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第18話

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天音は、なぜこんなバカげた質問をするのかと言わんばかりに、「彼女を好きじゃなかったら、あなたを好きになればいいの?」と聞き返した。

月子は言葉を失った。

「お義姉さん、私に何か好きなところがあるのか教えてくれる?一つでも挙げられたら、すぐに手のひらを返して褒めてあげるわ」

彼女の言葉はとても傷つくものだった。しかし、いつも淡々とした口調で話すのだ。

天音は静真のような冷淡さはないが、しかし彼女の言葉には陥れようという魂胆が見え隠れていた。それはそれである意味無情なのだ。

さすが兄妹だ。

月子は天音と意思の疎通ができないので、黙ってしまった。

月子の反応は天音の期待通りではなかった。面白くなくて、つまらないので、さらに言葉を続けた。「霞がなんでレースやってるのか気になるでしょ?」

月子は、気にならないと言おうとした。

天音はすでに自問自答していた。「霞はサンのレースを見て、レースに惚れ込んだのよ。今じゃもうプロレーサーと言ってもいいくらい。もちろん、サンにはまだまだ及ばないけど。この世でサンに勝てる人なんていないんだから」

月子は少し驚き、目に奇妙な色が浮かんだ。

「サンが原因なの?」

天音は月子の表情の変化に気づかず、思い出に浸りながら、熱狂と惜しむような目で言った。「サンには久しく会えてないわ。私は大ファンで、もう少しで本人にも会えて、サインももらえるところだったのに……まあ、あなたに言ってもわからないわね!」

そう思うと、天音は月子を軽蔑するような表情を顔に浮かべた。「お義姉さん、だから私はあなたのことが嫌いなのよ。私の趣味の話なんて、あなたにとって馬の耳に念仏。何もわかってくれないんだから」

そう言われ月子は再び言葉を失った。

何も言ってないのに……

「でも、霞はあなたとは違う。彼女は輝くサンに惹かれるの。私と彼女には共通の話題があって、一緒に楽しめるのよ。

霞は私が今まで見た中で一番行動力のある人。私はずっとレースが好きだったけど、観客でいるだけでいいと思ってた。でも、霞は情熱のために、来る日も来る日もトレーニングを続けて、プロのレーサーになった。彼女みたいにできる人なんて、そうそういないでしょ?」

天音は幼い頃から裕福な暮らしをし、世間をよく知っている。プライドも高い。

普通の人間なんて、眼中にない。

そして、天音の
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
rin
もうね 呆れてしまう ここまで話がそっくりだと
goodnovel comment avatar
kyanos
この作者様は予想を裏切らないでくれるから 読んでて安心?する。(偉そうですみません)
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