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第876話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
理恵はあっさりと認めた。「さすが葉月さん、賢いわね。そうよ、あの月見華を買ったのは私よ。今、あなたが必要としているものは私の手の中にあるの。どう?葉月さん、少し外でお話ししない?」

佳子は冷ややかに笑った。「待って、すぐに行くわ」

電話を切ると、佳子はシャワールームの方を振り返った。中では真司がシャワーを浴びている。

佳子はペンを取り、紙にメモを書いた。「真司、ちょっと食べ物を買いに行ってくるわ。すぐ戻る」

その紙をテーブルに置き、佳子は部屋を出た。

ほどなくして、佳子は理恵の姿を見つけた。理恵は回廊に立っており、彼女を待っている。

佳子は歩み寄った。「林さん、どうやら私たちをつけて来たようね。私たちの行動を完全に把握しているんでしょ」

理恵は唇を歪めた。「当然でしょ。そうじゃなきゃ、どうやってあなたの手から月見華を奪えるの?」

「月見華はどこにあるの?」

理恵はある箱を取り出した。その中には、あの純白の月見華が収められている。

佳子はすぐに駆け寄った。「月見華を渡して!」

しかし、理恵は月見華を後ろのボディーガードに手渡し、ボディーガードは箱を持ってその場を離れていった。

理恵は笑った。「月見華を見せたでしょ。嘘じゃなかったって証明したわ」

佳子は理恵を見据えた。「いったい何が目的なの?月見華を奪ったのは、私と交渉するためでしょ?」

理恵「さすが葉月さん、察しがいいわね。そう、交渉よ。私が何を望んでいるか、今さら聞く必要なんてある?あなたにはもう分かってるはず。私が欲しいのは、真司だけなのよ!」

佳子の肩が震え、考える間もなく拒絶した。「無駄よ!真司をあなたに渡すなんてありえない!」

理恵は黙ったままだ。

佳子「真司は一人の人間で、物じゃないの。取り合ったりできるものじゃない。林さん、恋愛は強制できないって分かっているはずでしょ。真司はあなたのことなんて好きじゃない!」

理恵は拳を握りしめた。「それは全部あなたのせいよ!あなたがいなかった三年間、私が真司のそばにいたの。二人で幸せに過ごしていたのに、あなたが現れた途端、彼の目はあなたしか映らなくなった。あなたさえ譲ってくれれば、私は真司と一緒にいられるのよ!」

佳子はきっぱりと言った。「絶対に無理よ。真司は私の愛する人なの。彼をあなたに譲るなんて、絶対にありえない!」

理恵は
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
nocccoo
この作品、人が変わるだけで同じような事が起こってるだけなんだけど。
goodnovel comment avatar
神無月しん
佳子に月見華を渡して真司を奪ったとして、理恵はどうやって真司の顔を治すんだ? 好きでもない女と一緒になる真司が幸せになるか? 自分勝手なのはお前だろ。 理恵は馬鹿か?
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