車があれば私に連絡して。お母さんが人を手配して支払いに行かせるから」「ありがとう、お母さん」凪はとても喜んだ様子でお礼を言った。他の人が心の中で何を思おうが、凪はどうでもよかった。一年余り猫を被ってきた。たまにこうやって強気の姿勢を見せておかないと、家族になめられたままではいられない。「今日は午後どこに行っていたの?ずっと姿が見えなくて、さっきやっと帰ってきたでしょ」和子が突然凪にそう尋ねた。凪は正直に答えた。「さっきは白山会長にお会いしようと思ってお宅にお邪魔していたのよ。白山社長と結城社長もいて、食事をしていけって誘ってくださったの。せっかくのご好意を断わることもできないから、白山家で食事してから帰ってきたの」それを聞いて、若葉は嫉妬で発狂しそうだった。若葉は玲に近寄りたいと思っているが、話すことさえ拒否されている。この間、玲を奏汰の手から救い出そうとしたが、失敗し、逆に奏汰から追い出される羽目になってしまった。それには大恥をかいてしまい、無様な姿をさらけ出してしまった。この間のパーティーで玲が凪に優しくしているのを思い出し、若葉はさらに嫉妬心を燃やした。若葉にとって、凪は自分より劣った存在だ。それなのに玲が凪に優しくしているの
若葉はぽかんとしていた。さっき言ったたったひとことで、家ではいつも若葉を言い負かしている凪が、悲しそうにしている?あんな顔をして家に走っていき、母親に訴える気か?そう考え、若葉は急いで家に小走りで戻った。凪が母親に訴える機会を与えるわけにいかない。あの田舎娘は母親の寵愛を受けるための争い方を変えてきたのだろうか?若葉がまず家に入って目に飛び込んできたのは、凪が母親の隣に座って何か話しているところだった。若葉が入ってきたのを見て、凪は話すのをやめてしまった。聞くまでもなく、凪が母親に訴えているのだ。両親、兄、その嫁の表情は少し微妙だった。「お母さん」若葉は急ぎ足で近寄り、凪と母親の間に割って入って、無理やり凪を横に押しやった。そして両手を親しげに母親の腕に絡めて言った。「お母さん、凪のでたらめな話なんて聞いちゃダメよ。私も別に何もしないわ。この子が勝手に私の車を叩いたり、タイヤを蹴ったりして、警報が鳴ったの。だからちょっとひとことこの子に言っただけよ」母親の和子は「そう」とひとこと返事をして、また言った。「そんなことがあったのね、凪は何も言わなかったけど」すると若葉は後ろを向いて凪を見て、また和子に言った。「凪はお母さんに訴えてこなかったの?さっきこの子、すごく悲しそうにしてたのに」和子は何も言わない実の娘を見て、代わりに説明した。「凪は私に何か文句を言ってはこなかったわよ。ただ、自分の車が新車じゃなくて、おさがりであることを悲しそうに言ってきただけ。あなたの車のほうが自分のよりずっといいって。凪、明日妹と一緒にディーラーに行って新しい車を買っておいで。気に入ったものを自分で選んでいいから、妹のほうをひいきしているだなんて言わないでちょうだいね」和子はそう話すとき、とても鬱陶しそうな顔をしていたが、凪に新車を買うという約束をした。しかも、買いに行く時には若葉を連れて行かせると言った。母親が凪に新車を購入すると聞き、若葉はもやもやして口を尖らせて言った。「お母さん、確かに凪の車は新車じゃないけど、うちのガレージにあった車じゃないの。あそこにある車は古くなんてないわよ?運転できる車があるだけで十分なのに、新しいものを買ってあげるだなんて。新車にして、もしこの子が運転が下手くそでどこかにぶつけたり、人まで轢
玲は奏汰につきまとわれても、彼のやりたいようにしているのだから、つまり奏汰のことを嫌っているわけではないのだろう。執事は苦しんだ様子で言った。「旦那様に奥様、それから碧様のあの態度には見ているこっちがつらくなる。我ら玲様はあんなに優秀なお方だというのに、それなのに……玲様がもし女性であったら、それか結城社長のほうが女性だったのなら、あのお二人が一緒になるのには大賛成ですよ。祝福いたします。しかし、あの二人はどちらも男なのですよ!」玲の実の両親はこのような状況でも全く平気な様子だが、執事のほうは胸を締め付けられる思いだった。ボディーガードたちは黙っていた。彼らは心の中で、きっと玲は同性愛者で普段はそれを悟られないように過ごしているからみんな知らないだけなのだろうと考えていた。玲を恋い慕う女性は非常に多い。それなのに、誰一人として玲を落とすことはできていない。つまり、これこそ玲が女に興味はないという証拠なのではないか?女が好きじゃないというなら、つまり男のほうに興味があるということだろう?……凪は白山邸から戻ってきた後、母親と若葉の車が庭の駐車場に停まっているのを見て、二人が家にいることがわかった。凪は駐車して急いで家の中に入ることはなく、若葉の車の周りをぐるりと一周した。「お嬢様、お帰りなさいませ」この時、執事が出てきて、礼儀正しく挨拶をした。凪が若葉の車を回っているのを見て、執事は不思議に思い尋ねた。「お嬢様、若葉様の車を回って何をしてらっしゃるのですか?」凪は若葉の車のボンネットを叩いて言った。「若葉の車は私のよりずっと良いみたい」この執事はここで雇われてちょうど一年経つ。若葉の実の父親が当主の手で刑務所に入れられてから、新しく雇ってきた執事だ。まだ一年しか働いていないが、黛家では次女の若葉のほうが長女である凪より大事にされていることがわかっている。すでにそれぞれがあるべき立場に戻り、若葉のほうは後継者の候補から外され、凪のほうは自分のものを全て取り返したように見える。しかし、実際、若葉のほうが生活面では凪よりも贅沢な暮らしをしている。当主たちはよく若葉に贈り物をしているが、あまり凪に贈ることはなかった。凪の言葉を聞いて、執事は少し同情したようだった。しかし、あまり多くを話すことはできず、ただこのよう
少しだけ話すのをやめ、奏汰はまた声を低くして話し始めた。「玲さんもホテルには秘密の通路を持っていますが、俺にもあります。誰にもホテルに入ったことを気づかれませんから」玲が実は女性であるという事実を、いつか彼女が自分から世間に公表することを奏汰は望んでいる。それはつまり、彼女が彼のことを受け入れて、彼のために女性として生きることを決めたということだ。だから、奏汰はすでに玲が女性であると知っているが、他の人の前では依然としてその事実は隠し、誰にも彼女が女性であると疑われないようにしたいのだ。「泳ぎに行きたいなら、今から行きましょう」「ちょっと考えさせてください」玲がこれに心を動かさせていないわけではない。彼女もこんなに暑い日には泳いで涼を楽しみたいと思っていた。ただ水に入るなら今の男装を解かねばならず、プールで楽しんで出てくる時には、またかなりの時間をかけて男装しないといけないのでそれが面倒だった。普段、彼女は毎晩帰ってきて、外出する必要がない場合にやっと男という偽の殻を脱ぎ捨て、女性の姿に戻っている。自分の家の浴槽で思いっきりお風呂に入り、一日の疲れを癒やす。そして毎朝は早く起きて、誰の手も借りずにまた男の姿に戻る。絶対に少しもボロがないことを確認してから、外出している。このような毎日は、実際とても疲れる。しかし、彼女はこの生活に慣れてしまっている。「玲さんが誰にも気づかれないなら良いでしょう。そんなに考える必要はありません。それ以上悩んでいたら夜が更けて、ホテルで一緒に過ごすことになりますよ」玲は聞き返した。「まさか、あんたは今日うちに泊まっていくつもりなんですか?」「茂さんが明日の朝一に一緒に散歩でもしようと誘ってきたんです。俺がホテルに泊まったら、そんな朝早くにここまで来られませんから、茂さんが今日はここに泊まっていけって」玲はまた不機嫌そうな顔をした。奏汰は低い声で笑って言った。「俺はゲストルームに泊まらせてもらいますので、ご安心を。玲さんを困らせるようなことはありません。じゃ、こうしましょう。俺がここに泊まるのが嫌なら、今から一緒に泳ぎに行って、その後は玲さんだけホテルから出て家に帰ってください。俺はホテルで寝ることにします」少し考えてから玲は言った。「行きましょう」彼女も思いっきり暑い
辰巳は首を傾げて咲をちらりと見て言った。「君は見えないでしょう。バスが過ぎてしまったら、止めることはできないんじゃないですか」咲はそれに答えた。「バス停近くのある店に警備員さんがいるんですけど、とても親切な方たちで、毎日バスが見えたら私に教えてくれて、私が無事に乗るまで見ていてくれるんですよ」辰巳はその後何も言わなかった。この二人はお互いにまだよく知らない。辰巳は本来、こんなに早く行動を起こそうとは思っていなかったのだが、義姉にけしかけられるような形で理仁と唯花から笑い者にされないようにするためにも、咲に近づくことにしたのだ。しかし、彼は咲のことをあまりにも知らなさすぎる。
その場にいる内海家の面々は黙ってしまった。互いに目を合わせた後、智明は尋ねた。「唯花、君たち姉妹でいくらで家を売ってくれるか話し合ってくれ。やっぱり家も土地も全部俺らに買い取らせてくれよ」「言い値で家を売るって、あんた達がお金を出すわけ?それとも住む二人に出させるの?」智明は言った。「そりゃあ、じいちゃんとばあちゃんが住むんだから、この二人が金を出すさ。だけど、ばあちゃんが病気で入院してから二人の貯金はあまりないし、ばあちゃんの術後ケアも俺らのほうで出しているからな、たぶん一括では大金を払うことはできない。二人に借用書を書かせて、じいちゃんとばあちゃんが払える分を先に払って。足
話し合いやすいように、詩乃は部屋に入ると唯月の隣に座った。詩乃はおばあさんから渡されたカレンダーを受け取り、唯月と一緒に見ていた。最後に理仁と唯花の結婚式として、そう近くも遠くもない適当な日にちを選んだ。「おばあ様、この日はどうでしょう。今からだとちょうど良い日にちだと思います。両家が準備するのに十分時間があるでしょう」詩乃は唯月と一緒に選んだ日取りを結城家の年配世代に伝えた。詩乃の妹はもういないから、唯花の母親代わりとして姪っ子の結婚式の責任を担うつもりだ。必ず唯花を堂々と結城家に送り出そう。誰にも唯花を見下すような真似はさせない。おばあさんと麗華たちも、その日程には
唯花は笑って言った。「ええ、その通り、私は幸せ者よ。愛されているのが分かってるから、ちゃんと大事にするってば」唯花の姉や親友たちは、簡単に理仁に買収されて彼の良い話を唯花に話してしまう。まあ、それも理仁が本当に唯花のことを大切にしてあげていると彼女たちも思っているからなのだが。「彼に何を買ってお返しすればいいのか、わからないわ」唯花はどうすればいいかわからず、気が滅入った様子だった。この二人の親友は唯花がのろけ始め、そのラブラブっぷりを見せつけてきたと思っていた。明凛はまだいい、悟は彼女のことを非常に大切にしてくれているのだから。一方姫華のほうは、まだ恋人がいない。だか







