Masuk国を追放された悪役令嬢シャーロットの夢は、平穏なスローライフを送ること。彼女は、王都の公衆衛生を陰から支えていた過去を捨て、辺境の町で念願のカフェを開店する。 前世の知識を活かした温かい料理は、すぐに町で評判となった。特に、毎日通ってくる無口な常連客は、それを心から愛しているようだった。 しかし、シャーロットを追放した王都では、彼女がいなくなったことで疫病が大流行し、国は滅亡の危機に瀕していた。元婚約者の王子が助けを求めに現れるが、時を同じくして、あの常連客が正体を現す。彼の名は魔王ゼノヴィアス。 「俺の妃になれ」 これは、スローライフを死守しようと奮闘する、元悪役令嬢の物語。
Lihat lebih banyak「え?」 ゼノヴィアスの顔が、みるみる青ざめていく。「こ、この前、愛を確かめ合ったではないか!」 必死の形相で訴える。あの白い空間での熱いキスを思い出しているのだろう。「へ? 何のことですか?」 シャーロットは首を傾げ、きょとんとした顔を作る。「夢でも見てたんじゃないんですか?」 ツンと澄まして、またウーロン茶のジョッキを傾ける。 でも、よく見ればその耳は真っ赤に染まっているのだが、ゼノヴィアスは気づかない。「夢?! ほ、ほんとに夢?! そ、そんなぁ……」 ゼノヴィアスの魂が、口から抜けていきそうになる。「くぅぅぅ……」 失意と悔しさと、そして燃え上がる闘志。 すべての感情を飲み込むように、新しいピッチャーをガッと掴む。 ゴクゴクゴクゴク! 今度は怒りと悲しみを紛らわすような、自暴自棄な飲み方。 そして――――。 ガクッ。 空になったピッチャーをテーブルに置くと、そのままうなだれて動かなくなった。 肩が荒い息に震えている。「おぉ、いい飲みっぷりだけど……」 シアンは楽しそうに自分もピッチャーを空ける。 頬がほんのりと赤いが、まだまだ余裕の表情。「僕の勝ちね?」 そう宣言しながら、次のピッチャーに手を伸ばす。 勝者の余裕が、全身から漂っている。「あぁ……ゼノさん……」 シャーロットはそっと、うなだれるゼノヴィアスの広い背中に手を置いた。 優しく、ゆっくりと円を描くように撫でる。(ごめんなさいね、結婚よりも今はカフェなの……) 背中を撫でる手には、確かな愛情が込められていた。 ◇「ゼ
「何よ、やるの……?」 シアンは極上カルビをもぐもぐと味わいながら、挑発的な笑みを浮かべ――――。 ブワッ!とシルバーのボディースーツに包まれた体から、鮮烈な青いオーラを放つ。 上位神の持つ、圧倒的な力。 魔王対、大天使――。 二つのオーラがぶつかり合い、部屋の空気がビリビリと振動する。 テーブルの上の皿がカタカタと踊り始めた。「あわわわ……」「ひぃぃぃ……」 誠もレヴィアも自分の皿とジョッキを持ち上げて退避する。 二人の気迫が最高潮に達した瞬間――――。「やめなさい!」 美奈の鋭い一喝と同時に、 ピシャーン!! 天井から黄金色の稲妻が二本、まっすぐに落ちてきた。「ごはぁ……」「ふへぇ……」 魔王も大天使も、等しく感電の洗礼を受ける。 髪の毛が逆立ち、全身から煙を吐きながら、二人同時に椅子へとへたり込んだ。「全く! 子供じゃないんだから!」 美奈は呆れたようにため息をつき、手にしたジョッキをグイッと傾ける。 琥珀色の液体が、喉を潤していく。「あぁっ! ゼノさぁん……大丈夫?」 シャーロットは慌てて、煤だらけになったゼノヴィアスの顔を覗き込んだ。 そっと手に取ったおしぼりで、彼の頬についた煤を優しく拭き取っていく。 その手つきには隠し切れない愛情がこもっている。「う、うむ……大丈夫だ……」 ゼノヴィアスの頬が、ほんのりと赤く染まった。「喧嘩するなら、飲み比べでもしてなさい!」 美奈がふんっと鼻を鳴らし、ジト目で二人を睨みつける。「の、飲み比べ!?」 ゼノヴィアスがゴホゴホと煙を吐きながら、首筋を押さえ、身を
「い、いいんですか?」 シャーロットの声が震えた。 瞳から涙が溢れ出す。「よ、良かったぁ……」 全身から力が抜ける。 長い、長い戦いが終わったのだ――――。「その代わり……」 美奈の琥珀色の瞳が、まるで魂を見透かすようにシャーロットを貫く。「自分の地球は、自分で管理しな!」「へっ!? か、管理ですか!?」 予想外の条件に、シャーロットは目を丸くした。 地球を管理? システムも分からない自分に、そんな大それたことが――。「そ、そんな……私にできるわけが……」「『できない』じゃ済まないわよ」 美奈はダン!とジョッキをテーブルにたたきつける。「復活させるのはいいけど、誰かが管理しなければならないのよ? 地球は放っておけば回るようなもんじゃないわ」 確かにそうだ。|万界管制局《セントラル》の仕事の様子を見て来た自分にはその大切さが良くわかっている。「わ、分かりました」 シャーロットは震える声で答えた。「仕方ないですよね……やるしかない……」 ここで断る選択肢など、あるはずもない。 たとえ無理難題でも、受け入れるしかない。「分かんないことはレヴィアに聞いて」「へ? わ、我ですか!?」「文句……あるの?」 美奈は琥珀色の光をギラリと光らせる。「そ、そんなことないです! やらせていただきます!」 レヴィアはガタン!と立ち上がると、冷や汗を流しながら直立不動で敬礼をした。「うむ、よろしい。それでも……一人じゃ大変よね?」 視線が、ゼノヴィアスへと移る。「魔王も協力してやって!」
「いやぁ、悪い悪い、東京の|恵比寿《えびす》だったか……」 レヴィアは小さな足で、商店街の小径をタタタと小走りに進んでいく。「なんで大阪の新世界なんて行っちゃったんですか!?」 シャーロットは白いワンピースの裾を押さえながら、涙目で後を追った。 せっかくの晴れの日なのに、汗だくになってしまっている。「あそこは|恵美須《えびす》町って言うんじゃ! 紛らわしいったらありゃしない!」「普通、間違えませんって! みんな待ってますよぉ……」 シャーロットの声が震える。「せっかくのお祝いなのに……」 【|黒曜の幻影《ファントム》】を捕獲した功績を称える祝賀会。 まさか主賓の自分が遅刻するなんて――――。「大丈夫じゃ、焼肉は逃げんよ!」「そういう問題じゃないんです! もう……」 角を曲がると、目指す店が見えてきた。 こじゃれた木造二階建ての焼肉屋。 黒板にはチョークで丁寧に描かれた、美味しそうなメニューの数々。 炭火の香ばしい匂いが、通りまで漂ってくる。 二人は肩で息をしながら店に飛び込んだ。 古い木の階段が、ギシギシと音を立てる。 炭火の香りと笑い声が、二階から漏れ聞こえてくる。 シャーロットは胸の高鳴りを抑えながら、個室の扉に手をかけた。 その瞬間――――。「無礼者! お主、何をしてくれる!!」 雷のような怒号が、扉の向こうから轟いた。「……へ?」 シャーロットの全身が、稲妻に打たれたように硬直する。 この声は――。 この懐かしい響きは――。(まさか……まさか……!) 震える手で、そっと扉を開けた。 心臓が早鐘を打つ。手のひら





