INICIAR SESIÓNジュエリーデザイナーの桜井知英は、大学時代からの恋人の的場優一と先日婚約をし、幸せ絶頂な日々を過ごしていた。しかし、その幸せは優一の裏切りにより見るも無惨に崩れ去った。 幸せの絶頂から絶望へと突き落とされた知英は、行くあてもなく街を彷徨った。そんな時、突然の雨が降りだし、傘を持っていない知英は目の前のホテルに駆け込んだ。この場所で知英の運命を変える人物と出会うとも知らずに…… 裏切りから始まるシンデレラストーリー開幕!
Ver másなぜ、私がこんな目に……まるで、この雨は今の私の心のようだ。このまま、涙も、苦しみも、虚しさも、私の感情ごと全部捨ててしまえたらどんなにいいか……
時は数時間前に遡る。
私の夢は、幸せな花嫁になること。そんなことを小さい頃、本気で願っていた。26歳になった今もその夢は絶賛継続中だ。そして、遂にその夢を叶える日がもうすぐそこまで来ていた。私の未来の夫である的場優一によって。
優一は大学の2個上の先輩だ。講義をひとりで受講していた私に、優一が声を掛けてくれた。それが私たちの始まりだ。あれから8年。順調に愛を育んだ私たちは婚約をした。私の左手の薬指には優一からもらった婚約指輪が輝いている。
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
「桜井さん、お疲れ様。彼、気に入ってくれるといいわね」
「はい!」
私は先輩社員に笑顔を向け、足早にエレベーターに乗り込んだ。
私の仕事はジュエリーデザイナーだ。そのスキルを活かして、結婚指輪をデザインした。まさに世界に一つだけの結婚指輪。早速、私は完成したデザインを優一に見せるために、サプライズで彼の自宅に向かっていた。
ここ一ヶ月ほど、お互いの仕事が忙しく、私たちはすれ違いの日々を過ごしていた。だからこそ今日は、定時に上がり、久しぶりに優一に手料理を振舞おうと思う。最寄り駅に着いた私は、優一の自宅近くのスーパーに寄った。ベタではあるが、優一の好物の肉じゃがを作ることにした。そして、食材を購入した私は、足取りも軽やかに優一の自宅へ向かった。
優一の部屋はマンションの4階だ。エレベーターを降りた私は部屋の前に着くと、鞄から合鍵を取り出し、玄関の鍵を開けた。すると、玄関には女物のサンダルがあった。嫌な予感がした。女の勘とでもいおうか。私は音を立てないようにリビングのドアを開けた。そこは、明かりはついているものの、優一の姿はなかった。この時、私は既に察していた。この後に起こる最低な裏切りを。
自分でも驚くほど冷静に寝室のドアを開けた。するとそこには裸で抱き合う優一と親友の友華が居た。私の幸せはこの瞬間、儚くも崩れ去った。
「…………優一、友華……どうして…?」
言いたいことは山ほどあるのに声が出ない。
「あーあ、なんで今、来るかな。ほんと空気が読めない女」
「友華……?」
「だから、そういう所がうざいんだよ。分からない?あんたは私のお飾りでしかないの。それなのにあんたばっかり愛されて、幸せになるなんて許さない」
「そんな……だって、友華は私の……親友だって……」
「親友?ははっ、思ったことなんて一度もないから」
友華が大きな声で笑った。その隣に居る優一も笑っていた。
「優一、嘘でしょ?だって、ほら、指輪もくれたじゃない。私たち結婚するよね?」
「はぁ?するわけないだろ。もう隠すの意味ないから言うけど、お前のこと好きじゃない。出てけよ」
「だって。聞こえたぁ?ちーえーちゃん」
「わたしは……」
私は両手に拳を握り俯いた。怒りと絶望が入り交じり、全身が震えた。しかし、言いたいことは山ほどあるのに、上手く言葉が出てこない。
「何度も言わせないで。優一はあんたじゃなくて、私を選んだの」
自慢の恋人だった。
大切な親友だった。 だけど、この二人によって私の幸せは壊された。「知英、バイバイ」
優一の一言で絶望に突き落とされた私は、その場に婚約指輪を投げ捨て部屋を飛び出した。
「知英ちゃん、お風呂沸いたから先にどうぞ」「ありがとう」「着替え、僕の服でいい?」「借りていいの?」「もちろん。明日、知英ちゃんの家に荷物を取りに行こう」桐生は私にバスタオルと着替えを渡しながら言った。綺麗に畳まれたTシャツには、某高級ブランドのロゴが刺繍されていた。プレゼントしてくれたワンピースといい、私では手が届かないものばかりだ。「明日は仕事がお休みだから、私、自宅に行ってくるね。翼さん、仕事忙しいだろうし」「一人で行くつもり?」「はい。昼間だから人目もあるし」なにより、桐生に迷惑をかけたくない。恋人になったとはいえ、頼りっぱなしはよくない。自分でできることは自分でしたい。「だめ。一緒に行く」「でも……」「知英ちゃん、僕に迷惑かけたくないって思ってるんでしょう」「はい」「だと思った。でも、知英ちゃんだけで行かせたら、僕は心配しすぎて、何度も電話したり、メッセージを送るから全く仕事が手につかなくなるよ。それでもいい?」「……ううん、だめ」「でしょ?だから僕も一緒にいく」「こんなにも私のことを心配してくれてありがとう」「どういたしまして。明日の予定も決まったことだし、ゆっくりお風呂入っておいで」「はい。それじゃあ、お先に失礼します」「あ、バスルーム!案内するね」桐生は私の右手を握り、リビングのドアを開けた。リビングを出るとドアの閉まった部屋が3部屋あった。「そうだ。部屋の紹介してなかったね」「はい」「リビングを出て、右手のこの部屋がゲストルーム。知英ちゃんに使ってもらおうと思ってた部屋」私はその部屋の全貌を見た。セミダブルのベッドが部屋の奥に配置されており、クローゼットもある。その上、テレビまで設置されていた。その部屋は私のワンルームの部屋よりも広々としていた。「こんなにも、素敵なお部屋を使ってもいいの?」「うん。気に入った?」「はい、とっても」「他にいるものがあったらなんでも言ってね」「もう十分過ぎるよ」「それならドレッサーは?あった方が便利じゃない?あとは、冷蔵庫もか。他には……」「翼さん、そんなに置いたら部屋がものだらけになっちゃう」「ごめん、つい。僕はものを与える以外の愛情表現がよく分からなくて……」桐生の表情が曇った。いつもの自信に満ち溢れた桐生はそこにはいなかった。私は初めて桐生の脆
この数日間は、私にとって夢のような時間だった。あの日、婚約者に捨てられなければ。あの夜、雨が降らなければ。あのホテルで、桐生がお見合いをしなければ。私が桐生と出会うことはなかったかもしれない。「あ、着替えないと」私はつい物思いにふけってしまい、今、自分が何も身につけていないことをすっかり忘れていた。私はゆっくり起き上がると、床に散乱した服の中から下着とワンピースを拾った。急がなければ、桐生がバスルームから戻ってくる。私は立ち上がり、ワンピースを身につけた。「あと少しでお風呂沸くよ」「あ……」間に合わなかった。私が背中のチャックに苦戦していると、桐生が私の背後に立った。「髪、絡まったら大変」桐生はゆっくりとチャックを閉めた。桐生の指が背中に触れる度、身体の奥がゾクッとする。私はそれを悟られまいと平常を装った。「はい、できた」「ありがとう」「本当にこのワンピースよく似合ってる」「でも、今までは着る勇気がなかったの」「どうして?」私は振り返り、桐生と向き合った。「私なんかに似合うわけないって」「そんなことなかったでしょ?」「はい」「知英さんは綺麗だよ。初めて会った瞬間から僕はあなたに惹かれてた」桐生は私の頬にそっと触れた。桐生の体温を感じると安心する。だからもっと触れて欲しいと思う私がいた。「桐生さん」「どうした?」「……//」いざ、尋ねられると恥ずかしさが勝り、何も言えなくなってしまう。「なんでもないです。それより、お風呂が沸いたみたいですよ」「そんなに顔を真っ赤にしてるのに、なんでもないことないでしょ?」「だからこれは……//」「それから敬語に戻ってる」「だって……/」桐生の顔が至近距離まで近づいてきた。私は後ずさった。しかし、桐生は近づくことをやめず、私は逃げ場を失った。桐生は私を壁に追い詰めると私の顎に手を添えた。「知英ちゃん、言ってみて?」私は目を見開いた。耳元で囁かれ、その美しい顔面を至近距離で拝まされ、私の思考は停止した。「……キスして欲しいなと」私は何を言ってるのだ。桐生にいつでも触れてほしいと思っているなんて、知られるわけにはいかない。桐生が幻滅したらどうする。今度こそ私は生きていけない。「あ、あの、だからこれは……/んっ//」弁解する間もなく、桐生は私の唇にキスをした。私も桐生の首に
「そろそろリビング行きましょうか」「そうですね」私は綺麗に整頓された革靴の隣に、桐生からのプレゼントの靴を並べた。「お邪魔します」桐生は私に微笑みかけ、私の右手を握った。「足元、気をつけて」「はい、ありがとうございます」桐生に繋がれた手が熱い。そして私はふと気づいた。私と桐生は今さっき恋人になった。ここは恋人の自宅。私も桐生も子供じゃない。だけど、桐生に限ってそんなことは……いや、先程キスもした。最近、そういう機会がなかった私は、ひとり思考を巡らせた。「知英さん?どうかした?」「あ、いえ、なんでもないです」「それならいいのだけど。これからは僕に何でも遠慮なく言って欲しい」桐生は私と向き合い、目線を合わせて言った。真剣な桐生の表情を見た私は、邪なことを考えた自分を恥じた。「桐生さん、ありがとう」「どういたしまして」桐生は私に微笑んだ。こんなにも完璧な人が私の恋人だという事実が信じられない。だから私は実感したかった。私は桐生の胸に飛び込んだ。「桐生さん、好きです」「うん、僕も好きだよ」桐生は私の髪を優しく撫でた。その感触が心地よくて、私は上目遣いで桐生を見た。桐生は私と目が合うとすぐに逸らした。桐生の様子がどこかおかしい。「桐生さん、私、何かしましたか?」「無自覚にも程がある」「え?」桐生は私を抱き抱え、リビングのソファーまで来ると、私を組み敷いた。桐生の吐息を間近で感じる。桐生は苦しそうに私を見つめていた。「知英さん、嫌なら僕を突き飛ばしてください」「そんなことしません」私は微笑むと、桐生の首に両腕を回した。桐生に触れられて嫌なはずがない。「大切にします。知英さんのこと」「はい」桐生はガラス細工かのごとく、私の全身にそっと触れた。桐生に触れられた所が熱い。こんなにも大切に扱われたことが今まであっただろうか。恥かしいような、もどかしいような私は初めての感覚に酔いしれた。「身体辛くない?」「はい/」火照った身体を鎮めたいのに、桐生がそれを許さなかった。だけど、私は幸せだ。好きな人に愛され、求められ、ひとつになる。こんなにも生きてることを実感する瞬間はない。「知英さん、可愛い」「あんまり見ないで//」「嫌だ。全部みたい」「さっき、見たでしょ?/」「足りない」逃げ場を無くした私は、両手で顔を隠した。これ
「知英さん、こちらです」「はい」桐生は私の手を握ったまま、マンションのエントランスに足を踏み入れた。そこは、大理石を基調とした高級感溢れる空間が広がっていた。すると桐生に気づいたフロントのコンシェルジュが声を掛けた。「おかえりなさいませ。桐生様」「こんばんは。お疲れ様です。知英さん、こちらへ」「はい」私は桐生に促され、コンシェルジュと向き合った。「これから、彼女が僕の家に出入りすると思いますので、よろしくお願いいたします」「承知致しました。お連れ様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」「桜井知英と申します」「桜井知英様ですね。私、コンシェルジュの木村と申します。御用があればお気軽にお申し付けください」「ありがとうございます」私は木村と名乗るコンシェルジュに会釈した。どうやらこのマンションでは、24時間体制でコンシェルジュが常駐しているようだ。「そろそろ行きましょうか。高層階専用のエレベーターはこの奥になります」「はい」桐生と出会わなければ知ることのなかった世界が目の前に広がっている。私には到底、手の届くことのない場所に桐生は連れて行ってくれる。だが、その度に私は、自分の存在の小ささを実感する。「知英さん?気分わるい?」「あ、いえ……えっと」「落ち着いて」「色々と圧倒されてしまって……」ちょうどその時、桐生の部屋へと続くエレベーターがやってきた。「知英さんは、僕の良さってなんだと思う?」桐生の問いかけに、私は頭に浮かんだ言葉を口にした。「ひとの痛みがわかるところ」「やっぱり、思った通りだ」「どういうことですか?」「知英さんは僕自身を見てくれる」桐生が私に微笑んだタイミングで、エレベーターの扉が開いた。桐生の部屋は最上階の30階にある。桐生は決して、私の手を離そうとしなかった。部屋の前に着くと、桐生はスーツのポケットから鍵を取り出し、玄関の扉を開けた。「待って、桐生さん/」広々とした薄暗い玄関で、桐生は私を壁に追い詰めた。暗がりの中、お互いの吐息だけが響く。私も桐生も大人だ。このままキスをしても何ともない。と前なら思えただろう。しかし、今は桐生に触れたら私の感情が彼に持っていかれてしまう。「すみません、部屋はこちらで……」桐生が私から離れようとした。それが無性に寂しかった。あろうことか、私は桐生の腕をひ