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第1487話 番外編百三十五

Author: 花崎紬
「怖くないわけないだろ?」

隼人はお札を指でなぞりながら言った。

「でもゆみが平気なら、俺も慣れれば大丈夫だろ!」

臨は隼人に親指を立てた。

「すげぇな!隊長は」

隼人は照れ笑いを浮かべながら言った。

「まあ、少し下心もあるんだけどさ」

「え?」

臨は首をかしげながらゆみを見た。

まさか、隊長の下心って、姉さんのハートを射止めること……!?

隼人は鼻をこすりながらゆみを見て、少し気まずそうに言った。

「ゆみ、正直に言うよ。嘘つくの、あんまり得意じゃないからさ。今夜は、君の兄さんに頼まれて来たんだ。君を守るために」

その言葉を聞いた瞬間、車に乗っていた紀美子と佳世子は、同時に目を見開いて顔を見合わせた。

佳世子は言った。

「ちょっとこの人、正直すぎない?佑樹がせっかくチャンス作ってくれたのに、自分でバラすなんて!」

「まあ、最後まで聞いてみようよ」

「そうね!」

電話の向こうからゆみの声がした。

「まあ、なんとなくそんな気はしてたよ。じゃなきゃ、こんな偶然あるはずないもん」

ゆみの声は平静だったが、表情は少し驚いていた。

まさか、隼人がここまで正直に説明するなんて。

佑樹兄さんに裏切られたけど、この正直さはなんだか心地よかった。

そのためか、無意識のうちに、ゆみの態度も少しだけ柔らかくなった。

さっきまであった微妙な距離感も、どこかへ消えていた。

隼人は拳を唇に当てて小さく咳払いをした。

「じゃあ、本題に入るよ」

「うん、いいよ」

ゆみが頷いた。

「実はね、半年前、うちの署でとある殺人事件を扱ったんだ。でも未だに犯人は捕まってない。そいつの逃亡スキルは相当なもんでさ、しかも、遺体の解体技術がすごくて……被害者の内臓をほぼ完全な形で取り出してた。たぶん、解剖に関わってる人物か、医学系を学んでるやつだと思う」

隼人がその話をしている間、ゆみはじっと彼の表情を見つめていた。

その表情は、真剣そのものだった。

さっきまでの砕けた雰囲気から一転して、真剣な面持ちで仕事に向かうその姿勢からは、強い責任感が感じられた。

ゆみは視線を彼から外しながら言った。

「つまり、私に犯人探しを手伝ってほしいってことね」

「ああ、そうだ。ゆみ……ぶっちゃけると、確かに俺は君のことが好きだよ。でも、それ以上に、君の能力を本当に頼り
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