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第818話
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交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第1080話
「鈴！」店にいた咲がこの時、店先の口論の声を聞いて白杖をつきながら、ゆっくりと外へ出てきた。唯花は咲があの夜と同じように黒のサングラスをつけていて、彼女の目がどうなのかを確認することはできなかった。人に息をのませるほど美しい顔はあの夜と同じで冷静沈着、慌てた様子はまったくなかった。「何を言い合っているの？」咲は自分の店周辺は熟知している。二人が言い争う声がした方を覚えていて、二人がいる位置を特定すると、なんの迷いもない足取りで、唯花の目の前にやってきて止まった。そして、唯花に向けて落ち着いた声で話し始めた。「あの、もしかして結城家の若奥様でしょうか？」「なにが若奥様よ。こいつはね、ただ田舎娘よ。この目の見えないクズ女、こいつを持ち上げるような発言は控えなさいよね。すぐにこの田舎娘は結城家から追い出されることになるんだから、見てなさいよ。私はね、結城家の長男が本気でこんな田舎者を好きになるとは思わないわ」鈴が最も癪に障るのは、他人が唯花のことを「結城家の若奥様」と呼ぶことだった。彼女は理仁に恋心を抱こうなどとは考えたこともない。それは理仁が氷のように冷たい男で、近寄りがたいからだ。しかし、彼女は野心というものを持ち合わせていて、結城家に嫁入りしてみんなから「若奥様」と呼ばれてみたい気持ちもあるのだった。結城家には理仁以外に、若者はあと八人いるのだから。鈴の母親は結城家の中から最も温厚そうな七番目の坊ちゃん、結城晴（ゆうき はる）に目をつけていた。晴は鈴より二、三歳上である。彼女よりも少し年上のほうが鈴のことを可愛がって愛してくれると母親は言っていたのだ。鈴はわがままで気性が荒い。もし、晴のように性格が温厚な人であれば、そんな彼女を包み込んでくれるはずだ。鈴は自分が将来、結城家の七番目である晴の妻となって、自分も若奥様になれるのであれば、絶対に義兄弟姉妹の中に内海唯花のような田舎者が混ざっているのは嫌なのだ。だから、余計に誰かが唯花のことを「若奥様」などと呼称するのは癪に障る。「だまりなさい！」咲は冷たく一喝すると、鈴の反応を待たずに唯花に向かって申し訳なさそうにこう言った。「申し訳ありません、この子は母親からこれでもかというくらい溺愛されて育ったので、わがままで無知な子になってしまったんです。まともに会話できる相手で
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第1079話
「ここはあなたが契約してる専用駐車スペースなの？あなただけしかここに止めてはいけないわけ？」鈴と一悶着あった唯花は一歩も譲らないつもりだ。この鈴に対して、唯花は全く好感を持てなかった。鈴は言葉に詰まった後、まったく理屈もクソもないようなセリフを吐き出した。「ここは咲の花屋の前よ。私はあの人の妹なの。だから、ここは私が駐車して当然の場所なのよ」「柴尾さんって、咲さんのことをお姉さんだって思ってるんですねぇ。だったら、あの日の夜、桜井家のパーティーで、どうしてそのお姉さんにあんなことをしたのよ？」鈴は両親からかなり甘やかされて育てられた。それに小さい頃からずっと咲に嫌がらせをすることに快感を覚えてしまっている。そんな彼女は堂々と自信ありげにこう言った。「あの目の見えないクソ女ね、あいつはただ私を喜ばせるために存在しているおもちゃよ！」それを聞いた瞬間、唯花はこっぴどくこの女を教育したくてたまらなかった。どうしてこのような妹がこの世に存在するのだ？恐らく柴尾加奈子たち両親がしっかりと子供の教育をするのを怠ったせいだろう。咲は生まれつき目の不自由な子供だったわけではない。それは十六歳の頃に大きな病気にかかったのが原因なのだ。加奈子は絶対に咲の世話をしようとしなかったし、柴尾社長も仕事に忙しくて家にいなかった。そして咲は病気をどんどん悪化させて、危うく命まで落としかねないところまでいってしまったのだ。彼女のおばが実家の家族に会いに来た時に、咲の状態が悪いことに気づいて、急いで病院に連れていったのである。当時、医者は十数時間もの手術を行い、咲の命はなんとか助かったが、失明してしまったのだ。見た目からは彼女は失明しているようには見えないが、実際に彼女は見えていないのだ。唯花夫婦は咲が目の見えないふりをしているだけだろう、もしくは失明していたのが治って、それを周りには気づかれないようにしているのかもしれないと疑っていた。どちらにせよ、それを証明することはできないのだが。そのようなことは置いておいて、唯花はこの、まだ親戚にはなっていない、未来の義理の妹に対して、かなり同情していた。おばあさんは唯花に、将来結城家を取りまとめる女主人となるのだと言っていた。結城家長男の嫁なのだから、その他理仁の兄弟、従兄弟たちの奥さんたちを守る責任があ
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第1078話
「家にいる時は結城さんがあなたの面倒を見てくれてるっていうなら、私たちも安心だわ。私ずっとあなたが家で全ての家事をさせられるひどい扱いを受けて、最後には以前の唯月さんのような境遇になるんじゃないかって気が気じゃなかったのよ」唯花は料理を作る手を止め、また引き続き料理に取り掛かって言った。「お姉ちゃんが辛い思いをしてきたのも見てきて知ってるから、以前のお姉ちゃんみたいにならないように気をつけているわ」「つねに冷静な判断ができるように気持ちを保っておかないとね。だって、今までに恋愛中に自分を見失ってしまう子たちをたくさん見てきたんだもの」姫華がそう言い終わると、ちょうど彼女の携帯が鳴った。それは彼女が唯花と知り合う前からいた唯一の親友からかかってきた電話だった。その電話に出た後、唯花に言った。「唯花、私の親友が失恋しちゃったらしいの。今から彼女に会いに行ってくるわ」「ええ、車の運転気をつけるのよ」「明日、あなたの故郷まで人に頼んで村長さんのところに土地を借用する件を話しに行ってもらうわ。そのついでに、あなたのあの最低な親戚たちがここ二日何をしているのか聞いてもらうわね」「わかった」土地を借用する件は、三人の中で姫華が主体となって動いている。姫華の家柄や、育って来た環境等を考慮すると、唯花や明凛と比べてもずっと有利だからだ。確かに三人とも初心者ではあるが、一人が引っ張って行く必要があるのだ。「日を改めて、私の親友を誘って一緒にコーヒーでも飲みに行きましょう。彼女を紹介するわ。失恋したなら、きっと落ち込んでるはず。だから、あなたと明凛みたいに前向きで明るい友達を作ったほうがいいと思うの」姫華の親友も名家のご令嬢である。ただ、彼女は非常に控えめな性格だから、誰も彼女のことをお嬢様だとは思わないのだった。姫華はその親友は絶対に唯花たちと仲良くなれると思っていた。「うん、さあ、そのお友だちのところに行ってあげて。失恋したすぐは辛いと思うけど、実際はそんなに思い悩む必要なんてないんだから。この世には素敵な男性なんてごまんといるんだしね」「彼女と彼氏はもう何年も付き合ってて、結婚の話し合いまで来ていたのよ。それが今別れてしまったんだから、辛くないわけないと思うの。唯花、それじゃあこれで失礼するわ。希（のぞみ）のところに様子を見に行ってくるわ
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第1077話
唯花は自分と理仁は今に至るまで、彼に甘い言葉をかけることはほとんどなかったな、と思い返していた。明凛が悟を簡単に喜ばせているのを見て、後で理仁に夕食を持っていってあげる時には、他に何かプレゼントも一緒に持って行って、彼を喜ばせてあげようと考えていた。「夜何食べようかな？」唯花はそう言った。すると明凛が「昼は唯月さんがご馳走してくれたし、何も買って来てないのよ。あなた夜は何を作るつもり？今材料買って来てあげるよ」と言った。「明凛は夜、彼にご馳走してもらうんでしょ。私、胃が痛くならないように、うちの理仁さんに何か作って持って行かないといけないのよ。今日はまた接待だから、彼がまた何も食べずにお酒を飲んだりしたら、胃を壊しちゃうからね。二人はここでおしゃべりしてて、私が買い物に行ってくる」明凛と姫華はひとこと「うん」と返事した。唯花が去ってから、姫華は羨ましそうに言った。「唯花が羨ましいわ。結城さんと普通の夫婦になれるなんて、本当に難しいことなのよ。彼ってすごくプライドが高いもの。唯花だからこそ、彼を何度も変えさせることに成功したのね」「以前、結城さんがこの店に来た時、いつも氷のように冷たい雰囲気を漂わせていて、レジを担当したり、店番をしてくれたりしててさ、高校生たちがそれを見て怯えてたのよ」姫華は笑って言った。「それは普通よ。彼は今でも基本的な部分は変わってないわ。ただ、唯花の前では違う顔を見せているだけね。将来、私のために自分を変えてくれるような男性が現れたら、私はぜったいに彼の心を掴んで離さないんだから」「姫華、あなたはこんなに素敵な女性なんだよ。絶対にあなたのために変わる男性が現れるに決まってるってば。もしかしたら、その人はもう近くにいるけど、あなたが気づいていないだけかもしれないわ。愛が扉を叩きに来た時は、心置きなくそのドアを開けるのよ」姫華は自信たっぷりにこう言った。「私だって、唯花に負けないくらい私のことをすっごく愛してくれる男性と結婚するんだからね」彼女は理仁のことは諦めたが、幸せになることまで諦めたわけではなかった。逆に新しい人生をこれからスタートさせて、本当の意味での幸せを追及する道を今歩んでいるのだ。だから、彼女は真実の愛が心のドアをノックするその時まで待ち続けるだけだ。唯花はすぐに食材を買って戻
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第1076話
唯花のネットショップもここ数カ月でだんだん軌道に乗ってきたのだ。「計画ならもう立ててあるわよ。さっき明凛とそれについて話していたところなの。見てちょうだい」姫華はカバンから一晩かけて作り上げた計画書を取り出し、唯花に手渡した。「私だって初心者だけど、私たち三人でしょ。三人寄れば文殊の知恵って言うし、一緒に頑張って稼ぐわよ。唯花、ちょっと手は止めなさい。計画書を見ながらハンドメイドしてて、またうっかり怪我でもしちゃったらどうするのよ」前回唯花は怪我をして、手当をするために病院まで姫華が連れて行ったのだが、その時姫華は血を見ただけで体の力が抜けてしまったのだ。何も恐れるもののない、あの神崎家のピリ辛お嬢様が血を見ただけで怖がってしまったのだった。「前回は本当にうっかりしてただけよ」唯花はあれが理仁のせいで作ってしまった傷だとは認めたくなかった。しかし、彼女はやはりハンドメイドをするその手を止めて、姫華から計画書を受け取った。そして、真剣な面持ちでそれを読みながら、二人の親友と話し合っていた。「この計画書はまだ兄さんには見せていないの。とにかく自分でやってみないことには経験値もつかないしと思って。何をするのも誰かに頼ってちゃダメだと思うし」「この計画書はとてもよくできてると思わよ」明凛は絶賛した。そして唯花が言った。「誰だって、経験値はゼロから少しずつ積んでいくものでしょ。私も理仁さんとは話してみたけど、あまり考えすぎずにやってみたらいいって。彼の支えがあるから。でも、彼に助けてもらいたくはないの。まずは自分たちでやってみて、出た結果を彼らに見てもらいましょ」姫華は笑って言った。「私はあなた達二人に期待してるんだけどなぁ、あなた達二人にはとっても頼りになる相棒がいるんだもの」唯花と明凛はそれを聞いて、同時にその言葉に反撃し、その後三人一緒に笑い合っていた。明凛は星城高校のほうを指さして、野心を燃やし言った。「星城にはたくさん小中高の学校があるじゃない。そこに提供されてる給食とか、高校だと食堂がある学校もあるわ。それも狙い目だと思うのよね。私たちにそこへ入り込める実力があるかどうかやってみるっきゃないわ」当初、彼女と唯花がここに本屋を開けたのも、一生懸命に頑張ってようやく手に入れた勝利の果実のようなものだった。
交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています 第1075話
唯花は午後二時半に本屋に行った。理仁自ら彼女を店まで送り届けたのだった。「今日は夜、接待があるんだ」唯花が車を降りる前に、理仁が落ち着いた声でそう伝えた。唯花は彼のほうへ振り返って、当たり前のように言った。「午後何時に会社を出るの？夜はあまりお酒を飲み過ぎないように、それから何か胃に入れてからお酒を飲むようにしてね。じゃないと酔いやすいし、胃に負担がかかるわ」「三日薬を飲んだから、胃はもう痛くないよ」それを聞いた瞬間、唯花がすぐに答えた。「胃が痛くなかったとしても、体を大切にしないといけないでしょ。あなたが仕事を終わらせる前に何か持って行ってあげるわ。ちょっと胃に入れてから商談に行くのよ。だけど、それでもお酒は飲み過ぎないようにして、飲まないのが一番だけど」「ああ、わかったよ。じゃ、仕事が終わる前にご飯を届けてくれるのを待っているよ」理仁はそう言いながら瞳をキラキラと輝かせて唯花を見つめていた。それを見た唯花は彼が何を期待しているのかすぐに察し、また車へ戻って彼の頬にキスをした。キスした後、いたずらっ子のように彼の顔をぎゅうっとつまんだ。理仁は手を伸ばそうとしたが、唯花がまるでうなぎのようにするりとその手を躱して、車を降り、理仁は唯花捕獲に失敗してしまった。理仁は唯花に向かって何かを言っていたが、彼女にはよく聞こえなかった。実際、理仁は口を開いただけで、言葉には出していなかったのだった。どのみち、彼女は二日待てば、彼の好きなようにしていいと約束してくれているのだから。唯花は笑顔で本屋に入っていった。この時、姫華と明凛が店の中で唯花を待っていた。一人は小説に夢中になり、もう一人は唯花が半分作りかけのハンドメイドを並べて遊んでいた。そして唯花が笑顔で店に入って来ると、二人同時に彼女のほうへ目を向けた。姫華のほうが先に口を開いた。「明凛、なんだか唯花って日に日に綺麗になっていってない？あの笑顔からも甘い雰囲気が伝わってくるし、まるで輝く太陽みたいにキラキラしてるわ」明凛はまだ読み終わっていない小説を閉じた。姫華と唯花はどちらもどうして彼女がこんなに小説が好きなのかよくわからなかった。「誰かを愛し、愛されてるんだから、自然と綺麗になっていくでしょ」すると唯花は親友の言葉に反論した。「まるであなた自身は誰
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