FAZER LOGIN人一倍性欲が強いのに、長い間彼氏がいないドジOLの甘崎りと。マッチングアプリで手痛い失敗をした彼女は、意を決して女性向け風俗のサイトを開く。そこでりとが目を奪われたのは、昼間自分を冷たく叱りつける完璧主義の鬼上司・鷲尾冴臣に酷似したセラピスト〝レイ〟のプロフィールだった――。
Ver mais「はぁ、はぁ……っ、ん……」
お互いの吐息が混じり合う、狭くて、どこか安っぽいビジネスホテルの客室。
部屋の明かりは落とされ、枕元のスタンドライトだけが、不気味にオレンジ色の光を放っている。
「ねえ、もっと力抜いてよ。そっちから誘ってきたんでしょ?」
男の濁った声が耳元で鼓膜を震わせる。
太い指が、りとのタイトスカートの裾を強引に捲り上げていく。ストッキング越しの太ももを撫で上げる手のひらが酷く不快で、りとの背中に一瞬にして無数の鳥肌が立った。どうして、こんなことになってしまったのだろう。
りとは長い間、定まった彼氏がいない。決してモテないわけではなく、何度か付き合った人はいたものの、天真爛漫でドジな性格のせいか、いざ交際が始まると相手から「なんか思ってたのと違う」とあっさり振られてしまい、いつも恋愛が長続きしないのだ。
けれど、りとには誰にも言えない秘密がある。
実は、人一倍、〝性欲〟が強いのだ。 夜、ベッドの中でひとりで処理するだけでは、もう限界だった。身体の芯から湧き上がるような、疼くような渇き。誰かに強く抱かれたい、激しく愛されたい、甘やかされながらとろけるような快感を味わいたいという欲求が、風船のようにパンパンに膨れ上がっていた。その結果、理性を失った彼女が手を出してしまったのが、手軽なマッチングアプリだった。
プロフィール写真がそこそこイケメンで、優しそうなメッセージを送ってきた男。「まずはホテルでゆっくり話そうよ」
その言葉の裏にある意図を分かっていながら、欲求に抗えなかった自分が馬鹿だった。ホテルに入った途端、男は本性を現し、言葉のキャッチボールすらなく強引にりとをベッドに押し倒したのだ。
「んっ……、ちょっと、待って……っ!」
男の唇が、りとの首筋に押し当てられる。じっとりと湿った感触。ちゅっ、という生々しい水音が響き、その瞬間、りとの脳内に強烈な警報が鳴り響いた。
違う。私が求めていたのは、こんな、ドロドロとした、ただ男の欲望をぶつけられるだけの行為じゃない。もっとこう、胸が跳ねるような、愛のある、あるいは極上の快感に溺れさせてくれるような洗練されたセックスのはずだったのに。
「待てないって。ほら、ブラ外すよ」
「いや……っ!」パチン、と下着のホックが外される音が部屋に響いた。
その瞬間、りとの中で恐怖が性欲を完全に上回った。 火事場の馬鹿力とはこのことだろう。「うわっ!?」
りとは渾身の力で男の胸を突き飛ばした。
油断していた男がベッドの上に仰向けにひっくり返る。その隙を見逃さず、りとは乱れた衣服を掻き集め、ベッドから飛び降りた。「おい! 何すんだよ、ふざけんな!」
「ごめんなさいっ……!」脱ぎ捨てられたパンプスを掴み、バッグをひったくるようにして、りとはホテルの部屋のドアを開けた。
背後から男の汚い罵声が聞こえたが、振り返る余裕なんてない。エレベーターを待つ時間さえ惜しく、非常階段の重い扉を開けて薄暗い階段を駆け下りる。ストッキングがどこかで引っかかって伝線していくのが分かったが、構っていられなかった。とにかく、この男から離れなければという一心だった。ホテルのロビーを駆け抜け、夜の街へと飛び出す。
冷たい夜風が、火照った頬と、恐怖でガタガタと震える身体を容赦なく叩いた。 大通りに出て、ネオンの光が眩しい場所でようやく立ち止まる。 乱れた亜麻色のショートヘアを必死に両手で整えながら、りとは大きく息を吐き出した。「はぁ……、はぁ……。死ぬかと思った……」
ぽつりと、夜の街の喧騒に言葉が消えていく。
衣服を整え、パンプスを履き直し、トボトボと駅へ向かって歩き出す。「やっぱ……、マッチングアプリはだめかぁ……」
深く、深いため息が出た。
手軽に寂しさと欲求を埋められると思った自分が浅はかだったのだ。あんな怖い思いをするくらいなら、一生ひとりで悶々としている方がマシかもしれない。いや、でもこの持て余した熱はどうすればいいのだろう。りとは自分の無謀さを深く反省しながら、満員電車に揺られて家路についた。
――そして、翌日。
昨夜の事件のせいで完全に寝不足のまま、りとは重い足取りで出勤した。本人は疲労困憊だというのに、亜麻色のショートカットの髪はいくらブラッシングしても、頑固な寝癖がピョンと跳ねたまま直ってくれない。メイクも心なしかノリが悪い。
「おはようございます……」
営業部のオフィスに入り、小さな声で挨拶をする。
いつもなら「おはよう!」と天真爛漫な笑顔で周りを和ませるりとだが、今日ばかりは覇気がない。同僚たちが心配そうな視線を向けてくるが、まさか「昨夜ホテルから逃げ出して寝不足です」なんて言えるはずもない。「おい、甘崎」
自分のデスクに荷物を置き、パソコンの電源を入れようとしたその瞬間、頭上から絶対零度の声が降ってきた。
りとはビクッと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げる。 そこに立っていたのは、営業部一課の課長――
仕事がめちゃくちゃできて、社長からの信頼も厚いが、その分部下には容赦がない。社内でも恐れられている、いわゆる〝鬼上司〟だ。
「昨日頼んでおいた見積書、まだ俺のデスクに上がっていないんだが?」
「あ、えっと、それは……今すぐやります!」 「今すぐ、ではない。始業前に俺のデスクに置いておくのが、前日に指示された仕事の基本だろう。君の脳みそは、鳥のように三歩歩いたら忘れる仕様なのか?」痛烈な皮肉。相変わらず、言葉のナイフが鋭すぎる。
いつもなら、「すみません……っ!」と心の中で泣いて縮こまるところなのだが、今日のりとは少し違っていた。じっと、鷲尾の顔を下から見上げてしまう。
整った鼻梁、薄い唇。ネイビーのネクタイは寸分の狂いもなく締められ、仕立ての良いスリーピースのスーツが、彼の引き締まった身体のラインを強調している。無駄な脂肪の一切ない、洗練された大人の男の身体。(……怖い。めちゃくちゃ怖い。でも……)
ドクン、と心臓が変な音を立てた。
昨夜、あの下劣な男に襲われかけた反動だろうか。鷲尾の持つ、圧倒的な清潔感と、その裏にある冷徹な大人の男のフェロモンが、ダイレクトにりとの脳を刺激する。ほのかに香るハイブランドの香水が、昨夜の安物の匂いとは対極にあって、ひどく心地よかった。(この人、すごく冷たいけど……めちゃくちゃ色気あるんだよなぁ……)
もし、この冷たくて薄い唇で激しくキスされたら。
この書類を捲る綺麗な長い指先で、私の身体のあちこちをなぞられたら。 いつもは冷酷に命令を下すその低い声で、耳元で甘く淫らな言葉を囁かれたら――。想像しただけで、下腹部の奥がキュンと甘く疼いた。昨夜満たされなかった熱が、ふつふつと蘇ってくるのを感じる。
まさか、毎日のように怒られている鬼上司相手に、朝のオフィスから発情してしまうなんて。「……聞いているのか、甘崎。俺の顔に何かついているか?」
「は、はいっ! いえ、何も! すぐに、すぐに見積書を提出します!」鷲尾の鋭い視線に射抜かれ、慌てて思考を打ち消す。りとは顔を真っ赤にしてパソコンに向かった。鷲尾は「五分以内だ」とフンと鼻を鳴らし、自分のデスクへと戻っていく。
その真っ直ぐで美しい背中を見送りながら、りとは自分の頬が熱を帯びているのを自覚して、机に突っ伏したくなった。けれど、りとの不純な妄想は、彼女自身のドジによってすぐに打ち砕かれることになる。
その日の午後。
オフィスの通路を、大量の会議用資料の束を抱えて歩いていたときのことだった。 昨夜の寝不足と、頭の片隅に居座り続ける鷲尾への邪念のせいで、りとの足元はおぼつかなかった。「あ……っ」
何もない平坦なカーペットの床で、パンプスの先が見事に引っかかる。
お約束のように、りとの身体は前方に大きく傾き、バランスを崩した。抱えていた書類が手から離れ、宙を舞う。「うわあああ!」という情けない悲鳴とともに、りとが床に派手にスライディングする。
バサバサバサッ、と乾いた音を立てて、オフィスのあちこちに散らばる重要書類。静かだった社内に響き渡る音に、全員の視線が一斉にりとへ注がれた。「……何をやっているんだ、君は」
目の前に、塵一つなく磨き上げられた黒い革靴が現れた。
恐る恐る視線を上に滑らせると、そこには、般若のような、いや、氷の彫刻のように冷たい表情でこちらを見下ろす鷲尾が立っていた。黒縁メガネの奥の目が、完全に据わっている。「す、すみません! すぐ片付けます!」
「これで何度目だ、甘崎。君は足元を見て歩くという、幼稚園児でもできることができないのか? それとも、社内に書類の雨を降らせるのが君の新しい趣味か?」鷲尾はため息ひとつ吐かず、ただ冷淡に、事実だけを突きつけるように言った。
周りの社員たちが、同情と呆れの混じった視線をりとに向けている。「この書類には、他社の機密情報や未発表のプロジェクト概要も含まれている。もし紛失したり、部外者に見られたりしたらどうするつもりだ。君の『ドジでした』という一言で済まされる問題じゃない。責任の重さを理解しているのか」
「はい……、本当に、申し訳ありません……」りとは床に膝をついたまま、真っ赤になって必死に書類をかき集める。
鷲尾はそれを手伝うこともなく、ただ冷たく一瞥すると、「三十分後の会議までに一部の欠損もなく揃えておけ」と吐き捨て、そのまま会議室へと歩き去っていった。(……かっこいいけど、やっぱり鬼だ〜〜〜!)
さっきまでの〝ムラっとした気持ち〟はどこへやら、りとは心の中で血の涙を流した。
あの徹底した冷徹さ。あの容赦のなさ。やっぱり、あの人は恋愛対象とか、そういう次元の人間じゃない。ただの仕事の鬼だ。隙なんて一ミリもない。
書類を集め終え、自分の席に戻りながら、りとはこっそりとオフィスを見渡した。
……はぁ。
社内を見回しても、ため息しか出ない。 他の男性社員といえば、髪はボサボサでフケが落ちていたり、スーツのサイズが合っていなくてヨレヨレだったり、デスクの上はお菓子のゴミだらけだったり。優しくて話しやすい人はいるけれど、男としての魅力を感じるかと言われれば、正直、全員が冴えない。(この会社には、あの鬼上司以外に、男として見られる人がいないんだよね……)
それが、りとの悲劇だった。
唯一、圧倒的な色気と男としての魅力を放っているのが、自分を毎日こっぴどく叱りつける鷲尾課長だけなのだ。 でも、あの鬼に優しく抱かれる妄想なんて、現実逃避にもほどがある。絶対にあり得ない。結局、その日は一日中、仕事のミスを取り返すために走り回り、へとへとになって帰宅した。
一人暮らしのオートロック付きアパート。 お気に入りのふわふわの部屋着に着替え、ベッドに大の字になって寝転がる。「疲れた……。でも……」
身体は鉛のように重く疲れているのに、頭の芯はまだ、妙に冴えていた。
昨夜、男に襲われかけて未遂に終わったあの感覚。そして、朝、鷲尾課長に感じてしまった、あのゾクゾクするような背徳的な色気。
それらが混ざり合い、りとの中に眠る〝性欲〟の火に、たっぷりと油を注いでしまっていた。太ももの内側が、じわじわと熱を帯びてくる。下腹部が重だるい。
自分で触ってみても、虚しさが募るだけなのは分かっている。誰かに、もっと極上の技術で、優しく、時には激しく、この身を溶かされるほどに満たされたい。「はぁ……。手っ取り早く、この性欲を解消するなら……」
りとは仰向けのままスマホを手に取り、ブラウザを開いた。
そして、以前、深夜のネットサーフィン中にコラムか何かで見かけた単語を検索窓に打ち込む。【女性向け風俗】
画面には、たくさんの店舗のホームページがずらりと並んだ。
女性向け風俗――通称、女風。 女性が、お金を払ってイケメンのセラピストから極上のリラクゼーションと、疑似恋愛のような甘い時間、そして至高の快感を提供してもらうサービスだ。「本当に、こういうのあるんだ……」
りとはゴクリと唾を飲み込み、検索トップに出てきた、とある大手らしき高級店のサイトをタップした。
黒とゴールドを基調とした、シックで洗練された高級感のあるデザイン。そこには、〝極上の非日常を貴女に〟というキャッチコピーと共に、数多くのセラピストたちのプロフィールが並んでいた。「へぇ、みんなすごくイケメン……。あ、でも、顔ははっきり映ってないんだ」
載っている写真は、どれも首から下のスーツ姿だったり、顔の上半分にボカシが入っていたり、あるいは口元だけがアップになっていたりした。さすがに副業だったり、プライバシーの関係で、セラピストの顔は完全には載せないらしい。
けれど、衣服の上からでも分かる、引き締まった胸板や肩幅のライン。
シーツを掴む綺麗な指先。男らしい鎖骨。ネクタイを緩める仕草。 それらを見ているだけで、りとの心臓の鼓動がだんだんと速くなっていく。自分の奥が熱く疼くのを感じる。「みんな、カッコいいなぁ……。ん?」
スクロールしていたりとの指が、ピタリと止まった。
あるセラピストのプロフィール写真。 その人は、上質な白いシャツに黒いスラックスというシンプルな服装で、カメラに向かって少し斜めに構えていた。顔は鼻から上に薄いモザイクがかかっている。 髪型は、少し長めの、きっちりと整えられた茶髪。そして――何より、りとの目を釘付けにしたのは、その口元だった。
冷たそうに見える、けれど形の良い薄い唇。その右下に、小さな、けれど自己主張するような黒いホクロがあったのだ。「え……?」
りとはベッドの上でガバッと跳ね起きた。
スマホの画面をピンチアウトして、その写真を極限まで拡大する。(嘘……。この雰囲気……)
モザイクで隠れていて黒縁メガネこそ確認できないけれど、その全体の佇まい、シュッとした輪郭、醸し出される冷たくて知的なオーラ、そして何より、あの特徴的な口元のホクロ。
(……鷲尾課長に、めちゃくちゃ似てる……!)
まさか、そんなはずはない。
あの仕事の鬼で、カタブツで、冗談一つ言わないあの鷲尾課長が、こんな夜の街で女性を甘く癒やすセラピストをしているわけがない。会社は副業禁止だし、そもそもあんな冷徹な男が女性に優しくサービスする図なんて想像もつかない。これはただの他人の空似だ。世の中には似た人が三人いると言うし。
分かっている。頭では分かっているけれど。 一度そう思ってしまうと、もう、そのセラピストから目が離せなくなってしまった。食い入るようにプロフィールを読む。
【ハイクラスコース担当:レイ】
【年齢:30代前半】 【特徴:クールに見えて、ベッドの上では非常に情熱的です。日頃のストレスを忘れさせる、大人の極上の癒やしをお届けします。Sっぽいプレイをご希望の方にも対応可能です】「クール……Sっぽい?」
特徴までどこかリンクしてしまうのは、自分の妄想が完全に暴走しているからだろうか。
しかし、りとの中で限界を迎えている性欲と、昼間に課長に対して抱いた〝ムラっとした気持ち〟が、ここでガチリと危険な音を立てて噛み合ってしまった。もし、この〝レイ〟というセラピストが、本当に課長だったら――。
いや、似ているというだけでいい。あの鬼上司そっくりの男に抱かれ、甘くとろかされるなんて、極上の背徳感を味わえるのではないか。普段は絶対に自分を見下しているだけの冷たい瞳が、欲情に歪む姿を想像してしまう。じわっ、と、りとの可愛いお気に入りのショーツが、自分の蜜でしっとりと濡れていくのが分かった。
もう、我慢できない。 昨夜の恐怖なんて、この圧倒的な好奇心と、抑えきれない欲望の前に跡形もなく吹き飛んでしまった。「……よし」
りとは、震える指先で【予約する】のボタンをタップした。
希望日時は、今週末の土曜日の夜。コースは、たっぷりと堪能できる一番人気の百二十分コース。オプションで、ホテルのスイートルーム指定。画面に『ご予約が完了いたしました。当日をお楽しみに』という文字が表示される。
りとはスマホを胸に抱きしめ、トクントクンと激しく打つ鼓動を聞きながら、ベッドに深く沈み込んだ。これが、とんでもない秘密の扉を開くことになるとは、この時のりとはまだ、知る由もなかった。
熱気と甘い匂いが充満するベッドから這い出し、二人はスイートルームに備え付けられた、ガラス張りの広々としたシャワールームへと向かった。 温かいシャワーの湯が、汗と愛液でべたつく二人の身体を優しく洗い流していく。「……背中、流しますよ」 りとはボディソープをたっぷりと泡立てたスポンジを手に取り、鷲尾の広くて逞しい背中をこすり始めた。 先ほどまで獣のように自分を貪り、愛してくれた男の、引き締まった筋肉の凹凸。ところどころに、自分が絶頂の最中につけてしまった爪痕がうっすらと赤く残っていて、りとは少しだけ顔を熱くした。「……あの、課長」 弾けるシャワーの音に紛れさせるように、りとはふと、ずっと気になっていた疑問を口にした。「ん?」「課長って……こういうお仕事をしていて、お客さんのこと、好きになったりしないんですか?」 スポンジを動かすりとの手が、ピタリと止まる。 鷲尾はシャワーヘッドから降り注ぐ湯を頭から浴びながら、少しだけ沈黙した後、きっぱりと答えた。「あり得ないな」「……絶対に、ですか?」「ああ。それどころか、俺は仕事の場以外でも、特定の誰かに恋愛感情は抱かないようにしている」 振り返った鷲尾の顔は、湯気に包まれて少しぼやけていたが、その切れ長の瞳だけは真剣な光を帯びていた。「もし、特定の誰かを好きだという感情を持ってしまったら……こうしてプロとして客に施術をするたびに、その好きな相手に対して、強い裏切りと罪悪感を覚えるようになるだろうからな。自分の心が別の誰かにある状態で、目の前の客に愛を囁くなど、セラピストとしての矜持が許さない。俺は常に、プロとして完璧なパフォーマンスを提供したいんだ」 それは、極めて論理的で、いかにもプロフェッショナルな彼らしい答えだった。 けれど、りとの耳には、その言葉がどこか〝自分自身に強く言い聞かせている〟ように聞こえた。 絶対に恋愛はしない。してはいけないのだと、見えないルールで自分をきつく縛り付けているような、そんな不器用な響き。 りとは少しだけ胸の奥がチクリと痛むのを感じながらも、わざと明るい声を出した。「なるほどー。プロ意識の塊ですね。じゃあ逆に、お客さんの方から好きになられちゃうことはないんですか? 鷲尾課長、黙っていればすっごくイケメンですし」「……黙っていれば、とはなんだ」 くるり
鷲尾の腰の動きが、次第にコントロールを失っていく。「あ……っ、甘崎、もう、だめだ……っ、離せ……っ」 限界を悟った鷲尾が、りとの髪を掴んで引き剥がそうとする。しかし、りとは彼から離れるどころか、さらに深く根元まで熱の塊を咥え込み、上目遣いで鷲尾を見つめたまま、舌を激しく絡ませた。「……っ! 出すぞ……っ!!」 ズクンッ、と下半身が大きく跳ねた瞬間。鷲尾の先端から、ドクドクと濃厚な白濁の液体が、りとの口内に勢いよく放たれた。 普通なら吐き出したり、むせたりしてしまうほどの量だ。しかし、りとは眉一つひそめることなく、喉をゴクンと鳴らして、それを一滴残らず飲み込んだ。 そして、ゆっくりと鷲尾の熱を口から解放すると、唇の端にわずかに残った白い液体を、色っぽい舌先でペロッと舐め取った。「ん、おいしっ……♡」 とろけるような笑顔と、淫らな台詞。 その光景を見た鷲尾の中で、何かが完全に弾け飛んだ。「……お前は、本当に……っ」 たまらないといったふうに低く呻くと、鷲尾は一瞬で攻守を逆転させた。りとの肩を乱暴に掴み、ベッドのシーツへと押し倒す。「きゃっ……」「たっぷり可愛がってやると言ったな。……俺をここまで煽った責任、きっちり身体で取らせてやる」 鷲尾の目は、完全に飢えたオスのそれだった。 彼は猛獣のような手つきで、りとのフレアスカートを勢いよく脱がせ、愛液でぐっしょりと濡れたレースの下着も一瞬で剥ぎ取った。 露わになったりとの白い肌。その中心にある、すっかり準備を整えてテカテカと光る秘所を目にして、鷲尾の喉仏がゴクリと鳴る。「こんなに濡らして……いやらしい女だ」 鷲尾は顔を沈め、りとの蜜壺を直接舌で貪り始めた。「ああっ……! か、ちょ……そこ、だめぇっ……!」「だめなわけないだろう。さっきの強気はどこへ行った」 鷲尾の舌使いは、先ほどのりとの奉仕を何倍にもして返すような、執拗で情熱的なものだった。最も敏感な真珠の粒を舌先で器用に弾き、溢れ出す蜜をジュルジュルと音を立てて飲み込んでいく。「ひゃああっ! あ、やだ……おかしく、なっちゃう……っ!」 りとの背中が大きく反り返り、シーツを掴む手に力がこもる。 彼女がガクガクと身体を震わせ、一度目の絶頂を迎えた直後――鷲尾は一切の容赦なく、長くしなやかな指を、りとの濡れそぼった奥深くへと一
観覧車のゴンドラ内で交わされた、熱く、貪るようなキスの余韻。 それは、りとの身体の奥底に眠っていた強烈な性欲の炎に、これ以上ないほどの油を注ぎ込んでいた。 遊園地からハイクラスホテルへ向かうタクシーの中でも、りとは鷲尾と隣り合って座るだけで下腹部がじんと熱を帯び、太ももの内側が疼いて仕方がなかった。 長年長続きしない恋愛ばかりを繰り返し、満たされることのなかった身体の欲求。それが今、この隣に座る完璧な鬼上司によって、限界まで引き上げられているのだ。 ホテルの最上階。予約していた重厚なスイートルームの扉が閉まり、外の喧騒が完全に遮断された――その瞬間だった。「さて、甘崎。まずはシャワーを……」「だめ。シャワーなんて浴びてる余裕、ありません」 いつもならレイ――鷲尾がスマートにエスコートし、彼の手主導で極上の時間が始まる。 しかし今日ばかりは、りとの方が完全に理性を手放していた。 真っ白なダッフルコートを床に乱暴に脱ぎ捨てると、りとは鷲尾のダークグレーのタートルネックの胸ぐらを両手でむんずと掴み、部屋の中央にあるふかふかの巨大なベッドへと彼を乱暴に押し倒したのだ。「なっ……! おい、甘崎……!」 不意を突かれた鷲尾は、されるがままにベッドの端に腰を下ろす形となった。 見下ろしてくるりとの瞳には、天真爛漫なドジっ子部下の面影など微塵もない。そこにあるのは、完全に発情し、オスを求めるメスの熱を帯びた、酷く色っぽい色情の光だった。「……最初にデートしたの、大正解でしたね」 りとは、鷲尾の膝の間に自分の身体を割り込ませるようにして立ち、彼の顔を至近距離から覗き込んだ。「今日一日、遊園地でずっと、ず〜っと焦らされちゃってて。手なんか繋がれたり、優しくされたりして……」 甘く掠れた声で囁きながら、りとは自分の穿いているフレアスカートの裾を、ゆっくりと、見せつけるように太ももの上まで捲り上げた。 現れたのは、淡いピンク色の繊細なレースの下着。 しかし、そのクロッチ部分は、すでに彼女自身の身体から溢れ出した愛液によって、ぐっしょりと濃い色に染まり、太ももの内側にまで透明な蜜が伝い落ちていた。「私、もうここ……すごいことになってますよ」 りとは、自分の指先で、濡れそぼった下着の谷間をツゥッと扇情的に撫で上げた。 クチュッ、と卑猥な水音が、静か
クリスマスイブ当日。 抜けるような冬の青空の下、都心から電車で一時間ほど離れた場所にある大型遊園地のメインゲート前は、カップルや家族連れで溢れかえっていた。 どこからか流れてくる陽気なクリスマスソングと、遠くで響くジェットコースターの悲鳴。 りとは、新調した真っ白なファー付きのダッフルコートに身を包み、待ち合わせ場所の時計台の下でそわそわと周囲を見回していた。「お待たせいたしました、甘崎様」 ふいに背後から、耳を撫でるような低い声が降ってきた。 振り返ると、そこには息を呑むほど洗練された私服姿のレイ――鷲尾冴臣が立っていた。 上質な黒のチェスターコートに、首元を隠すダークグレーのタートルネック。 いつもはきっちりとワックスで撫でつけられている茶髪が、今日は無造作に下ろされており、黒縁メガネの奥の切れ長の瞳が色っぽく細められている。 すれ違う女性たちが、思わず二度見してしまうほどの圧倒的なオーラだった。「レイさん……っ! かっこいい……」「ありがとうございます。今日は一日、最高のクリスマスにしましょうね」 完璧なセラピストの微笑みを向けてくれる彼。 しかし、りとはコートのポケットの中で両手をぎゅっと握りしめ、意を決して顔を上げた。「あの! レイさん! 今日も、お願いがあるんです!」「……なんでしょうか」「この前のホテルみたいに、今日も……〝鷲尾課長〟として、私とデートしてください!」 ピタリ、と。鷲尾の完璧な微笑みがフリーズした。 ほんの数秒の沈黙の後、彼は黒縁メガネのブリッジを中指でスッと押し上げ、深い、深いため息を吐いた。「……正気か、甘崎。わざわざ高い特別料金を払ってまで、クリスマスの休日に上司から説教されたいのか」「はい! 私、課長と遊園地デートがしたいんです!」 満面の笑みで答えるりとに、鷲尾は「君の思考回路は本当に理解できん」と頭を抱えた。しかし、プロの矜持ゆえか、すぐに纏う空気を〝絶対零度の鬼上司〟へと切り替えた。「……いいだろう。なら、遅れずについてこい」「はいっ! よろしくお願いします、課長!」 こうして、世にも奇妙な〝鬼上司とドジっ子部下の遊園地デート〟が幕を開けた。 ゲートをくぐると、目の前には巨大なクリスマスツリーと、メルヘンチックな街並みが広がっていた。りとは完全にテンションが振り切れ、小





