恋の味ってどんなの?

恋の味ってどんなの?

last updateDernière mise à jour : 2025-09-12
Par:  麻木香豆Mis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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百田藍里は転校先で幼馴染の清太郎と再会したのだがタイミングが悪かった。 なぜなら母親が連れてきた恋人で料理上手で面倒見良い、時雨に恋をしたからだ。 そっけないけど彼女を見守る清太郎と優しくて面倒見の良いけど母の恋人である時雨の間で揺れ動く藍里。 時雨や、清太郎もそれぞれ何か悩みがあるようで? しかし彼女は両親の面前DVにより心の傷を負っていた。 そんな彼女はどちらに頼ればいいのか揺れ動く。

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Chapitre 1

第一話

 朝の教室、制服を着た生徒達がざわつく。もうすぐ担任が来るというのに。それはいつものことだろうが、少し何か違う。

 窓際で本を読みながら級長の宮部清太郎はそれを感じ取っていた。というか知っていた。担任から今日は転校生が来ると。

 神奈川県から引っ越してきて、以前清太郎と同じ故郷に住んでいたと。級長としてだけではなく、他にも訳があってクラスに馴染めるようサポートしてくれないかと言われたのである。

 名前を聞いて清太郎はハッとした。そしてこの日を少し心待ちにしていたとは周りには言えなかった。

「ねぇ、なんかみんな騒がしいけどなんでなんで」

 転校生が来ることを知らない一部の生徒。

「もしかして橘綾人と尊タケルのダブル主演BLドラマの話のこと?」

「それは朝のワイドショーやってたから誰でも知ってるから違う。今日転校生が来るんだって……ねぇ、宮部くん」

 と、急に振られて清太郎は頷く。転校生が来ると知っていた数名、そして声のでかい女子生徒が「転校生」と言うキーワードを発したらさらに教室はざわつく。

 転校生が誰かを知ってるのは級長で同郷である清太郎だけだったから。

「ねぇ、どんな人? イケメン?」

「いや、男とは言わんだろ、ほら……宮部の横の席空いてるから女の子だろ」

「えー、なんで宮部くんしか知らないの。ずるーい。さらに口硬いから一切教えてくれないし!」

 詰め寄られる清太郎は読んでいた本、中山七里の殺人鬼カエル男を顔で覆う。朝から似つかわしい本を読むものだと思うが。

 でも自分が言わなくてもすぐわかるだろうと言わなかっただけでもある。

「おい、お前ら席につけ!」

 チャイムと共に大きな声の担任が入ってきた。まだその転校生は入ってきていない。生徒達は慌てて自分の席に着く。高校2年生ともあり、内申点を気にしてか教師のことは従わなくてはという生徒もいるのだろう。

 清太郎はため息をついて本に栞を挟んで席に戻って

「起立、礼」

 と声を出す。

「おはようございます」

 教室に声が響く。

 清太郎は声がでなかった。なぜかというと扉の向こうに立っていた転校生の女子生徒、藍里と目があったからだ。

 清太郎と藍里は中学を上がる前に離れ離れになった。急にだ。

 子供の頃からずっと仲良かった、バイバイといえば次の日も会える、と思ってたのに。

この数年間、なぜ会えなかったのか。もう会うこともできないのかと。

 高校2年生の夏休み明けにこのような形で再会して2人はずっと見つめ合っていた。

「宮部くん、どうしたのずっと立ってて……てかあんたが着席って言わないとみんな着席しないんだけど」

 前の席の女子に言われ清太郎は慌てて

「着席っ!!!」

 と、言うと教室は大爆笑。藍里も笑っていた。

「実は宮部と百田さんは同郷……幼馴染らしい」

 余計なことを言うなよ、と清太郎は頭をかくが藍里は彼を見ている。

「はじめまして、神奈川からきました百田藍里です。先生がご紹介してくださった通り私は隣の岐阜県で生まれました。訳あって中学前に母と神奈川に行き、また隣の県ですが愛知県に戻ってきました。この辺りはよくわかりませんが、早く慣れて遊びに行きたいです」

 藍里は緊張しつつもサラサラと話すそのそぶりを見てクラスメイト達はハッとする。

 姿勢も良く、容姿も整った藍里にクラスメイトたちは惚れ惚れする。

 そして変に清太郎と藍里を茶化すことはしなかった。

 そして藍里が清太郎の横の席に座る。

「……久しぶりやな、藍里。てか苗字は……」

「まぁ色々あってさ」

「……色々」

 清太郎は担任の目を気にして喋りかけるのはやめた。藍里の横顔を見て最後に見たあの時の姿と比べる。

 こんなに美しくなったのか、と。

 藍里も清太郎の目線が黒板に移った同時に彼を見る。あの頃は自分よりも小さかった彼も自分よりも背が高いであろう、そして喉仏。子供っぽさが抜けて大人の男に近づいた横顔にドキッとする。

 しかし、彼女は少し苦い顔をしている。

「なんでこのタイミングで?」

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第一話
 朝の教室、制服を着た生徒達がざわつく。もうすぐ担任が来るというのに。それはいつものことだろうが、少し何か違う。 窓際で本を読みながら級長の宮部清太郎はそれを感じ取っていた。というか知っていた。担任から今日は転校生が来ると。 神奈川県から引っ越してきて、以前清太郎と同じ故郷に住んでいたと。級長としてだけではなく、他にも訳があってクラスに馴染めるようサポートしてくれないかと言われたのである。 名前を聞いて清太郎はハッとした。そしてこの日を少し心待ちにしていたとは周りには言えなかった。「ねぇ、なんかみんな騒がしいけどなんでなんで」 転校生が来ることを知らない一部の生徒。「もしかして橘綾人と尊タケルのダブル主演BLドラマの話のこと?」「それは朝のワイドショーやってたから誰でも知ってるから違う。今日転校生が来るんだって……ねぇ、宮部くん」 と、急に振られて清太郎は頷く。転校生が来ると知っていた数名、そして声のでかい女子生徒が「転校生」と言うキーワードを発したらさらに教室はざわつく。 転校生が誰かを知ってるのは級長で同郷である清太郎だけだったから。「ねぇ、どんな人? イケメン?」「いや、男とは言わんだろ、ほら……宮部の横の席空いてるから女の子だろ」「えー、なんで宮部くんしか知らないの。ずるーい。さらに口硬いから一切教えてくれないし!」 詰め寄られる清太郎は読んでいた本、中山七里の殺人鬼カエル男を顔で覆う。朝から似つかわしい本を読むものだと思うが。 でも自分が言わなくてもすぐわかるだろうと言わなかっただけでもある。「おい、お前ら席につけ!」 チャイムと共に大きな声の担任が入ってきた。まだその転校生は入ってきていない。生徒達は慌てて自分の席に着く。高校2年生ともあり、内申点を気にしてか教師のことは従わなくてはという生徒もいるのだろう。 清太郎はため息をついて本に栞を挟んで席に戻って「起立、礼」 と声を出す。「おはようございます」 教室に声が響く。 清太郎は声がでなかった。なぜかというと扉の向こうに立っていた転校生の女子生徒、藍里と目があったからだ。 清太郎と藍里は中学を上がる前に離れ離れになった。急にだ。 子供の頃からずっと仲良かった、バイバイといえば次の日も会える、と思ってたのに。この数年間、なぜ会えなかったのか。もう会うこと
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第九話
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第十話
 次の日、藍里はハッとして目が覚めた。何かお尻から冷たい感じが……。 飛び上がってみるとお尻の辺りから血が。そう、藍里も生理が来てしまったのだ。幸いまだそこまで大量ではないのだが、ショーツはもちろんズボン、敷布団の上に載っている敷きパッドが血で汚れた。「最悪」 自分自身も時雨に恋をし、ひさしぶりに幼馴染に会って成長した姿に浮かれてしまったのか? と思いながらも敷きパッドを丸めて持って洗面所に向かう。 まだ朝も早い。台所には時雨はいるとして洗面所に向かうまでにお尻の血のシミが見えないよう前後逆にして、制服一式も持っていきこっそり部屋から出て洗面所に向かう。 ちなみに生理用品はさくらが買ってきて、血で汚れた場合は自分達で洗う。もちろん敷きパッドとかと同様だ。それはさくらと藍里母娘が時雨と同棲する時に決めたルールでもあった。 藍里はまず新しい生理用のショーツに夜用のナプキンをつけてタオルと共に置いておく。夜用にしたのもこの数年自分の血液の流出する量が多いとわかっているからである。 全部服を脱いでシャワーを浴びる。髪の毛はしっかり束ねて。 まだ始まったばかりなのかそこまでは出てくることはなかった。 もしかして、と昨日のちくんとする痛みは恋の苦しみではなくて生理前だったからなのかと。 浴室で体をタオルで拭き、ナプキンをつけたショーツを履き、浴室から出る。 ついでにシャツも替えて制服を着る。その時だった。 トントン 扉を叩く音。藍里はびっくりした。「藍里ちゃん?」 時雨の声だった。きっとシャワーの音が聞こえたからか来たのだろう。今からショーツやシーツに着いた血液汚れを流そうとしたのだが。「う、うん」「ごめん……洗濯したいんだけどシャワーならまた後で呼んでね」「わかった」 藍里は心臓がバクバクと言っているのに気づく。鍵はかけられる洗面所だった。 慌てて血液洗剤を取り出してかけたらたくさん出てしまって慌てる。 しかもいつもよりも朝早く目が覚めて少し眠い。 生理が来るたび女じゃなきゃよかったのにと口走ってしまう藍里。さくらも頷いていた。 でもこの数日辛いだけで乗り越えればなんとかなる、また汚したりしないだろうか。 それを時雨に見られてしまったら。恥ずかしい、そんな気持ちばかりだ。 完全には落ちたわけではないかある程度汚れは落ちた。血
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