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第608話

Author: 星柚子
「まさか、あの男……何十年も経ったのに、まだ清乃のことを想っているんじゃないだろうな?」健司は今にも爆発しそうな声を出した。「いや、そんなはずはない。あいつはもう結婚して子どももいると聞いている」

「もう、お父さん、考えすぎだよ」奈穂は笑って言う。「お母さんが一生で愛したのは、お父さんただ一人だけだったってこと、誰よりもお父さんが分かってるでしょう?」

「まあ……それはそうだ」

その言葉に健司は嬉しそうにした。だが次の瞬間、目の奥にわずかな寂しさがよぎる。

彼の視線は、デスクの上に置かれた亡き妻の写真へ向けられた。

胸の奥に、鋭い痛みが込み上げる。

自分と清乃は、生涯ただ一人だけを愛した。

けれど――

妻は、あまりにも早く自分のもとを去ってしまった。

奈穂は父が急に黙った理由を察し、胸が少し締めつけられる。「お父さん……」

「もういい」健司は軽く咳払いをし、声を普段通りに戻した。「ほかに用はあるか?これから資料に目を通さなきゃならない」

「ううん……もうないよ」

「そうか。そろそろ昼だ。ちゃんと食事を取るんだぞ」健司は念を押す。「辛いものや冷たいものは控えろ。胃
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