第1026話

舞はそれでも構わない。真司が自分に対して冷淡であることは、彼女も感じ取った。だが、彼女はそれでも自分には自信がある。

彼女はわざと、守ってあげたくなるような、か弱い女子を演じてみせた。「藤村さん……もしかして私のこと、嫌いなのかな？佳子との時間を邪魔してるって……」

真司は、やはり黙ったままだ。

舞はさらに涙を装い、言葉を続けた。「藤村さん、ごめんなさい。私、鍵を持っていないから家に帰れなくて……佳子とはずっと仲良しで、彼女は優しくて本当にいい人だから、連れてきてもらったの。でも……もし私のこと見たくないなら、今すぐ帰るわ」

これで彼が何か言葉を返してくるだろう。舞はそう思っている。

だが、真司の表情は変わらない。沈黙だけが続く。

視線も向けられない。まるでそこに彼女はいないかのようだった。

舞はようやく気まずくなってきた。ここまで空気扱いされるままだと、何も進展できないだろう。

舞「藤村さん、私……」

そのとき、試着室の扉が開き、店長の声が響いた。「藤村さん、奥様がお出ましです！」

その言葉を聞いた瞬間、真司は手にしていた雑誌を置き、すぐに立ち上がった。

そして、佳子が現れた。

白いウェディングドレスに身を包んだ佳子だ。ドレスはオフショルダーで、彼女の首筋と鎖骨のラインを美しく際立たせている。広がるレースは、彼女の腹をやさしく隠し、細い腕と脚、そして輝くように整った顔立ちは、無数のダイヤモンドの光を受け、まるで女神のように眩しい。

その場にいた舞でさえ、思わず息を呑んだ。やはり、ウェディングドレスを着た女性は世界で一番美しい。

真司の瞳が、佳子を映したまま動かない。その黒い瞳には、深く刻まれた驚嘆と愛情が満ちている。

店長が微笑みながら言った。「藤村社長、このドレス、奥様にぴったりですね。いかがです？」

真司は答えなかった。ただ見つめるだけで、言葉を忘れている。

店長「藤村社長？藤村社長！藤村社長？」

何度か呼ばれ、ようやく彼は気付いた。

店長は笑いながら言った。「もうお答えは要りませんね。藤村社長、すでに見惚れてらっしゃるようです」

佳子はドレスをつまみ、くるりと一回転して見せた。「真司、どう？きれい？」

真司は彼女のそばまで歩み寄り、感嘆した。「……きれいだ」

佳子「私もそう思う。このドレスにしよう」

真司「いいね