เข้าสู่ระบบ私、月詠栞は、現実の恋よりBLゲームの推しカプが命の腐女子。神の視点からイケメンたちの恋模様を見守る方が楽しい! そんな私の前に、学園の王子・輝とクール系イケメン・奏が現れた。――この二人、並んでるだけで尊すぎ……! 理想のカップリングだ! よし、私がキューピッドになって、二人の恋を全力で応援しよう! さらにバイト先の可愛い後輩・陽翔も、どうやらイケメン店長に片思い中みたい!? もちろん、彼も全力でサポートしなきゃ! イケメンたちの恋を成就させるため、プロデューサーとして奔走する私。 ……なのに、なぜか輝先輩たちが私を巡って火花を散らしてる? まさか。ありえない。 だって、攻略対象は私じゃない!
ดูเพิ่มเติม退屈、という言葉が液体なら、きっとこんな感じだろう。
澱んだ空気、抑揚なく響き渡る老教授の声、そして蛍光灯の白い光に照らされて、机に突っ伏したり、スマートフォンの画面を無心でスワイプしたりしている学生たち。大教室のすべてが、ぬるま湯のような気怠さに満ちている。
もちろん、私もその気怠い液体の中で溺れている学生の一人だ。ただし、他の学生たちと決定的に違う点が一つだけある。
私の意識は、今この瞬間、この教室にはない。遥か遠く、剣と魔法、そして硝子細工のように繊細な男たちの愛憎が渦巻く世界――『Fallen Covenant』にトリップしていた。
「……っ、はぁ……」
誰にも聞こえないくらい小さな音量で、私は恍惚のため息を漏らす。
教壇から最も遠い席。そこが私の定位置。分厚い経済学の教科書を盾のように立て、その影に隠したスマートフォンの画面を、祈るように見つめる。
そこに映っているのは、私が人生のすべてを捧げるBLゲーム、『Fallen Covenant』のワンシーン。私の最推しカップリングである、近衛騎士団長ジークフリートと、聖王国の若き大司教アークエンジェルのスチル画像だ。
降りしきる雨の中、魔物に襲われ深手を負ったアークを、ジークがその逞しい腕で抱きかかえている。アークの純白の法衣は泥と血で汚れ、普段は気高く澄ましきっている彼の青い瞳は、苦痛と、そして目の前の騎士への絶対的な信頼で潤んでいた。
対するジークは、いつもは鉄仮面のように無表情な顔を、これ以上ないほどに歪めている。アークを傷つけた何かに対する怒りか、それとも守りきれなかった自分への悔恨か。その眉間に刻まれた深い皺、食いしばられた唇、アークの華奢な身体を抱く指先に込められた、壊れ物を扱うかのような優しさと力強さ。
――ああ、神よ。これは、なんという御業。
この一枚の絵に、どれだけの情報量が詰まっているというのだろう。普段は決して弱さを見せないアークが、ジークの前でだけ見せる無防備な姿。そんなアークを守るためなら、神にさえ剣を向けるジークの献身。言葉なんていらない。視線と、触れ合う肌の熱だけで、彼らの魂が共鳴しているのがわかる。
「ジーク……あんた、そんな顔もできたのね……。アークの怪我は心配だけど、心配だけど……!これは、公式からの最大手の供給……っ!」
ぶつぶつと呟きながら、私はスチル画像の拡大と縮小を繰り返す。ジークの喉仏の動き、雨に濡れて肌に張り付くアークの銀髪、絡み合う二人の指先。そのすべてが芸術品であり、私の生命を繋ぐ糧だった。
脳内で、このシーンに至るまでの彼らの会話や心理描写を勝手に補完する。きっとジークは「すまない」と自分を責め、アークは「あなたのせいではない」と弱々しく微笑むのだ。そしてジークは、その儚い笑顔にさらに胸をかき乱され、独占欲という名の暗い感情をその瞳に宿すに違いない。
「くぅ……っ!」
込み上げてくる感情の波に耐えきれず、私は机に突っ伏した。身をよじり、声にならない悲鳴を噛み殺す。尊すぎて、全身の細胞が歓喜で打ち震えている。周りの学生が、時折奇妙な動きをする私を訝しげに見ている気配がするが、そんなことはどうでもよかった。
三次元の世界なんて、どうだっていい。
私、
腰まである長い黒髪は、いつも邪魔にならないように無造作にひっつめている。度の強い黒縁メガネの奥の瞳は、自分でもよく見えない。服装なんて、オーバーサイズのパーカーにデニムかジャージがあれば十分。それが、私。
昔から、物語の「主人公」になれるような器じゃなかった。教室の隅で、キラキラした男女の恋愛模様を遠巻きに眺めるだけの、いてもいなくても変わらないモブキャラクター。それが私の立ち位置。
それでいい。それがいい。
だって、神の視点から彼らの運命を見守る方が、自分が恋愛するより万倍楽しいのだから。
「……あんた、またやってんの?」
ふいに、隣の席から呆れ果てた声が降ってきた。その声に、私はゆっくりと顔を上げる。
アッシュブラウンに染められたお洒落なボブヘアー。切れ長の目に引かれた完璧なアイライン。今日のファッションも、流行りのシアートップスにカーゴパンツを合わせた、雑誌から抜け出てきたような着こなしだ。
親友の、
「の、乃亜……。見て、これ。イベントの新スチル。雨に濡れたジークとアーク……エモくない?」
「知らんがな。それより、さっきから一人で悶えたり机に突っ伏したり、挙動不審すぎるんだけど。後ろの席の男子、あんたのこと完全にヤバい奴だって目で見てるよ」
「そ、それは……彼らの愛が深すぎたせいであって、私のせいでは……」
「全部あんたの脳内の話でしょ」
乃亜は、こめかみを指で押さえながら、深いため息をついた。高校からの付き合いである彼女は、私のこの奇行にも慣れっこだった。呆れながらも、本気で見捨てたりはしない。私の根っこにあるのが、誰かを(BL的に)幸せにしたいという、謎の利他主義精神であることを、誰よりも理解してくれている、唯一の親友だ。
「大体、あんたはさぁ。もうちょっと現実を見たら?そんな二次元の男たちにうつつを抜かしてないで、リアルで恋の一つや二つ……」
「無理」
私は、乃亜の言葉を食い気味に遮った。メガネの位置を、人差し指でぐいっと押し上げる。
「断言するけど、私に三次元の恋なんて天地がひっくり返ってもありえない。そもそも、考えてもみてよ。現実の男の人と付き合うとか、どういうこと?手を繋いだり、デートしたり、キスしたり……解釈違いにもほどがある」
「何がどう解釈違いなのよ……」
「だって、私は『見る』専門なんだよ?私が介入したら、物語が壊れちゃうじゃない。私は、壁!空気!背景!それが私のジャスティスなの!」
熱弁する私を、乃亜は心底どうでもよさそうな目で見ている。その冷めた視線が、なんだか心地よかったりもする。
そう、これでいいのだ。
私は、誰かに恋されることも、恋することもない。安全なガラスケースの中から、美しい男の子たちの恋愛模様を、ただひたすらに愛で続ける。それが私の幸せの形。
そう、信じて疑っていなかった。この時までは。
◇
「……まあ、あんたがそれでいいなら、私は何も言わないけどさ」
乃亜は肩をすくめると、さっさと教科書をバッグにしまった。ちょうどそのタイミングで、講義の終了を告げるチャイムが鳴り響く。蜘蛛の子を散らすように学生たちが教室から出ていく中、私も慌ててスマホをポケットにねじ込み、教科書を閉じた。
「よし、行こっか。学食の新作パフェ、食べたい」
「あんたの頭の中、BLか食べ物のことしかないの?」
「人生の楽しみなんて、そんなもんでしょ」
へらりと笑いながら立ち上がると、乃亜はもう一度、何か言いたげな顔で私を見た。その視線に含まれている感情が、いつもの呆れとは少し違う種類のものであることに、私は気づかなかった。
キャンパスは、講義を終えた学生たちで賑わっている。その人混みを、私たちは縫うようにして歩く。私はと言えば、さっき見たスチルの余韻にまだ浸っていた。
「……それにしても、ジークのあの表情……普段はポーカーフェイスを気取ってるくせに、アークのことになると途端にああなっちゃうのが、たまらないのよ。いわゆるギャップ萌えってやつ?いや、もっと深遠な、魂の繋がりというか……」
「はいはい、わかったわかった」
私の止まらない早口のオタクトークを、乃亜は適当に相槌を打ちながら聞き流している。いつものことだ。この関係性が、私にとっては心地いい。
私が私の世界に没頭していても、乃亜はそれを否定せず、ただ隣にいてくれる。だから私も、彼女のお洒落や恋バナに、ちゃんと耳を傾けるのだ。
そう、乃亜はモテる。告白された回数は両手でも足りないだろう。でも、彼女は簡単にはなびかない。上辺だけの言葉や態度を、その切れ長の目で見抜いてしまうから。
そんな彼女が隣にいると、まるで自分まで格上げされたような錯覚に陥りそうになるけれど、私はちゃんと自分の立ち位置を弁えている。私はモブ。彼女は物語のヒロインになれる子。住む世界が違うのだ。
「……ねえ、栞」
ふと、乃亜が立ち止まった。つられて私も足を止める。彼女は、私の目をじっと見つめていた。その表情は、今までにないくらい真剣で、私は少しだけ戸惑う。
「な、何?急に真面目な顔して」
「ちょっと、あんたに言っとかなきゃいけないことがあって」
改まった口調に、私の心臓が、ほんの少しだけ嫌な音を立てた。まさか、絶交……?私がBLの話しかしなくなったから、愛想を尽かされた……?
ぐるぐると悪い想像が頭を駆け巡る。そんな私の不安を見透かしたように、乃亜は大きなため息を一つ吐いた。
「……別に、あんたのこと嫌いになったとかじゃないから」
「よ、よかった……」
「そうじゃなくてね」
乃亜は一度言葉を切り、まるで何かを確かめるように、私たちの周囲に視線を走らせた。そして、もう一度私に向き直ると、静かに、しかしはっきりとした声で、こう言ったのだ。
「あんた、最近やたらイケメンに見つめられてるけど自覚ある?」
「…………は?」
私の口から、間抜けな声が漏れた。
イケメン?見つめられてる?私が?
脳が、その言葉の処理を完全に拒否した。あまりに現実離れした単語の羅列に、思考がフリーズする。
「え……っと、ごめん、乃亜。もう一回言ってくれる?たぶん、私の耳のフィルターが何かおかしな変換をしたんだと思う」
「だから、そのまんまの意味だって。あんたが、すっごいイケメンに、じーっと見られてるのを、私がこの一週間で三回は見たの。今日も、さっきの講義中も」
「……」
ぽかん、と口を開けたまま、私は乃亜の顔を見つめ返すことしかできなかった。
からかわれているのだろうか。いや、でも、乃亜の目は冗談を言っているようには見えない。本気だ。本気で、そんな突拍子もないことを言っている。
だとしたら、考えられる可能性は一つしかない。
「乃亜……疲れてるのよ。きっと、イケメンの幻覚が見えてるんだわ。わかる、私も推しカプが尊すぎると幻覚見るもん」
「あんたと一緒にしないでくれる?」
私の精一杯の優しさを、乃亜はバッサリと切り捨てた。そして、信じられないものを見るような目で、私に最後の言葉を突きつける。
「いい?幻覚じゃない。これは、現実。……あんた、何か、やらかしたんじゃないでしょうね」
その言葉の意味を、私が本当の意味で理解するのは、もう少しだけ先のことになる。
この時の私はまだ、自分の日常が、愛してやまないBLゲームの世界よりも、よっぽど予測不能で、波乱に満ちたラブコメの舞台になろうとしていることなど、知る由もなかったのだ。
連行された先は、宿泊棟の裏手に広がる人気のない中庭だった。 不意に腕が解放されたかと思うと、ドン、と背中が硬い樹皮に打ち付けられる。太い松の木と、目の前の人体によって逃げ場は完全に塞がれた。「か、輝く……ん?」 月明かりを背負った顔は影になり、表情が読み取れない。ただ、肌を刺すようなピリピリとした緊迫感だけが、鈍感な身にも痛いほど伝わってくる。「……手」「え?」「氷室と繋いでいた手、出して」 短く鋭い命令と共に、視線が右手に突き刺さる。おそるおそる差し出した瞬間、手首を万力のような力で締め上げられた。「っ……!」「……ここか」 懐から取り出されたのは除菌タイプのウェットティッシュだ。親指が掌に押し当てられ、ゴシゴシと執拗に擦られる。まるで、そこに残る奏くんの体温や感触を、皮膚ごと削ぎ落とそうとするかのように。「ちょ、ちょっと輝くん! 痛いよ、そんなに擦ったら……!」「ずっと、繋いでたんだね」「そ、それは……暗くて、危なかったから……」「ふーん。危なかったら、男の手なら誰でも握るんだ?」「違うよ! 奏くんが助けてくれたから……」「奏くん」 ピクリ、と整った眉が不快げに跳ねた。「名前で呼ぶなよ。……あいつのこと」 グイッと腕を引かれ、バランスを崩して胸板に飛び込む。浴衣越しに伝わる体温は驚くほど高く、筋肉の硬さがダイレクトに触れた。脳内で警報音がけたたましく鳴り響く。距離が近い。近すぎる。恋愛経験ゼロの身には、もはや致死圏内だ。「……嫌だ」 耳元で低く唸る声が鼓膜を震わせる。「栞が他の男を見るのも、触れるのも、名前を呼ぶのも……全部、嫌だ」 それは今まで聞いたことがないほど幼く、けれど切実
木々の切れ間から灯りが見えてきた。ゴールの神社だ。鳥居の下、懐中電灯の明かりが揺れている。「あ、着いた……」 安堵の声が漏れる。やっと、このドキドキする吊り橋効果から解放される。 そう思った瞬間だった。 鳥居の陰から、ゆらりと人影が現れた。逆光で顔は見えない。でも、その立ち姿だけで誰だか分かってしまった。ポケットに手を突っ込み、少し首を傾げてこちらを見下ろす、長身のシルエット。「……遅かったね」 低く、地を這うような声。空気の温度が一気に氷点下まで下がる。「輝くん……!」 駆け寄ろうとするが、繋がれたままの右手が引き止める。ハッとして振り返ると、奏くんは逃げも隠れもせず、真っ直ぐに鳥居の下の人物を見据えていた。「……天王寺」「よう、氷室」 輝くんが、ゆっくりと歩み寄ってくる。懐中電灯の光が、下から顔を照らし出した。 笑顔だ。完璧な、美しい、王子様の笑顔。 だが瞳は笑っていないどころか、ハイライトが完全に消え失せている。唇の端だけが吊り上がったその表情は、まさに「般若」。「ずいぶんと楽しそうだったね?」 視線が、私と奏くんの「繋がれた手」に固定される。瞬間、笑顔がピキリとひび割れたように見えた。「お化けなんて出なくても、十分スリル満点だったみたいじゃないか。……ねえ?」 ヒッ、と喉が鳴る。激怒している。レベルマックスの嫉妬だ。「さあ、こっちにおいで。栞」 差し伸べられた手はエスコートではなく、「回収」の合図だった。 奏くんの手が、一瞬だけ強く私を握りしめ――そして、ふっと力を抜いた。「……行け、月詠」 小声で告げられる。弾かれたように手を離し、輝くんの元へと駆け寄った。 腕を掴まれると同時に、痛いほど強く引き寄せられる。そのまま肩を抱かれ、威嚇するように奏くんを見下ろした。「ご苦労だったな、氷室。…
砂利道は徐々に登り坂になり、鬱蒼とした木々の枝がトンネルのように頭上を覆う。懐中電灯の頼りない光だけが、世界を切り取っていた。 静かだ。虫の音さえ、私たちの気配に息を潜めたように止んでしまった。聞こえるのは、砂利を踏む足音と、少しだけ早くなっている私の呼吸音だけ。(……意識、しちゃうなぁ) こっそりと、繋がれた手を見つめる。 すらりと指が長く、冷たそうな見た目をしているのに、触れると驚くほど温かい。骨ばった関節の感触や、少し大きめの掌。現実はゴツゴツとしていて、男の人なのだと実感させられる。「月詠」 不意に名を呼ばれ、肩が跳ねた。「は、はいっ」「……そんなに緊張しなくていい。取って食ったりしない」「別に、緊張なんて……してないよ?」「嘘だな。手が汗ばんでいる」「うっ……! そ、それは暑いからで……!」「そうか。ならいいが」 彼はそれ以上追及せず、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩を進めてくれる。その沈黙が優しくて、どこか居心地が悪くて。紛らわすように話題を探した。「そ、そういえば! 奏くん、お父さんとは……その、仲悪いの?」 口に出してから地雷だと気づいたが、奏くんは怒る様子もなく、ふう、と息を吐いた。「仲が悪いというより……俺が一方的に反発しているだけだ」「反発?」「父は優秀な研究者だが、家庭人としては落第点だ。母や俺のことなど、自分の研究対象の一部くらいにしか思っていない」 淡々とした口調に、深い諦めが滲む。教室で万年筆のことを暴露された時の、傷ついたような表情が脳裏をよぎった。「俺は……あんな風にはなりたくない。大切な人を蔑ろにして、自分のエゴだけを押し付けるような大人には」 奏くんが足を止め、ふと夜空を見上げた。木々の隙間から、わずかに星が瞬いている。「だから、俺は&hell
旅館の裏手には、鬱蒼とした杉林が広がっていた。月明かりも届かない山道は、足元の判別すらつかないほど暗い。風が木々を揺らす音が、正体不明の何かの囁き声のように耳へ絡みつく。「うぅ……暗い……怖い……」 両腕を抱きしめ、ガタガタと震えながら足を運ぶ。 修羅場の緊張感など一瞬で吹き飛ぶほど、原初的な闇への恐怖が支配していた。どこからか白い手が伸びてきたら。落ち武者の霊が目の前に現れたら。「……月詠」 隣を歩く奏くんが、静かに声をかけてきた。懐中電灯の明かりが、彼の足元だけを白く切り取っている。「大丈夫か? 歩くのが遅れているが」「ご、ごめん……足がすくんで……」「……そうか」 奏くんが足を止め、振り返る。暗闇の中で、瞳だけが微かに光を宿していた。少し躊躇うように視線を泳がせた後、意を決したように手が差し出される。「……掴まれ」「え?」「足元が危ない。……それに、震えているだろう」 ぶっきらぼうな口調。だが、声色には隠しきれない優しさが滲んでいる。差し出された手は大きく、骨ばっていた。 輝くんとの約束――「あいつに触れさせるな」という言葉が脳裏をよぎる。しかし、この恐怖には勝てない。腰を抜かしてリタイアするよりは、好意に甘える方がマシだ。「……ありがとう」 おそるおそる、彼の手を取る。 ひんやりとしていた指先は、握るとすぐに熱を帯びていった。ギュッと握り返してくる力強さに、不思議と恐怖が和らいでいく。「行くぞ」 手を引かれ、再び歩き出す。 一歩先を行く背中は、昨日まで見ていた「線の細い美少年」のそれとは違っていた。浴衣の肩幅は意外と広く、私を闇から守るように立ちはだかっている。(……頼もしい、かも) 不覚
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