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4.私が陛下の為にできることはないかしら?

last update Huling Na-update: 2025-05-08 18:59:03

 目が覚めた時、隣にアレキサンダー皇帝はいなかった。

 私は酷く寂しい気持ちに襲われた。

(また、捨てられるのが怖い⋯⋯)

 気だるい体を起こして、呼び鈴を鳴らすとクレアがやってきた。

 服を着替えるのを手伝って貰い、食堂に向かう。

(ルミナは本当にどこに行ったのかしら⋯⋯後で陛下に聞かないと⋯⋯)

 陛下と一緒に食事をとれると期待したのに、私はまた1人で食事をするようだ。

「朝食に陛下はいらっしゃらないの?」

「陛下は既に朝食を済ませております」

(今日も、料理からほのかに草の匂いがする⋯⋯苦手な香りづけ⋯⋯)

 クレアの言葉に私はアレキサンダー皇帝の体が心配になった。

(まだ、日が昇って間もない時間なのに、もう働いているの?)

「クレア⋯⋯私が陛下の為にできることはないかしら? お疲れの毎日でしょうに、私は昨晩陛下にわがままを言ってしまったの。陛下の負担ではなく助けになれる女になりたいのよ」

 アレキサンダー皇帝の気持ちは全く分からない。

 彼は帝国の皇帝らしく表情管理が完璧だ。

 それでも、彼は側にいて欲しいと願った私の為に、部屋を出ようとしたのに戻ってきてくれた。

(本当に優しい方だわ⋯⋯)

「皇妃殿下ができる事は何もありません。今日は下がらせてもらいます」

 私がおかしな質問をしたせいか、クレアを戸惑わせて気を遣わせてしまった。

 私は夢にまで見た人間になれたのに無力感に打ちひしがれた。

 マルテキーズ王国にいた時、父や兄を支えたように政治的な面で陛下の役に立ちたい。

 しかし、警戒されているだろうから、相当信用を得てからでないと仕事を任せてもらえないだろう。

 犬の記憶が蘇った私は鋭い嗅覚と聴覚を持っている。

 その能力も活用して陛下の役に立てないだろうか。

 人間としては特殊な能力である以上、自分自身で彼の為に何ができるか考えなければならない。

 私は今度こそ利用されたり、捨てられたりするのではなく手を繋いで貰える家族になりたい。

 朝食が終わって、何の制約もなかったので私は庭園に出た。

 ここの庭園は本当に美しい。

 マルテキーズ王国では見たことのないような花が沢山ある。

 色とりどりに様々な種類の花が植えられていて、見ているだけで楽しく庭師のセンスを感じた。

 きっと、取り寄せて見栄えの良いように庭師がデザインしたて庭園だ。

 私はルイのお母さんがルイに花の名前を教えながら、散歩していたのを思い出してた。

(アマリリス、ペラロゴリウム、フランネルフラワー、ペチュニア⋯⋯)

 ルイのお母さんのお陰で私も花に詳しくなった。

 マルテキーズ王国は予算不足で枯れた花をそのままにしていた。

 しかし、この帝国では花は枯れたら処分されて新しい花が植えられているようだ。

 一点の曇りもない庭園は、花のことなど命と考えていない寂しさも感じる。

(家族でも、命でもなかった犬のモモみたい⋯⋯)

 私はマルテキーズ王国では家族ではなく駒だった。

 私が死んでも父や兄も涙1つ流さないだろう。

 そして、側室だった私の母エミリアーナも父の寵愛を受けているとされていたが、代わりのきく存在だった。

 父は母を毒殺した犯人が王妃と気づいても黙認し、すぐに新しい側室を娶った。

 冷酷な父の役に立つ為に生きてきたのは、本当はいつか愛される日を夢見てたからだ。

 そのような日は18年間1度も来なくて、当たり前のように私が死ぬ未来しかないバラルデール帝国へ出された。

 結局、私は前世での犬だった時のように家族ではなく、代わりのきくペットの枠を出られなかった。

 代わりがきくという点で、母エミリアーナも父にとって家族ではなかった。

 誰かの家族になるということは、とても難しいことだ。

 アレキサンダー皇帝はきっと優しい方だ。彼の家族になりたい。

 庭園を抜けたところで、アレキサンダー皇帝が騎士団と訓練をしているのが見えた。

 陛下は自ら戦場に出ることで有名だから、日々の鍛錬を欠かさないのだろう。

 彼が汗をかいているところを見て、昨晩の情事が思い出されて顔が熱くなる。

 まるで、自分が愛されていると勘違いしてしまうような時間だった。

 本当は私が起きるまで彼に側にいて欲しかった。

(私は本当に我儘な駄犬ね⋯⋯役に立つ賢いところを見せないと捨てられてしまうわ)

 自分の新しい主人になる陛下がどんな方なのか知りたくて、騎士団の練習を気配を消して物陰からこっそり見ていた。

 陛下は常に護衛騎士がついているような生活をしているだろうに、誰よりも剣術に長けているように見えた。

 戦場に出るのが好きで、血を好む暴君と呼ばれているだけはある。

 周囲の騎士も腰が引けているくらい、陛下を怖がっているのが分かった。

 騎士団の練習が終わろうとしていたので、陛下に声をかけてお茶に誘おうと思った。

 瞬間、風を切る鋭い音が近づいてきた。

(ナイフ⋯⋯サンダース卿がナイフを投げたわ)

 レイ・サンダース卿は兄のお気に入りで、マルキテーズ王国御用達の暗殺者だ。

 昨夜から会えなくて、どこにいるかと思っていたら狙いを定めていたようだ。

 彼は彼で兄からアレキサンダー皇帝を狙うよう密命を受けていたのだろう。

「アレキサンダー」

 私は稽古を終えたアレキサンダー皇帝に飛びかかった。

 レイ・サンダース卿は一流の暗殺者で、人が気を抜く瞬間を見逃さない。

 稽古を終えて陛下から一切の殺気が消えた時を狙ったのだろう。

 もしかしたら、もっと賢い助け方があったかもしれない。

 ルイをおじさんを噛んで助けた時のように、私の選択はきっと最良ではないだろう。

 背中に鈍い痛みを感じる。

 きっとナイフには毒が塗ってあったのだろう。

 体が毒に侵食されていくのを感じた。

 意識が遠のいて自分の体から力が抜けていった。

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