入江静真(いりえ しずま)と結婚して以来、綾辻月子(あやつじ つきこ)は離婚なんて考えたこともなかった。だって、彼女は静真に心底惚れていたから。彼の為なら死ねるくらいに。しかし、彼の初恋の人が帰ってきた。……その時、月子は病院にいた。医者の声は冷淡だった。「綾辻さん、今回の流産は子宮に深刻なダメージを与えています。今後妊娠の可能性は低いでしょう。心の準備をしておいてください」月子の頭はガンと鳴った。この子の為に、彼女は三年もの間、辛い妊活を続けてきた。そして二ヶ月前、やっと妊娠できたのだ。今日の午後、外出中に突然車が飛び出してきて、彼女は転倒してしまった……医者は眉をひそめた。「綾辻さん?」「……はい、分かりました。先生、ありがとうございます」月子は人前で弱みを見せるのが好きじゃなかった。瞬きをして、涙をこらえ、立ち上がってその場を去った。背後で看護師たちの噂話が聞こえてきた。「こんな大変な事なのに、旦那さん、見かけないわね」「本当よね。さっき子宮内容除去術を受けて、泣き崩れそうになってたわ。旦那さんに電話して、病院に来てくれるように頼んでたけど、結局来なかったみたい」「ひどい!愛してないのがバレバレじゃない。こんなの、離婚するしかないでしょ!」月子は遠くまで行っていたので、その後の言葉は聞こえなかった。実際、静真は病院に来るのを拒否しただけでなく、電話でこう言ったのだ。「子供がダメになったなら仕方ないだろ。何泣いてんだ?今忙しいんだ。邪魔するな!」その後、月子は何度か電話をかけたが、彼は一度も出なかった。この三年間、静真はずっと彼女に冷たかった。正直、彼女はもう慣れていた。三年前に月子が偶然入江会長の命を救ったことがあり、会長は彼女を気に入り、二人をくっつけた。そうでなければ、彼女のような身分で入江家の妻になることなんてできなかったのだ。だから、そもそも静真は彼女と結婚したくなかったのだ。今日、彼に連絡を取り続けたのは、生まれてくるはずだった子供のためだと思ったから……やっぱり、期待するべきじゃなかった。月子は気持ちを切り替え、タクシーで帰って休もうと携帯を取り出した途端、メッセージが届いた。静真の親友、佐藤一樹(さとう かずき)から動画が送られてきたのだ。
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