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第61話
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元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第304話
病室で目を覚ました晴香は、子供がいなくなったことに気づき、完全に崩れ落ちた。この子は彼女の全ての札で希望だったのに、消えてしまったらどうするのよ？！「先生、私の子供はまだいるはずだよね？さっきの話は嘘だったんでしょ？こんな冗談は全く面白くないから、私の子供はきっと生きているはず！」「……時見さん、お子様を失った気持ちはわかりますが、確かに赤ちゃんは亡くなりました。まだお若いのですから、これからはきっと……」ここまで言って、何かを思い出したように、医者は言葉を切り、続けなかった。「どうしていなくなったの？あなたたちが全力で救急処置をしなかったからよね？！！それに、なぜ私の同意も得ずに中絶なんかしたの？！誰がそんな許可を与えたの！」医者は予想通りの反応に、動揺しないまま説明した。「当時、大出血と破水の状態で運ばれてきて、胎児の心拍は既に停止していました。緊急手術で流産処理をしなければ、命の危険があります」「ご家族への連絡を試みましたが繋がらず、病院の緊急対策に従い、院長の承認を得て手術を行いました」「手術は最初から最後まで、病院のトップ陣と衛生局の職員が立会いをしていました。監視カメラの記録も随時確認可能です。もしまだ専門性に疑問があれば、映像の閲覧を申請していただければ、病院も協力的に対応するでしょう」患者の騒ぎ防止のため、病院はこうした事態に備える完璧な対策を整えていた。晴香は声を失った。ただ天井をぼんやりと見つめて、涙が止めどなく溢れ出した。医者はため息をつき、踵を返した。……「入江社長、病院から何度も電話がかかってきていました」海斗が会議室を出ると、アシスタントがスマホを持ちながら駆け寄ってきた。「病院？」海斗は足を止めた。「はい」美琴は既に退院していたから、彼女になにかあったのはあり得ない。仮に何かあっても、他の連絡手段があるはずだ。病院から電話が来ることはない。だから、それは……晴香に違いない。「放っておけばいい」「でも5、6回もかかってきて、緊急な事態があるようです。もしかして……」海斗は冷たい目を上げた。アシスタントはすぐ口を閉じた。……「相変わらず出ないのか？」ナースステーションで、一人の看護師がもう一人に首を振った。「患者さん本人から教
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第303話
「ご家族の方はもう帰られました……」「……なんだって？！帰ったってどういう意味ですか？」「こ、こちらの妊婦さんはうちのSVIPで、今まではもう何度か入院されていました」医師は首を傾げた。今夜はたまたま当直だった彼女は晴香の担当医者ではなかったため、事情を知らなかった。だが看護師はよくわかっていた。わかっているどころか、この妊婦に散々振り回されていた。彼女が入院するたび、ナースステーションの全員は暗雲に包まれるのだ。「それがご家族のサインと何の関係があります？急いでご家族の方に連絡してください！サインをもらわないと手術に進めません。胎児の心拍はもう止まりました。妊婦は今も大出血中です。このままでは命の危険があります」「でも……妊婦さんを連れてきた男性の方は、彼女を置き去りにしていきました……」医者は憤慨した。この世にはこんな夫がいるなんて！金持ちだからってなに？SVIPの費用は出せるのに、大出血の妻のそばにいられないとは？名門の人々ってほんと人間失格だわ！「前にも何度か入院されてたんでしょ？他にお見舞いに来た人はいませんか？面会記録を調べて、誰か連絡のつく人を探しなさい」「はい、宮崎先生！」……電話がかかってきた時、美琴はぐっすり眠っていた。マナーモードにしていたから、全く気づかなかった。スマホの画面は点滅を繰り返し、4・5回ほど点滅してから、ついに静かになった。結局、那月の方は電話に出た。ちょうど女友達と夜通しパーティーをやっていて、一番盛り上がっている時間帯だった。「那月ちゃん、電話が鳴ってるよ」「ちょっと待って……」彼女はスマホを取り出し、固定電話からの着信だと気づいた。こういうのはスパムか営業なんだから、彼女は考えもせずにすぐ切った。しばらくして、相手からまたかかってきた。今度は電話に出た。しかし、騒がしい音楽が向こうの声をかき消し、彼女には一部の話でしか聞こえなかった——。「……なに？病院って？時見晴香？また病院に遊びに行ったの？本当に呆れるわ！」「流産だと？ないない、あの子のお腹は頑丈だわ！」「何のサイン？そんな暇ないわ。私は忙しいのよ。勝手に遊ばせておきなさい、こんな面倒なこと関わりたくないわ……」「もしもし？何だって？聞こえないわ……もう電話
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第302話
画面には、彼女がどうやってこっそり書斎に忍び込み、二つの書類をすり替えるのを、全て映し出していた。それだけでなく、普段から彼女が美琴に対して威張り散らし、言葉で攻撃する様子も、監視カメラに記録されていた。晴香は不意を突かれ、ぼうっとした。これらの映像のせいか、それとも男の容赦ない平手打ち二発のせいかがわからない。「お前は単なる見栄っ張りで、浅はかな女だと思っていたが、嘘つきで辛辣、他人を陥れようまでするとは思わなかった」「殴ったのは、己の立場をわきまえ、余計な妄想を断ち切らせるためだ。これ以上波風を立てないように、さもないと——」海斗は細目になり、声は冷たく響いた。「この世には死より恐ろしいことがあるって思い知らされる」晴香は本能的に後ずさり、極度の恐怖で、頬の焼けるような痛みさえ感じないようだった。「か、海斗さん、私が、悪かったわ……」海斗は無言で、表情一つも見せなかった。「美琴さんに直接謝りに行くから、打たれても罵られても絶対に逆らわない！彼女の気が済むなら、どんなことでもする」男は相変わらず黙ったままだった。晴香は慌てて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら言った。「本当にわざとじゃないんだよ。妊娠のせいでホルモンバランスが乱れ、情緒も不安定になってるから、美琴さんにあんな態度を……」海斗は冷ややかに彼女が言い訳を述べながら、涙でぐしゃぐしゃになる可哀想な姿を見つめた。「……言い終わったのか？」晴香はぽかんとした。「泣き足りたのか？」「海斗さん……」「終わったら、荷物を片付けろ」「……え、なに？」海斗は笑った。「あの日『出て行け』と言ったのを冗談だと思っていたのか？半月以上も居座らせたのは、もう仁義を尽くしただろう」「嫌だ！ダメだよ！そんなことしないで！」晴香は泣きながら首を振り、先までの恐怖より、追い出されるかもの危機感が彼女をより恐慌状態に陥らせた。「私のお腹にはあなたの子供がいるのよ！追い出すなんてダメだよ！」海斗は彼女の叫びを完全に無視し、警備員に電話をした。「いや……私は行かない……」警備員が来る前に、晴香はすでに慌てていた。彼女は狂ったように海斗に飛びかかった。「嫌よ！どうして私を追い出すの？！行かないわ！あなたのお母さんはあんなにこの子を大切
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第301話
ここ一ヶ月の録画ファイルを開くと……晴香はもともと寝ていたが、一階からドアが開く音がかすかに聞こえ、彼女は秒で目が覚め、口角も自然と上がった。あんなに固く言っておいて、まだ数時間しか経ってないのに？結局戻ってきたじゃない？ふん、美琴の老いぼれ女は本当に卑しい女だわ！本気で彼女一人をここに放っておけるものならやってみればいい。こっちのお腹には50億円の赤ちゃんがいるんだから。誰が先に折れるかまだわからないよ？美琴が戻ってきたら、田中や佐藤さんたちも一緒に連れ戻されるはずだ。ちょうどお腹が空いていたから、佐藤さんに燕窩を煮込んでもらおうかな……晴香はリビングを一周りして、キッチンも探したが、誰もいなかった。彼女は不思議そうな顔で辺りを見回した。急に、玄関に男性用の革靴が置いてあるのを見つけた！海斗が戻ってきた？彼女は目をくるりと回して、急いで寝室でパジャマを着替え、そっと書斎に向かった。コンコン——。「海斗さん、戻ってきたの？」答えを知っていながらの質問だ。書斎の明かりがついている時点で、海斗以外の誰かがいるはずがない。返事が来ないと晴香が思った瞬間、中から男の低い声が聞こえた——。「入ってこい」晴香は心の喜びを抑え、笑顔でドアを開けた。「海斗さん……」海斗は自分に向かってくる女を見上げた。赤いレースのネグリジェに、透かした胸元、細いストラップが雪のように白い肩にかかっていた。色気などなく、ただ下品なだけだ。男の顔はまだ落ち着いているように見えて、晴香は声を柔らかくした。「いつ戻ってきたの？また残業してたの？半月以上も残業し続いて、さぞお疲れでしょう？さあ、マッサージしてあげようか……」男が半月以上家に帰らない理由を都合よく解釈し、彼女はまるで先日に起きた激しい喧嘩など存在しなかったかのように、曇りのない笑顔を見せた。海斗は彼女の媚びるような笑顔を見て、もはやどうでもよくなっていた。彼女を嫌がっても、一番むかつくのは自分自身だ。嫌がっても、現状は変わらない。ならば、無視する方が良い。しかし、男の無反応は晴香の目には、承諾として捉えた。彼女は両手を海斗の肩に乗せ、拒まれないのを確認すると、大胆にその胸へと手を滑らせた。「海斗さん、半月も家に帰ってこな
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第300話
監視カメラの時刻は午後18時だった。広いリビングで、凛は一人でソファーに座っていた。海斗は一目を見ただけで、彼女が自分の帰りを待っているのだとわかった。テレビもスマホも見ないまま、ただじっと座っている姿は、まるで枯れかけているバラのようだった。彼が好きだった「家の温もり」——いつ帰ってきてもリビングに明かりが灯っているあの感覚は、本当は女の日々の我慢、飽きもせず待ち続けること、そして自己を捨てるような犠牲の上で成立していたのだ。「子供の頃、父は仕事に忙しく、母は社交に忙しくて、俺を家に残して、メイドに任せきりだった。だから両親がそろっていて経済的に恵まれていても、家の温もりなんて一度も感じたことがなかった……」「凛、お前が本当に羨ましいときがある……シンプルで健全な家族関係、仲良い両親、そして子供の頃から注がれてきた愛情と教育、何もかも手間ひまかけてお前を育ってきた……」「今でも俺の両親は、万能なお金さえあれば立派な息子を育てると思っている……もし子供がうまく育てないなら、お金をかけなかったせいだと言う……」「凛、お前に出会えて本当によかった。お前のおかげでこんな温かさを感じられるのだ……」「お前と一緒になってから、こんな光景が頭に浮かぶようになったんだ。仕事から帰ると、キッチンで忙しくするお前の姿がいて、リビングで遊ぶ子供たち、家族3人、いや4人か5人で囲む夕食を取る……」「食後、子供たちが庭で騒ぎ回り、お前はブランコに座って、俺が後ろからそっと押す。俺たちはただ子供たちが走り回り、笑い転げるのをただ見守って……」「凛、信じてほしい。俺たちはこうしてずっと歩んでいける。白髪が生えるまで、死が俺たちを引き離すその時まで……」海斗の耳に、二人が付き合い始めた頃、自分の言葉がこだましていた。彼は家の温もりが欲しい、良い妻と可愛い子供を望んでいると言った。時を経て、彼はそれをすっかり忘れていたとしても、凛は覚えていた上、行動で彼が約束した未来を描き続けていた。しかし今、すべては自分の手で台無しにしてしまった！全部が泡になってしまった！海斗は手を上げて自分に平手打ちを食らわせた。パシッと——。澄んだ音が静かな夜に、余計に響き渡った。でも、もう遅い。彼は彼女を失い、かつて憧れていた生活を失い、この
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第299話
海斗はウォッカを注文し、一杯一杯と飲み続いて……悟は彼の命知らずの飲み方を見て、慌てて止めようとした。「海斗さん、この酒強いから、控えめにした方がいいよ！」また病院送りになったら困るぞ……しかし、海斗は耳を貸さず、グラスを握ったまま言った。「お前のスマホは？貸せ」「スマホをどうするつもり？」悟は疑惑を抱いながらも、スマホを取り出して渡した。手を伸ばす途中で、海斗は待ちきれないようにスマホを奪い取り、その勢いで凛の番号に掛けた。早速、慣れ親しんだ女性の声が聞こえてきた。彼は長い間、砂漠で渇きに苦しんだ者がようやく水源を見つけたかのように、切実に訴えた。「凛、会いたかった……」凛は少し戸惑った。悟は泣きそうになった……これから凛さんは自分の電話に出てくれなくなるのか？「凛、戻ってきてくれないか？俺が悪いと気づいた……一生側にいようと約束したのに、こんなに早く俺を捨てるのか？」「過去のことは水に流そう。大学院に行きたいにしろ、働きたいにしろ、お前がやりたいことなら何でも一緒にいて、無条件で支えるから……」「それに、去年約束したじゃないか。いつかトルコで夕日を見て、星を数えるって。全部忘れたか？」彼はろれつが回らないように話し、声はかすれていた。まるで塵のように低い態度で。しかし向こうは終始黙ったままで、何の反応もなかった。海斗は続けた。「これまで全部俺が悪かった……お前がどれだけ俺のために尽くしてくれたか、今になってわかったぞ……凛、愛してる、お前なしでは生きていけない……」「話し終わった？」ようやく彼女は応答した。しかし——。「もうすぐお父さんになるんだって？おめでとう」「プルル……プルル……」彼女はたった一言を言っただけで、彼を地獄の底に突き落とした。海斗の目は虚ろになり、スマホを握っていた手も力なく下がった。彼女はおめでとうと言った。あはは……おめでとうなんて言った？！彼女はすべてを知っていたのだ！何もかもはっきりわかっている！悟は恐る恐る言った。「海斗さん、大丈夫？凛さんは何か言ったの？」海斗は笑いながら手を振った。「もういいや、さあ、飲もう！今日は酔い潰れるまで帰さないぜ！」そう言うと、直接酒の瓶を手に取り、上を向いて一気に飲み干した。悟は
