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第338話

Author: 十一
「この道を進むと50メートルごとに道しるべがあり、図書館の方向が表示されています」陽一は歩きながら説明した。「このキャンパスは大きな環状構造で、左に行くと研究館、右に行くと図書館です……」

慎吾は聞きながら頷き、頭の中で懸命にルートを描こうとした。

ところが、三人が話している最中に、ちょうど凛が階段を上がってきて、ばっちりと顔を合わせた。

「お父さん、お母さん?お出かけなの?外はもうすぐ雨が降りそうだよ……」

さらに見ると、陽一も一緒にいるではないか。

「先生、これはどういうことですか?」

敏子が簡単に説明してあげた。

凛は話を聞くと、すぐに陽一に感謝の言葉を述べた。

男はただ手を振った。「どういたしまして、無事で何よりだ」

四人は一緒に戻り始めた。

「さっきは本当にありがとう、庄司くん。今度こそ、うちに食事に来ないか?俺が料理を作るから、腕前を見せるよ!」慎吾は熱心に招待した。

敏子も頷いて相槌を打った。

人を食事に招待するのが好きなところでは、この家族三人はそっくりだった。

しかし、その中にも違いがあった——

慎吾は自分の料理の腕前を披露するためだった。

敏子は純粋な親切心だった(何せ彼女が実際に料理するわけではなく、口を出して場を盛り上げるだけだから)。

凛は料理が好きで、作りすぎて一人では食べきれないから、人が増えるとちょうどいいからだ!

陽一はさりげなく少女を見やり、遠慮せずにすぐに頷いて承諾した。

家に着くと、敏子は慎吾を笑った。「その張り切りような顔は何よ、本当に自分の料理の腕前が自慢でたまらないのね?」

慎吾はにやっと笑った。「良い腕前は見せびらかすものだぜ~披露しなければ、誰も知らないだろう?」

「自慢たがり!」

凛はスリッパに履き替えながら、ふと尋ねた。「お父さん、いつ先生とそんなに仲良くなったの?」

すでに庄司くん、庄司くんと呼び始めるくらいだった。

「お前は分かってないね。人と人は付き合いをしながら仲良くなるものだ。俺と庄司くんはどちらも物理を学んでいて、将棋も好きで、こうして会う度に交流を深めれば、自然と話が弾むようになったんだぜ」

敏子が冷ややかに突っ込んだ。「その言うことを真に受けないで。お父さんはただ論文の話を一緒にしてくれる人が欲しいだけよ」

物理の専門知識については、敏子じゃ分から
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