Masuk「兄さん、なんで携帯に出なかったの?」「マナーモードにしてたんだよ。あのクソ野郎!」玲は奏汰を罵り、すぐに弟に尋ねた。「なんで家から、ホテルの部屋に電話をかけられるんだ?」「だって俺もホテルにいるからだよ。フロントに今いるんだ。奏汰さんもいるよ、一緒に兄さんを迎えに来たんだ。それから、兄さんと奏汰さんがまたネットに上がってるぞ。もし見る気力があるなら見てみなよ。検索ランキング一位にいくかもだよ」玲はすぐに電話を切って、受話器を置くと、ベッドの上に座り携帯を取り出した。まずはマナーモードを解除して、音が鳴るようにしておいた。それからさっき弟が言っていたゴシップニュースとやらを確認した。彼の言う通り、また柏浜のネットニュースに上がっていた。写真は昨夜のもので、彼女と奏汰が散歩している様子を盗撮したものだった。あのしつこい芸能記者たちも本当に執念がすごい。二人は秘密にしてある隠し通路からホテルを出たし、あの時間帯はもう真っ暗で人通りもなかった。それなのに、二人が一緒にいるところを盗撮されてしまったのだ。そしてゴシップの内容は、白山玲と結城奏汰が人の気配がなくなった夜中に、ボディーガードもつけずにお忍びデートをしていたというものだ。それから、白山玲は結城奏汰に落ちてしまったとも書いてあった。しかし、内容が変わり、その後は二人が何かで揉めて、白山玲はずっと不機嫌で冷たい表情をしていた。結城奏汰への態度も悪く、恐らく喧嘩したのだろうと書かれている。そして、白山玲はまだ結城奏汰に落ちていないのかもしれないとも書いている。ただ、彼にしつこくつきまとわれて、仕方なく人がいなくなった夜中に話し合いをしたのだと。それで、白山玲の態度は悪く、不機嫌そうなのだというのだ。その記事を見終わると、玲はホッと胸をなでおろした。芸能記者たちは彼女と奏汰の盗撮はしたが、近寄ることはできなかった。それで、二人の会話内容が聞こえず、ただの推測でこの記事を書いているだけだった。同時に、玲はまた芸能記者は他に何か書く記事はないのかと思った。なぜいつもいつも自分と結城奏汰にだけ目をつけているのか?男同士の恋愛を初めて見たからか?それもあの男のせいだ。結城奏汰さえいなければ、玲もこんな厄介事に巻き込まれることはなかった。確かに、彼女は以前もゴシッ
「でも、どうやってもあなたが女性だという証拠を見つけだすことができなかった。それから、辰巳兄さんと唯花さんにアドバイスを求めて、二人からそのままあなたにアプローチしろって言われたんです。時間ももう迫っているし、二人のアドバイス通りにすることに決めました。ほら、あの花を敷き詰めた日に早速行動に移したんです。それからのあなたの反応がとても面白くって。そして、これにはまっちゃったんですよね。今あなたのことを好きなのかといわれると自分でもはっきりと答えられませんが、諦めずに結婚までしたいと思っている気持ちは、間違いはないです」玲は黙っていた。この男が直接アピールしてきたのは、その二人の助言があったからなのか。あの二人のせいで、ひどい目に遭ってしまった。平穏だった日々が、見事壊されたのだ。もし、奏汰の計画通り、まずは玲が女である綻びを見つけてから行動するつもりだったのであれば、奏汰は数年かけても見つけられなかったかもしれない。玲は二十年以上の長きにわたって、男を演じてきた。だから、もはや完璧としか言えない。「玲さん、俺は生まれて初めて女性に興味を持ちました。だから、あなたのことを諦めるつもりはありません。それが嫌なら、俺に他の女性を好きにさせてみせてくださいよ。じゃないと、一生あなたにつきまといますからね」初めは、結城おばあさんが玲を結婚相手として選んだ。そして今、彼は結婚相手として玲がいいと思っている。玲は暫くの間、静かに彼を見つめていた。しかし、ひとことも何も言わずに、大きな歩幅で前方に歩いていった。奏汰は彼女が大股で歩いていく後ろ姿を見つめ、少ししてから低い声で笑って、その後に続いた。彼がまた玲に何か言っても、彼女は奏汰に構おうとしなかった。玲はこの時、この状況を突破する方法を模索していた。さっき奏汰は、他の女性を好きになれば、諦めてくれるという話をしていた。それなら、多くの美女たちを彼に接近させて、本物の女性というものがいかに優しく美しいのかを教えてやればいい。そうすれば、女らしさの欠片もない偽の男には二度とつきまとってこないだろう。奏汰も自ら、玲のことが好きなのかどうかわからず、ただ面白い人だと思っているだけだと言っていた。それに、彼は祖母から勝手に結婚相手を選ばれて、仕方なく行動を開始しただけだ。
「幽霊はいます。ただ、誰でも見えるわけじゃないんです。あちらとは時間の流れが違っていて、すごく短い時間しか現れません。たった一秒なら、こちらが瞬きしていたら見えないでしょう」玲は口を閉じて黙っていた。本当にでたらめな話ばかりだ。二人は玲が作った秘密の裏口からホテルを出た。外は確かにほとんど人はおらず、車の行き来もほぼなかった。二時間前までは、まだ賑やかだった街もこの時は徐々に静かになっていっていた。「もうこんな時間だから、あなたを連れて買い物には行けませんね。店も閉まっているし」奏汰はぶつくさと言った。玲は低く冷たい声で彼に警告した。「もう二度とスカートとか、ヒールに宝石も、オフィスに持ってこないでくださいよ!」「ただ女性の姿のあなたを見たいと思っただけですよ。どれだけ美人なんでしょうね」玲は顔を暗くさせた。「男の服しか着ない」玲のクローゼットの中は全て紳士服ばかりだ。彼女は小さい頃からスカートなどはいたことはなかった。ヒールの靴などもってのほかだ。彼女のように大股で颯爽と歩く人がヒールを履いたら歩けないだろう。女性は宝石が好きだが、玲は興味がない。スキンケアなら使っている。メイク道具は使ったことはない。「玲さん、男じゃないくせに」奏汰はとても小さな声でそう呟いた。彼女はまだ女性の格好をするのを拒んでいる。奏汰もみんなの前で玲が女性だとばらす気はない。どのみち彼はすでに玲にアプローチしていて、周りは同性愛者だと思い込んでいる。奏汰はどう思われようが気にしない。もし玲が気にするのであれば、さっさと女性の姿に戻るがいい。彼女のこの顔面偏差値なら、スカートに着替えれば、絶対に傾城の美女間違いなしだ。玲は少し黙っていてから、冷たい声で言った。「俺は男の姿でいるのに慣れてしまってますので」奏汰は横を向いて彼女を見ると、笑った。「でも、あなたが男の格好をしていようが、女性の格好をしていようが、どちらも好きです。あなた自身を好きになったので、性別なんて気にしません。将来結婚式を挙げる時には、一緒にスーツを着ることにしませんか。きっと二人のイケメンに会場は大騒ぎですよ」「俺はあんたとは結婚しない!」玲は低く唸った。「結城さん、何度も言いましたが、俺はあんたとはどうこうなる気はありません。俺はあんたの
奏汰は玲に追いついて、彼女の腕を掴んだ。「白山社長、どうせ顧客は碧君に任せてしまったし、寝るにはまだ早いんだから、一緒に街に出かけましょうよ。ボディーガードが一緒だと目立って周りに注目されるから、彼らには休んでいてもらって」男二人が一緒に街をぶらついていてもおかしくはない。しかし、玲がボディーガードたちを一緒に連れていると、周りに正体が容易にばれてしまう。玲は力を込めて奏汰の手を引き離し、冷ややかな声で言った。「あのな、俺は暇人じゃない。街にも行かない、もうつきまとわないでくれ!」「それなら、一緒に夜食を食べましょうよ。俺一人で食べても美味しくないし、あなたが一緒なら美味しく感じられるんです」玲はギロリと奏汰を睨みつけ、その場を去ろうとしたが、また奏汰に手を掴まれてしまった。奏汰が小声で彼女に何か言うと、玲は今まで以上に機嫌の悪い顔をした。暫くの間奏汰を鬼の形相で睨みつけてから、怒りをこらえてこう言った。「うちのホテルのレストランで食べましょう」「俺に付き合ってくれるなら、どこでもいいですよ」どうせ互いのホテルはこんなに近い。夜中まで食べていても問題ない。こうして奏汰は再び玲につきまとうのに成功したのだった。しかし、この夜食はありえないほど高くついた。玲は奏汰の財布の中身をきれいにしてやったのだ。奏汰は食事代を支払い、特に気にしていない様子でこう言った。「毎日食事にこれだけ使っても、破産することはないです。玲さんの懐が潤って喜んでいただけるなら、毎日のようにこちらで高級夜食を食べてもいいですよ」玲は黙ってしまった。「玲さん、お腹いっぱいになりました。一緒に軽く散歩でもしませんか。今はもう夜遅いので、歩いている人も少ないでしょう。手を繋いで歩いたって、誰も見ていませんよ」この時、確かに夜中だった。外に待ち構えている芸能記者たちも頻繁にあくびをしていた。しかし、奏汰がまだ出てきていないので、彼らはまだ満足できず、彼が出てくるのをとらえるまでは粘るつもりだ。「結城さん、調子に乗らないでくださいよ」奏汰はケラケラ笑った。「俺はお調子者ですからね。今イイ感じなので、このままの勢いで調子に乗っておかないといけないでしょ」すると奏汰はまた玲の手を引こうとした。玲はその手を避けて、冷たい声で言った。「触
「どうも、ですが結構です。酔っていないなら、車を降りてもらえませんか」玲は奏汰からの夜食の誘いは断わった。さっき彼女は長い時間寝ていたが、お腹は空いていない。夕食をとってからあまり時間が経っていないように感じる。夕食は奏汰自ら腕をふるった。バーベキューにしろ、他の料理にしろ、すべて奏汰一人で作った。玲は、確かに奏汰の料理の腕はピカイチだと認めている。彼女はその味にとても満足していた。「それじゃ、ちょっと夜の街でもぶらつきませんか?」「興味ないです。結城社長、車を降りてください。もう父から言われたとおり、ホテルまでお送りしましたので」しかし、奏汰は座ったまま動こうとしない。「結城奏汰さん、車を降りてもらえませんか!」奏汰はやはりそのまま動かず、図々しくもこう言った。「俺はお腹が空きました。夜食を食べに行きたいので、付き合ってください。夕食の時はあなたのお父さんの酒に付き合ったから、あまり食べてなかったので、もうお腹が空いちゃったんですよ」すると玲はすぐに反論した。「あんたは、スープ二杯に、茶碗半分のご飯、酒四杯に、焼き魚、唐揚げ、ラム肉の串、イカの刺身と結構食べていたでしょうが。それに他の料理も食べてないって言い切れます?あんたは大食い大会の選手ですか?」「おや、そんな真剣に見てくれていたんですね。俺が何をどれだけ食べたかまで覚えているなんて。俺自身、自分が何をどれだけ食べたかなんて覚えてないですよ。玲さん、もしかしてこっそり俺を見つめていたんですか?」奏汰が知らないと思ったら大間違いだ。彼は酔って寝ているふりをしている時、彼女がずっと自分を見つめていることを知っていた。寝ているのをいいことにキスをしてくるんじゃないかと期待までしていたのだが、このようなことを玲がするわけがない。玲は言った。「……車から降りないというなら、空が明るくなるまでこのままどうぞ」こいつが降りないというなら、自分が降りるまでだ。玲は車のドアを開けて降りた。降りると、すぐにラグジュリゾートホテルの正面にぶら下がっている、あの愛の垂れ幕が目に飛び込んできた。奏汰はあれをまだ外していなかった。あそこにずっとあると、ホテルに出入りする人や通りすがりの人たちに見られてしまう。芸能記者がこのゴシップニュースをネットにア
玲は少しの間奏汰を見つめていてから、やっと視線を戻し、目を瞑って頭を休ませた。「玲様、先にラグジュリゾートへ向かいますか?」運転手が運転しながら、丁寧な口調で玲に尋ねた。「ああ」玲は低い声でそう答えた。茂の話を運転手もボディーガードも聞いていた。運転手はそれ以上は何も話さなかった。助手席に座っているボディーガードがこっそりと後ろを向いて玲と奏汰を見た。玲は目を閉じて休んでいて、奏汰のほうは眠っているので、全く交流など一切ない。もちろん、奏汰が酔っているので交流のしようもないのだ。ボディーガードはすぐに前に向き直った。この時、彼は心の中で自分の主人に同情していた。主人はこんなに優れた人物で、昔から高潔で、恋愛関係のもつれなど一切ない。それがなぜか、星城から来た結城家の御曹司に目をつけられてしまい、同性愛者だという噂までされるようになってしまった。そしてボディーガードたちが解せないのは、玲の父親と母親の反応だった。普通の親であれば、結城家の御曹司が自分の息子につきまとっていると知ったら、どうにかして二人を引き剥がそうとするはずだ。しかし、逆に結城奏汰のことを気に入り、よく彼を食事に招いている。そして毎回、息子の玲に彼をホテルまで送らせるのだ。あの二人は、息子が一向に恋愛しないから、女ではなく男のほうが好きなのだと思い始めたのだろうか?玲は目を閉じて頭を休めようと思っていただけだったが、いつの間にか寝てしまっていた。彼女が目を覚ました時、奏汰の肩にもたれかかっていることに気がついた。しかも、奏汰は片手を彼女の肩に回していた。それに気づくと、玲はすぐに奏汰を押しのけて姿勢を正した。自分たちはまだ車の中にいるのがわかり、玲は気づかれないようにホッと息をついた。「起きたんですね」奏汰は優しい眼差しで彼女を見つめた。「あなたは酔ってないんでしょう」玲は奏汰に聞き返した。奏汰は冴えた目をしていて、にこにこ笑っていた。どこも酔っていた様子などない。玲は奏汰がただ酔っぱらったふりをしているのがわかっていた。彼女の両親だけが、馬鹿みたいに騙されたのだ。「少し酔っていたんですが、今は酔いが醒めました。昼間仕事に忙しいせいで、俺の肩によりかかって暫く寝ていましたよ。彼らにはあなたを
唯花は理仁に寄りかかっていた頭を起こし、噂話が気になる様子で彼を見ていた。「占い師の先生は何て言ってた?九条さんは治るの?それとも、ただ言い訳として嘘をついていただけ?」「弦さんの父親が調べてみたところ、弦さんは嘘は言っていないことがわかったみたいだよ。それに彼だってあんな嘘までついて言い訳にすることはしないだろうし。いくら弦さんがすごい人物だとしても、今九条家を管理しているのは父親だ。父親がまだその目を光らせている間は、弦さんだって逃れることはできないさ」「じゃあ、彼は本当に女性には興味が持てないってこと?」理仁は頷いた。弦があれからどうなったかは、理仁が結城おばあさんに纏わ
「昔の帳簿はもう新しく書き直してあるわ。そのほうが見やすいからね」麗華はそう説明し、デスクの上にあるパソコンを指さして唯花に言った。「帳簿は多すぎるから、いちいち取り出して確認するのは面倒なの。パソコンにも入れてあるから、あれを使って探すほうが早いわよ」唯花はいくつかある本棚を見渡して、驚きをぐっと抑えながら麗華に尋ねた。「お義母さん、ここにあるのは全部結城家のビジネスばかりなんですか?」「ええ」唯花「……おばあちゃんが店舗の貸し出し状況や、チェーン店とかの細かな事業を管理するようにって」山のようにある帳簿を目にして、唯花はここ数日の休みでは結城家の全てのビジネスを確認する
しかし、理紗は神崎家のメンバーはみんな姫華を遠くに出したくないと、二人の仲には消極的だということもわかっている。善がいくら完璧な男であったとしても、A市の人間であることは変えられない。A市は星城からは遠く離れていて、飛行機でも二、三時間はかかってしまう。もし桐生家が星城出身で、善が姫華のことを好きだというのであれば、神崎家の全員が絶対に大歓迎したはずだ。今のような状況にはなっていない。玲凰は妻の手を軽く握り、そうであっても口に出すなと合図を送った。とりあえずどうなるか静かに見守ってみよう。玲凰が最も可愛がっているのが妹の姫華だ。彼は善は良い奴だと思ってはいるものの、やはり妹
唯花は明凛の話を聞いて楽しくなっていた。「あなた、子供にヤキモチを焼くつもり?」明凛は当然のように言ってのけた。「悟は私のものよ。誰かが彼の関心を持って行っちゃったら、ヤキモチを焼いて当たり前でしょ。その誰かがたとえ私の子供であったとしてもよ。大きくなったら好きな人を見つけて、その人に愛されたらいいのよ、悟の愛を奪っていかれたら困るわ」「九条さんのほうが子供たちとあなたを巡って嫉妬争いを始めるかもよ」唯花は笑って言った。「うちの理仁さんは百パー子供と嫉妬合戦を始めるわよ。あの人の性格を考えると、表面は大らかに見えて、実際はケチが身にしみついているからね」「唯花ったら、それっ







