Masuk新婚旅行のためにとった休暇はあと残り数日ある。「お姉ちゃん、どうしたの?」「今日、私も東さんもとても忙しいの。陽を迎えに行く時間がないから、あなたと結城さんで幼稚園に迎えに行ってもらえないかしら?それから陽の父親のところに連れていってほしいの。彼が会いたがってるみたいで」俊介は今後一切唯月の人生を邪魔しないよう、姿を現わさないと約束していた。彼は有言実行している。佐々木家が陽に会いたければ、唯月は以前俊介と一緒に暮らしていたマンションの前まで陽を送り、俊介の母親がそこで待っている。陽を預けると唯月はそのまま帰ってしまう。そして陽が家に帰りたいと言えば、彼らは直接ビストロピエナに送り届けるのだ。「わかった。もう少ししたら理仁さんと一緒に陽ちゃんのお迎えに行くね。今日は陽ちゃんは佐々木家のほうでご飯食べるの?」「陽に聞いてみて。もし、あっちで食べたいって言ったらそうすればいいから。明日は土曜日で休みだし、あっちで過ごしてもいいもの。あなたと結城さんはずっと佐々木家にいる必要はないからね」唯月は妹夫婦が佐々木家をかなり嫌っていることを知っている。唯花は頷いた。「わかったわ。お姉ちゃん、安心して仕事に集中してね。私がちゃんと陽ちゃんを迎えに行くから」唯月はすぐに電話を切った。電話が切れる前に、唯花は電話越しに誰かが姉を探しに来た声を聞いて、とても忙しいのだとわかった。「お姉さんからなんて?」姫華は気になって尋ねた。「仕事がすごく忙しいから、陽ちゃんの迎えに行けないんだって。それで私に理仁と迎えに行ってきてほしいって言われたの。父方のほうが彼に会いたいって言ってるらしい。陽ちゃんを迎えに行ったら佐々木家に届けるわ。明日は週末だから、陽ちゃんがあっちで過ごしたいなら、そのままあちらに週末は滞在ね」姫華は尋ねた。「佐々木家の人たち、本当に静かにしてる?」「ええ、佐々木俊介は言ったことを守ってるわよ。陽ちゃんに会う以外に、あいつとその家族はもうお姉ちゃんの邪魔をしに来たりしてない。あの人たち、もっと早くからそうしていればよかったのよ。それなら、あんな結末になんてなってなかったでしょうね」莉奈が嫉妬し、危険な道に足を踏み入れて、陽を傷つけるような行為をしてしまった。それも全て俊介が離婚してから、彼の家族が後悔して
唯花は笑って、姫華をからかった。「姫華、そんなに子供が好きなら、早く桐生さんの子供を産んだら?」姫華は甥にキスをして言った。「善君と結婚したら、すぐに子供を産むわ。子供も生まれたら、その後は自分のビジネスに集中するだけね」「あら、姫華ちゃんは結婚したら数年は二人っきりの世界を楽しんでから、子供を考えるかと思っていたわ」理紗が言った。「本当はそうするつもりだったけど、今は考えが変わったの。私も善君も年齢的にすごく若いってわけじゃないし、来年結婚するなら、やっぱり早めに子供のことは考えたいなって。子供を産んだら私も三十になるし」姫華は唯花よりも一歳年上だ。「前は小さな子供ってあんまり好きじゃなかったんだけど、陽ちゃんに会ってから好きになったんだ。今はその時よりももっと、もっと好きになってるの。この甥っ子ちゃんみたいな子供って、とってもお利口さんだわ。お腹いっぱいになったら寝て、寝て起きたらまたミルク飲んで。あまり大泣きして騒ぐこともないもの。理紗さん、こんなに世話が楽な子供なら、あと一人産んだってうちは大丈夫だわ」唯花は笑って言った。「理紗さんはまだ出産したばかりなのに、次の子供の話なんて。お兄さんに聞かれたら、きっと怒られるわよ」理紗は今回の出産でつわりがとてもひどかった。玲凰はそのせいで心を痛め、子供を中絶させようとした話はもう言うまでもないだろう。それに二人も、子供は一人にしようと話し合って決めている。姫華はそう言われると、急いで部屋のドアのほうを見て、兄が来ていないことを確認すると、笑って言った。「さっきはちょっとテンションが上がっちゃっただけよ。考えずに口走ってしまったの。理紗さん、さっきの話は聞かなかったことにしてね」理紗が妊娠中に苦しんでいる時、姫華もとてもつらかった。「一人で十分だわ。昴お兄ちゃんが結婚したら、女の子を産んでもらおうっと。そうしたら私は甥っ子も姪っ子もできるから」理紗は言った。「妊娠中はつわりがひどすぎて、私だって一人でいいって思ったの。でも、今はこんなに可愛い赤ちゃんを見ていると、そんな苦しみは忘れちゃった。玲凰にもう一人産まないか、どうにか説得できないかなって。でも、数年後の話だけどね。まあ、それでも玲凰を説得できるかどうかはまったくわからないんだけど。彼
和子の目的は唯花を消すことだ。唯花は結城理仁の妻だ。彼女が生きている限り、結城家は唯花姉妹の後ろ盾として存在し続ける。結城家は神崎家と手を組み、黛家に対抗するだろう。和子は姉と妹を犠牲にして、自ら当主の座についた。それを数十年続けたというのに、今になってその座を姉の後代に譲るなど、彼女には到底できない話だった。当時、和子は実の姉妹ですらも殺せた。そして今、甥や姪、孫たちですら彼女にとっては蟻を殺すのと同じく簡単だ。一切苦しみも、ためらいも持ちはしない。しかし、彼女は長期で星城に滞在することはできない。和子はすでに星城には長く居過ぎた。そのせいで結城家と神崎家から目をつけられてしまっている。それに、和子は星城ではまったく権力を持たない。何をするのも不便だった。古巣の柏浜に戻ってゆっくりと対策を考えなければ。星城には忠実な部下を残しておき、鈴を殺人の道具に育てさせる。時期を見て、唯花に致命的な一撃を与えるのだ。「当主様、かしこまりました。ご命令通りに行動いたします」和子は頷き、ある電話番号を書いてそれをボディーガードに渡して言った。「これが柴尾鈴の連絡先よ。あなたの携帯に保存しておいて。だけど、彼女に連絡する時には、あなたの携帯を使ってはいけないわ。結城理仁に調べられるかもしれないからね。外にある公衆電話から連絡しなさい」「わかりました」和子は指示を出し終わると、また長い間沈黙してから口を開いた。「もう何もないわ。行って」するとボディーガードは恭しい態度でさがった。和子はそこに暫く静かに座ってから、離れた。彼女はスカイロイヤルに戻って、チェックアウトの手続きを終わらせると、スーツケースを引き、数人のボディーガードを従えてホテルを出た。事前に手配していた車がホテルの前で待機していた。数分後、和子を乗せた車はスカイロイヤルホテルを後にし、星城空港へ向かった。それと同時刻、理仁も黛家当主が離れたという知らせを受けた。この時すでに神崎家にお邪魔していた理仁は、すぐに唯花に知らせることはなかった。唯花は理紗の部屋で赤ちゃんと遊んでいるからだ。理紗は退院して家に戻り、部屋でゆったりと産後ケアに入っていた。その間は彼女はほとんどその部屋で過ごす。そして彼女の部屋に入れる男は夫である玲凰だけだ。
清掃員のおばさんはメモ紙を鈴の車の中に投げ入れて、すぐに立ち去った。本来、鈴にはある人物が病院の入り口付近にあるパン屋で待っていると伝えるつもりだった。しかし、鈴が開口一番に彼女を罵り始め、それもかなりの汚い言葉だった。おばさんは箒で殴りかかりたい衝動をどうにか抑え、もう何も言いたくなくなってしまった。鈴は清掃員が車にゴミを投げ捨てたのだと思った。そのメモ紙を拾い、捨てようとしたところでチラリと文字が見えた。そこには【パン屋で会いましょう。河野】と書かれていた。それで鈴はやっと理解した。さっきのおばさんはこのメモ紙を渡そうとして、車のドアを叩いてきたのだ。鈴は車をおりて、さっきの清掃員のおばさんを探そうと思ったが、彼女はすでに遠く去ってしまっていた。それに、さっきはかなりひどい言葉で罵ってしまった。追いかけてたとしても、相手にしてくれないだろう。鈴は車で病院を離れるしかなかった。河野夫人が病院の清掃員にメモ紙を渡せるということは、つまり付近にいるということだろうと鈴は考えていた。鈴は近くにあるパン屋を探してみた。もしかすると、河野夫人に会えるかもしれない。復讐のために、それに今金銭的に困窮している状況を打開するためにも、鈴は絶対に河野夫人を探さなければならない。まだ賢さを残している鈴は、病院付近にあるパン屋を探し出し、パンを購入して出てきたばかりの河野夫人を見つけた。鈴が車を降りると、河野夫人が鈴の横を通り過ぎた。その瞬間、小声で夫人は言った。「私は今誰かに目をつけられているわ。そいつを振り切ったら、また連絡します」そう言うと、河野夫人は車に乗り込み、運転手が車を出した。鈴も振り返ることはできなかった。そのまままっすぐにパン屋に入り、適当に二つパンを選んで買った。そしてその頃、理仁のほうはあるメッセージを受け取っていた。そのメッセージには写真も添えられている。その写真とメッセージを見終わると、携帯を唯花の前にさし出した。唯花はそれを受け取って見た後、彼を見つめた。理仁は何も言わずに手を引っ込めると、携帯をズボンのポケットに戻した。その後、とても自然な動きで唯花の手を繋ぎ、彼女の手のひらを突っついた。唯花はその意味を理解し、わかったという目で彼に返した。唯花が理解したことを確認すると、理仁はにっこりと微笑
辰巳は凶悪な顔つきで、鈴に向かって失せろと怒鳴り散らした。そして周りにある手に取れるものを何もかも投げつけてしまった。彼女はかなり驚いて、反射的に床から這い上がりすぐに逃げ出した。彼女の動作が機敏であんなに早く逃げたというのに、辰巳が投げた食器が背中にあたって割れて、かなりの怪我を負ってしまった。彼女は命かながら逃げ出し、かなり遠くまで来て、やっと立ち止まった。その場でまた暫くの間待って、車まで戻り、今借りて住んでいる部屋に戻っていった。背中の傷には自分で薬を塗ろうと思ったが、かなりの激痛だったため、病院に行き医者に診てもらって、薬をつけてもらうしかなかった。病院は今日人が多く、しばらくかかってから今ようやく出てきた。そこでまさか理仁夫妻に出くわすとは思ってもいなかった。理仁と唯花はボディーガードたちを連れず、二人ともサングラスにマスク姿だったが、鈴は唯花の声に反応した。鈴にとって最も憎むべき存在は唯花だ。だから彼女の声は脳裏にしっかりと残っている。「クソ女にめくら、待ってなさい、私が受けた苦しみを一つ残らず返してやる。それに倍返しにしてやるから!」唯花が妊娠したことを鈴は聞いていた。結城家は公に発表してはいないが、二人の結婚式では唯花はお酒を飲もうとしなかったので、周りがきっと妊娠したのだろうと予想したのだ。あのクソ女、本当に運が良い!鈴は嫉妬で発狂しそうだった。刑務所から出てきて、鈴も二人のおばから聞かされていた。唯花は結婚した後、いつまで経っても妊娠せず、みんなは彼女が不妊なのだと噂していた。それが今では妊娠してしまっている。唯花にとって、今回の妊娠にはかなり苦労したはずだ。鈴はどうにかして唯花を流産させれば、それはそれはスカッとするだろうと考えた。それからあのめくらだ。もし、あいつが一生子供ができなかったら、夫からいくら愛されていたとしても、子供一人産めないような妻を一生愛することができるだろうか?夫の親やその周りが咲と彼が一生子供を持たないことを受け入れられるか?鈴は突然、復讐の目標ができた。まずは唯花のお腹の子供を流産させること。それと、咲に一生子供が産めなくさせること。「あはははは!!」二人の結末を想像し、鈴は大笑いした。まるですでに復讐が成功したかのような喜びようだ。
「理紗さんが今日退院できるって聞いて、花束をって思ったんです」唯花は部屋の中を見渡して笑って言った。「まさか、みんなも私とまったく同じこと考えてたなんて。もう荷物はまとめてしまいました?何か手伝うことがないなら、代わりに花束を持ちますよ」唯花はそう言いながら思わず笑ってしまった。理紗が出産して退院する様子はかなり大袈裟な光景だった。理仁と唯花はみんなと一緒にそれぞれに花束を抱きかかえていた。二人は歩きながら常に相手と目を会わせて笑い合い、甘く幸せな気持ちだった。一行は病院を出て、駐車場に向かう予定だ。駐車場は病院の入り口の目の前にあって、彼らが外に出る時には受付の前を通り過ぎる。その時、理仁と唯花はその受付付近でちょうど前から来る鈴とすれ違うことになった。二人はまったく鈴には気付かず、みんなもサングラスにマスク姿だった。鈴は長い間刑務所に入っていたし、唯花もすぐには鈴だとわからなかった。鈴と通り過ぎる時に全員が気付いていなかった。そして理仁と唯花と通り過ぎる時に、鈴は唯花の話し声が聞こえ、急にその場に立ち止まった。彼女は振り返り、唯花のほうへ視線を追った。憎き仇に遭遇し、鈴は怒りに目を真っ赤にさせた。鈴はこの時、即座に唯花のほうへ駆けていき、ナイフで刺し殺してしまいたい衝動に駆られた。彼女は数歩前方に進んでからまた足を止めた。だめだ、衝動に駆られてはいけない。鈴はこの時何も用意などしていなかった。そもそもナイフどころか、ペンですら持っていない。それに、後先考えずに人を殺すなら、彼女もその命で償う必要が出てくるかもしれない。一度自由を失った鈴にとって、外に出て自由に行動できることはとても貴重なことになっていた。復讐のために、またその身を地獄に落としたくなかった。鈴はぎろりと唯花の背中を睨みつけた。唯花は理仁に体を支えられて車に乗り、すぐに理仁も続いて車に乗り込んでいった。そして二人の乗った車のエンジンがかかり、ゆっくりと遠ざかっていった。「クソ女!」鈴は悔しそうに歯ぎしりをして、声を絞り出した。「いつか必ず、生き地獄を味わわせてやる!」彼女は唯花が去っていった方角へ拳を上げて怒りを発散させるように下に勢いよく振り下ろした。そのせいで背中の傷に影響し、痛みで顔を歪めた。今朝早く、柴尾







