Masuk彼氏と結婚の話まで進んだのに、なんか違うしいろいろ上手くいかない。 このまま結婚して大丈夫なのかな? そんな私の愚痴を黙って聞いてくれる同僚の江藤くん。 「あのさ、俺が結婚式に乗り込んで、ちょっと待ったー!って奪いに行ってあげようか?」 なんだそりゃ。 そんな優しい冗談を言ってくれるのは江藤くんくらいなものだよ。 辻野 萌(26) 私は今、超絶悩んでおります!
Lihat lebih banyak同期が次々と結婚していく。結婚式の写真がSNSに流れてくるたび、「またか…」なんて思いながら、いいねを押す。その指は妙に重い。
日頃連絡を取っていない同級生から、突然届いたメール。
「結婚しました(ハート)」
その絵文字がやけに眩しくて、スマホの画面をそっと伏せた。
おめでとう。
もちろん、そう思ってる。でも、心のどこかで、やばいなとも思ってる。
辻野萌、26歳。26って、こんなに焦る年齢だったっけ?
まだまだ遊んでても大丈夫じゃない?そうは思いつつも、アラサーに突入しているのだ。それに、周りは次のステージへ進んでるのに、私はまだ準備すらできてない。
彼氏の一人くらい、いて当然みたいな空気。そんな空気に、合わせちゃったりして。
「彼氏がさ〜」っていう愚痴のような惚気話に、「そうそう、そうだよねー。わかるー」なんて、さも自分も経験済み、みたいな顔して。
そして家に帰って落ち込む。
私は一人なのだ。彼氏を取っ替え引っ替えとか、そういうのはいらない。一人でいいんだよ。でもその一人が、どうしてこんなにも見つからないのか。
出会いがないわけじゃない。私だって合コンに行くし、友達から紹介されたこともあった。でも、ピンとこないのだ。まだ大丈夫って、気づけばもう26歳。
まだ26歳?
どっちだろう?ズルズルと時間だけが過ぎて、気づけばこの歳。何かを待ってるようで、何も始まってない。この状態に焦りを覚えている。
でも、どうしていいかわからない。
そんな夜が、またひとつ増えていく。そんな嫌な気持ちを抱えたまま始まったデートは、いつも通りノープランだった。私が「ここ行かない?」と提案し、「これ食べたいな」と言う一方的なもの。正広は機械のように、「いいよ」とだけ返す。まるで、私の言葉にただ従っているだけ。義務で一緒にいるんじゃないかと思うほど、彼の態度は淡々としていて、しらけてしまう。会話も盛り上がらない。これって、本当にデートって言えるのかな。そして、出かけた後に時間が余ると、決まって連れて行かれるのは、正広の家。彼は実家暮らしで、お母さんは専業主婦。日曜ともなれば、お父さんも家にいる。最初に訪れたときの緊張感は、今でも鮮明に覚えている。だって彼氏のご両親に会うんだもの。粗相のないように、ちゃんとしなくちゃと思った。正広は私のことをきちんと紹介してくれるわけでもなく、自分でしっかり自己紹介から始めたっけ……。そして今日も、正広は何も気にせず親に「ただいま」と言い、私はぎこちない笑顔で「お邪魔します」と挨拶をした。彼の家族は優しかったけれど、慣れない空気に息が詰まりそうだった。そんな私の緊張に気づくこともなく、正広はいつも通りの顔で隣に座る。その無頓着さが、本当に憎らしいと思った。
実を言うと、こういうことは、今回が初めてじゃない。何度も何度も、同じような目にあってきた。約束の時間を過ぎても連絡はなく、気づけば彼は職場で仕事をしながら談笑している。そんな場面に何度も遭遇するうちに、心の中に小さな波紋が広がっていった。以前、私は勇気を出して、やんわりと伝えたことがある。「そういうこと、あまりしてほしくないな」そのときの正広は、少し驚いたような顔をしてから、パッと真剣な顔つきに変わり、言ったのだ。「可愛い萌を、みんなに自慢したいんだ」その言葉に、私は思わず頬を染めた。 えへへ、可愛い? そんなふうに思ってくれてるんだ。 嬉しいなぁ。ほんの少し、胸がキュンとした。その瞬間だけは、悪い気はしなかった。むしろ、ちょっと幸せだった。でも――、何度も同じことを繰り返されるうちに、その「自慢したい」という言葉は、だんだんと空っぽに響くようになってきた。私の気持ちを汲むでもなく、ただ自分の満足のために私を連れ回すような態度。そのたびに、胸の奥にモヤモヤが溜まっていく。あのとき、胸がキュンとなった過去の自分を、今では叱ってやりたいくらい。どうしてそんな、薄っぺらい言葉に揺れたんだろう。今はただ、嫌な気持ちが胸の奥で静かに燻っている。どうにかしたいのに、できないもどかしい気持ち……。
「迎えに行く」なんて言っておきながら、連絡ひとつ寄越さず、約束の時間はとうに過ぎていた。彼女との約束を無視し、そのくせ郵便局で仕事をしているとは、一体どういうことなのか。「……今日、非番じゃなかったっけ?」ぽつりと漏れた言葉は、誰にも届かない。怒りとも呆れともつかない感情を抱えながら、私は郵便局の扉の前を行ったり来たり、所在なげにうろうろしていた。勝手に中に入る勇気はない。だって、私は郵便局員じゃないもの。正広の彼女だからといって、入っても許されるものではないだろう。それに……、私から正広を訪ねていくのは、なんだか負けた気がする。本来の待ち合わせは私の家で、正広が迎えに来ることになっていたのだから。そんな私の葛藤をよそに、ようやく私の姿に気づいたのか、正広がガラス扉をガラガラと開ける。そして、先ほどまで談笑していた同僚に向かって、勝ち誇ったような笑みを向ける。「じゃあ、俺たちはこれからデートだから」 「いやー、羨ましいっすねー」同僚からの、明らかな社交辞令の一言。それなのに、正広は社交辞令と気づいていないのか、誇らしげな顔で私の隣に立った。なに、その顔。 その、ドヤ顔。私は恥ずかしいやら呆れるやらで、ため息しか出なかった。
切れたままの携帯電話を握りしめ、私はしばらくその場で呆然としていた。頭の中にハテナがたくさん浮かぶ。まったくもって理解が追いつかない。約束の意味とは……? はて……?私の家から徒歩一分の距離にある郵便局――そこが正広の職場だが、どうやらとうの昔に着いているらしい。 少しも悪びれることもなく、「歩いて来い」と言い放った正広に、私はもう思考が停止しかけていた。郵便局まで、確かに近い。文句を言うほどの距離じゃない。でも、迎えに来るって言ったじゃないか。約束は約束じゃなかったのだろうか。だったら最初から郵便局集合にしてほしいものだ。ぶつぶつと不満をこぼしながら、私は歩を進める。朝の光に照らされたアスファルトはじんわりと温かいのに、私の心は温度をなくしていくみたいだ。郵便局の敷地、建物の裏側に回る。郵便車やバイクが並んでいるが、正広の姿はない。「中かな……?」私はそっとガラス窓に近づき、反射する自分の顔を避けるようにして中を覗いた。するとそこには、カウンターの奥で同僚と談笑しながら仕事をしている、正広の姿があった。笑っている。それも、とんでもなく楽しそうに。なんでやねんと、ツッコまずにはいられない。この状況が意味不明すぎる。正広の予測不能な行動に、まったくもってついていけない私がいた。