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第0582話

Penulis: 十一
博文は少し驚いた。「君もよくあの店に行くの?」

「はい!あそこのケーキ、美味しいんだ」

博文は普段、こうした小さなチャームを弄ることはほとんどなかった。

一つには珠里が気に入らないこと、もう一つは自分も三十を過ぎて、こんな小物をぶら下げているのは軽薄に見えると思っていたからだ。

けれど、このチャームだけは携帯を買った時からずっと付けっぱなしだった。目立たないものだったが、この娘の目は意外に鋭かった。

「何回引いたの?」早苗が尋ねた。

「前後合わせて……三回くらいかな?」

その答えを聞いて、早苗は思わず歯を食いしばった。

どうして他の人はみんな運がいいのに、自分だけこんなにツイてないのか。

博文は彼女が悔しそうにしている様子を見て、つい笑ってしまった。「気にしないなら、住所を教えてくれない?家にまだ一つシークレットバージョンがあるから、君にあげてもいいよ」

早苗は勢いよく顔を上げ、博文の優しく微笑む瞳と視線が合った。まるで……子供の頃に一緒に遊んでくれた近所のお兄さんのようだった。

博文は身長一七八センチ、端正な顔立ちをしており、何よりその身に漂う温和で上品な雰囲気が際立っていた。特に笑った時、瞳が光を宿したように見える。

柔らかく、少しの攻撃性もない。

水のように、すべてを包み込んでいる。

早苗は呆然と見つめ、突然熱がこみ上げてきて、頬から耳の先まで一気に赤く染まった。

言葉もどもり始めた。

「あ、あの……ほ、本当に……私に……くれるの?」

博文は不思議に思った。さっきまで普通だったのに、どうして急にどもるようになったのか。

彼はこの娘をなかなか可愛いと感じ、まだ何か言おうとした時、誰かが彼を呼ぶ声がした。

「我孫子先生、イベントはまもなく終了です。回収した物品の確認とサインをお願いします!」

「はい、今行くから」

博文はふと何かを思い出し、引き返して早苗に名刺を差し出した。「ここに携帯番号が載っているから、住所を送るのを忘れないで」

早苗は名刺を受け取り、彼が去っていく背中を完全に見えなくなるまで追い続け、ようやく視線を外した。

下を向いてちらりと見た――

我孫子博文……?

……

凛はすでに去り、時也も付き合う気にはなれなかった。

もともとこういう場に彼を呼ぶのは難しく、来たとしても本心は別にある。

すべては
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