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第462話

Author: 無敵で一番カッコいい
どれほど眠っていたのだろうか。むせ返るような強い酒の匂いで、明日香は意識を取り戻した。

朦朧とする意識のなか、何者かに重くのしかかられ、息苦しさに喘ぐ。首筋には、ひやりと冷たいものが触れていた。

「んっ......」

明日香は苦しげに呻いた。

何かを言おうと唇を開いた瞬間、声は不意に塞がれた。それは嵐のような口づけだった。男の片手はスカートを乱暴にたくし上げるとその内側へと滑り込み、もう片方の手は雪のように白い胸の膨らみを鷲掴みにし、無慈悲に揉みしだく。

明日香は幼い頃から人より発育が良く、その豊満な胸は、片手で到底収まるものではなかった。

男は慈悲のかけらもなく、ただ勝手気ままにそれを弄び続ける。

明日香は痛みに耐え、か細い呻きを漏らすのが精一杯だった。その痛みが、混濁していた意識を徐々に覚醒させていく。肌を撫でる夜気の冷たさに、はっと身を震わせた。

部屋は真の闇に包まれていたが、男にもたらされるこの感触には、あまりにも覚えがあった。

遼一は明日香を嬲るのが常だった。特に、彼女が眠りに落ちている間を狙っては、徐々に力を込め、ついには泣き喚かせるのを楽しんでいた。

明日香が助けを求めて泣き声を上げるたび、男は止めるどころか、かえって興奮を増し、より一層激しく彼女を貪るのだった。

やがて全身から力が抜け、彼のなすがままに身を委ねるしかなくなる。

どうやって部屋に入ってきたのだろう。ドアは防犯性の高いものに替え、暗証番号も変えたはずなのに。

彼女は男の胸を力の限りに叩き、掠れた声で懇願した。

「もう......やめてっ!」

だが、その声は拒絶というより、むしろ甘えているかのように響いた。

遼一は明日香を解放するつもりなど毛頭なく、彼女の唇を貪りながら、腰の金属バックルを外し、ジッパーを引き下ろした。

不意に唇が解放されたかと思うと、すぐさま両手首をまとめて掴まれ、頭上へと縫い付けられた。荒い息遣いが、耳元で甘く囁くように響く。

「......兄さんを、助けてくれよ。ん?」

明日香の胸が激しく波打つ。太腿の間に押しつけられた硬い熱塊が、ぐり、と蠢くのを感じた。

遼一はかつて明日香を「名器」だと評した。何度体を重ねても、まるで処女のように瑞々しい、と。

彼女と交わっている最中に果てることができたなら本望だ、とさえ言った。

閨では、
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