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第3話

Author: おこづかい頂戴
「あなたがもうすこし優しくしてくれてたら、私たちの終わりかたも、こんなにみっともなくはなかったかもね」夏美は冷たくそう言った。

その言葉を聞いて、俺はふと、昔のことを思い出していた。

前世で、俺と夏美は、ある展覧会で知り合ったんだ。話していくうちに、お互いをどんどん知るようになっていった。

それから展覧会に一緒に行く仲間になって、自然な流れで付き合いはじめ、そして入籍した。

結婚を祝うために、俺たちはパーティーを開いて、たくさんの親戚や友人を招待した。

でも、パーティーの当日、渉が現れて、俺たちの穏やかな生活は壊された。

彼は品のあるスーツを着こなしていて、夏美を含め、その場にいたみんなの視線を独り占めにした。

夏美は渉を見た瞬間、固まってしまったんだ。

最初は気にしていなかったんだ。でも、夏美はだんだん上の空な時が増えていった。ついには、俺と同じ部屋に寝ることさえ拒むようになった。

なにかがあったにちがいないと、直感ではわかっていた。でも、俺はそれを信じたくなかったんだ。

だって、俺と夏美は趣味も合うし、価値観もぴったりだった。あんなに愛し合っていたのに、彼女が俺を裏切るはずがないって。

でも、夏美の帰りはどんどん遅くなって、こっそりスマホを見る回数も増えていった。

そしてある日、俺が夜勤あけに帰ると、マンションの前で夏美が渉と強く抱き合っているのを見てしまったんだ。

あれが、俺の結婚生活がこわれた、最初の瞬間だった。

俺は狂ったように、なんでこんなことをするんだって夏美を問い詰めた。

「翔太、自分の今の姿を見て!」彼女は俺を指さして言った。「髪もボサボサで、身なりもかまわないし。毎日目の下にはクマができてて、まるで私より20歳もふけて見えるわ!

あなたの従弟の渉は、あなたなんかよりずっと素敵よ!謙虚で礼儀正しいし、物腰もやわらかい。彼こそが、私の理想のタイプなの!」

夏美のその言葉に、俺の心は完全にくだけ散った。

「私たちのこの結婚は、はじめから終わりまで、ぜんぶ間違いだったのよ!」

この世でいちばん身近なはずの人間が、ほかの男のために、俺にひどい言葉を浴びせてくる。

浮気がバレたとわかると、夏美はきっぱりと離婚を切り出した。

すべてを失った俺は、もう耐えきれなくなって、夏美との離婚に同意した。

離婚届を出しに行く途中も、俺の気持ちはまったく落ち着かなかった。

渉は、そんな俺のとなりで、さらに嫌味を言ってきた。

言い争うのに夢中で、俺たちは誰も、曲がり角から来たトラックに気づかなかった。

ものすごい爆発音とともに、俺は一瞬で意識を失った。

次に目をさましたとき、俺はなぜか、婚姻届を出したあとでパーティーを開いたあの日に戻っていた。

同じ失敗をくりかえさないために、俺はあの二人をくっつけてやることにした。

あの二人は思うつぼで一緒になり、海外で事業を始めた。一方俺は、やっともう一度法律事務所にもどり、大好きな仕事にうちこめるようになった。

だけど前とはちがう。俺には前世での仕事の経験があったから、今世ではすぐに法律事務所のエースになれた。それに、愛する人にも出会えたんだ。

前世の、あの悲惨な運命とは完全にさよならした。

親戚たちが続々と集まってきたのを見て、両親が腕を組んでこちらに歩いてきた。二人はにこにこしながら言った。「翔太、みんなにはもう挨拶したのか?」

俺は人が集まっているほうを指さして、微笑みながら答えた。「みんな忙しそうで、俺の相手はしてくれないよ。それより、渉と夏美が帰国したから、そっちに群がってるみたいだね」

それを聞いたとたん、両親の顔は曇った。でも、二人ともとくにはなにも言わなかった。

渉と夏美は海外で確かに成功したから、コネを作りたい人がいるのも無理はない。

人間なんて、強いほうになびくものだからね。別に珍しいことじゃない。

でも、親戚に近づいてみてわかった。彼らが話しているのは、きまって俺の悪口だ。

「夏美さんは最初の男で失敗したけど、そのおかげで渉さんと出会えたんだから、本当に運命の巡り合わせだ」
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