LOGIN第5章
「brat(わがままなガキ)みたいに振る舞って、それで生き残れるとでも思っているの、カイヤ?」
電話の向こうから聞こえるアジエルの声で、私は思考の海から引き戻された。心底がっかりして、私は目を回した。
「さっき私が言ったこと、聞いてなかったの?」私は言い放った。「全部が私のせいじゃないわ。あんな反応をしたのは彼女のほうよ。私は何も仕掛けてない。自分の部屋で大人しくしていたのに、急に彼女が押しかけてきたのよ」
苛立ちを隠せないまま髪をかき上げ、道路を見つめた。何もかも置いて出てきたけれど、車のキーだけは忘れてしまった。家の中には戻れない――叔母がまだ怒り狂っているだろうし。叔母が頭を冷やして、この家が私のものだという事実を認めれば、あとで取りに行けばいい。
「で、今はどうするんだ?」アジエルが言った。「カイヤ、俺も今、ひどいことになってるんだ。お前を助けたいけど、できないんだよ。ここに釘付けでさ。親父が外に出してくれないんだ。かなりやらかしちまって、これが親父なりの罰なんだよ――」
「あんた、十六歳なの?」私は笑った。一度深呼吸をして、誰もいない通りを見回した。「ハッキリ言ってよ。迎えに来るの、来ないの? 蚊に食い殺されそうなんだけど」
彼が深く溜息をつくのが聞こえた。どうなるかは分かっていた。彼は迎えに来る。いつもそうだ。もし来なければ――友情は終わりだ。
「ごめん」と彼は静かに言った。「無理だ、カイヤ」
私はあんぐりと口を開けた。「何よ!?」と叫ぶと、通りすがりの人々が何事かとこちらを見た。私は自分を落ち着かせようと努めた。「何て言ったの? 迎えに来られないって? なんで?」
彼が再び溜息をつくと、私の眉間の皺はさらに深くなった。こんなことは初めてだった。友達付き合いをして何年も経つけれど、彼に断られたのはこれが初めてだ。
「待って……」私は言葉を濁し、片方の眉を上げた。「もしかして、女でもできたの?」
彼はすぐには答えなかった。
私は驚きのあまり、さっきよりも大きく口を開けた。大げさに唇を覆う。「なんてこと。アジエル。もしかして、親父さんが怒っているのってそのせい? まさか、まさか――誰かを妊娠させたの?」
「避妊くらいしてるよ」と彼は言い返した。
「じゃあ何よ?」と私は追及した。「あんたはもう子供じゃないんだから。女の子を家に連れ込んだくらいで親父さんが大騒ぎするわけないでしょう。いいから本当のことを言って。あんたが私の邪魔をするための言い訳でしょ。本当は何があったの? 数日滞在したら、自分の家に帰るから」
その時、一台の車が私の目の前を猛スピードで走り抜けていった。危うくバランスを崩しかけ、苛立ちは頂点に達した。本気なの? ここが高速道路じゃなくて住宅街だってことすら知らないの?
「どうした?」アジエルが尋ねた。
「馬鹿が轢き殺そうとしてきたわ」私は毒づいた。「道路の端にいたのに。まるでわざとぶつけようとしたみたいだった」私は走り去る車を一瞥した。「外して残念だったわね。もう一回やり直そうとするかしら?」
アジエルが私のジョークに嫌悪感を示した。私は肩をすくめて視線をそらした。車は立っていた場所からそう遠くないところに止まったが、誰が運転しているかなんて確認する気もなかった。どうでもよかった。正直なところ、今まだ自分が立っていることの方が腹立たしいくらいだ。
「で?」私は聞いた。「本当に無理なの?」
彼は答えなかったが、その溜息がすべてを物語っていた。
「わかったわ」私は言った。「ホテルを予約するから――」
「その必要はない」と彼は遮った。
私は目を回した。「あらそう?」
「俺の従兄弟が近くにバーを経営してるんだ。新しくできた店でな。そこに予備の部屋がある。今そこへ行けばいい。お前のところへ行くのも楽になるし」
私は顔をしかめ、短く笑った。「バー? 私にバーで寝ろっていうの?」
「ただのバーじゃない」と彼は冷静に言った。「従兄弟は金持ちなんだ。安全だよ。あいつは今フランスにいるが、お前を泊めるよう言っておくから」
私は腕を組んだ。「私の部屋に、見知らぬ男が入り込んできたりしないって確約できる?」
「安全だよ、カイヤ」
私は溜息をつき、姿勢を整えた。「分かったわ。いつ来るの? 本当に誰かと話がしたいのよ」
実際には悲しくなんてなかった。悲しむ理由なんてある? 私が一番嫌いだった人間は、何年も前から私の人生から消え去っていたのだから。むしろ安堵感の方が強かった。けれど、父親が刑務所に入って幸せだなんて、周囲に触れ回るわけにはいかない。そんなことをしたら――叔母のように――私が通報したのだと思われるだけだ。
「ここを片付けたらすぐに行く」アジエルが言った。「それまで持ちこたえてくれ。パーティーでもしてていいよ。従兄弟のスタッフに、お前を見ておくように言っておくから」
私は顔いっぱいに笑みを浮かべた。「それよ、それを待ってたの。ほらね? あんたが私の親友なのはそういうところよ。忘れないで――」
「行くよ」と彼は遮った。「まずはこの女をどうにかしなきゃいけないんだ」
私は眉を上げた。「女? どの女よ?」
彼は、私に話すべきかどうか迷っているような溜息をついた。「いいから、アジエル。私たちが親密じゃないみたいな態度はやめて。誰にも言わないから」
「分かったよ」彼は折れた。「一ヶ月前くらいに知り合ったんだ。バーで声をかけてきてさ。誘惑してくるし、可愛いし……あれよあれよという間に――」
「いいわ、ストップ」私は遮った。「詳細は聞きたくない。何が問題なの?」
私は世間知らずじゃない。彼が何を言おうとしているのか、痛いほど分かった。
「彼女にはすでに彼氏がいるって分かったんだ」と彼は言った。
私は危うく倒れそうになった。
「最悪」私は呟いた。「あんた、頭使って考えたの!?」
彼は再び溜息をついた。いいことだ。後悔して当然なんだ。
「お前が浮気する奴を大嫌いなのは知ってるけど――」
「だけど何よ?」私は言い放った。「あんた、相手がいるって知ってて関係を持ったの? アジエル、あんたがここまで馬鹿だなんて思わなかったわ」
一台のバイクが通り過ぎ、運転手が私を正気じゃないものを見るような目で見ていた。私は睨み返してから、通話に集中した。
「お願いだから、今すぐ別れなさい」私はきっぱりと言った。「信じられない。あんたは浮気がどれだけ最低か知っているのに、それなのに――」
「待て」彼が遮った。「最初は知らなかったんだ。もし知っていれば、すぐに終わらせていたさ。俺がそんなに愚かじゃないことは知ってるだろ」
私は安堵の息を漏らした。「よかった。今すぐ終わりにして――彼女の彼氏にバレる前にね。いや、いっそ彼氏に伝えてやりなさいよ。彼はそんな仕打ちを受ける謂れはないんだから」
彼は黙り込んだ。
「……何か変なこと言った?」私はゆっくりと尋ねた。
「これを解決したら全部説明する」と彼は言った。「とりあえずは従兄弟のバーにいなよ。すぐに行くから」
私は溜息をついた。何か裏があるのは分かったが、それ以上は追求しなかった。
「話が片付いたら電話して」私は言った。「少し歩いてからタクシーを拾うわ」
「本当に行きたいんだが――」
「いいわよ」私は遮った。「自分の問題を先に片付けて。また後で」
誰かと話がしたいのは確かだったけれど、彼を無理強いするつもりはない。お互い、自分たちの面倒事だけで手一杯なのだ。
「埋め合わせはするから」と彼は優しく言った。
私は笑った。「酒をおごりなさいよ。それじゃ、また。後で電話して」
私の顔から笑みが消えたのは、見覚えのある三つの影がこちらへ向かって歩いてくるのに気づいたときだった。
私は気づかないうちに通話を終了していた。
先ほど私を轢きそうになった、あの車の乗客たちだった。
彼らの車は近くに駐車されていた。道路の向かい側の家の呼び鈴を鳴らしたようだが、返事はなかったらしい。
「おい。そこのお前」女が怒鳴った。
私は唾を飲み込み、後ろを振り返った――念のために。
他に誰もいなかった。
彼女を知っている。よく知っている。一緒にいる二人の顔も知っていた。有名で、権力のある人たちだ。
「私?」私は尋ねた。
彼女は鼻で笑うと、私に向かって突進してきた。連れが止めようとしたが、失敗に終わった。私は眉をひそめた。彼女は超ハイヒールを履いているのに、まるでフラットシューズでも履いているかのように私に向かって走ってきた。
信じられない。
「このまま逃げ切れるとでも思ったの?」彼女は吐き捨てた。「どれだけ厚顔無恥なのよ? よくもまあ、そんな図々しい真似ができるわね」
私は背筋を伸ばし、彼女の怒りの籠った視線を受け止めた。「悪いけど、何の話か分からないわ――」
「あんた!」彼女が叫び、私の髪に手を伸ばした。
私は間一髪で避けた。「この破廉恥な女!」彼女が怒鳴る。「なんで私の従兄弟を裏切ったのよ!?」
私はあんぐりと口を開けた。
自分自身を指さした。「彼氏ですらない相手を、どうやって裏切るっていうのよ?」
彼女は動きを止めた。
何が起きたのかを悟り、彼女の瞳が見開かれる。
「あ……あんた、ディランの恋人じゃないの?」
第40章R18. 成人向けコンテンツ注意。「まだ早いのに。どうして急に迎えを頼んだの?」私はディランに答えなかった。その代わり、シートベルトをカチッと留めることに集中した。十分前に彼にメッセージを送ったら、彼はもうここにいた。一晩中私を尾行していたのではないか、すぐ近くで身を潜め、私がメッセージを送るのを待って、まるで輝く鎧を着た騎士のように颯爽と現れたのではないか——そんな考えが頭をよぎった。それを突っ込んでやりたかったが、正直なところ、今の私にとってそれは一番どうでもいいことだった。ブリエルの声がまだ頭の中で反響していた。「なんでそんな暗い顔をしてるんだ? 何かあったのか?」彼は再び尋ねた。私は長く重息をつき、座席の上で身じろぎした。首を横に振ってシートにもたれかかり、本当の会話を避けるように窓の外を見つめた。彼が同じようにイラ立ったため息をつくのが聞こえ、思わずちらりと彼に視線をやった。彼はすでにエンジンをかけ、前方の道路に視線を据えていた。彼を観察していると、私の唇がわずかに曲がった。彼はまるでベッドから起きたばかりのようだった——さっきと同じ服で、髪はぐしゃぐしゃで、眠たげに少し重そうな目をしていた。罪悪感が胸をチクリと刺した。もしかしたら彼は本当に起きたばかりで、私信じて駆けつけてくれたのかもしれない。「見つめてるぞ……」彼がそう口にした瞬間、私は慌てて目を逸らし、心臓がドキリと跳ねた。気まずそうに咳払いをして、再び窓の外を見た。見事に現行犯で捕まったわけだ。「いいから運転して。家に帰りたいの」私は呟いた。「何かあるな」彼は言った。それは質問ではなかった。彼は私のことを分かりすぎている。また彼がため息をつくのが聞こえた。話題を変えさせようとしたその時、彼の手が私の上に重なるのを感じて私は凍りついた。「なんだ? 俺に話してくれ」彼はハンドルから片手を外し、私の手にしっかりと重ね合わせた。私は再びちらりと視線を送り、驚
「どこに行くんだよ?」ディランの声に、私は髪を梳かしていたブラシを止めてその場で固まった。自分の鏡越しの姿に見とれていたせいで、彼がいつの間に部屋に入ってきたのかも気づかなかった。私は鏡越しにちらりと彼を一瞥してから再び髪に意識を戻し、適当に肩をすくめた。「バーよ」と、私はそっけなく答えた。「うちにも酒はあるけど」私はすぐには答えなかったが、一拍置いてから首を横に振った。「ただ気分転換したいのよ。家から出たいの。実際に外へ飲みに行って、ただ……普通に過ごすなんて、しばらくしてないし」近づいてくる彼の足音が聞こえたので、私は手を動かすペースを上げた。この会話で彼の説得に乗せられるわけにはいかなかった。ガラス越しに彼の姿が背後に映る。彼は手を伸ばし、私の背中――あえて露出の多いバックレスのドレスを選んでいた――に沿って、ゆっくりと、軽く指を這わせた。「ディラン、もう行くからね」彼の思考の向かう先を察知して、私は釘を刺した。彼は低く、息を含んだ笑い声を漏らした。「何もしないって」と彼はからかうように言ったが、その目はまったく違うことを物語っていた。私はただ目を白黒させた。確かに、いまのところ「何にもしていない」かもしれない。でも、あらかじめ予防線を張っておきたかったのだ。そうしないとどうなるか、私には分かっていたから――彼の「邪魔」のせいで、結局玄関のドアすら出られないまま終わるのがオチだった。正直、彼は少し調子に乗りすぎていた。まるでこれがすべてただの芝居だということを忘れているかのようだった。ここには私たちの「おままごと」を監視するブリエルなんていないのだから。「僕も一緒に行こうか、それとも……?」私は再び肩をすくめた。「一人になりたいの。すぐ戻るから心配しないで。ちょっと一杯引っかけてすぐ帰るだけだから」と、私はできるだけ何気ない口調で告げた。「どうして? もう僕に飽きたわけ?」私は大きくため息をついて彼に向き直り、片方の眉をひそめた。「私を罪悪感で縛りつけて一緒に来ようったって、そうはいかないわよ。ねえ、私はただ気
ブリエルが激怒しているのを、私はまばたきもせずにじっと見つめていた。私をここで見つけて、彼女は完全に動揺していた。数秒後、私は大きく息を吸い込み、さりげなく、どうでもよさそうに肩をすくめた。「えっと……ここに寝泊まりしてるけど? 見れば分かるでしょう? 起き抜けなのも一目瞭然なのに、わざわざ聞くなんてね。あんたって目が悪いのそれともただ頭の回転が遅いだけなのか、正直分からないわ」あくびがこみ上げるのを抑えきれずに私は言い放った。私はまだものすごく眠かった。彼女のせいで睡眠を邪魔されたし、むしゃくしゃして彼女に一言文句を言ってやりたい気分だった――あわよくば、その髪の毛を引っ張ってやりたいくらいにイライラしていた。「他の男の家に泊まるなんて? このクソビッチが――」「このクソ浮気女が!」私は彼女の言葉を遮った。眉をつり上げ、彼女を鋭く睨みつける。「私が何か悪いことでもしてるみたいな言い方しないでよ。ディランのここに泊まって何が悪いの? 私たちが付き合ってて何が悪いの? 確認したけど、彼はフリーよ。あんたたちは別れたんでしょ……だから自分の立場をわきまえなさいよ、分かる?」私は深く息を吸い込み、心の中で自分を落ち着かせた。彼女はまるで私が彼女の男を寝取った泥棒猫でもあるかのような口の利き方をして、私の忍耐力をこれでもかと試していた。その図々しさには呆れるしかなかった。「じゃあ、本当なの……」私は彼女に視線を戻した。彼女は何度かまばたきをし、ディランと私の間を交互に見つめてから、ようやく言葉をしぼり出した。「アジエルが見せてくれたあの記事……あれ、本当なの!?」私はごくりと唾を飲み込み、何食わぬ顔で冷静なため息をついた。「記事? 何の話をしてるのよ?」私はとぼけた。その記事のことを知っていると知られては困る。特に、ディランが私に隠そうとしていたのだからなおさらだ。もし私が知っているとバレたら、彼が留守の間に彼の携帯電話を勝手にのぞき見したことがバレてしまう。許可なく彼の私物に手を出すような女だと思わ
「お義母さん、ここで何してるのよ!?」私はヒステリックな小声で叫びながら、大きく見開いた目でガバッと上体を起こした。慌てて掛け布団を引き寄せて裸の体を隠そうとしたものだから、ディランがそれを引っぺがしたせいで抗議の声を漏らした。私はすぐに彼を殺すような目で睨みつけた。「声を抑えろよ! 聞かれちまうだろ!」彼の母親は私がここに住んでいることなど知らなかったし、ブリエルに至っては私とディランが「付き合っている」ことなど露ほども知らなかった。こんな姿を見られるわけにはいかない――今だけは絶対に。「どうしてそんなにパニックになってるのよ?」私はディランを見上げ、あごが床に落ちそうになった。彼は何食わぬ顔でベッドから転がり出ると、世の中の悩みなど何もないかのようにボクサーパンツをはき始めた――母親と元カノが自分の部屋のドアのすぐ外で口論を繰り広げているというのに、完全に動じていなかった。「『どうしてパニックになってるか』ってどういうことよ? あなたの母親とブリエルがまさにそこに――」「だから何だ?」彼は私の言葉を遮った。ボクサーパンツ一枚の姿で立ち上がると、まるでバカンス中の男のような落ち着き払った様子でクローゼットへと歩いていった。私たちは昨夜、非常に……忙しかったのだ。その直後に彼の寝室で一緒にいるところを捕まえそうだというのに、彼は汗一つかいていなかった。目玉がついている人間なら、私たちが何をしていたかなんて一目瞭然だろう!私の顔は燃えるように熱くなったが、これ以上パニックの螺旋に陥る前に、ディランが目の前のベッドの上にTシャツとボクサーパンツを放り投げた。彼はたださりげなく肩をすくめた。「君の服は向こうの部屋にあるよ。言っただろ、こういう面倒なことにならないように、ここに自分の荷物を置くようにしなって」彼はそう言ってのけた。私は唇を噛み締め、荒く息を吐き出した。選択肢なんてなかった。彼の服を着たのは一度や二度じゃないし、どうせ着心地がいいのは分かっていた。彼のスウェットパンツはいつもぶかぶかだから、普段は彼のボクサーパンツとオーバーサイズのシャツですませているのだ。
額に落とされた優しいキスで、私は眠りから引き戻された。それが誰かなんて、目を開けるまでもなく分かっていた。このベッドにはディランのほかに誰もいないのだから。彼がそのキスの軌跡を首筋へと這わせたとき、私は思わず小さな声を漏らしてしまった。ようやく無理やり目を開けると、彼はすでに私を見つめており、その唇には柔らかな笑みが浮かんでいた。「おはよ」私はしわがれた声で挨拶し、彼の裸の胸元に顔をこすりつけてあくびをしてから、再び彼を見上げた。「いつから起きてたの?」ディランはただ静か うなずいた。私は唇を尖らせた。「どうして起こしてくれなかったの? 今日仕事じゃないの? 遅刻しちゃうわよ」と私は文句を言いながら離れようとしたが、彼は腕の力を強めて私を再び自分の体に引き寄せた。彼は私をしっかりと抱き寄せ、掛け布団の下で彼の素肌が私の肌に触れている熱を痛いほど意識させられた。私の足に押し当てられる彼の確かな熱を感じて、私はごくりと唾を飲み込んだ。「君が疲れているのは分かっていたからね。ゆっくり眠らせてあげたかったんだ」彼は穏やかに答えた。それに対しては返す言葉もなかった。私は疲れていた――実際、疲れ果てていた。昨晩あんな激しい夜を過ごした後で、疲れない人間なんているだろうか? ディランはスタミナに関しては容赦がないらしく、その代償を支払わされたのは私の方だった。私はうめき声を上げ、再び彼の胸に顔をうずめて、すっかり中毒になってしまった彼の香りを深く吸い込んだ。まったく、彼はなんていい匂いがするのだろう。「仕事はないの?」彼は首を横に振った。「じゃあ、今日の予定は?」と私は尋ねた。ここに住むようになってからもう2週間近くになるが、毎日が……スリル満点だった。彼のそばにいると、人生が退屈しない。警察官の仕事といえば書類仕事と長いシフトばかりだと思っていたが、彼は家にいるときにはいつでも、その不在を埋め合わせるようにしてくれた。正直、申し訳なく思うことさえあった。休日に体を休めるどころか、私が喜びそうな場所にいつも連れ出してくれるのだから。「食料品の買い出しに行かな
第35章「先に少し休んだらどうだ?」ディランの声で私はぼんやりとした意識から引き戻された。見上げると、彼はすでに流しに立ち、忙しそうに皿を洗っていたところだった。私はごくりと唾を飲み込み、ただ彼の動く姿を見つめた。夜の「計画」について彼が口にして以来、私はすっかり席で固まっていたのだ。怖かったのか? 絶対にそんなことはない。楽しみにしていたのか? もしかしたら、そうかもしれない。私は深く息を吸い込み、気まずそうに咳払いをしてようやく立ち上がった。「今からあなたの部屋に行くわね」私は自分の恥ずかしさを隠そうと唇を噛み締めながら言った。「ただ……終わったら上がってきてよ」彼が小さく笑う声が聞こえ、私は顔を見られないうちに慌てて階段へと駆け出した。2階へとほぼ全速力で走り抜け、彼の部屋へと飛び込んだ。ドアを閉めたときにはすっかり息が切れていた。その大半は、自分の緊張を隠そうとするあまりのパニックによるものだった。まったく、本当に恥ずかしかった。私、今「後から来てね」なんて言っちゃった? 誘惑しているみたいに聞こえなかったかしら? あんな「誘い文句」のつもりで言ったわけじゃない――ただ家事が終わったら上に来てほしいと言っただけで、深い意味なんてこれっぽっちもなかったのだ。だがもちろん、彼はそれを悪い方に捉えたに違いない。私はイライラして息を吐き出し、首を横に振った。彼は今頃、私がここで待ち構えていて、もう一度同じことをするのを心待ちにしているとでも思っているに違いない。私がそれを切望していると完全に勘違いしているはずだ――ああ、カイア、今すぐ地面に穴を掘って隠れたい気分よ!私は再びため息をつき、おそるおそる彼のベッドに這い上がった。普段は「寝る前にシャワーを浴びる」派の人間なのだが、着替えを持ち合わせていなかったため、それは諦めざるを得なかった。こっそりと「匂いチェック」をしてみたが、特に問題はなかった。結局、私は観念して横になった。アパートのベッドとは違って、ディランのベッドは信じられないほど柔らかかった。背中がマットレスに触れた瞬間、まぶたが自然と閉じ、ディランが後か







